前編 その日僕は龍に逢う
初めての投稿です。
この小説は、私が人生で初めて書いた小説です。
自分なりに「面白い」と断言できるものを書きました。
この広い世界のどこかに、まだ見ぬ現実があるかもしれない。この宇宙のどこかに、本の中でしかお目にかかれないような珍妙珍奇な話が存在するかもしれない。そんな希望をこの小説に込めています。
初心者なので、まだ至らない点も多くあると思いますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
蒼龍記
一、はじまり
1
この地球には不思議なんてもう存在しないと思っていた。探検家が冒険をした密林も、未踏の霊峰も、伝説の怪物も。そんなものはファンタジーの世界、物語の世界にしかもう残っていないと思っていた。
でも僕はあの日出会ってしまった。蒼く美しい龍だった。伝説に遭遇した瞬間だった。夢が現実であったと自覚した。その瞬間、僕は世界が果てしなく開けていることを、世界にはまあまだ不思議が残留していることを知った。
龍が存在した。ならば、未開の密林も、未踏の霊峰も、そして数多の伝説の怪物もまた、まだ存在するかもしれない。
ただただそんなことを自覚するだけで、目の前の世界は比べ物にならないぐらい鮮やかに色付き、僕の毎日は格段に面白くなった。
「高校生にもなってそんな妄想をして・・・」なんて他人は言うかもしれない。だが僕の妄想がただの想像でしかないとは限らない。夢はそのうち現実になる可能性を確かに秘めている。夢も頭で描いた理想と言う点で妄想と大差ない。ならくだらない妄想も現実にならないとも限らないじゃないか。
何が言いたいのか話してるうちに自分でもわからなくなってきた。ただ僕が一番言いたいことはただ一つ、
「この世界はまだまだ未知のことに満ち溢れている。ならどんな支離滅裂な想像でも、真実を言い当てている可能性がある」と言うことである。
この世に新しい理論が生まれる時、多くの場合、既成の理論によってそれは否定される。そんなことはガリレオの天動説や、ダーウィンの進化論を見るまでもなく真実だろう。だがこれらの理論は結果的に真実だと認められた。真実は書き換えられる。多くの人間が納得できること、それがいわゆる「真実」の条件だ。それが本当に世界の摂理の摂理を体現しているなんて断言できるものは誰もいない。
なら僕らが何を考えようが、それを無駄だということは誰にもできないだろう。
僕はこの世界がまだまだ不思議であふれていると信じている。ひょとしたら魔法も妖怪も存在しているかもしれない。それが真実だという根拠はないが、真実でないという根拠はない。だから僕は信じる。
ただそれだけのことで、ほら、世界はこんなにも美しい。
2
僕は目を疑った、何の変哲もない朝。いたっていつも通りのはずの日常は唐突に終わりを告げた。信じられないのは解るが、どうか僕の話を最後まで聞いてほしい。その日、
僕の目の前に一匹の蒼い龍が降ってきた。
僕はこの日どこまでも美しく、気高く、そして死にゆく一匹の龍に出会った。蒼く輝く神秘的な龍だった。
その日はごくごく普通の五月のある日。この春から高校生となった僕の名は「唐堂悟」。地元の進学校の一年生だ。部活は水泳部、最近放課後は毎日練習がある。
いつものように、日の出のころに目を覚ました。僕は基本的に早寝早起きだ。夜は夕飯を食べると眠くなってしまい、十時以降は頭が働かない。十一時を過ぎると真夜中の世界だ。
朝のうちに多少の勉強をする。一応進学校の生徒であるところの僕は、夜勉強しない分朝起きてから勉強する。昼食までに一時間半ぐらい勉強できるから、高校一年生としては十分な勉強時間だと思う。しかも僕は朝のほうがよっぽど集中できるので、ものすごい効率がいい。
いつも通り朝食をとる。
僕は今実質一人暮らしである。両親は仕事で家にはいない。だから朝食の席ではいつも一人だ。
いつも通りに余裕をもって学校に向かう。高校入学祝いのクロスバイクにまたがり、静謐な朝の空気の中にゆっくりと漕ぎ出す。海沿いにあるこの町の風には、ほのかに潮の香りが混ざっている。
柔らかい春の日差し。
暖かい春の風。
楽しげな鳥の声も聞こえてくる。
どこまでも平和でいつも通りで幸せな、いつも通りの朝・・・・のはずだった。
そんな平和な日々がこんなに唐突に終わるなんて誰が予想できただろう。
突然のことだった。快晴の空のどこかからから蒼い龍が僕の目の前に落ちてきたのだ。
とっさに衝撃に備えたが不思議なことに落下音や衝撃はない。僕の目の前に目を閉じた龍が静かに横たわった。これが僕の物語の唐突な始まりだった。
僕はまず目の前の光景から一つの仮説を立てる。
「・・・はは、きっとまだ僕は夢を見ているんだ。そうに決まってる」
僕は頬をつねるという古典的方法で現状の回復を図る。
しかし、どんなに強くつねっても目の前の光景に一片の変化もない。どうやら『夢の中仮説』は間違いのようだ。しかし、僕の知っている知識では目の前の状況に全く説明がつかない。
僕はあまりに強くつねったせいで赤くジンジンとした痛みを持った頬をさすりながら、目の前に横たわる超現実を観察する。
それは蒼い鱗を持つ一匹の龍だった。長さは五十メートル近いだろうか太さも僕の身長ぐらいある、東洋風の長い、蛇のような体の龍だ。全身は蒼い金属光沢を放つ大きな鋭い鱗に覆われている。胴からは同じく鱗に包まれ、どこまでも剣呑な美しさを感じさせる爪を持った脚が生えている。目の前にある頭からは、白磁のごとく美しい、そしてどこまでも冷たい光を放つ一対の鹿のような角。苦しそうに半開きになった口からは、白くどこまでも透き通るような輝きを放つたくさんの牙がそそり立っている。しかし、その美しい牙も今はどす黒い血に濡れている。軽自動車並みの大きさを持つ龍の目は固く閉じられていて開く気配はない。改めて龍の体を見てみると体中に深い傷がありだくだくと血が流れている。
どこまでも美しく、そして傷つき今に死んでしまいそうな龍だった。
僕はあまりのことに唖然として、まったく何のリアクションも取ることができない。というか世界中の人に質問するが、『もし目の前に龍が落ちてきました』『龍はとっても大きく、そして綺麗でした』『でも、龍は今にも死にそうです』さて貴方はどうしますか?という質問に即答できる奴はいるんだろうか。もしいるなら是非とも教えてもらいたいが、おそらく僕含めた一般民間人にこの場合のリアクションを期待するのは酷な話だろう。しかも、もし僕にそんな質問をしてくる人がいたとしたら、そこからわかることはただ一つ、『その人のおつむが大変残念な状況にある』と言うことだけである。
考えているうちに僕の頭はドンドンとこんがらがり、自分でもはたして何を考えているのか皆目見当もつかなくなってきた。僕の頭はフリーズ寸前のまま、必死で思考をする。
どこの世界に空から降ってくる龍が存在するのだろうか、・・・・・・・・いやそんな世界はない!
当然のことではあるが、人類としての僕の常識は目の前の状況を完全に否定しようとする。
そのとき唐突に竜の目が開いた。どこか深い海を思わせるような青みがかった黒い巨大な瞳だ。しかし、その目を正面から覗いてしまった僕は一歩も動けなくなってしまった。足がすくんで腰が抜けた。猫ににらまれたネズミと言えばいいだろうか、自分よりもはるかに高位にある存在を自覚した本能的な恐怖。龍の目は美しくも凶暴な光をはらみ、一目見ただけでそこに吸い込まれたような不思議な感覚を覚える。
龍はそんな僕をまじまじと観察している。
突然僕は声を聴いた。
「汝、名を申せ」
轟く様な深く低い声だった。最初僕は誰が喋ったのかわからなかった。なぜなら『声』とは言ったが、龍は口を動かしてはいないからだ。僕は腹の奥底で何かが共鳴する様な感覚を覚えた。
「唐堂悟」
僕は反射的に答えていた。
龍は僕の名を聞いてから、思いのほか丁寧な口調で続ける。
「汝、唐堂悟、我が名はミクマリ。海の管理を仰せつかっている海龍だ。唐突で大変申し訳ないが、そなたに頼みたいことがある。そなた『龍護』というものは知っているか」
・・リュウゴ、聞いたことがない。そういえば幼稚園の友達に何とかリュウゴと言うやつがいたかもしれないが、まさか龍が言っているのはそんなことではないだろう。
「知らない」
僕はそう答えることで喰い殺されやしないかとビクビクしながら答える。
「知らないならいた仕方がない。説明したいのはやまやまだが我にはもう時間がない。すまないがなにもきかないでどうかこの宝珠に接吻をしてはくれまいか」
その時初めて竜の手の中に蒼い珠があるのに僕は気付いた。深い海の色をした西瓜ほどの大きさをした丸い美しい玉だ。
一応言っておくが、突然知らない人から怪しいことを持ちかけられたら断る、というのは常識だと僕は認識している。この場合は「怪しい人」ではなく「恐ろしい龍」ではあるが・・。しかし当然普段の僕なら断っているだろう。
・・・・「断っているだろう」とこんな言い訳がましい口調で言ったからにはもう気付いたと思うが、このとき僕は龍の誘いに乗ってしまったのだ。
僕はその珠を見た瞬間『美しい』ということ以外何も考えられなくなってしまった。脳の中にあったなけなしの常識は空のかなたで星になった。それだけでなく『僕』というものをつかさどるあらゆる感情・思考が『美しい』ということを除いて、すべてなくなってしまった。『美しい』という圧倒的で暴力的ともいえる感情の渦に、僕は捕らわれた。
何が美しいのか、どうして美しいのかそんなことそのときの僕には関係なかった。
僕は引き寄せられるようにその珠に近づいた。近づくにつれて空気が冷たく鋭くなっていく。玉からは寒々とした力が感じられるが、不思議と心は落ち着いていく。
僕は何も考えず、ほとんど反射的に、美しい玉のそのすべすべとした表面に接吻をした。
そのとたんに僕の体の中に濁流のように膨大な量の『何か』が流れ込んできたのを感じた。不思議と懐かしい感じだ。僕の意識が完全にその濁流に押し流されていった。
ここから平凡な高校生であったはずの僕―唐堂悟―とどこまでも恐ろしく、そして美しい龍たちの物語が始まるのである。
二、異変
1
最初に感じたのは暖かい光だった。僕は静かに目を開ける。そのとたん腰を抜かしそうになった。
世界のあらゆるものが今までよりも圧倒的に鮮明に見えるのである。光の見え方も全く違う。
春の日の温かさ。
木漏れ日の柔らかさ。
蛍光灯の冷たさ。
すべての光が今までとは違って見える。
視力がと言うよりは、あらゆる知覚機能が向上したようだ。数百メートル先の看板は余裕で読めるし、自分から数メートル離れたところに入るハエの羽の筋一本一本まではっきりと見て取ることができる。
動体視力も向上した。飛ぶ鳥の嘴にくわえられた虫の触覚を一瞬で見ることができた。
聴力、嗅覚なども今までとは全く別のものだ。
車の種類によって違うエンジンの音。遠くで会話をしている人の声。
様々な土、鳥、虫、排気ガスの匂い。
世界が今までとは全く別のものに見える。今までなんて、サングラス、耳栓、鼻栓を装着していたかのように思われる。
僕は立ち上がる。僕は道の真ん中に倒れていた。どこかが痛いとかいうことはない。
僕は立ち上がって見違えるように鮮やかになった世界をもう一度見まわす。
僕が出会ったと思われる、蒼く美しいあの龍は影も形もない。
僕の他に腰を抜かした人も全く見受けられない。
夢だったのだろうか。
とりあえず手に巻いた時計を確認する。龍を見たと思われる時からいくばくも経過していない。倒れていたのは数秒だったようだ。
自転車に乗って学校に向かう。そのとき自分の右手首にリストバンドのようなものがはまっているのに初めて気づいた。左手にある腕時計の反対側すなわち、右手首に美しい蒼い輪がはまっていた。
輪は、蒼い光を放っていて、太さは親指ぐらい。表面はざらざらとしていて、一見布のようだが、布というよりは動物の皮を連想させる。重さは感じない。外そうとしてみるがなぜか手首より先には動かない。
「どうすんだよこれ」
僕の学校では装飾品は全面的に禁止である。
「生徒指導の先生に見つかったら面倒だな」
僕はもう一度腕輪を引っ張るがびくともしない。
「ばれないことを願おう」
時間も時間だ。僕はそれを外すのをひとまず諦め、遅れないように学校へと向かった。
県立浪ヶ崎高校。僕の高校だ。その名の通り海に面した高台にある学校で、いつも潮風が校舎内を吹き抜けている。特徴は伝統的なその自由な校風だ。
下駄箱で靴を脱ぎ一回にある自分の教室に向かう。
「よーおはよう」
教室に入ると顔に痘痕のある、どこか人懐っこそうな顔が挨拶をしてくる。彼の名は西岡仁。
水泳部の友達で数少ない僕の友達の一人だ。
「おまえ今日ちょっとおそくない?」
「そんなことない。いつも通りだよ」
・・・まさか空から龍が落ちてくる夢を見て、気付いたら道路で気絶していたなんて言えるわけがない。
「ならいいけど。そーいや一限目の化学実験だからそろそろ移動しまいとまずいよ。俺先に行っているから」
「僕もすぐむかうよ」
鞄を自分の机に下ろし―僕の机は窓際の一番後ろ。最も人気の席である―、白衣に着替えて別校舎の化学準備室に向かう。
あと少しで一限目が始まるからだろうか、廊下には遅刻しないように駆け込んでくる生徒や、廊下にあるロッカーから教材を取り出す生徒でにぎわっている。
