その27"マニル②"
「ん、朝か」
朝日が窓から入り、活気のある声が聞こえてくる。
準備をしようと体を起こそうとすると、ある異変に気付く
(体を起こせない?なんだ?)
恐る恐る掛け布団をめくる、するとそこには
「すぅ、すぅ」「ん、セイトさぁん」
寝息を立てて眠る2人の姿があった。
起こさないように抜け出した俺は身支度を終わらせ、
椅子に座り本を読んでいた
「主は何を読んでらっしゃるんですか?」
後ろから話かけてきたのはシリウスだった、
彼女を椅子に座るように言い、座った所で話し出した。
「これは歴史書だよ、この世界のね」
そう言うとシリウスは、ほんの少し不思議そうな顔をしていた
「どうしてそんな物を読んでいるのか?って顔をしているね
答えは簡単さ、気になるから。それだけだよ」
「そう、ですか」
本を勢い良く閉じ、立ち上がりながら言った。
シリウスはそれでも少し不思議がっていたけど。
「さて、そろそろみんな起きるころだ、準備しよう」
「かしこまりました」
2人が着替えている間、一日どうしようかと考えていた。
「なぁ、メビウス?」
「ああ、わかってる」
月影がメビウスに聞いた理由はわかってる、答えはこの状況なら必然とわかってくる
「主?なぜ我々三人はユーリカ様達に背を向けて壁を見つめているのですか?」
「そろそろそんな質問が来ると思ってたよ。
なぜってそりゃ、女性の着替えを見るわけにはいかないだろ。」
そう言うと月影とメビウスは「なるほど」と口を揃えて言った。
「終わったわよ?だいたいそこまでしなくても良いのに、
私たちはそんなよそよそしい仲じゃないでしょ?」
「そうですよ、別にセイトさんになら見られてもかまいませんから
あ、シリウスさん、ありがとうございます。」
「いえ」
とてもうれしい事を言ってくれてるけど、
これは恥ずかしいなんてレベルの話じゃない
いままで女性に限らず人と接してこなかったんだ
急に着替えを見られても良いなんて言われると、とても戸惑う
本当にシリウスがいてくれ助かった、
彼女がいなかったら俺が手伝っていたかもしれない
嫌ではないが正直ハードルが高すぎる、
第一女性の着替えなんて手伝った事ないしね。
「この後どうする?」
心の底からシリウスに感謝しつつ、今日一日の事をみんなに聞く。
俺としては、まずは朝食を食べたいところだが
「まずは、朝食にしましょうよ
食べながら今日の事を考えない?どう?」
「私はそれで構いませんが、カガミさんはどうですか?」
またったく同じことを考えていたのでもちろん異論はない
静かに頷き、目線を月影に移す。
「主達が行くのなら、何処だってお供いたしましょう」
月影は胸に手を当てながら一礼した、
忠義を誓う騎士のように見えた俺はかっこよすぎて
一瞬言葉が出なかった。
数秒の間の後"朝食を食べる"で意見がまとまった俺達は宿の一階に行くことにした。
この街に来て一晩経ったが、まちの様子はまだそわそわしている。
ユーリカとクリティカは優雅に朝食を食べているが
他の客はどこか落ち着きが無い様子、
こちらをちらちら見ている人もいればビクビクと体を震わせている人もいる。
たしかに自国の王女が同じ場所で食事をしているとなれば
いろんな意味で体が震えるのも納得できる。
しかし、そのことは当の本人達は気づいていない
なぜなら俺達が座っているのは壁際の席、そしてユーリカ達は壁に向かって座っている
つまり他の客達はユーリカ達の後ろにいるのだ。
月影とシリウスは俺と同じ向きで座っているが、普通に食べている。
この状況に慣れていないのはどうやら俺だけらしい。
(にしてもすごいな、他の客が一定の距離を自然とあけている
俺としては嬉しい限りだが、それはそれで落ち着かない)
そんな中店に入ってきた一人の女性が近づいてきた、
見た感じ若い女性で軽装だけど
剣を持ち歩いてるとなるとただの一般人って訳ではないようだ。
「お食事中に失礼いたします
私はこの地を治めているジョンソン伯爵家の使者でございます
この度はジョンソン様よりカガミ様宛に手紙を預かってまいりました」
そう言いながら女性は手紙を差し出した、
手紙を受け取りお礼を言いながら手紙を開ける
手紙を読み終えた俺は内容をみんなに伝える
「簡単に言えば晩餐会を開くから、それのお誘いだね」
「どうするの?そのお誘い受けるの?」
「まぁ、ここの領主からのお誘いだからね
挨拶もかねて行っといたほうがいいよね?」
そう言うとユーリカもクリティカも2人して頷く
「そう言う事なのでこのお誘い、お受けいたします」
「感謝いたします、では夕刻にお迎えいたしますので」
使者の女性は一礼して店を出てった。
食べ終わった俺達は一度部屋に戻る事にした。
「この後二人はどうするの?」
「私達は町で買い物する事にしたわ」
「セイトさんはどうするんですか?」
「俺はギルドに行ってくるよ、色々試したいんだ」
「セイトさんと一緒にいたかったですけど
今日は我慢します」
「ごめんね、こんど埋め合わせするから
じゃあ行ってくるね。
月影、シリウス、メビウス、二人を頼んだよ」
「「「かしこまりました」」」
ユーリカとクリティカの「いってらしゃい」を背に俺は部屋をでた
とりあえず店をでてギルドに向かう。
歩きながら昨日見た人達の事を考えていた
この国は奴隷制度を認めていない、しかしこの街には奴隷的扱いを受けている人達がいた
馬車で入ろうとすれば検問で荷物を確認されるはず
さいない方法と言えば、違法にこの町に入る事。
しかし目の前でこの町に入った所を見ればその考えは無くなる。
他の方法と言えば後一つ、
領主から発行される商人特許証を使えば荷物の確認を省く事ができる。
実際あの後隠し通せた可能性もあるが、
よほどのことが無い限りあの人数を隠し通す事は至難の業、
考えたくはないが領主のジョンソン伯爵が一枚噛んでる可能性が高い。
(だったらこうしている暇は無いな)
この一件を調べるため、ギルドに続く道から向きを変え
ジョンソン伯爵が住んでいる屋敷を目指して歩く。
黒幕に一歩近づいたのは進展と言えるが
それと同時に、その後も考えなければならない事を思い出す。
奴隷の人達を救ったとして、その人達どうするのか?
考えれば考えるほど歩く速さが遅くなっていく
それもそうだ、責任と言うのは時として大きな枷となる。
奴隷から解放しただけでは結果的に救ったとは言わない。
ならばここで見捨てる?フォースアイで見たとき彼女達は涙を流し怯えていた、
そんな彼女達を見捨てる?
そんな事は許されない。かつて俺が救われた時、
救ってくれたあの人は後の事なんて考えただろうか。
(いや、そんな事は無いか、なぜならあの時、あの人はこう言った)
「今は今、後は後、後の事はそん時考えれば良い。
後先考えてたら、いい結果にはならない。
たとえ結果が悪くても全力でやったのなら、俺は後悔しない」
頭の中で枷の外れる音がした、それと同時に心も軽くなった気がした。
俺はいつのまにか走っていた、あの人が背中を押してくれたかのように。
後悔しないためにも、俺は全力でやる、その第一歩として俺は全力で走る。
今回も読んで頂きありがとうございます。
終わり方が微妙かもだったかもしれませんが
変に付け足すよりかは良いと思ったので、こんな終わり方になりました。