シャイリィの研究者・5x
(いつかのどこかのだれかとだれか)
暗い、昏い空間。
闇に沈んだその全貌は見えず、果てがあるのかもわからないような印象を受けるそこに、一人の少年が居た。
空虚で無機質な色を宿した赤の瞳、何もかも燃やし尽くした後に残った灰のような色の髪は不揃いに肩にかかっている。
少年は地面と思しき場所に座り込み、どことも知れない方向に視線を向けたまま長い間微動だにせずにいた。
「なァにやってんだァ?」
そんな少年に声をかけたのは、闇から滲み出るように現れた男だった。
怪訝そうに自分を見る男にゆっくりと視線を向けた少年は、やはり緩慢に首を傾げた。
「なに。も、してない」
「何もしてないってェことはナイだろ」
「……?」
無表情のまま更に首を傾げた少年に、男は「まァそれはどうだってイイやな」と肩を竦めた。
「気付いてンだろォ? 闇のと風のが接触したってなァ」
「……違う」
「あァ? ナニが違うってんだァ?」
「風の、じゃ。ない。……風と、炎の」
少年の言葉に、男は「あァ、」と頷く。
「――そういやァそうだったなァ。『原初』に『異端』たァ、随分とまァ」
楽しげに唇を歪めて、男は少年の傍に腰を下ろす。
「しっかしなァ、闇のをヤり損ねたのはマズったかもなァ」
「…………」
「闇のは手段選ばねェみたいだしなァ。アレもイロイロ壊れちまってッから」
男は少年の頭に手を伸ばし、ぐしゃぐしゃとまるで押しつぶすかのようにかき混ぜる。
「――オマエみたいになァ?」
少なからぬ痛みが伴ったはずの行為にも、少年は微塵も表情を変えない。ただ無表情に男を見上げるのみ。
「さァて、風と炎のはどうなんだろうなァ? マトモ過ぎて壊れてンのか、闇のみてェに壊れてンのか。少なくともオマエみてェな壊れ方はしてねェんだろうなァ」
男は少年に目線を合わせ、その硝子玉のような瞳を覗き込む。そしてニヤリと心底楽しげに笑った。
「――…楽しみだなァ。三人揃うたァ面白れェ。これも運命ってェやつかねェ?」
男がくつくつと喉の奥で笑いながら、無意識にか故意にか少年の頭を好き勝手かき混ぜ揺さぶるその間も、やはり少年の表情は全く動くことはなく。
男もまた、それが常であるかのように全く気にせず、暫くの間そうしていたのだった。
連載凍結したのでここまでです。
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