僕も朝のドタバタにあてられて、右手に嵌った腕輪のことなんて早くもすっかり忘れてしまった。
化学実験室につくと同時にチャイムが鳴る。化学の先生が特徴的な大声で実験の解説を始める。
僕は聞くともなしにそれを聞いている。自転車を漕いで疲れたのだろうか、それとも春のうららかな気温と朝の柔らかい日差しのせいだろうか、自然と僕の瞼は重くなっていく。
いけない、いけない。朝一番から快眠するわけには行けない。僕が睡魔の大編隊相手に孤軍奮闘しているうちに実験の説明が終わる。
実験がスタートした。しかしまずいことにろくすっぽ聞いていなかったせいで何をすればいいか皆目見当がつかない。
そういえば実験は二人一組だよなと思い横を見ると、そこでは端正な顔つきの女子がスウスウと気持ちよさそうに寝息を立てている。彼女は睡魔に無条件降伏したようだ。見ていて腹が立つほどよく寝ている。
僕はため息をついて起しにかかる。
「朝だぞ神崎。化学の先生に怒られるぞ」
「・・・」
彼女は薄目を開ける。そして僕の顔を認識すると、ガバッと起きて自分の置かれた状況を認識しなおしているようだ。
「ビックル・・ビックリしたー。家に唐堂が不法侵入してきたのかと思った」
「誰が好き好んでお前の家になんか上がるかよ。ライオンの檻に入るより命の危険を感じる」
「失礼な。これでも一応女子なんですけど・・」
「毎日筋肉自慢をしてくるお前に女子を感じろというほうが難しい。不器用だし、無遠慮だし、無骨だし」
「・・・」
神崎は無言で僕をにらむと電光石火で僕のみぞおちにこぶしを食い込ませる。動体視力が飛躍的に向上しているらしい僕は、電光石火で拳が伸びてくるのは見えたが、体の反応が追いつかない。
ドスぅ。最近の音楽の授業でやったボディパーカッションの進化形だろうか。かなり斬新な音がした。僕はたまらず悶絶し、正直な感想を告げる
「・・・・事実をつかれてまず手が出るとかほんとに脳筋だな。しかもそこらの男子より絶対腕力強いし、しかも狙いたがわずみぞおち殴ってくるし。怒る前にそこらへんを直せ・・」
僕は息も絶え絶えにそう告げる。
しかし神崎はプイと怒って顔をそむけ、僕の言葉などどこ吹く風だ。
彼女の名は神崎美月。僕が物心ついた時からの付き合いだ。その後小学校、中学校、高校となぜかいつも一緒にいる。残念ながら親同士も仲が良く、しょっちゅう顔を合わせる。神崎は小さいころから運動神経抜群。天性の運動音痴の僕からするとうらやましいを通り越して呆れるぐらい、運動なら何でもそつなくこなす。そんな彼女は小さいころからテニスをやっていて、中学・高校と軟式テニス部に所属している。
・・・・僕が言うと変な気がするが、彼女は美しい容姿をしている。端正な顔立ち、肩ぐらいまで伸ばしたサラサラの黒髪、運動で引き締まった四肢。運動で開けして真っ黒なのを差し引いても十分に美しい。・・・・・少なくとも見た目は高水準にあると言える。
「よくわかんないけどフラスコに水を入れて火にかけるみたいね」
神崎はほかの班の様子を観察して実験を開始する。僕も彼女を手伝いアルコールランプの準備をする。
何とか実験をスタートさせようとするが、彼女が水を入れたフラスコを見て僕はため息をつく。
「あの、神崎さん。なんでこんな口ぎりぎりまで水入れるんですかねー」
「えっ、だってフラスコに水入れるって黒板に書いてあるじゃん」
「おっ偉い。神崎がきちんと黒板を見た」
「へっへーん。私だって成長はするんだよ」
・・・・ほめたつもりはないのだが。
「でも神崎、そこまで見たならその一行後に、水がこぼれないように水は半分までって書いてあるけど・・」
「・・・!。これは・・ご、誤差だよ誤差」
「お前、これ誤差にするにはかなり無理がある気がするぞ」
御覧の通り、神崎は容姿だけならいいが頭のなかがちょっと残念だ。決して成績が悪いわけではないが、なんというか全てにおいてガサツだ。人生を本能と気分で生きているとしか思えない。・・・しかし、それでも最後には許容範囲内の結果を出すのが彼女のすごいところだ。
そんな彼女、入学当時は男子からチラチラ見られていたが、入学早々そのガサツさ、無骨さをいかんなく発揮し、今では男子の間では「気になる女子」ではなく「話しやすい男子」に分類されている。
神崎が火にかけたフラスコを下す。水がチャプチャプとこぼれる。
「お前これ溢さずにどうやって運んだんだよ。さすが野生だな」
「気のせいかな半分ぐらいしかうれしくなんだけど」
・・・半分は嬉しいんだ。さすが神崎。
正しい分量に水を入れなおしたフラスコを火にかける。ほかのペアより大分遅れてしまった。
しばらく二人でボケっと待っていると、水が沸騰した。
「お、沸いた沸いた」
神崎がなぜか嬉しそうにフラスコに触れようとする。
「気をつけろよ。水熱いから。火傷すんなよ。」
「大丈夫、大丈夫。ラケット握ってたりいろんな運動やったりしてるうちに、手のひらの皮膚がかなり分厚く頑丈になっているから」
「・・・・・・・お前、女子からどんどん遠くなっている自覚ないのか?」
「何 か 言 っ た」
神崎の目線が一瞬で剣呑なものに変わる。視線に物理的な圧力を感じる。
「落ち着け、落ち着け。俺が悪かった、許してくれ。お前は女子らしい、女子らしいからまずその熱湯を下してくれ」
命の危険を感じた僕は必死に言い訳をする。神崎は脳筋である。つまり怒らせると、電光石火できわめて暴力的な行動に出ることが多い。・・・・・・ほんとに野性だ。
ひとまず落ち着いた神崎がフラスコを下す。
水やお湯に薬品を混ぜて反応の違いを見る、というのが今回の実験の目的だ。神崎がやるとまともな結果が出ないのに加え、僕自身の安全を守るために、薬品は僕が担当した。神崎は反応を観察している。
無事に実験は終了する。全ての工程を安全に終え―僕はこれが一番うれしい―、片付けに入る。
大体全体が実験を終えるのを見計らったのだろう、前の教卓から実験をまとめるためのプリントが回ってきた。神崎が二人分受け取ると僕に渡そうと手を伸ばす。
そのとき相変わらず何も考えずに差し出されたプリントの先が余った熱湯が入ったフラスコ―残り少なかったのでかなり軽くなっていた―を僕のほうに押し倒した。
少ないながらもまだモクモクと湯気を立てている熱湯がサッと僕のほうに流れてくる。触れたら火傷は免れないだろう。
「・・・!!」
僕より先に神崎がそれに気づいて素早く行動をおこす。流れてくるお湯に近くにあった雑巾を押し当てる。お湯は半分ほど雑巾に吸い込まれたが残りのお湯が事態をまだ把握しきれずに硬直している僕に向かってきた。
次の瞬間僕は手に痛みを感じた。お湯がかかって火傷をしたらしいと気づくのにさらに数秒かかった。
「唐堂!大丈夫?」
神崎が心配そうに声をかけてくる。僕はやっと動くようになった体で、机の横の流しで水を流し、火傷してしまった右手に水道水をかけて冷やす。
「火傷した?大丈夫?保健室行く?」
「いや普通にこうして冷やしていれば大丈夫だよ」
僕はそう答える。実際割と痛いが神崎に心配はかけたくないし、何より保健室に行くのはめんどくさい。
「ならいいけど・・」
「神崎こそ熱湯はかからなかった?雑巾で受け止める時、お前にもお湯が触れていたように見えたけど」
「私は手だったから大丈夫」
「・・・手なら大丈夫なんだ」
神崎はさも当然のようにそう返した。彼女の手のひらが特別製であるというのは本当らしい。・・・・将来勇気を出して彼女と手をつないだ男子の落胆がしのばれる。
一文の得にもならないようなことを考えながら、ふと水にさらしている右手を見て僕は(本日二度目だが)目を疑った。
火傷で赤くなっていたはずの手に赤い部分はもうどこにもない。しかもさっきまで確かに感じていた痛みも今は雲散霧消している。
しかし、僕が驚いたのはそんなことではない。
冷やすために流している水がすべて、腕にはまっている蒼い謎の腕輪に吸収されていくのだ。
結構な水量のはずだが、水道水は触れるそばからすべて腕輪の吸収されていく。一滴たりとも下の流しには落ちない。
「唐堂?どうしたの?ついに頭でも狂った?」
流しを見ながら硬直している僕を不審に思ったのだろう、神崎が声をかけてくる。
「な、なんでもないよ。・・・ていうか、お前心配してるふりしてさらっとひどいこと言わなかったか」
「気のせいだよ。まさか、私がそんなこと言うわけないじゃん」
絶対に気のせいじゃない気がするが、今問題なのはそんなことじゃない、僕はもう一度右手を見るがそこには、さっきと同じ奇妙奇天烈な光景が展開されている。しかも心なしか腕輪の輝きが増したような気がする。
とりあえずもう痛くなくなったので蛇口を閉めて、もう一度腕輪を観察してみる。やはり蒼いこと、どうやら動物由来の素材からできていること以外は皆目わからない。水から離したからだろうか、腕輪はもう輝いていない。
「ん?その腕輪どうしたの蒼くてきれいじゃん。見して見して」
またも神崎が話しかけ、僕の右手をしげしげと観察する。
「うわー、ほそっこい腕。水泳部に入って日には焼けてきたけど相変わらず女子みたいな腕だなー」
「おい、腕輪見るんじゃないのかよ」
「それにしたって。いやー生半可な女子より腕きれいなんじゃないの」
僕の目は自然と神崎の腕に向かう。真っ黒に日焼けして筋肉質の、見るからに力強い腕だ。・・・・・・・つまり、どう見ても女子の腕には見えない。
神崎も僕の目線に気付いた
「なにかわいそうなものを見る目で私の腕みてんのよ。なんか言いたいことでもあるの、この女子の、この女子の腕に」
なんか二回も繰り返してるし・・・・。
「いや、・・・・立派な、いや逞しい、うーん頼りがいのある腕だなーと思って」
「よくわかった。唐堂君」
神崎が唐突に改まった口調になる。僕は急に怒りださない神崎を不思議に思って、彼女の次の言葉をまつ。
「何 か 最 後 に 言 い た い こ と は ? 」
彼女の言葉は一見優しく聞こえたが、言っている内容がとんでもない。しかも何より目が殺る気に満ち溢れて、爛々と輝いている。
「待て待て待て待て待て待ってくれ。頼むから落ち着いて。とりあえず薬品の瓶を振りかぶらないで」
そのときチャイムが鳴った。その音で正気に戻った神崎は何事もなかったかのように席を立ち、教室に帰っていく。
「ふー助かった。生きているって素晴らしい」
つまらないことで悟りを開いた僕は気を取り直して腕を見る。もう一度試しに外そうとしてみるが外れない。
「どうすっかなーこの腕輪。教室でハサミでも使ってみようかな」
対処法を考えていると聞きなれた友達の声がする。
「おーい唐堂、教室帰ろうぜ」
西岡だ。
「わかった。行こう」
僕もそそくさと席を立ち教室へと帰る。
隣の西岡のくだらない話に耳を傾けながら適当に相槌を打つ。
腕輪は今日一日でどうにかしようなんてことを考えながら階段を下りる。
太陽はまだ高い位置にない。暑すぎず鋭すぎない、絶妙な光を放ちながらやさしく僕らを見下ろす。僕は気を引き締めなおす。
一日はまだ始まったばかり。先は長い。
2
昼休みとなった。
一限の後、僕はどうにか腕輪を取り外せないか四苦八苦してみたが外れる気配はない。ハサミでは全然切れないし、シャーペンを刺そうとしてみたが腕輪の上を横滑りするだけで全然駄目だ。
しかしそのほかはいたって普通に授業を受けていた。いたって普通と言っても、先生の声が鮮明に聞こえるのみならず、遠くの人がシャーペンをノックしたり、教室から五十メートルほど離れた昇降口のドアが開く音が聞こえたりと、様々な音が聞こえた。黒板の文字もものすごく鮮明に見え、先生が持ちながら授業をしている教職員用の教科書の解説まで読むことができた。
いつも通りの、でも異質な時間を過ごした僕は、昼休みにはいつもの数倍ぐらい疲れていた。
「とーう堂、飯食おうぜ」
西岡だ。僕らはいつも教室の片隅で二人で昼飯を囲む。
「かー。高校生活がスタートしたけど中学の時と何ら変わらないなー。なんかほらよくあるじゃん、高校生の青春ドラマ的な奴。俺高校に入学すれば、そんなんばんばん体験できると思ってたんだけどなー」
「それは夢見すぎなんじゃない。ドラマとかラノベとかにある『青春系いい話』なんて嘘だよ嘘」
「お、お前、一瞬で俺の高校に来る意味を粉々にしやがって」
「・・・・お前は何のために浪高受験したんだよ」
浪高は一応進学校であるため、試験も難しく倍率も高い。青春したいだけならわざわざ受験する必要はない。
「いやー、知り合いで浪高生だった先輩が『浪高は試験のレベルが高い分、女子のレベルも高い』って言ってたから」
「・・・お前よく入ったな」
「いやーそれほどでも」
いつも通りのくだらない会話をしながら僕らの昼飯が進む。
西岡がため息をつきながらいつもの口癖を言う。
「はあ~可愛い彼女でもできないかなー」
「そう言っているうちは絶対にできないと思うよ」
「おまっ。さすが美人の彼女を持っている唐堂君はいうことが違いますねー」
西岡が皮肉っぽくいってくる。
「はあ、誰のことだ」
「またまた、神崎さんに決まってんじゃん」
「神崎は幼馴染。それ以外の何物でもない」
「そんなこと言って。今の高校生言葉だと『美人の幼馴染』は『可愛い彼女』と同義なんだよ。この幸せ者め。はぁ、俺にも美人の幼馴染とか義理の妹とかできないかなー」
