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わたしと彼のお父さん2

 家に帰っても、川本さんから何も連絡はなかった。わたしは風呂上りに勇気を出してメールを送ることにした。ただ、文面は悩みぬいた末、家に帰ったかどうかを尋ねるだけにした。返事はすぐに帰ってきた。どうやらあの後すぐに家に帰ったようだ。


 電話をしていいか尋ねると、わたしの電話に着信が届いた。発信者は川本さんだった。


 わたしは深呼吸をして、電話を受けた。


「今日は怖い思いをさせて悪かったね。たまたま君のお父さんを見かけたみたいで、それで」


 彼の言葉が徐々に語尾が小さくなっていった。


「そんなことないよ。ただ、びっくりしたよ。まさかわたしのお父さんと川本さんのお父さんが同じ会社で働いていたなんて考えもしなかったよ」


「俺も驚いたよ。まさか君の両親があの太田さんだったとは。その件で君のお父さんを逆恨みしているみたいで、本当に勝手な人だよ」


「逆恨み?」


 わたしは予想しなかった言葉に驚きの声をあげた。


「お父さんから何があったのかは聞かなかった?」


「お父さんは元同僚ということ以外は教えてくれなかったから。川本さんのお父さんとわたしのお父さんの間に何かあったの?」


「俺の父親だけの問題だったら、教えてあげられるけど別のやつのことも絡んでいるんだ。法的にもいろいろと絡んでそうで。だから君のお父さんも明言を避けたのかもしれない。だから、教えてあげられなくてごめん」


「そっか。分かった」


 本当は何があったのか聞きたかったが、それを無理に聞き出すことはできなかった。


 それに気になるのは、両親の気持ちではない。今、川本さんが大田の娘だと知ってどう思ってるかだ。


「川本さんはわたしのお父さんのことを恨んでいる?」


「恨んでいないよ。君のお父さんのしたことは当然だと思っている。ただ、父親は君のお父さんを恨むことでしか生きられなかったんだと思う。あの会社を実質クビのようにして辞めるようになったのは、それまでの人生を失ったも同然だったのだから」


 ほっとすると同時に言いようのない気持ちが湧き上がってきた。


「じゃあ、わたしの彼氏でいてくれる?」


 勇気を込めて問いかけた。わたしの予想に反して、すぐに返事が聞こえてきた。


「もちろん。君さえ良ければ」


「よかった」


 わたしは胸をなでおろした。


 親同士の因縁があったことは気にかかる。だが、何よりも今は二人がこうして出会えたという事実を何よりも大事にしたかった。


 翌朝、家を出ようとするとお母さんに呼び止められた。わたしは川本さんとのことを言われるのかと身構えたが、聞こえてきたのは意外な言葉だった。


「今日からわたしが送り迎えするわ。学校が終わったら連絡しなさい」


「送り迎えってそんな必要ないでしょう」


 川本さんとわたしを頑なに会わせようとしないとしているのだろうか。そう考えたとき、もう一人の川本さんの存在を思い出した。昨日のできごとをお父さんから聞いていたとしたら警戒してもおかしくはない。


「昨日の人がわたしに危害を加えるとでも考えているの? 大げさな。あの人だって何かをするわけじゃないでしょう。何かしたら警察沙汰になる。そこまでバカではないはずよ。だから、送り迎えなんて必要ないよ」


「でも、何かあってからでは遅いのよ。榮子ちゃんたちと遊びに行くならできるだけ融通は利かせるから、今は我慢してほしいの」


 お母さんはそう言い放った。


 こうしたときのお母さんは譲らないのは知っていた。


 それにここでごねて川本さんのことを再び思い出したら、話がややこしくなる。川本さんがあの人の息子だと知られていないのは不幸中の幸いだ。


「分かった。どれくらい?」


「とりあえず来週末まで様子を見てみるわ。それで何もなければやめるから」


 わたしはお母さんの提案を受け入れることにした。一週間、川本さんに会えないのは辛いが、それは仕方ない。


「あの人とお父さんの間に何があったの?」


「それはわたしの口からは言えないわ。ごめんね」


 お父さんもお母さんも、川本さんも理由を知っていて口を閉ざしている。それは犯罪に関わる何かを庇っているのだろうか。


 わたしは川本さんとずっと一緒にいたいと思っている。だが、あの様子を見る限り、わたしの彼氏が川本さんだと知れば、付き合うことを反対するだろうというのはあらかた推測できた。




 それから一週間、わたしはお母さんと一緒に登下校していた。休みの日も親がついてくるというため、大人しく家にいることにした。榮子にも川本さんにも本当のことは言えず、ただ体調が悪いから親が送り迎えをしてくれているという嘘をついてしまった。もちろん、川本さんと顔を合わせる機会はなかった。わたしの体調を気遣ってくれる二人に申し訳なく思いながらも、川本さんのお父さんが再びわたしの前に現れることはなかった。


 お母さんも過剰反応をし過ぎだと思ったようで、その次の月曜日からは一人で登校をしていいと言われるようになった。


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