第11話
1
「ちょっといいかしら。」
その言葉に、女と僕たちは足を止めた。
「ご主人様?を、傷つけたくないから、貴方は勇一君達に攻撃した訳?」
希里花は捕まって次に、そんな疑問を発した。
「そウ、ですガ?」
女はそう、疑問に答える。
すると希里花は、言葉を強めて言った。
「《《まだ危害を加えるとは言っていない》》のに?」
「は?」
女は愚問の呟きを呈す。
「僕たちはただ、何故あなたの主人が殺人鬼になったのか、ちょっと聞いて、変えたいだけなんですが。」
すると女は、顔を歪めて言う。
「主人ハ、私以外、ヲ、殺めタ、こト、なんテ、なイ、ですヨ?」
……どうやら、色々と誤解があったようだ。
……?
ならば、どうして彼女は希里花を誘拐しようとしたのだろうか。
勇一は考え、手を挙げる……直前に、その答えが返ってきた。
「私ハ、主人、ガ、うけタ、依頼、ヲ、こなしていル、だケ、なのデ。」
……つまりは、彼女は、当初勇一達が考えていたものとは違う思惑に動かされていた、ということになる。
「そうか。分かった。……とりあえず、ご主人のところまで連れて行ってくれないか?」
思惑の本領、依頼主に近づくには、依頼先に尋ねる他ない。
そう考えた勇一は、日本人の吸血鬼である“ご主人様”に近付く為、彼女に交渉を持ちかけた。
「傷つけなイ、そノ、前提デ、なのデ、いイ、ですヨ?」
彼女は言い、ゆっくりと希里花を抱いたままながら歩み始め、それに勇一達は、急ぐようについていった。
「村の被害、大丈夫なのかなぁ〜?」
結衣菜は燃え広がる紫色の炎を振り返り見つめながら、仕方なく彼らについていくのだった。
2
――十数分後。
「こコ、ガ、ご主人様、ノ、家、でス。」
彼女の言葉と共に、勇一達は足を止めた。
「ここが……日本人吸血鬼の住処ってとこか。」
その勇一の言葉に、その場にいた日本人である異世界人全員に、緊張が走る。
その緊張を解いたのは――
「そしてここが、依頼先の住処――。」
女に捕まったままの、希里花だった。
女が鍵を捻ると、扉は開いた。
そして、彼女は先頭になって言った。
「どうゾ、こちラ、でス。」
中に足を踏み入れると、広い廊下が広がっていた。
だがその廊下に灯りは殆どなく、怪しげな光がちらほらと、まばらに散らばっているだけだった。
ただ、その廊下をひたすら歩く。
ただひたすら――
「こちラ、ガ、ご主人様、ノ、部屋、でス。」
彼女は足を止めて言った。
そして彼女が2回ノックをすると、中から返事が返る。
「お入りください。」
彼女は扉を開ける――。
その中にあったのは、20代位の女の姿だった。
「――なんだ、君だったのか……その方々は?」