西岡はまた大仰にため息をつく。
西岡が言うように僕と神崎は、はたから見れば仲がいいカップルに見えるのだろう。しかし当人たちから言わせれば、お互い相手を異性として見てはいない。だから、どちらかと言えば兄弟と言ったほうが近いぐらいだ(兄妹もしくは姉弟と書かないところがミソ)。しかも僕としてはここまで進路が被ると、『運命の赤い糸』なんかより『意地の悪い神様の呪い』とか『腐れ縁』と言ったほうがよっぽどしっくりとくる。
しかしそんな説明をしたところで、西岡が真に受けないのは火を見るよりも明らかなので、わざわざ説明はしない。
そんな益体もないとこを考えていると右手の蒼い腕輪が目に入る。西岡にも外す方法を相談してみよう。
「そーいや西岡」
「どうかしたか」
「いや、実はこの右手の腕輪のことなんだけど」
「? どの腕輪だって」
「いやこの蒼い腕輪だよ。外れないから困ってるんだよ」
僕は西岡の前に腕輪がはまった右手を差し出してみるが、どうも西岡の様子がおかしい。
「????何言ってんだ。お前の右手には何もついていないじゃないか」
西岡はさも当然のようにそう言って、疲れてるんじゃないか、と心配そうに僕の顔を覗き込む。
「え!西岡見えないのこの腕輪。この蒼い不思議な」
僕がこういったために多大なる犠牲を払う羽目になるのを、このときの僕は微塵も想像していなかった。
「・・・・・」
西岡は怪訝そうに首をひねる。しばらくじっと僕の顔を見る。
「・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・分かったぞ!!そういうことか」
しばらく無言で考え込んでいた西岡が急に腑に落ちた表情をする。今までいぶかしげだった目線が、今度は何やら生暖かいものに変わっている。・・・・いやな予感しかしない。
「ああ俺にも見えるぜ。その群青の腕輪が」
突然西岡は力強くそう言った。
「えっ、見えるのか」
「ああ。お前の腕に装着されたそれだろう、安心しろ俺にもはっきりと見える」
「ならいいんだけど・・・。それでこれが」
「ああ言わなくていいぞ。俺の中学にも何人かいたんだよ」
「え!ほかにもこんなのした人見たことあるの」
「ああ。例えば『額に第三の目がある、自称[聖王心眼]山田』とか、『宇宙を管理する何とか委員会から派遣された、自称[宇宙管理委員会特別顧問]谷口』とか、『古代文明の技術で未来予知をする、自称[古の伝道者]小林』とか、君みたいのはたまにいるよ!大丈夫!」
・・・・・・・・なにか物凄い誤解をされているようだ。
「いや、違うんだ西岡僕は・・」
「何もいうな唐堂。俺はいつでもお前の味方だ。悩んでることがあるならいつでも相談してくれよ。大丈夫男子なら誰もが一度は通る道だ、お前がほかの人より二年ほど遅いだけだ。そうだよなー現実と向き合うのは難しいからなー」
西岡が僕をどこまでも真剣に、そして今までになく暖かい目線で見つめると、静かに弁当を片づけ、微笑みながら去っていく。
「違う西岡、頼むから僕の話を聞いてくれ!」
「大丈夫だ。俺はきちんとお前を見てるぞ」
「いやそうじゃなくて!」
・・・僕の叫びもむなしく西岡は『唐堂が高一にして中二に目覚めるとは』とかぶつぶつ言いながら足早に去っていった。
・・・・先が思いやられる。
しかしあの様子だと西岡は本当にこの腕輪が見えていないらしい。でもそれだとおかしいことがある、
「神崎には・・見えてたよな」
神崎が見えるふりをしていたなんてありえない。これは断言できる。神崎が、ミスター脳筋が、そんな器用な嘘がつけるわけがない。
西岡には見えず、神崎には見える、何が違うのだろうか?ほかの知り合いにも確認してみよう。
その後、僕は休み時間を利用してクラスメートや、水泳部の友達にも確認したが神崎の他には見える人は一人としていなかった。僕はそんなことで貴重な休み時間を浪費し、しかも質問された人が、いやに温かい目または、珍しい者でも見るような目で見てきたことを考えると、いろんな人にとんでもない誤解をされてしまったかもしれない。
帰りのショートホームルーム中も、クラスメートの様々な意味ありげな目線と、こそこそと話す声が絶えることはなかった。
3
ショートホームルームが終わると僕はすぐに神崎の席に向かう。
「悪い、神崎。このあとちょっといいか」
神崎は怪訝そうに俺を見ると、
「この後部活に行きたいから少しならいいよ」
「じゃあちょっとこっち来てくれ」
僕は神崎を伴って教室を出て、人気のない廊下の端に向かう。
教室からは、
「これは伝説の・・」
「やっぱりあの二人は・・」
「怪しいと思っていたがやっぱり・・」
とか、
「おのれ唐堂、一人で青春しやがって!!!!!!」
とか、いろんな人の様々な声が聞こえたが、僕の頭はほかのことでいっぱいでそんなことは聞いている暇がなかった。・・・・と言っても、最後の西岡はほとんど絶叫しているから、それだけは嫌でも聞き取れるが。
神崎と夕日が差し込む人気のない廊下で向かい合う。この場所なら声が聞こえる範囲には隠れられる場所がないし、見通しが利くから、盗み聞ぎされる心配はない。
僕は重々しく切り出した。
「神崎。お前この腕輪は見えているか」
僕は言いながら腕輪のはまった右腕を顔の前にあげる。
「・・・・何を言い出すかと思えば」
神崎は最初おどけた感じでそういったが、僕の真剣な眼差しを見て冗談ではないことを悟ったらしい。
「見えるよ。はっきりと。唐堂が言っているのがその右手首にある、その蒼い腕輪だというならね」
彼女ははっきりとそう言った。
僕らは伊達に何年も過ごしていない。神崎が僕の目を見て僕の言葉が冗談じゃないと感じ取れたように、僕も今の彼女の彼女らしい強いまっすぐな視線を見れば彼女が嘘をついてなどいないことは断言できる。
「ふぅ」
僕は安堵のため息をついた。僕の頭が狂ったという線はこれでなくなった。
「ありがとう神崎。てっきり僕がおかしくなってしまったのかと思ったよ。安心した」
「大丈夫、唐堂はいつも通り。いつもおかしいよ」
彼女は柔らかい微笑みをたたえて静かにそう告げる。
「お前、僕の感謝の気持ちを返せよ」
「え、でも嘘をついたらいけないじゃない」
「そんなことを真顔で言うなよ!」
「これが私のいつも通りよ」
いつも通りのくだらない会話だが、僕はこのやりとりで大分落ち着くことができた。
「で、唐堂。そんなこと聞いてくるぐらいだからその腕輪、ほかの人には見えてないの?」
「どうもそうらしい。今日午後いろんな人に確認したけど、僕とお前以外でこの腕輪を認知している人はいないみたいなんだ」
「ふーん。それはとっても不思議だけど、何か不都合でもあるの?」
「うーん。実害はないんだけど、外せないんだよねこの腕輪、何より気持ち悪いし」
「そもそもなんでそんな腕輪したの?なんかあったの?」
神崎は当然その質問をしてくる。
僕は包み隠さず自分が感じたままことの顛末を説明した。蒼く美しい龍にあったこと、その龍の持つ珠にキスをしたこと。五感が鋭敏になったこと。
神崎は僕の話をうなずいたりしながら真剣に聞いている。
「・・・唐堂君がそんな壮大な嘘つくわけないね」
聞き終えた神崎はそう言った。
「か、神崎。お前信じてくれるのか」
僕が、持つべきものは友達だなぁ、なんてベタな文句をかみしめていると、
「だって唐堂、そんな物語考え付く様な想像力ないし。人にそんな真剣に嘘をつけるような度胸もないし。つまり、唐堂のへたれさとチキンっぷりを私はよく知っているから。君が嘘ついてないって断言できるよ」
僕の感謝の気持ちは遠い空のかなたに飛んで行った。ここまでありがたくない信用のされ方がほかにあるだろうか、少なくとも僕は知らない。
「・・お前、俺の感謝の気持ちを返してくれよ。ていうかオブラートに包めよ」
「『オブラートに包め』てことは、真実であることの否定はしないんだね。感心感心」
「なんて輩だ・・・」
しかし、このやり取りでも不思議と心の深いところまで慰められる気がした。
「神崎。・・・・・・・本当に不本意だが一応例は言っておく、ありがとうな」
「どういたしまして。ていうかもっと尊敬しちゃってもいいよ」
「あんまり調子に乗るなよ脳筋女!」
「恩人に向かってなんてことをこのチキン!」
「ふふふふふふふふ」
「ははははは」
なぜか二人して腹を抱えて笑ってしまった。どこまでもくだらなく何時も通りの幸せな時間だった。今まで悩んでいたのが急にばかばかしくなった。
普通である。いつも通りである。そういうことの掛け替えのなさに僕は気付く。そこに僕らがどれだけ頼っていたかも初めて自覚した。『いつも』から離れるだけで感じる言いようのない不安。神崎との会話は、僕に『いつも』を認識させるとともに、その不安をゆっくりと溶かした。
僕が神崎とのこのやり取りでどんなに救われたか。本人には口が裂けても言うつもりはないが、僕は神崎に深く感謝した。
「ところでその腕輪、ほかに変わったことなかったの」
くだらない会話がひと段落したところで神崎が僕に聞いてきた。
「ほかに・・・ああ、一限目の理科の実験。僕がお前のせいで火傷しただろう、その火傷がその場ですぐに治ったんだ。しかも腕を水にさらすために水道水を流していたら、腕輪に触れているところから水がぐんぐん吸収されていたんだ」
「水がねー・・。ねえ唐堂、今そこの水道でやって見せてよ」
「えっ、いいよ」
僕は神崎に指摘されるまで忘れていたが、僕らが立ち話している場所の数メートル奥に、流しがあった。
僕はその蛇口に近づきおもむろに蛇口をひねる。そして、流れ出した水に腕輪をさらしてみた。
「やっぱり」
僕は目の前で腕輪に水が吸収されて、たったの一滴も下に落ちない光景を、信じられない思いで見つめた。
「・・・ほんとだ」
神崎もとても驚いたようだ。
腕輪は何の音もたてずに水を吸収する。やはり心なしか、腕輪から蒼い光が発され始めていると僕は感じた。
「なあ神崎、腕輪光ってないか?」
「そう?私はそんなことは、感じないけど」
僕の目は、今朝からとてもハイスペックなものになっているから、この光はまだ弱く僕にしか感じられないらしい。そんなことより・・
「お前『そんなことは、感じない』て、ことはほかのことは感じているのか?」
「・・・うん。唐堂は何も感じない?」
「腕輪のこと以外何も・・・」
「じゃあ言うけど・・・。唐堂が腕輪をさらし始めてから・・・、唐堂の周囲の気温がどんどん下がってる気がする」
僕は驚いた。気温などいつも通りにしか感じない。しかし神崎の声が明確に震えていた。
「そんなに寒いのか?」
「・・・・・・・うーん。言い方が難しいんだけど・・」
「どうした」
僕は今まで見たことのない狼狽した様子の神崎に驚いていた。今は声だけではなく足も震えていて、今にもへたり込んでしまいそうだ。
神崎は重そうに口を開く。
「・・・気温はそこまでじゃない、けど・・」
「けど・・・」
神崎がまた言いよどむ。
そして神崎が意を決したように僕を見るとこういった。
「唐堂が、・・・恐ろしい。『迫力』ていうのが正しいのか知らないけどたまらなく怖い。なんでかわからないけど本能的に逃げ出したくなる」
そうゆう神崎の、いつもは澄んだその瞳には、今は明確な恐怖がありありと浮かんでいた。
「唐堂の近くにいると、『寒い』というよりは『背筋が凍る』感じがする」
僕はあまりに突然だったことと、目の前の人間が本当に自分を恐れているということが信じられなくて、何も言うことができなかった。
「へっ変だよねこんなの、まさかあたしが唐堂のことが怖いなんて」
しかし、『へへへ』なんて笑う神崎の笑顔はどこか歪で、無理していることがすぐわかった。
僕ははっと我に返り、まだ水にさらしていた右腕をサッと引いて水から離した。するとだんだん神崎に感じられる緊張が収まってきた。
「・・・・・・・・そんなに怖かったか?」
「・・・癪だけど本当に」
少しは落ち着いたらしい神崎の顔には、まだ怯えの色が残っている。
「・・・とにかく神崎には、腕輪が見えていると確認できてよかったよ。ありがとうな」
「・・うん。どういたしまして」
僕は緊張してしまった空気を和まそうと明るく声をかけたが、神崎は完全に怯えていた。このまま引き留めるのも酷だろう。
「神崎長い間引き留めて悪かったな、部活あるならもう行って大丈夫だぞ。今日は本当に助かった」
「・・・うん、じゃあね」
神崎は僕がそういうと明らかにほっとした様子で足早に教室に帰っていった。
僕は結局謎が増えた腕輪をまじまじと見つめる。どこまでも蒼く美しい腕輪。いまはその表面に赤い夕陽の色を映していて、蒼い海の中で炎が燃えているように見える。
「はぁ」
僕は一つため息をつくと、教室に向かう。
4
「唐堂、そんな落ち込んだ顔をするなって」
教室に帰るとほかの生徒は部活なり帰宅なりで教室にいなかったが、なぜか西岡が教室で僕のことを待っていた。どうやら律儀に僕の帰りを待っていたようだ。
・・・・こいつ暇すぎんだろ。
「唐堂、俺らの青春はまだ始まったばかりだ。少しぐらい失敗したってまだ先があるって」
相変わらず西岡は勘違いをしているようだ。
あきれた目を向ける僕のことなど気にもせず、西岡は一人でベラベラとしゃべる。
