第9話
1
「みっ、見ないで!」
希里花はそう言い、角と尻尾らしきものを隠した。
「どうしたんだ。それ。」
勇一はそう言いながら、呆然と立ち尽くす。
その様子を見て、希里花は諦めたように言った。
「はあ。分かった。話すよ。」
そして、勇一に指を指し、
「ただし! これは嘘じゃないから、真面目に笑わないで聞いてね!」
「は、はい!」
「と、その前に。」
「? 何ですか?」
「扉閉めて。聞かれると困るし。」
「はい。」
2
「……じゃあ、言うわね。」
僕はつばを飲み込んだ。
「私は魔王なの。」
「ブッ!!」
彼女が発した中2病発言に、僕は耳を疑った。
さすがに魔王はないだろ。魔王は。
「はいそこ! いま“いきなり中2病発言!?”って思ったでしょう! 全部読めるんだからね!」
「すっ、すみません!」
あながち間違ってはいない。
「……私は、今日の朝、まだあなたが転生……転移してくる前の時間帯に魔王を倒した。」
!? 魔王を倒した!?
「そっ、それじゃあどうして……。」
「その時に倒した魔王に、魔王の仕事を引き継がなければならなくなる呪いを、死ぬ間際に掛けられたの。」
「のっ、その呪いは解けないんですか!?」
「私も色々調べたんだけど、魔王よりも強い存在を、あるバグを使って見つけて倒さないと、解くことは出来ないんだって。」
「そうですか……。」
「そ、それでね。いつか加賀谷くんが、私の周りに張られているこの……、魔法防壁を壊せる位、レベルが上がったら、私を倒してくれないかn」
「そんなの嫌です。」
「え……。」
「僕は二度と、希里花さんが苦しむのを、見たくありません。」
助けたいのだが、助ける術が無い。
そんな事が、僕の心をむず痒くさせる。
3日前、最後に希里花さんを見た時と同じように。
また、希里花さんの心を助けられず、見殺しにしてしまうのだろうか。
そんなこと、絶対起こしたくない。
だから2度と起こさないように、今度こそちゃんと助けなきゃ。
3
「ところで加賀谷くん。」
「何ですか?」
「そろそろ宿の人が見回りに来る時間じゃない?」
「あっ、そうですね。失礼しましt……。」
私はその言葉を遮るように、こう言った。
「そうだ。加賀谷くん。」
「何ですか?」
「加賀谷くん、何でここに来たの? 何か用でもあった?」
私は彼にそう聞いた。
「いえ……。明日聞きます。」
そう返答がきた。
「そう。じゃあ、おやすみ。」
「……おやすみなさい。希里花さん。」
……彼が帰った後、私は宿の見回りの人から、角と尻尾を布団で隠せるように、ベッドの中に潜り込んだ。
それにしても、何だろう。さっきからずっと、加賀谷くんと話をしてから続いている、このモヤモヤする変な気持ちは。
加賀谷くんの事を考えると、頬が赤く火照って、とても胸がキュンキュンして、会いたくなる、そんな気持ち。
……ホント、何なんだろう。この変な気持ちは。




