その21"完成"
あれから数日たち
そろそろ完成するだろうと思っていた所
例の工房から一通の手紙が届いた。
内容は見るまでもなく、完成を知らせる文だった
今は剣を受け取りに工房に向かっている
「何で、ユーリカたちも来てるの?」
「良いじゃないですか、気になりますから」
「そうよ、あなたが使う武器なんだから
気になるわよ」
レベルは、その者の全ての力を測るもの
つまり、俺の場合魔力だけでなく
身体能力もチートレベルと言うことになる。
この世界に来てから身体的な戦いは
ユーリカを助けた時の盗賊とジークくらい
普通に考えてみれば、どちらも
向こうの方が戦いなれているため強いはず
しかし、戦った俺としてはどちらも簡単に倒せた
(身体能力も上がっていると言うことか)
「けど、一応あれは"戦う"ためじゃなくて
"守る"ために作ったものだから
抜かれない方が助かるけどね」
「あなた冒険者でしょ
そうだ、後でギルドに寄って良いかしら」
まさかのクリティカからの
この言葉に戸惑いつつも冷静に聞き返す
「ギルドに?何か用でもあるの?」
「冒険者登録しに行くだけよ」
「えっ?」
「じゃあ、私も」
「えっ?」
2人の爆弾発言に流石の俺も冷静を保てず
2人を何度も見返してしまう
これは全く考えもしなかった
パストラル王国の姫であるユーリカと
王城図書館の管理をしていたクリティカが
冒険者になると言い出した
驚かない方がおかしいと言っても過言ではない
「なんで、急に冒険者に?」
「なんでって、暇だから」
理由を聞いて更に戸惑う
確かに、婚約してからは
家庭に入ると言う風習でほとんど家にいた。
「この前言ってた
結婚したら家庭に入るって絶対なの?」
「別に絶対って訳じゃないわ
ただ、周りがそう言う空気で
残るって言いづらくてね」
「クリティカはわかったけど
ユーリカはなんで冒険者登録を?」
「私1人何も出来ないのは嫌なんです
私もセイトさんを支えたいですから」
止めるべきなのかとても悩む
理由を聞いてとてもありがたいとは思うが
姫に冒険者は荷が重すぎると思ってしまう。
「とても嬉しいけど、2人とも危なくないか?」
「確かに、身体能力や物理戦闘は
劣るかもしれないけど
私もユーリカも魔法に関しては
自信あるわよ?」
クリティカは魔法が得意な妖精族だし
それなりに強いのもわかるが
ユーリカまでその素質があるのかは知らなかった
「それは、知らなかったよ
ユーリカが魔法使えるなんて」
「うふふ、意外ですか
こう見えて火、水、雷、風、無の
五属性の適正があるんですよ
クリティカさんに魔法を教わってますし
足手まといにはならないと思います」
今まで一度としてユーリカの能力については
話さなかったが
五属性の適正があるのは知らなかった。
姫と言う立場上魔法を使う機会がないため
レベルは低いかもしれないが
伸びる可能性はとても高い
「まあ、登録するのは良いとして
2人が行ったら騒ぎが起きるかもよ?」
2人、特にユーリカに関しては
冒険者になるのはありえない立場の人物
そんな人物が冒険者登録に来たとなると
町だけでなく、国中で騒ぎになるかもしれない
「それなら大丈夫よ、話は言ってあるから
裏口から入れるわ
ちなみに、国王にも言ってあるから」
「はい、お父様に言ってみたところ
"セイト君がいれば大丈夫だろう"
と言って許可をいただきました」
(君?、それにしてもよく許可を出してくれたな
あれだけ溺愛してれば無理だと思ったけど
俺を信頼して送り出した、そう考えるか)
そうこうしているうちに工房に到着し
扉をゆっくりと開ける。
「待ってたよ」
そこにはゲースさんが仁王立ちをしていた
その顔は自信に満ちていた
俺は思わず息を呑む
「その様子だと素晴らしい出来栄えのようですね」
ゲースさんはニヤリと笑い頷く