「いやー。俺は唐堂の恋が成功するように一生懸命ここで願ってたんだよ。しかし神崎さんのあの様子と、今の唐堂の落ち込み様からすると残念な結果だったようだね」
西岡は心なしか嬉しそうに喋る。
「神崎さん、教室に戻ってくるなり慌ててかばんをつかんで部活に走っていったよ。あそこまで不安そうで狼狽した神崎さん、見たことない。」
「・・・・・神崎はそんなに不安そうだったか?」
「ああ、ものすごく慌ててたねしかも何度もお前とあっていた場所のほうを確認して逃げるように去っていったよ。唐堂の告白がよっぽど辛かったんだねー」
西岡の声も半分ぐらいしか聞こえなかった。
「そうか・・・・・・・・・、神崎には悪いことをしたな」
「まあ、そう落ち込むなって。高校生活はまだ三年ある。その間に彼女の一人ぐらいきっとできるよ」
「おい西岡、誤解しているようだから言っておくが、僕は別に神崎に告」
「あーあー。隠さなくてもいい、俺たちの間で嘘は通じないよ」
「いや西岡、だから」
「さあ俺は帰るかなー。じゃあな唐堂」
「!ちょっと待て西岡話が」
西岡は神崎顔負けの電光石火で教室を去っていった。
「明日からどうなるんだろう俺・・・・・」
西岡はクラスに友達が多い。おそらく明日までに『唐堂は高二にして中二病に目覚め、しかもその日のうちに女子に告白して振られた』とクラスのみんなに知れ渡り。あることない子と囁かれ。しばらくの間は恐ろしい視線に耐えなければならないだろう・・・・・。針の筵だ。
「はぁ」
自然とため息が出る。
今日は部活がたまたまない。僕も荷物をまとめると、今日までの短い高校青春生活を振り返りながら、よろよろと家に帰るのだった。
春特有の霞がかった空、今は夕日で赤々と輝いている。雲も夕日を映して本当に美しい。沈みゆく太陽が万物の影を長く長くする。
西のほうの空は雲一つない、明日は快晴になりそうだ。
三、邂逅
1
僕の家は一軒家だ。家族は父母自分の三人。両親とも働いていて、今日も今日とて日本中をかけずり回っている。つまり僕は実質一人暮らし状態だ。
「ただいま」
僕は家の鍵を開けてそう告げる。もちろん帰ってくる声はないが、挨拶をするということは僕が欠かさないことの一つだ。
『いってきます』というと、『今日もがんばらなきゃ』という気持ちになるし、『ただいま』というと『今日も無事に終わった』という気になる。
つまり僕にとってのあいさつとは、自分のなかでのオン・オフの切り替えスイッチに相当している。
リビングに入ると、金魚が出迎えてくれる。我が家のリビングには、昔亀を飼っていた金魚には大きすぎる水槽が窓際にどっかりと鎮座している。和金がその水槽の中で二匹だけ泳いでいる。
金魚たちは僕の顔を見ると水面に上がってきてパクパクとまるで挨拶をするかの如く口を動かす。
しかし実際のところ、彼らは帰ってきた僕に挨拶をしてくれているわけではなく、いつも夕方にやっている餌をねだっているだけである。
金魚にエサをあげると、僕は二階にある僕の部屋に荷物を降ろし、ベッドに寝転んで、読みかけの文庫本を開いた。
僕は読書が好きである。読書をすることにより、読解力・知識を増やすというだけではなく、他人の思考回路を知ることができるというのが楽しいのである。しかも本を読んでいると時間が飛ぶように過ぎるので、隙間時間の暇つぶしとしても重宝する。僕は小学生のころから本を読み始めたが、当時の理由はもっぱら現実逃避だった。当時神崎以外親しい友達がいなかった僕は自分の孤独を紛らわせるために、本と友達になった。友達が少しいる今も、本は僕の大切な親友である。
・・・・そう考えると神崎美月と言う存在の大切さが際立つように思えるが。
気が付くと窓の外が暗くなっていた。どうやら本を読みながら寝てしまったらしい。時計を見るともう八時過ぎ。夕食を作って食べなければ。
僕は冷蔵庫にある食材で簡単な夕飯を作り、洗濯などの家事を済ませて、入浴に移ろうとする。
待てよ。僕の脳内には今日の奇怪な出来事の数々が走馬灯のように浮かび上がる。『走馬灯』とか明日からのクラスのことを思うと、これ以上なく僕にぴったりだ。・・・はぁ、学校行きたくない。
とりあえず服を脱ぐ。一糸まとわぬ姿になってからふと姿見をみる。いつもと変わらぬ、いかにも不健康そうな僕の体。水泳部で鍛えてるはずなのに筋肉がつかない。しかし昨日と明確に異なる点は、僕の右手に美しい腕輪がはまっていることだ。
「ほんとに何なんだろうなコレ?」
外れない。水を吸い込む。他人を怯えさせる。
「・・だめだ、皆目わからん」
僕はとりあえず風呂場に入り、腕輪にシャワーを当ててみる。やはり腕輪はシャワーの水を当然のように吸い込む。昼間神崎が感じたという殺気も少なくとも僕には感じられない。
体を洗うと湯船につかる。そこで気になることに気付いた。
「この腕輪・・、湯舟につけたらどうなるんだ?」
何見考えずにとりあえず実行してみた。
結果。
ものの数秒で湯舟いっぱいにあったお湯はぐんぐんと腕輪に吸い込まれ、あっという間に湯舟は空っぽになった。
「嘘だろ。まだ温まってないのに・・・・。てかそれ以上に・・・」
僕は腕輪をまじまじと見つめる。
腕輪は蒼く輝き。
表面はざらざらとしている。
「この腕輪、なんなんだ?」
2
僕はふと目を覚ました。枕もとの時計を見るとまだぎりぎり日付は変わってない。
外を見ると満月とはいえないまでも、あと数日で満月になるであろう楕円の月がかかっていた。
月の明るい夜だ。月光はしずしずと降り注ぎ、白く静かな光が部屋を満たしている。
僕の部屋は網戸になっている。なぜなら僕は極度の暑がりであるから、厳冬期以外は窓なんか閉めて寝ると暑くて寝られないのだ。
春といえども夜の外気は冷たく、暑がりの僕としては大変快適だ。
もう一度夢の世界に旅立とう。僕は起こしていた体をまた寝かせる。いや寝かせようとした。
違和感がある。右腕が重い・・。
恐る恐る布団から右腕を引き出してみると、昼間あんなに苦労して外そうとしていた腕輪がなくなっていた。しかし、そこには別のものがあった。・・・・というかいた。
「グーグー」
蒼い鱗が規則的に上下している。僕は驚いて開いた口が塞がらない。
そう。そこには、蒼い龍が巻き付いていた。
昼間見た龍は優に五十メートル以上はあったが、僕の腕に巻き付いているのは三十センチほどの龍である。
鱗は月光を反射してキラキラと静かに輝いている。その頭にはサイズとしては爪楊枝ほどだが、白く美しい鹿のような角が生え。半開きの口には細かいながらも、噛まれたら大変なことになりそうな牙が並んでいる。蛇のように細長い鱗に覆われた胴からは、鋭い爪を持つ脚が生えている。
ここまで言うと昼間の龍の縮小版のように感じるが(実際見てくれは瓜二つなのだが)、昼間の龍とは明らかに違う点がある。
威厳がない。それに尽きる。僕の腕に巻き付いているのはおそらく龍だろう、なぜなら角があり牙があり、足が生え、蒼い鱗を持ち腕輪の代わりに出現したとなれば、昼間見たあの龍と無関係なはずがない。しかしこの龍は開けた口からよだれをたらし、しかも鼾までかいているようだ。
とりあえずこれどうしようか。
考えること数秒・・。
「おい、起きろー」
快眠している動物を起こすのは本日二回目(人間も動物。一応言っておくが、神崎は一応動物は動物でも生物学的にはホモサピエンスだ。しかし歩く運動神経である神崎と、運動音痴代表の具現である僕が同じ種だというのはなかなか不思議なことだ)。
龍はまだ気持ちよさそうに寝息を立てている。
「起きろー」
「グーグ―」
「もしもーし、起きて下さい」
割と大きな声で声をかけても龍は無反応だ。
「起きろってば!」
今度は龍の体をゆすってみた(つまり右手をゆすった)。
龍はやっと薄目を開けた。そして眠そうに僕の顔を見る。そして龍は鎌首をもたげゆっくりと口を開く。
僕はつばを飲み込む。心なしか緊張しているらしい。昼間の龍から感じた恐怖がまた思い出される。
龍はその美しくも恐ろしい口から声を上げた。
「お休み」
「なんでそうなるんだよ!」
これでは緊張していた僕が馬鹿みたいだ。
「おい寝るな、頼むから事情を説明してくれ!」
「やだよ、眠いし、面倒臭いし」
「いいから説明しろ!」
龍はやっと目をしっかりと開けて僕を見る。
水色のまん丸い眼だ。どこかアクアマリンを連想させる。
「はー面倒臭い。で、何が知りたいの?トードーサトル」
龍は本当に面倒臭そうにそういった。昼間の龍は口を開けずに話していたが、この龍は靴を開けてしゃべる。声も昼間とは違い高く愛嬌のある子どもっぽい声だ。
というか、
「お前なんで僕の名前を知っている!」
「だってトードーが昼間自分で名乗ってたじゃないか」
「お前やっぱり昼間のあの龍か」
「うーん。そうでもあり、そうでないともいえるね」
「どういうことか説明してもらおう」
龍はまだ面倒臭そうだったが、僕が利かない限りはしつこく聞いてきそうだと気づいたのだろう。少しづつ話し始める。
「はー。じゃあもう一度言うけど何が知りたいの?」
「まずお前は何者だ?」
「僕は龍だよ。厳密にいえば海龍さ」
「龍なんてもんが存在するのか?」
「そりゃそうさ、だってこうして君の前にいるじゃないか」
龍はさも当然のようにそういう。そしてするすると僕の右腕から外れると、ベッドの上でとぐろを巻いて、ゆっくりと続ける。
「龍は太古の昔から世界中に存在してる生命体だよ。僕ら龍は人が生まれるよりずっと前、それこそ天地開闢の瞬間から存在してるよ」
「でも多くの人は龍なんて見たことないじゃないか、もちろん僕もさ」
「そりゃ人には見えないよ。僕らは間違いなく存在しているけど人の感覚器官ではとらえられないから。でも例えば、雨ごいをして雨を降らしたり、雲から雷を落としたりしているのは龍だから、そういう意味では龍は君たち人間にも身近な存在だと思うけどね」
「え!龍って天候を操作できるのか?」
「できるよあたりまえじゃん」
龍はつまらなそうにそう言う。
「天候だけじゃない海流、地震、火山、果ては天体の運行まで、あらゆることをつかさどっているのが龍だよ」
僕はあまりに突拍子もない話だったので、うまく理解が追いつかない。
天候から星の運行までってそれってつまり・・・
「龍って神様みたいなものか?」
「ああその認識で正解だよ」
龍は嬉しそうにそういう。
「あらゆる神話の神様もみんな龍だよ」
「あらゆるって、日本神話の天照大御神とか、ギリシャ神話の主神ゼウスとかもってことか?」
「そうだよ。これで疑問は解消したかな、トードーサトル?」
「むしろ疑問が増えたよ・・・・」
僕の信じていた世界観が今根底から覆されそうとしているらしい。
いや待てよ。確かに僕の目の前には龍がいるが、この龍が嘘をついていないとは限らないじゃないか。
ふと考え事をしているうちに。
「じゃあお休み」
と、龍がまた夢の世界に旅立とうとしている。
「こらこらこら、ちょっと待て。そうださっきの続きだが、昼間の龍とお前って何が違うんだ?」
「昼間のは僕の転生前の姿だよ。で、今が転生後」
「は?転生?」
皆目見当のつかない単語が出現した。
僕が首をかしげていると、それを見た龍が相変わらず本当に面倒臭そうに説明をしようとする。
「ちょっと長くなるよ」
「問題ない」
龍はため息を一つついてから話し出す。
「トードーって、龍についてどのぐらい知っている?」
「どのぐらいって、鹿のような角があって、体は鱗に覆われる伝説上の霊獣。多くは海や沼など水に関係する場所に祭られている。確か中国とかでは古くから力の象徴で、瑞兆としても扱われた。それに昔の陰陽道だか何だかでは『青龍』てのが東方の守護者になってたはずだ」
「そう、その通り」
僕の中二病か専門家しか知らないだろうと思われる雑学が、初めて役に立った瞬間だった。もちろんこんな形で役に立つとは思っていなかったが・・・・。
「僕がこれから話すのは龍の死についてだよ」
「龍の死?でも龍って神様みたいなもんなんだろう、じゃあ不死身だったりしないのか?」
「そんなわけないじゃん。この世に存在するあらゆる存在には、始まりと終わりがあるんだよ」
あたりまえ、と龍はあきれたように僕の顔を見る。
「生と死は対の存在。生まれるということは死ぬということを必ず伴うんだよ。そうじゃなかったら『生きている』て意味がなくなるじゃないか」
「そうだね」
いまいちピンとこないが、話が進まないのでとりあえず相槌を打つ。
「龍の死。そもそも龍の寿命は千年から千五百年ぐらい。しかもかなり個体差がある。もちろんその間に成長して老化もする、つまり期間が長いだけで人間の一生となんら変わりはない。しかしもちろん天寿を全うする龍もいるけど、龍の死の半分は怪我が原因。ついで病死。この二つが死因の大半を占めている」
龍は静かに僕に語り掛ける。
鱗が月光を反射しキラキラと光っている。
「でも、それとお前がここにいるのとはどんな関係があるんだ?」
「そう急がない、おいおい話すから」
龍は続ける。
「龍と人間の人生で最も異なる点は、転生ができるかどうかだ。僕ら龍のなかでも一握りの高位の龍、『龍神』は転生ができる」
「転生って言わゆる生まれ変わるってことか?」
「大方そういう感じ。龍神は転生をして新たに生まれなおすことができる。その時にその龍は、転生前の権能の一部と知識を受け継ぐことができる。だから僕はトードーの名前を知っていた」
「なら龍神とやらは結局不死身と一緒じゃないか!」
「そんなことない。龍神が転生するとき、彼らは自分の存在全てを一つの珠に込めて、『真龍珠』という珠を作る。でもこれを作るのは三十分ぐらい時間がかかる。だから龍神であっても致命傷を負ったり、急な病で倒れたりすると、真龍珠が作れない。そうするともちろん転生もできない」
「なら前々から何個かその真龍珠とやらを作ればいいじゃないか」
「無理だよ」
聞いてなかったの、と龍は馬鹿にしたように呟く。
「『真龍珠』にはその龍のすべてを込める。本当に何から何まで。だから真龍珠が完成したらすぐにその龍は消滅していまうんだよ」
「消滅?」
「文字通り消滅。消えてなくなってしまうんだ。まあ厳密にいうと完成した真龍珠の中に存在はしているけどね。けどひとたび真龍珠の中に入ると、もう新しい生命体として再構成されるから、転生前とは別の個体になる」
理解はするのだが、やはりあまりにスケールが大きいからだろうか、まったくぴんと来ない。
「さてここからがトードーに直接関係のある話だよ」
僕はもう気を引き締めて聴く体制を作る。
「この真龍珠から転生するわけなんだけど、すぐに転生できるわけではないよ。力の強い龍ほど転生に時間が必要。まあ普通は十年ぐらいかかるだろうね」
「十年!」
「まあ死ぬよりはよっぽどましだけどね。だけど問題はそこじゃない。もし転生が完了する前に真龍珠が壊れたらどうなると思う?」
「さあ・・」
そもそも『真龍珠』とかいう言葉の存在をさっき知ったところの僕としては、そんなものわかるはずがない。
「簡単だよ、死ぬんだよ。ヒヨコが生まれる前の鶏卵をイメージすると分かりやすいかもしれない。ヒヨコが生まれる前に卵が割れたら・・・」
「ヒヨコは死ぬだろうな」
「そういうことだよ」
「それはいいがいつになったら僕の話になるんだ?」
「そうだったね。今言った通り転生には時間がかかり、しかも転生が成功する確率も決して高いとは言えない。だから少しでも転生成功率が上がるように転生時には『龍護』を選定することが多いんだ」
「そうだよその『龍護』ってなんなんだよ、昼間お前が言ってたやつだよな」
「そうだよ。龍護ってのはその名の通り『龍の保護者』て意味だよ」
「それって何の意味があるんだ?」
「転生に時間がかかるっていうのはさっき言ったよね」
「うん」
「その時間がかかる原因は、龍の権能を受け止められるだけの器を作るのに時間がかかるっていうところにあるんだ。うまいたとえが思いつかないけど・・、そうだ!水のいっぱい入ったバケツを想像してみて、その水が龍の権能だとする。この場合『器』はバケツに相当する。ここまで良い?」
「なんとか・・」
「じゃあ続ける。転生すると龍は未成熟な子どもに戻る、それに伴って器も小さくなってしまうんだ。さっきのたとえだとバケツがマグカップになるイメージ。このときこのマグカップを作るのにとても時間がかかる、これが転生に時間がかかる原因なんだ」
「でもそんなに時間をかけて作った器でも、バケツの水はマグカップには移しきれないじゃないの?」
「そう、そうなんだよ!」
龍は急に首を持ち上げると僕を正面から見つめて、嬉しそうに言った。
「だから転生後は龍はかなり弱体化してしまう。権能が弱くなるからね。でもここで『龍護』って存在は問題をすべて解決できるんだ」
龍の首がもっと高い位置に来る。ふと下を見ると龍はベットの上に浮かんでいた。
・・・・・まあ、龍だし飛べるんだろう。しかし、理解しているのと実際に見るのは雲泥の差だ。僕は目の前に展開された物理法則を無視した光景に少なからずギョッとしてしまったが、龍はそんな僕の様子には気付かずしゃべり続ける。
「龍護は仮の器みたいな役割ができるんだ。つまり・・、龍護は洗面器だ!」
「洗面器!僕が?」
龍は興奮してか、大分素っ頓狂なことを言い出す。
「そう洗面器!つまりバケツ一杯の龍の権能を、一時的に龍護の中に、洗面器に移すことができるんだ。この場合もちろん権能を全部受け継ぐことはできないけど、マグカップよりははるかに多くの権能を失わないで済む。しかも!」
龍は興奮して顔を近づけてくる。鼻先が触れそうな距離だ。
「龍は器を急いで完成させる必要はなくなる。だからほとんど時間をかけずに転生が完了するんだ!」
龍は興奮してまくしたてる。龍の吐く息が僕の顔にかかる。驚くほど冷たい息だ。しかも龍の息と聞くと生臭いようなイメージを持っていたが、この息からは海の潮の香りがした。
「つまり!龍護は龍が安全に最大限安全にそして速やかに転生した龍が、力を失わない最高の形で成長・成熟できるように龍を護る役割があるんだよ」
龍は声高々に叫んだ。新手の押し売りにこんなのがあった気がする。
「で、それが僕なのか?」
「そうだよ」
「なんで僕なんだ?」
「あの時あそこにいたから」
つまり僕は運悪くも死にそうな龍に行き会ってしまったばっかりに、良くわからない世界に引きずり込まれたということらしい。
「それって具体的には何をすればいいんだ?」
「普通は特別なことはない。龍が成長するまでその龍と一緒に生活するだけ。しいて言うなら龍護が死んでしまうと、最悪の場合龍も死ぬから、健康管理には気を付けろっていうぐらいだよ」
龍護なんてたいそうな名前の割には随分と簡単そうに聞こえる。
「龍が成長するまでって具体的にはどのぐらい?」
「普通は二十年ぐらい。多少の個体差はあるけど大体そのぐらいだよ」
二十年間体調管理に気を付けてかつ、龍と生活するだけ・・・。本当にそれだけだろうか。龍の口調もよくよく聞いてみれば、奥歯にものが挟まったような、何かを誤魔化そうとする響きが感じられなくもない。
「ほかにはなんもないのか?」
「基本的にはないよ」
「じゃあ、その『基本的』じゃない部分も説明してもらえるか?」
龍は少し渋る様子を見せる。
「ほんとに例外的だよ」
「それでも可能性があるなら話してくれ」
龍はゆっくりと話し始める。
「龍護を持つ龍は、その龍単体では権能を発揮できない。加えて、龍の権能が龍護の中にある以上、龍と龍護は離れることができない。だからもしその龍が、世界のバランスのために権能を行使する必要があるときは、龍護は龍に協力しなければならない」
「それってどんな時?」
「例えば僕の場合だと・・・、予期せぬ地震でものすごい津波が発生したときとか」
やはり全くイメージがつかめない。
実はまだ夢を見ているんじゃないか?
「まあ、そんなことはいい!」
龍は再び僕にその顔を近づける。
「ねえ、トードー。僕の龍護になってくんない?」
これが龍の最も言いたかったことなのだろう。龍がものすごい鼻息で僕を見つめている。
「・・・・・ちなみに僕にはその提案に対する拒否権はあるのか?」
今までの人生から僕が学んだ教訓は『やらなくていいことはやらないほうが得』と言うことである。この場合においても、やはり、先の読めない提案は受けないほうが正解かもしれない。
龍はきっぱりと告げる。
「一応ある。龍護になるにはその人間の同意が必要不可欠だからね。その場合、トードーは今回の出来事にまつわる一切の記憶をなくす。でも、今まで通りの生活に戻れる」
「お前はどうなるんだ?」
「死ぬ」
龍はさらりとそう言った。
「だってそりゃそうだろう。龍護は龍の存在そのものの力を保管するものだもん。もしここでトードーが拒否をしたら、僕の存在は存続できなくなる」
「また真龍珠とやらを別の人に託して転生は出来ないのか?」
「できないね。さっきも言ったけど、真龍珠は龍神以上の龍にしか創れない。そして今の僕はもう龍神じゃない」
「・・・うーん」
それを聞いた僕のなかでは大葛藤が展開された。
本来ならばやはりこの提案を受けるべきではないだろう。そもそも龍の言ったことが正しいという保証もない上に、正しい判断をするには情報が少なすぎる。
しかし一方でこの提案を却下すれば目の前の龍が死ぬという。僕はもう一度、目の前の龍を見つめる。
蒼い鱗。白い角。空色の眼。今は全身で月光を反射し、キラキラと神々しいと言えるぐらい美しく輝いている。
こんな美しい生き物を殺したくはない。素直にそう思う。
だから僕は『いいじゃん。僕がお前の面倒を見てやるよ』と、答えてやれたらどんなに良いとこだろうと思う。しかし、僕はまだ全体像を把握しきれていない。今ここで判断してしまうのは危険なことに思える。
「なあこの返事って今しなきゃダメなのか」
龍は少し考えてから答える。
「少なくとも今夜中に僕は龍護を確定しないといけない。だけどもしトードーが望むなら、数日なら仮の契約でもなんとかなるよ」
「仮の契約?」
「うん。もし正式に龍護になったらどちらかが死ぬか、もしくは龍が成長しきるまで龍護としての責任が発生する。でも仮の契約なら、契約の撤廃が可能なんだ」
「そうなのか!」
「そうだよ。とゆうか今の状態が仮契約の状態だよ。でも、仮の契約だと僕は消えることはないけど成長することはできない。それじゃあ転生した意味がない。だから一週間ぐらいならトードーに考える時間をあげられるけど、それっきりだ」
「そうか・・・。じゃあとりあえず時間が欲しい」
「わかった」
龍はうなずいた。
「一応言っておくけど仮の契約でも龍護の責任は果たしてもらうよ」
「わかってるさ」
龍は僕の返答を確認すると、静かに目を閉じて何事か唱え始める。
「おい、何を・・」
しかし僕の疑問はすぐに解消される。龍の眉間に蒼い光が集まっていく。それはだんだんと大きく。そして強く輝きだす。
すぐにピンポン玉大の光る球体ができた。それは静かに自転しているように見える。窓から吹き込んでくる風とはまた違った風をそのとき僕は感じた。どうやら部屋の空気がその球を中心としてゆっくりと渦を巻いているようだ。
リヴァの唱える言葉の旋律の雰囲気が変化する。
すると、球体の一部が僕の眉間のほうへ延びだした。そのスピードは案外素早く、驚いて固まっていた僕の、眉間に瞬く間に到達した。
眉間にひんやりとした感触を感じる。そしてその瞬間僕の中にある何かが爆発したような気がした。
新しい世界へ。門を潜った瞬間だった。
ふと顔を上げると龍の鱗な反射した光が壁に当たり、海の底の砂のような、波のような、蒼く美しき模様を作り出していた。
自然とため息が漏れる。
・・・・・・が、静かに感慨に耽っていられたのはそこまでだった。
「ありがと!」
龍が僕に飛びついてきた。
結構な力で押し倒される。
龍はそんな仰向けの僕の上に浮かんで、微笑みながら(っと言っても口の端が吊り上がったせいで牙が見えたので、割と迫力がある)改まって告げる、
「汝、トードーサトル。汝はこれより仮とはいえ我が龍護である。迷惑をかけるかもしれないがよろしく」
後半は大分砕けた感じになった。
というかこんなことこんなに簡単に決定していいの何だろうか。
「それじゃあ」
話が一段落したと見るや、龍はまた寝息を立て始める。
「待て待て!」
「なに、まだなんかあるの?」
僕も改まって告げる。
「僕は唐堂悟。よくわからないがとりあえずお前の龍護とらやになってやる。これからよろしく」
「わかった。おやすみ」
「おい!なんでそんなにすぐ寝ようとすんだよ!」
「だって眠いもん」
「それにしたって・・・・」
僕としては急にこんな大それたことを聞かされたせいか、バッチリと目が覚めてしまって寝れそうにない。
そういえば、この龍は名を名乗っただろうか?昼間名乗っていたような気もしたが、あの時のことははっきりとは覚えていない。
「そういえば龍、お前名前は?昼間は気が動転しててよく覚えてないんだけど」
龍は億劫そうに眼を開ける。
「僕はまだ名前はないよ。転生前はミクマリって呼ばれてたけど」
「それじゃあ何て呼べばいいんだ?」
「普通、龍護を使って転生した龍の名前は龍護がきめるんだよ。だからトードーが適当に名前つけてよ」
「適当にって・・・」
もちろん僕は龍の名前なんて付けたことがない。それどころか、金魚だろうが何だろうが名前なんて付けたことは一回もない。
しかも、普通の龍の名前なんて全く知らないから、素っ頓狂な名前を付けてしまう可能性もある。
とは言えども、龍護とやらをよくわからないながらも引き受けたところの僕としては、いきなりその仕事を放棄するわけにはいかない。
「・・ほんとに何でもいいのか?」
「なんでもいいよ」
龍はほんとに何でもないかのようにそう言う。
そういえば、『ミクマリ』と言う前の名はおそらく、日本の古い水神である『水分神』からきているのだろう。
僕は頭をひねる。
「そうだ!『リヴァ』って呼んでいいか」
「なんでもいいよ」
龍はどこまでもそっけない。
「じゃあリヴァ、今日からよろしく」
「・・・・よろしく。僕はもう寝るからね」
そういって龍―リヴァ―は静かに目を閉じて寝息を立て始めた。
僕はそんなリヴァの様子を見る。
枕もとの時計はとっくに日付が変わったことを示している。
僕も横になる。
壁と同じように天井にもリヴァの鱗に反射した月光が波のような模様を描き出している。
僕はそれを見て、まるで水底から水面を見ているような気がした。
目を閉じる。
興奮してとても寝れそうにないと思っていたが、すぐに睡魔が迎えに来た。
『リヴァ』。僕があの時、海の龍と言う言葉から連想した言葉は、聖書に出てくる伝説の生物『リヴァイアサン』だった。『ミクマリ』も神の名前なら『リヴァイアサン』でも何の問題もないだろう。しかし、『リヴァイアサン』では長すぎる。