その様子を見て俺はわくわくが止まらなくなった
これが新しいおもちゃを貰う子供の感覚なのだろうか
早く見て使いたいと言う思いが強くあった。
後ろにいる2人も
普通の空気じゃないことを悟ってか緊張していた。
ゲースさんに案内され奥の部屋に入る
机の上に置いてある二本の剣
「これが」
「そうだ、今まで俺が作ってきた物の中で
一番の出来栄えだ」
剣の片方を持ち抜刀する
黒い刃が光に当たり一筋の黒い光を映す
俺は見とれてしまっていた
剣は武器であり本来、人を傷つける物
そんな武器を美しいと思ってしまった。
ふと我に戻り、刃を納める
「すごいですね、剣のことは詳しくありませんが
そんな俺でも
この剣がすごい事はわかりますよ」
「だろ!、何か作って欲しかったら
また俺の所にこいよ!」
ゲースさんに礼をして後にした。
「その剣の名前はどうするんですか?」
ギルドに向かって歩いていると
ユーリカが聞いてきた
「名前か、考えてなかったな
何か良い案ある?」
「あなたの剣なんだからあなたが決めなさいよ」
(そう言われてもな、名前か····
ダメだ、思いつかない)
「少し考えるよ
簡単に決めるとこの剣に失礼だからね」
初めて持った剣
何か意味のある名前にしたいと考えているが
全く良い名前が出てこない
今は名前よりも早く使いたい衝動に駆られる
ここまで嬉しいと思いわくわくしたのは
いつ以来だろうか
「つきましたね、入りますか」
気づけばギルドについていた
先ほどクリティカが言ったように
裏口から入る
するとそこにはギルドの受付嬢が待っていた
「皆様、お待ちしておりました
どうぞこちらえ」
案内されたのはギルド長のガルト侯爵の部屋
会うのは個人証を作りに来たとき以来
あのときは、1人の旅人として来たが
今は一応俺も侯爵の爵位を持っている
だからと言って、いばるつもりも
態度を変えるつもりもない
どちらかと言えばガルト侯爵の出方が気になる
「ガルト様、クリティカ様方が
お見えになりました」
「入ってくれ」
受付嬢が扉を開け中に入る
ガルト侯爵は仕事中だったのか
机の上には多くの書類があった
「お久しぶりです、ユーリカ姫にクリティカ殿
それに、カガミ殿もこの前とは
佇まいがだいぶ変わられた」
「そう、ですか?
それにしてもすいません、お仕事中に」
「大丈夫です、ちょうど一段落つきましたから
今日は、冒険者登録をしに
来られたのですよね」
「はい、そうです」
そう言ったのはクリティカだった
登録しに来たのはユーリカとクリティカだから
3人で話を進める
俺は紅茶を飲みながらこの後の事を考える
「では登録しますね、頼む」
「かしこまりました」
ギルドの職員が2人の個人証を持ち部屋を出る
「しかし、ユーリカ姫が冒険者登録をするとは」
「やっぱり、おかしいですか?」
「いえ、何度か聞いたことがあるので
おかしくはないです
それより
よくカサブランカ国王が許しましたね」
(やっぱり、そこなんだよな
カサブランカ王だったら
心配でやらせたくないはずなんだけど)
「セイトさんがいるから安心できるそうです」
「ははっ、確かにカガミ殿はお強い」
ガルト侯爵は笑ってそう言ったが
こちらとしては笑い事じゃない
愛娘を冒険者にしても安心できるほど
俺は信頼されていると言うこと
月影達がいると言えど、不安は残る
(強くなれ、と言うことなのか?)
扉をノックする音が聞こえた
「登録完了したようですね」
入ってきた職員が2人に個人証を渡す
これで2人も晴れて冒険者になった
2人を見ると、なんだか嬉しそうにしている
「早速、クエストを受けましょう」
(やっぱり、クリティカならそう言うよね)
今回も読んで頂きありがとうございます
ようやく剣が完成しましたね
旅の出発もそう遠くないです