だから僕はあの時、龍に『リヴァ』と言う名を送った。
明日から僕の生活はどうなるのだろう。
そんなことを考えながら、僕は睡魔の手を取った。
三、海龍
1
眼を開けるときれいな快晴だった。
朝日が眩しい。
「おはよう」
僕は誰ともなくそういう。
実質一人暮らしの僕のあいさつにこたえる者は勿論いない。しかし『行ってきます』『ただいま』と同じで、僕は挨拶をすることで自分の気持ちを入れ替える。
しかし今日は違った。
「おはよう」
僕はギョッとして声の主を見る。
僕の右の空中には蒼い龍が浮かんでいた。
朝日を反射して明るく輝いている。
一瞬僕は目の前の光景に度肝を抜かれたが、寝ぼけた頭にだんだんと昨夜の出来事がよみがえる。
「ああ、おはようリヴァ」
「なんで二回も言うの?」
龍は小首をかしげる。
朝日の中で改めてリヴァを観察する。
ベットの上三十センチ位のところに浮かんでいる。
蒼い鱗。
鹿に似た白磁のような角。
冷たい輝きの爪と牙。
「お前ほんとにきれいな姿してるよな」
無意識のうちに僕は呟いた。
「そりゃ、ありがとう」
龍はこともなさげにこたえる。
着替えて朝食の準備をする。台所に立った瞬間疑問が浮かんできた。
「そういえばリヴァ・・・、お前何食うんだ?」
龍の食事と聞くと、肉としか思えない。しかし、中流家庭である唐堂家で買える肉の量には限界がある。もしリヴァが毎日大量の肉を消費するようなら、いきなり龍の保護者たる龍護の仕事が頓挫してしまう。
「基本的には水だよ」
リヴァは答えた。
「水って、あの水か?」
「それ以外になんかある?」
「それだけでいいのか」
「うん、だって僕は海龍だもん」
どうやら食事の心配は杞憂だったということは分かる。しかし他はちんぷんかんぷんだ。
リヴァは僕が納得していなそうなのを見ると、
「海龍は水をつかさどる龍である水龍の仲間に分類される。そして、水龍の体は水気で構成されている。しかもエネルギー源も水気。だから水さえ取っていれば、活動も成長も十分なんだよ」
「つまり、お前用の食事は特に用意しなくてもいいってことだな」
「そういうことだよ」
ありがたい話である。小さい子が親に無断で犬とか猫を拾ってきて飼うときに、一番最初に立ちふさがるのが食事の問題。龍を犬や猫と同列に語れるかどうかわからないが、どうらや龍は、とても飼いやすい動物らしい。
僕は一人で朝食をとる。メニューは食パン二枚と目玉焼き、味噌汁、そしてみかん二つである。
その間、リヴァはと言うと水道の蛇口に噛みついて水道水をラッパ飲みしていた。
蛇口はいっぱいに捻ってあるが、腕輪の時と同じく、水はリヴァに触れるそばからどんどん吸収されていく。そのうえ、水を飲むリヴァの体は自ずから蒼い光を発している。
「おいリヴァ」
「なに?」
龍は蛇口から口を離し、尾で器用に蛇口を閉めるとこっちを向いて答える。
「昨日までの腕輪ってお前だったんだよな?」
「そうだよ」
「じゃあなんで夜まで出てこなかったんだ?」
「簡単だよ。転生直後はまだ体が十分でない。だから今みたいに龍の形になることができなかったんだ」
「じゃあなんで初対面が深夜だったんだ?」
「さっきも言ったけど、僕の体は水気でできてる、だから・・・」
「ちょっと待て。その『水気』ってなんだ」
「『水気』ってのは、水そのものが持ってるエネルギーみたいなもんだよ。僕ら水龍は、外から水を取り入れて、それを『水気』に変換するんだ。人間にとっての消化みたいなものかもね。どちらにせよ変換も消化も時間がかかるんだよ。昨日の場合だと、夜になってから大量の水を摂取したから、『水気』に変換して体を形成できたのが深夜になったんだよ」
「風呂の水がなくなったのはお前のせいか!と言うことは、昨日水を吸収したのもお前の仕業か!」
「そうがよ。お腹減ってたから」
なんとなくそんな気がしていたが、昨日の珍妙珍奇な怪奇現象はリヴァの仕業らしい。
「そういやお前も学校来んの?」
「あたりまえじゃん。トードーは僕の龍護なんだもん」
場所は玄関。
何時も通り登校しようとした僕は、学校にリヴァを連れて行ったほうが良いか迷っていた。
「でも、さすがに肩の上に龍が浮かんでいたら学校が大騒ぎになるぞ?」
「なに言ってんの?昨日一日で気付かなかったの?僕の姿は龍を知っている人にしか見えないから、普通の人間には見えないよ」
「だから西岡達には見えなかったのか・・・」
しかしおかしなことがある。
「でも、昨日の腕輪僕の友達に見えてるやつがいたよ」
「!」
リヴァは口をあんぐりと開けている。どうやらめちゃくちゃ驚いているようだ。
「見えてる人がいた?ほんとに?」
「ほんとだよ。そいつにしか見えないから、昨日も相談に乗ってもらったんだよ」
リヴァは「うーん」と唸ってから、
「今日もその人に会える?」
「ああ、たぶん」
「じゃあ、よくわかんないけど、僕が確認してみるよ」
僕は自転車にまたがる。
気づいたら右手首に昨日と同じような腕輪が嵌っていた。
「おいリヴァ」
「ずっと飛んでると疲れるし、めんどくさいから、基本的にここでこうしてるよ」
もちろん腕輪に口がついているわけはない。リヴァの声は昨日のように僕の頭の中に直接届いているようだ。
「了解。なんかあったら言えよ」
僕はいつものように自転車をこぎ出す。
潮の匂いのする風が吹く。
昨日から僕の身には、到底信じられないようなことが何個も起こった。まだ全く訳が分からないことばかりだ。でも、僕はここ数か月で最も楽しい気持ちだった。
僕は本が好きだ。特にファンタジーは大好物。
昔は魔法とか伝説の生き物とかも信じていたが、さすがに今はそんなものは存在しないと思っていた。『思っていた』なんて言っても、リヴァの口ぶりからすると多くの一般人はその認識で正しいのだろう。
しかし僕は龍に逢った。傷ついた龍に偶然遭遇し、その龍の保護者に抜擢された。
存在しないと思っていたファンタジーと遭遇した。
この世には知らないことが多い。そんなあたりまえのことを僕ははっきりと自覚できた。
昨日からの出来事は僕にとって面倒臭くはないかと言われると、面倒臭いと答えるだろう。しかもまだ全体像を理解したわけじゃないから、これからもっと面倒なことが増えるかもしれない。
でも僕はこの状況を楽しんでいる。
まるでファンタジーの主人公になったようだ。
2
学校に到着。
僕の右腕には青い腕輪が嵌っているが、やはり誰も気づかないようだ。
昨日の出来事があったから僕の教室に向かう脚は重い。
「よう、トードー元気か!」
教室に入るなり西岡が万弁の笑みで話しかけてきた。
クラスメートは僕をちらっと見るとヒソヒソと話し始める。
一日の初っ端から胃が痛くなりそうな展開だ。
「いつも通りだよ」
「そうかそうか、それはよかった。なんかあったら俺に言えよ」
「どの口が言うか」
こいつのせいでクラスの僕に対する信用はガタ落ちだ。
そのとき一時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。
「じゃあまた後でな」
西岡は自席に戻っていく。僕も一つため息をつくと自席に向かった。
「トードー、僕が見えてたっていう人間は?」
神崎の席を見ると、あいつもちょうど席に着いたところだった。
「あいつだよ」
僕は神崎を指さす。
「もっと近くに行ってみてよ」
「授業が始まっちまうからまた後でな」
「わかった」
そこで僕は何本もの奇異の視線に気づく。
周りの生徒が神崎を指さしたままの僕をじろじろと見ている。
!もしかしてリヴァの声に気付かれたのだろうか。
「おいリヴァ」
僕は小声で腕輪に話しかける。
「お前の声って、俺以外にも聞こえるのか?」
「聞こえるわけないじゃん」
「そうなのか?じゃあなんで周りの奴はこんなに僕を珍獣みたいに見るんだ?」
少しの沈黙の後リヴァが答える。
「・・・・・・僕の声は聞こえてない。でも、僕に話しかけているトードーの声は聞こえてる」
「あ・・・」
僕はどうやら自分が致命的なミスを犯したらしいことに気付いた。しかしそれは完全に後の祭りだ。
一人でかってに神崎を指さしたり、腕輪に話しかけたり・・・。
どこからどう見ても、中二病の痛い奴だった。
「やっぱ唐堂は・・・」
「西岡の話、まさかと思ったが・・・」
「唐堂君ってこんなにキモかったんだ・・・」
西岡の話を強力に裏付けてしまった。これでは僕の信用度はガタ落ちどころの騒ぎではない。
さよなら、僕の青春・・・。
自席につく。気のせいか隣の席の女子との間が開いているようだ・・・。
昼休みになる。
午前中はいたっていつも通りに授業を受けた。しかし教室移動が多かったためか、神崎に話しかける機会がなかった。
午前中最後の授業四限目の終了のチャイムと同時に僕は神崎の席に向かう。
「神崎、ちょっといいか」
「いったい何の用。あたしはあんたみたいなもやしと違って昼もテニスの練習がしたいんだけど」
開口一番に神崎の口から棘が発射される。
「僕だって今は水泳部だ!昔ほど白くないだろうし、筋肉も付いただろうが!」
「ふっ、そんなんで日に焼けて筋肉がついた?『めちゃめちゃ白い』が、『白い』になっただけじゃない。筋肉だって女子の私にさえかなわないじゃない」
「お前と比べたら大半の人間がそうだよ!なにせお前は昔から脳みそまで筋肉の女子擬きだもんな!」
「な!女子擬きとは失礼な!私はどこからどう見ても女子じゃない、ほら肌とかもきれいだし」
「たしかに男子にしてはきれいだが、お前のその醤油卵みたい肌だと黒すぎてあんまり女子をかんじねえよ!」
「しょっ醤油卵!言ったわね。歯食いしばりなさい」
がす。神崎の蹴りが弁慶の泣き所に命中。あたりまえだがとても痛い。と言うか脛を蹴るのに『歯を食いしばりなさい』と言うのは・・・・。神崎の言語能力が透けて見える気がする。
「待て待て暴力はよくない!」
「暴力じゃなくて、アメリカ式スキンシップよ」
「世界中のアメリカ人に謝れ!」
「はあ、一々うるさい。それで、いったい何の用?」
神崎は僕をいぶかしげに見る。
変な言い方だが、僕は神崎がいつも通りに僕に接してくれたことに安心している。
昨日あんな別れ方をした手前、もしまだ神崎が僕を警戒していたらどうしようかと思った。
こんな奴だが神崎は僕の大切な友人の一人なのだ。
・・・・・一応名誉のために言っておくが、『安心した』と言ってもこういうわけで、もちろん神崎に罵られてうれしかったのではない。僕はその類の性癖は持ち合わせていない。
「昨日の続きだよ」
僕は答える。
神崎は僕の右手首の腕輪を一瞥するとため息をつきながら、
「昨日の場所でいい?」
「悪い、助かる」
僕らは昨日と同じように教室を出る。
昨日と違うことは、昨日は確かに聞こえていたクラスメートの黄色い声の代わりに、
「神崎さん大丈夫かしら・・・・」
「唐堂の奴も往生際が悪い・・」
「あんな奴の相談に乗るなんて、神崎さん優しい・・・」
とか、聞きたくもない声が聞こえることぐらいである。
昨日と同じ廊下の端。
「うーん、よくわかんない!」
リヴァはとても力強くそう言い切った。
言われた神崎は目を白黒させている。
無理もないいきなり目の前に蒼い龍が現れて、自分をじろじろ見た挙句、大声で何事か断言されたのだ。
「ととと唐堂!これはいったいどうゆうこと?」
「あー、話すと長くなるが・・・。端的にいうと昨日の腕輪の正体がこれだったんだよ」
僕はまだ神崎の目の前に浮かんでじっと神崎を観察しているリヴァを指さした。
「これって龍?」
「そうだよ」
「なんでこんなところにいるの?」
「昨日空から降ってきたから」
「なんであたしをこんなにまじまじと観察してるの?」
「お前だけが僕以外でこいつが見えてるから」
「頭大丈夫?」
「お前と同じぐらいまともな自信がある」
神崎はこめかみを抑える。頭痛でもするのだろうか、いや頭痛がするほうがむしろ真面な反応かもしれない。
「なんで唐堂が龍なんか連れてんのよ」
「あー、ちょっと事情があって僕がこいつの世話係になっちまったんだよ」
僕は昨日からの出来事をつぶさに説明する。
「はー。あんたはなんでそんな厄介事に巻き込まれんのよ」
「巻き込まれたもんは仕方ないだろう」
「・・・・とりあえず分かった。つまり一件落着とはいかなくとも、一区切りはついたってことね」
「そういうことだよ。心配かけたな、ありがとう」
神崎には感謝している。昨日も誰にも話せないような一見ばかばかしい話も真面目に聞いてくれた。本当にありがたい。
「そういえば『リヴァちゃん?』が最初に叫んでたのは何だったの?」
「あれは、なぜおまえにはリヴァが見えるのかリヴァに調べてもらってたんだよ、さっきも言ったけど龍は、龍を知っている人にしか見えないらしい。だからほかのクラスメイトにはリヴァは見えていない。けど神崎、お前だけは見えている。これが一体何でなのか・・・・」
今ある情報から、普通に考えるなら可能性は一つだ。神崎が昨日の時点で龍の存在をすでに知っていた可能性。
「なあ神崎、お前龍が存在するって以前から知ってたのか?」
僕が聞くと神崎はブンブンと音がしそうなぐらい首を横に振った。
この様子なら僕の経験上、神崎が嘘をついている線は否定されたとみるべきだろう。
ならどうして?
「なあリヴァ。他に龍が見える条件ってあるか?」
「うーん。無くはないけど」
「たとえば?」
「生まれつき、龍みたいな霊体でも認知できる人間もほんの一握りだけ存在する。日本だと『見鬼の才』と言われてる。でももし見鬼なら今までの生活の中ですでに霊体は見慣れているはずだし、それなら僕が見れば判断がつくんだよ」
「つまりどうゆうことだ?」
「だから、まったく、皆目、全然、見当がつかないってことだよ」
リヴァは困ったようにため息をつく。
「えっと・・・。私はどうすればいいのかな?」
神崎が狼狽した様子で呟く。
「特に龍が見える心当たりはないんだよな」
「あるわけないじゃん。というかあったらもう言ってるよ」
「そうだよな。リヴァ、なんかあるか?」
僕にはこのとき神崎が『龍が見える』と言ったことの謎を深く考えなかった。もしこのときそのことを知っていたら、物語は全く違う様相を呈していただろう。
「とくにないけど・・・。カンザキだっけ?不思議なものが見えてもついて行かないようにね。そういう時は僕に報告してくれれば対処するから」
リヴァの語り口は先ほどとは違い大分緊張感をはらんでいた。
「おいリヴァ。なんか危ないことが起こる可能性でもあんのかよ?」
「今までなかったならこれからもないと思うけど・・・。ここに僕がいることで何かが起こらないとも限らない」
「なにかって何?」
「もし万が一、その時になったら言うよ。大丈夫たぶん杞憂で終わるから」
「ならいいけど・・」
なんだか僕が知らない危険があると聞くと落ち着かない。とは言えども、リヴァが今、教えてくれないなら僕には知るすべはない。
結局、神崎に龍が見えることの理由はわからない。けどリヴァの言う通りなら、さして緊急の問題もないだろう。
「ありがとうな神崎。こういうことだから、これからもよろしくな」
「・・・・わかった。じゃあもう行くね」
神崎はまだ納得しきっていない様子だが、僕らがこう言った以上もう知れることはないと察したのだろう、僕らに背を向けるとテニスコートのほうに走って行ってすぐに見えなくなった。
時計を見ると昼休み開始からはや二十分が経過していた。
「やべっ。昼飯食う時間が!」
僕も教室に向かう。
「ねーねートードー」
「なんだリヴァ」
「さっきのカンザキ、少し気にかけておいたほうがいいかも」
「そうなのか?」
「うん。龍が見えるだけならいいけど、他のモノまで見えてると危険だから」
「他って?」
リヴァは少し躊躇するそぶりを見せたが、おもむろに口を開く、
「妖」
「『アヤカシ?』そんなもんが見えることがあんのか?」
「うん」
「妖ってどんなんだ」
「うーん。説明するより見たほうが早いかも・・。今夜見に行こうか?」
「は?何を?」
「だから妖を」
僕は自分の耳を疑った。だって無理もないだろう、リヴァは『ちょっとコンビニまで行こうか』ぐらいの軽い口調で『妖』を見に行くとか言い出しやがった!
「待て待て。妖ってそんなに簡単に見に行けるものなのか?」
「うん。場所と手段さえ知ってるならね」
「妖って危ないんじゃないのか?」
「危ないのに間違いはないけど、しっかり準備すれば大丈夫だよ。何より僕もいるし」
リヴァはやはり軽い口調で微塵も緊張もしていない。
僕にはよく分からないが、リヴァがこんなに余裕ぶっこいてるなら問題ないと判断した。
こうしてよくわからないが、今日の夜に僕とリヴァは『妖』とやらの見学ツアーをすることになったのだった。
3
午後の授業もつつがなく終了した。
『つつがなく』と言ってもクラスの人が僕を珍獣のように見るのは午前と同じに続いていた上に、おそらく僕と同じ理由であろうが、そわそわと落ち着かない様子の神崎も、クラスメートが僕を見つめる様々な視線の一因と言えるだろう。
僕はリヴァとあんな会話をしたせいだろうが、結局ずっとフワフワとした感覚に包まれろくすっぽ授業を聞いていなかった。
僕は教室を出る。
本来なら今日は水泳部のある日だが、今日泳いでもろくなことはなさそうなので早々にさぼりを決め込み、帰宅することにした。
教室を出ようとしたところで神崎が後ろから声をかけてきた。
「唐堂」
「ん、なんか用?」
「・・・・・うーん。何か言うべきだと思うんだけど、何にも思いつかないや」
「なんだそりゃ。まあいい。特にないなら僕はもう帰るよ。お前も気を付けろよ」
「・・・わかった」
『気を付けろ』と僕は言った。これは額面通りの意味だが、神崎に対してはこの言葉で『不可思議な出来事に関わるな』と言う意味も伝わったと思う。僕としては後者の意味のほうが本当に『気を付けて』ほしいことだ。
神崎と僕は腐れ縁だ。物心ついた時から隣にいるのは神崎だ。まあ、会うたびに毒吐かれたり、神崎流アメリカンスキンシップの餌食になったりするのだが・・・。
どちらにせよ僕が言いたいのは、神崎は僕にとってとても大事な人間だ、ということ。
『幼馴染』なんて御大層なものでもないが、付き合いが長い分、神崎は僕の本質までを、理解してくれている学校では唯一の人間だろう。
実際、昨日の出来事を相談できたのは神崎だけだし、今日も僕の話をしっかりと聞いてくれた。そもそも、学校では神崎しかリヴァを認識できないというのもあるのかもしれない。 でも僕は断言できる、神崎はたとえリヴァ、昨日で言えば腕輪が見えずとも、僕の相談にはしっかりと耳を傾けてくれたであろう。
彼女はそういうやつだ。
あきれるほど真っ直ぐ。
僕の古なじみ。
だから僕は、
・・・・・僕のせいで神崎が傷つく様な事があったらきっと耐えられないだろう。
家につくとすぐにリヴァが口を開いた。
「はあ、やっと落ち着く」
「お前も学校は緊張するんだな」
「あたりまえじゃん。あんなに居心地の悪いところ。何時間も椅子に座り続け、少ない休みは移動なんかで過ごしてろくに休息もできず、そんな頭で物事を詰め込む。僕はあんまり効率的とは思えないなー」
「まあ、お前の言いたいことも十分理解できるけど、学校なんてそんなもんだろ」
「そうだけど、とても僕には耐えられないな」
実際リヴァは学校では口数がとても少なかったことを思い出す。
「お前があんまり話さなかったのも緊張してか」
「寝てた」
「うん!お前は偉そうなことなんも言えないな!」
人に文句を言えるのはその人と同じ努力をしたものか、その人よりも確実に優れた結果を生み出す方法を知り、それを実行できるものだけ。昔僕が読んだ本にそんな文句が書いてあった。
至言だと思った。文句を言うのは誰にでもできる。でも考えなくしてただ否定するためだけの批判は禍根しか残さない。重要なのは、間違えに思えても他人との意見の相違を考察・吟味することであり、相手の否定をすることではない。
この言葉は、その本を読んでから何年もたった今でも僕の中にある言葉だ。
さて、無駄話はここら辺にしよう。
「なあリヴァ、僕たちこれから妖とやらを見に行くんだよな」
「そのつもりだよ」
「じゃあ、僕もなんか準備したほうがいいのか?」
「うーん」
リヴァは首を捻る。
「しいて言うなら、シャワーを浴びてほしい」
「う!僕っていま臭かったりする?」
「うん。人間臭い」
「人間臭い?」
昨日から何個目だかわからないが、またもや聞きなれない単語が飛び出した。
「『獣臭い』って人間も言うだろう。それと同じことだよ、獣同士だと獣臭いのは当たり前、だから獣は獣臭いなんて感じない。人も普段の生活の中では気付くわけもないが、僕たち人間以外の生き物から言わせれば、君たち人間にも人間独特の臭みがある」
「だからシャワーを浴びろと?」
「そうだけど、匂いが不快だからと言うわけではないから誤解しないでね」
「じゃあなんで」
「妖は匂いに敏感だ。モノにもよるけど特に人間臭は彼らにすぐかぎつけられる可能性がある。だからシャワーを浴びて可能な限り匂いを抑えるんだよ」
「そうかわかった」
数分後。
僕は浴室でシャワーを浴びている。
シャンプーやせっけんは使用していないから、水浴びと言うのが最も適切かもしれない。
リヴァ曰く、『シャンプーとかせっけんの匂いも人間特有のものだから使ったら逆に危険だから』だそうだ。
風呂から上がると、リヴァが昨日のようにキッチンの流しにある蛇口にぶら下がっていた。
水道管からは結構な量の水が流れてることをうかがわせる水音がする。
「リヴァ、何やってんの?」
「もちろん食事だよ。トードーも食事はしてね、『腹が減っては戦は出来ぬ』だからね」
リヴァそれだけ言うとまた蛇口をくわえる。
僕も簡単な食事を済ませる。食事も野菜と魚だ。リヴァからの指摘で、肉や匂いの強い野菜は避けるようにと言われたからだ。
「なあリヴァ、妖ってこんなに準備しないと危険なものなのか?」
「たいていの妖なら襲ってくることもないし、そんなに大変なことはないと思うよ。でもまあ今回は妖を見たことがないトードーもいるし、こんな日に限って大物がいないとも限らない。だから準備できるだけ準備はしておくのさ」
「そういうことか」
準備の理由はわかった。しかし僕にはまだ腑に落ちないことがあった。
「・・・おいリヴァ、お前いつまで水飲んでんだ?」
僕が浴室から出てきたときにはリヴァはもう水を飲んでいた、そして今僕はもう夕食を食べ終えようとしているところだがまだ飲んでいる。
つまり、どんなに短く見積もっても二十分は水を飲んでいることになる。
「これも僕なりの準備だよ。もし戦闘になったりしてもこれならトードーを護れる」
「戦闘!」
「そんなに驚かない。もしもの時のためだよ。ほら『備えあれば憂いなし』てね」
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「絶対大丈夫だよ。なにせ僕がいるもの」
リヴァは自信満々にそう言い切る。蛇口を閉めて、夕食の後片付けをしてる僕のところまで飛んでくる。
「お前そんなにすごい龍なのか?だってお前は転生で」
「力の大半を失った」
僕が言い終えるよりも早く、リヴァがそう割り込む。
「確かに僕は力の大半を失った。けど、大半の妖に遅れは取らないよ。だってこれでも龍神だったもの」
「・・・・・そうか」
リヴァがここまで言い切れるなら大丈夫なんだろう。
というか、結局まだ妖について何の説明も受けていない僕としては、今できることはリヴァの言葉を信じることだけだ。
リヴァは龍神。
龍神と言うものがどんなものかもよくわからない。
しかし腐っても神様ならきっと問題はないのだろう。
こうやって考えてみると本当に、知らないことが多くて嫌になりそうだ。
4
月の綺麗な夜だった。
半月と満月の間の楕円形の月が低い位置にかかっている。
目の前には海があり、潮の満ち引きの音が聞こえてくる。
僕は一つため息をつく。
月光と波音、そして輝く蒼い龍。
幻想的な光景だった。
怖いぐらい美しい。
「さてトードー準備はいい?」
夕食の後のことを少し回想しよう。
場所・我が家。
「なあリヴァ、そういや妖ってどこに見に行くんだ?」
僕の中の認識では『妖』というか、いわゆる『妖怪』みたいなもんは深山幽谷にいるという認識だ。しかしこの町の周辺には深山も幽谷もない。もしかしたら結構遠出する必要があるのかもしれない。
「海だよ」
そんなことを考えていた僕の予想を裏切り、リヴァが出したのは聞きなれた場所だった。
『海』。この町は海に面している。僕の家からも自転車で十分ぐらいとばせば海に行くことができる。
僕は海が好きである。なぜなら僕は泳げるからである。幼少から海なり川なりで水泳を習得してきた僕としては、海はホームグラウンドのようなものだ。
「海にも妖っているのか?」
「いるよ。いっぱい」
繰り返しになるが、僕は『妖』なるものを詳しくは知らない、しかし僕の慣れ親しんだ海に見えない存在がいっぱい存在している、なんて言われても、まったく実感がわかない。
「さて、そろそろかな」
リヴァが呟いた。
何がそろそろなんだろう?
リヴァは僕の考えを読み取ったかの如く続ける。
「妖は夜のほうが力が強くなる。これはイメージできるよね」
「ああ」
「妖にもピンからキリまでいるけど、一般的には力の強い妖ほど見えやすい、だから夜のほうが多くの妖を目にすることができるんだよ」
「でもそれって危険だったりしないのか?」
「確かに僕らに襲い掛かってくる妖も少なからずいると思う。でもこのぐらいの時間なら全く僕らには歯が立たないはずだよ。しかも妖の力が最も強くなるのは日付が変わったあと、いわゆる『丑三つ時』、つまり今ならほどほどに妖の力が強いから多くの妖が見えるけれど、余裕で安全を確保できる、そんな絶妙な時間帯なんだよ」
と言うことで僕らは海に向かうこととなった。
太陽が沈んでから数時間、外は真っ暗だがまだ多くの家には灯りがともっている。
自転車で道を急ぐ僕らも夜とはいえ、全く緊張するようなことはなかった。
と言うことで僕らは今、防波堤の上に立っている。
僕の姿は海パン一枚。さっきリヴァが海に行くといったので、何を着ていくべきか聞いたところ『気馴れた動きやすいものなら何でも』というので、僕は愛用の海パンを着用している次第だ。
しかしここにきて一つ問題が浮かび上がった、なんで今まで思い当たらなかったのだろうか。
今は五月。言わずもがな海開きはまだまだずっと先だ。つまり何を言いたいかと言うと、海がまだとても冷たいのである。
さっきから波が僕の足に触れてくるが、足は海がまだ泳ぐなんてとんでもないような温度を伝えてくるだけだ。
「さて、行こうか」
「!おいリヴァ。お前もしかしてこんな冷たい海に飛び込んで泳ぐつもりか?」
「それ以外に何があるの?」
「ちょっと待てお前は僕を殺す気かよ。一瞬ならいづ知らず、こんな中泳いだりなんかしたら、僕は凍死するよ!」
リヴァは僕の言葉を聞いてキョトンとしている。一瞬、リヴァに僕のこの切実な願いが伝わらなかったかと思ったが、そんなことはなかったらしい。
次の瞬間、リヴァは唐突に笑い出した。
「ははははは、はー」
ひとしきり笑って息をつくと、リヴァは
「だから僕は海をつかさどる龍なんだってば。よくわからないようだけど。ほら」
リヴァが何をしたのかわからない。
しかしリヴァが言い終わった次の瞬間、僕の周りに蒼い光が降り注いだ。
きれいな柔らかい光だった。
光は僕の周りを照らす。
そしてだんだん光は僕の周りを丸く囲み始めた。
光が『囲み始めた』と言うのは違和感があるが、どうやらこの光の正体は青く光る細かな粒子のようなものらしい。
その粒子は僕の周りを隙間なく囲み、だんだんと消えていく。いや『消える』というよりか、空気中に溶けていくというイメージだ。
最後の光が見えなくなったとき、僕は確かに周りの環境が変化しているのを感じた。何が変化したかと言われると分からない。しいて言うなら空気の質感とでも言おうか。確かにさっきとはなにかが明らかに違う感じがした。
「さて行こうか」
リヴァが無造作に海に飛び込む。
海の中でもリヴァの鱗は蒼い光を発しているから、はっきりと視認することができる。
僕も続けて飛び込む。
今度はなぜか冷たさのことは考えなかった。
海に入った瞬間。僕は驚きに身を震わせた。
まず暖かいというのを感じた。
温度が高いというわけではない、しいて言うなら安心した暖かさ、住み慣れた家のような暖かさだった。
次にもう一つ僕は驚くこととなった。
息ができるのである。
水中で息を吸うと、確かに目の前にあるのは水なのだが、肺には酸素が供給されているようだ。
「どう調子は」
リヴァが泳いできた。
海龍と言う名の通り、優雅にそして素早く泳ぐ。
「とてもいい塩梅だよ。さっきのは何だったんだ」
「『水龍の加護』。分かりやすく言うと、トードーが水中に適応できるようにしたんだよ。具体的な効果は温度調節、酸素供給、水圧調整、泳力増強、視覚調整・・・、あげればまだまだきりがない。つまりはトードーにとっての『水中』と言うことによる制約が軒並みなくなったって考えてくれていいよ」
「すごいな。海中ってこうなってんだ」
僕の目の前には海中の様子がそれこそ水平線まで見渡せた。
リヴァの言うことろの『視覚調整』のお陰なのだろう、月明かりの下でも陸と同じように隅々まではっきりと見えた。
「さて行こうか」
リヴァは沖のほうへ泳ぎ出した。
僕も水を掻く。
「お!おー」
思わず感動して声をあげてしまった。
軽くひとかきするだけで信じられないほど、約十メートル進んだ。
「トードー何してんの?早くして」
リヴァが催促してくる声が聞こえる。
「ごめん今行く」
僕はバタ足でリヴァを追いかける。しかしそれだけでも僕の体はモーターボート顔負けのスピードで進む。
すぐにリヴァに追いつき並んで泳ぐ。
「お前これすごいな」
「へっへーん。少しは見直した?」
「ああ。見直したよ。こんなことができるなんて思いもよらなかった」
僕らはそのまま沖のほうへ十五分ほど泳ぐ。
僕が馴れてきたというのもあって、僕らの泳ぐ速度はぐんぐん上昇し、最後のほうは時速百キロぐらいは出ていたと思う。
「さて、ここら辺にいる気配が・・」
リヴァは僕たちの目的地を示した。
僕もそれが遠くから目に入った瞬間からなんとなくそんな気がしていたので特に驚きはなかった。
それは陸からは大分離れた海中に沈んでいた。
船である。
木造の帆船だろうか、しかし半壊している上に、船に特段詳しいわけではない僕にはそれがどんな船なのかはわからない。しかし古いということはなんとなくわかった。
「あれは日本の古い船。沈んでからもう三百年は立ったかな。当時江戸時代だった日本の客船だよ。ここで嵐にあって乗客もろとも海中に没した」
「さ、三百!よくこんな形で残ってるな・・・」
古い船だが三百年もたっているようには見えないというのが僕の正直な感想だ。
木材も藻が付着したり、朽ちて変色たりしているが、まだ十分に原型をとどめていた。
海中に沈んだ木材がどのような変化を起こすかは知らないが、さすがに三百年たってこんなに残っているのがおかしいことぐらい僕にもわかる。
「そうこの船は朽ちる速度が遅い、なぜなら・・・・、いやまず見たほうが早い」
リヴァはそういうと船に向かって泳ぎ出した。
「トードー、船に近づいたら僕とあんまり離れないようにしてね」
「いいけどなんで」
「もしもの時のため」
もしもの時って・・・。いまさらながら夜中にこんなところまできて超本格的な肝試しをすることの危険性について、もっとまじめに考えておけばよかったと後悔する僕であった。
しかしとりあえず僕もリヴァの後について泳ぎ出し、リヴァから離れないようにした。
近づいてみると船は意外に大きかった。
旧式の帆船。
木造。
僕は月光に照らされて浮かび上がるそれを、傷ついてうずくまる未知の生物のようだと感じた。
「おいリヴァ、そういえば僕、妖がどんな姿なのか知らないんだけど、妖ってパッと見ただけで分かるような姿してんの?」
「大丈夫、見れば確実にそれと分かるよ。それとあんまり大きな声は出さないでね」
船の甲板に降り立つ。
足元の木材は藻などが付着してるとはいえ意外にしっかりとしたもので、繰り返しになるがとても三百年もここにあるものとは思えなかった。
ごくり。僕は無意識のうちにつばを飲み込む。僕はとても緊張しているらしい。
僕をこんなに緊張させている要因は、外形的なものだけではない。具体的にいうと、船に近づくにつれて違和感があるのだ。
水が重い。いやこれには語弊があるかもしれない、水に粘度があるといったほうが適切だろう。足を一歩踏み出すたびに、手を目の前に伸ばすだけで、水が僕を拒むような、寄せ付けまいとするような抵抗を受けている気がする。
おそらく本当に海水が変質しているわけではないのだろう、しかしそこには明確な拒絶が感じられた。
リヴァは平然と船室のほうへ、船の中に向かう。
いや『向かおうとした』、リヴァは泳ぎ出したと思ったら何を思ったのか僕の隣まで戻ってくる。
どうした。僕はアイコンタクトでリヴァに質問する。
『大きな声でしゃべるな』と言われただけで、『しゃべるな』とは言われていない、しかし可能な限りしゃべらないほうがいいだろうというのが僕の判断だ。
「来るよ。・・・・結構な大物」
リヴァは僕に短くそう伝えると、船室の入り口をじっと見据える。
僕はこの船を未知の生物にたとえた。ならば船室の入り口、暗く船内へと続くあの入り口は、さしづめ怪物の胃の腑へと続く口のようだった。
その口にいま、青白い光がともった。
海中なので火の玉と言うのが正しいのかは知らないが、まさしくそれは青白く燃える火の玉であった。
「さてトードー、妖殿のご登場だよ」
リヴァは静かにそう宣言した。
5
火の玉。
僕の目の前に浮かぶものに一番しっくりくるのはやはりその呼び方だろう。
大きさは人の頭ほど。
縦長。
青白い色。
リヴァの鱗のような強く美しい蒼ではなく、もっと薄い、薄い色。
夜の海の色をどんどん希釈したらこんな色になるのだろうか。
それはだんだんとこちらに近づいてくるようだ。
ずー。ずー。
それに伴ってか何かを引きずるような音もする。
火の玉はだんだんとその数を増やした。
そしてついに、
三つほどに増えた火の玉と引きずる音の正体が月光のもとに姿を現した。
それは白骨の死体であった。
白骨。
純白の骨。何も付着しない。そして傷一つない。
それは月光を受けて、静かに輝いている。それだけ見れば十分に美しい光景だろう。
しかしもちろん僕はそんなことは全く感じなかった。
ただただこの怪奇現象に対する驚愕。そして少し遅れて、人の死体を見る本能的ともいえる恐怖。
「!!!!!!!!!!!!!」
僕は辛うじて、喉元まで出てきた悲鳴を飲み込む。
リヴァが死体から目を離さずに語る。
「あれは『船幽霊』。入水自殺した者、もしくは強引に溺死させられた者の成れの果て」
白骨―船幽霊―、それは最初は静かに立っていたがそのうちだんだんと甲板の中央へと歩いてきた。
ずー。ずー。
何かを引きずる音。その正体は、だんだんと復旧してきた僕の理性を再びかき回すのには十分すぎるものだった。
船幽霊は、ローブのようなものをまとっていた。
いや正確に言えば、ローブであったと推測できる襤褸切れを羽織っていた。
ところどころ穴の開いたそのローブは前が開いており、純白の肋骨や尾てい骨などをはっきりと見て取ることができた。
そして何より驚いたのは、確実に白骨化している体の中で、ローブから覗くひじから先だけ、白骨化していなかったのだ。
肩はローブに隠されて見えない、しかし視認できるひじから先の腕はほかの部位とは違う。
腕がミイラ化していた。
そして音の正体は、ミイラ化した干からびた腕をズーズーと引きずる音だった。
腕を引きずる。普通の人間なら二足で歩行してる限り腕が地につくことはない。しかし船幽霊は歩きながら腕を引き摺る。
それもそのはず、船幽霊のひじから先、干からびた腕は、優に三メートルはある、長い長いものだった。
船幽霊は自らの白骨化した身体の何倍もある、ミイラ化した長い腕を引き摺っている妖だった。
しかも船幽霊が甲板を歩いても歩いても、まだ手の先は船室の暗闇のなかから、その端を見せることなくどんどんと繰り出されている。
船幽霊は、甲板の中央に来るとおもむろに上を、月を仰ぐ。
次の瞬間、船幽霊は
「ヒュ―――――――――」
壊れた笛のような、聞くものが悲しさを覚えるそんな声、悲鳴のようなものをあげた。
船幽霊に付随していた火の玉、青白い三つの火の玉がその声に反応してひときわ強い光で燃えた。
美しくも、悲しい。胸の奥を引っ掛かれるような。
それは、そう恐ろしいというよりは、際限なく悲しい光景だった。
「あれが『妖』」
リヴァはおもむろに口を開いた、場所は変わって僕の自宅。
あの後、船幽霊は僕たちに終ぞ興味を示すことはなく、何事もなかったかのように船室の暗闇に戻っていった。
引き摺っていた手の先をついに見ることがなかった。船幽霊が戻るときも肘の関節が逆に曲がり、その腕はゆっくりと押し込まれていった。
船幽霊が消えた後、僕らは無言で立っていたが、そのうちにリヴァが船を後にして陸の方へと泳ぎ出した。僕もそのあとを追って、陸へと帰還した。
陸へと泳ぐ間、そして海から自宅までの間も僕らが口を開くことはなかった。
というか、僕が何も話せなかったというのが正しい。目の前で繰り広げられた怪奇現象に僕の思考は完全に停止し、何も言葉が見つからなかったのだ。リヴァもそれを感じ取ったのだろうか、僕に話しかけることはなかった。
そして今、自宅。
リビングにおいての僕の定位置、ソファーに腰を下ろす。
やっと人心地ついたところで僕の顔の前に向き合うように浮かんだリヴァがやっと口を開いたのだった。
「『妖』、それは自然の摂理に反した死によって生み出された、『歪み』の集合体」
リヴァの口からやっと妖の解説が流れ出す。
「あらゆる生き物がこの世に生を受ける時、同時に死因や寿命も決定される。虫でも魚でも獣でも、・・・そして人でもそれは変わらない。この時設定される死因には様々なものがある。老衰による衰弱死から、若くしての病死、天災に巻き込まれての死、恣意的でない事故死。でも現在存在する人間の死に方の中には、本当は存在しないもの、自然の定めた摂理に反するものが少なからず存在する」
そこでリヴァは一息於いて僕の目を真っ直ぐ見る。
「一番多いのは自殺、次に意味なき他殺。地球広しとはいえども、自殺をするのは人類だけ、普通は自然の摂理の中に『自殺』なんてものは存在しない。だってせっかく与えられた命をわざわざ捨てるなんてことはあるわけがない。ただ一つ、自分だけの命、それをみすみす投げ出すなんて本来あってはならない大変なことなんだ。でも実際人間の社会では、多くの命が自殺により失われている」
リヴァは嫌悪感に顔をゆがませる。口の端から牙がのぞいて、なかなかの迫力がある。
「まあ今問題なのはそこじゃない。ねえトードー、まだ決められた寿命が残っているのに自殺をしたら、余った命はどうなると思う?」
リヴァの口ぶりから考えられる答えは一つだ。
「自然の『歪み』になって妖になる?」
「そういうことだよ」
妖の正体。それは自然の摂理に反して命を落とした者の生命の余り。
昨日から世界観が根底から覆がえり続けているからか、あまり驚きはなかった。
「待てよ。それじゃあ妖、さっきの船幽霊みたいなものは生き物なのか?」
余りとはいえ人間と同じ生命を持つ妖。それははたして生き物なのだろうか?
「うーん。生き物の定義にもよる。もし意志をもって活動をするものを『生き物』と言うならば、彼らも立派な生き物。でももし、細胞により構成されるとかそこら辺を『生き物』とすると、彼らは生き物ではない」
「曖昧だな」
「人間の『生き物』についての定義がね」
リヴァはあくびをした。
僕もそろそろ眠くなってきた。
時計を見るとそろそろ日付も変わろうとする時間だった。
しかし僕にはまだ聞いておきたい疑問がある。
「なあリヴァ。妖って危険な存在なのか」
リヴァは僕の質問を聞くと一回緩んだ態度を再び緊張させる。
「危険、とっても危険だよ。僕ら龍の観点から見ると、『妖』てのは自然の歪みの結晶体として映る。本来自然の中に存在してはならない存在。そんな妖を放置するとどうなるか?」
リヴァは息を吸ってから言い切る。
「妖は成長する。すなわち、自然の歪みが増大するんだ。ある程度以上の妖の存在は周囲から生命を奪い始める、そしてその生命でどんどん成長してゆくんだよ。つまり、妖の放置は、巨大な妖を生み出すこと、そしてそれによる、大量の生命の喪失を引き起こす。これは自然のバランスに大きな影響を与えかねないことだ。だから龍の責務の一つとして、被害が出るような妖の発生・成長を抑えること、そして可能ならそのような妖を討伐することがある」
「『周囲から生命を奪う』ってつまりそれって・・・」
「そうそれが人間から見た妖の危険性。つまり、妖は人を殺して喰らうんだよ」
リヴァの声は静かなリビングに響く。
僕はいまさら、さっき海中で目の前に展開されていた光景に対する、本当の恐怖を感じた。
中編に続く
前編が終了しました。
もしも空から龍が落ちてきたら。あなたはどうするでしょう?
これから人間が龍に限らず、伝説とされる生き物に出会う確率。それは限りなくゼロに近いかもしれません。しかし完全にゼロではないと僕は思います。
地球上にもまだ解明されていない現実が多数存在します。ならば地球の外、この空の上、宇宙に存在する可能性は限りなく大きいと言えます。
物語はこれから中編へと続きます。ぜひ皆様にもこの小説の可能性を見届けていただきたいと思います。




