表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FREE ―風と炎と少女の軌跡―  作者: 空月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/19

シャイリィの研究者・1




「やっぱり、一回都に戻ったほうがいいかなぁ……」


「リアがしたいようにすればいい。行きたくないってんなら俺らが全力で見つかんないようにするし」


「勝手に俺の代弁までしないでくれる?」


「え、協力しないのかよ」


「……もしリアがそう決めたならするけど、勝手に一括りにされるのは気に喰わない」


「あーはいはい、悪うございました」



 そんな会話をしながら街道を歩く。ティーラのことがあってからしばらくは沈んでいたシリスも、大分調子を取り戻してるみたいだ。まだ少し、ぎこちない感じはするけど。


 それはまぁ時間が解決してくれそうだから良いとして、目下最大の悩み事は『これからどうするか』だ。

 予期せぬ出来事で保留になってたけど、『手配書もどき』が都から回ってきてる以上、これから先どうするかっていうのを早いところ決めなくちゃならない。……と言いながらも数日はすっかり忘れきってたんだけど。だって流石に色々あったし。


 ……逃げ隠れするのは嫌だし、都に行った方がいいのは分かってるんだけど、あそこにはろくな思い出が無いし、探してる理由がいまいち分からないのもひっかかる。やっぱり『手配書もどき』が出回ったタイミングがおかしいし、『守護なし』のままだと思われて探されてるにしては、その探し方がぬるいと思う。


 どうしようかなぁ、と小さく溜息をついたそのとき。


 目の前に『闇』が出現した。



「見つけた」



 低い、声。深い深い、どこまでも落ちるような心地になる声。

 その声をあたしは知っていた。嫌と言うほど。でも、ここでその声を聞くことは無いはずだった。だって、その声の主はこの大陸を出ているはずだったから。


 声と共に目前に現れた闇が、人の形を取った。あたし達の中で一番背の高いガイエンよりも尚高い背と、鍛えぬかれた身体を持った、男の姿に。


 ガイエンのものとは違う、光すら飲み込むような黒髪と、深淵の闇を宿した瞳。感情を映さないそれが、あたしを見た。


 どうして、と言葉にする前に、あたしはその名前を呼んでいた。かつて、毎日のように口にしていたその名前を。



「ジオ……?」



 その人――否、聖霊は僅かに頷いた。そして静かに口を開く。



「リアラ。我が主がお待ちかねだ」


「帰って、きたの?」


「そうでなければ、我はここにいない。このようなものが出回ることも無い」



 ジオが何かをこちらに向けて放った。それはひら、とあたしの足元に落ちる。


 『目撃情報求む――行方不明者 リアラ・クレイル』――それは、あたしの手の中にある『手配書もどき』と同じもの。


 瞬間、あたしは理解した。


 どうしてこんな半端な時期に『手配書もどき』が出回ったのかも、妙にぬるい探し方の理由も。


 シリスとガイエンが戸惑ったようにあたしとジオを見ているのが分かったけど、説明できる状態じゃなかった。必死で考えをまとめながら口を開く。



「身の安全の保障は?」


「ある」


「拘束期間は?」


「我が主が飽きられるまでだろう」


「自由の度合いは?」


「以前よりはマシと言ったところか」


「断った場合は?」


「実力行使を許可されている」


「……拒否権は、ないんだよね?」


「残念ながら」



 一通りの問答を終えて、あたしは思いっきり肩を落とした。まさかこんなことになるとは、『手配書もどき』を見た時点では思ってもみなかった。


 すっかり居ないことに慣れきってたけど、まだ生きてたんだ……。いや、そう簡単に死なないだろうとは思ってたけど。きっと、――いや絶対変わってないんだろうな。


 はぁ、と溜息をついたあたしに、ジオは容赦なく答えを促した。



「それで、どうする」


「……行く。あの人が絡んでるなら逃げる方が興味を惹くだろうし」


「賢明な判断だ」



 言って、それからやっとジオはシリス達に目を向けた。

 ほんの僅かに目を見開いて、またすぐに無表情に戻る。……うわぁ、すごい貴重なもの見ちゃった。



「『風』の〈原初〉に『黒炎』――また随分と、我が主の興味を惹きそうな聖霊と契約したものだな」


「放っといてよ」



 ほとんど投げやり気分になっていると、なんだか妙に真剣な顔をしたシリスがつかつかと歩み寄ってきた。その後ろにガイエンもついて来る。


 ……あ、そうだジオとの関係とか全然説明してない。しかも相談もせずに都に行くこと決めちゃったし。



「こいつ何」



 大分慣れてきたけど美形の真剣な顔って心臓に悪い……ていうかちょっと顔近いよシリス。



「都に居たときの知り合いだけど……」


「でも聖霊だよね」


「うん」



 頷くと、シリスの瞳が凄みを増した。怒ってはないみたいなんだけど、何なんだろう。


 と、真後ろから声が飛んでくる。誰かなんて見なくても分かるけど。



「心配せずとも我には既に契約を交わした主が居るのだが」


「君には聞いてないよ」



 一刀両断。聞く耳持たずって感じだ。あたしが説明するよりジオの方が簡潔にまとめられそうなんだけどなぁ。でもこの様子じゃ無理か。



「話ややこしくなりそうだからジオは黙ってて……」


「了解した」



 一呼吸置いて、あたしは言うことを頭でまとめた。そして一息に告げる。



「ジオが他の人の『守護聖霊』なのは分かるよね? ちょっと変則的な契約だとか言ってたからもしかしたら分かりにくいのかもしれないけど。そのジオの『主』がちょっと厄介、っていうか面倒な性格とねじくれた根性を併せ持つ人なの。しかもかなり権力があるの。で、この『手配書もどき』を国に作らせたのがその人っぽくて、逃げたらむしろ興味を煽りそうだから、さっさと行って捜索撤回してもらおうと思うんだけど」



 いい?と尋ねる前に、ずっと黙ってたガイエンが口を開いた。



「その、そいつの『主』ってのは、リアの何なんだ?」



 やっぱり訊いてくるよね。出来れば訊いてほしくなかったんだけど……。


 あの人があたしにとって何なのか。それはあたしにもよく分からない。というかあの人に定義とか出来ないし、意味ないし。

 でもまぁ、事実に基づいて言うのなら。



「多分、『命の恩人』」



 ジオが「言い得て妙だな」って呟いたのが聞こえた。一応事実上はそうなるんだよね。当事者であるはずのあたしにはそう思えないけど。恩義とかも別に感じないけど。


 流石に予想外の答えだったのか、シリスとガイエンは何か困った顔をしている。別に深刻な話とかじゃないんだけどな……。そもそもあの人にそういうつもりなかったみたいだし。美談にもならない。



「リアラ」



 ジオが呼んだ。……一応まだ話し中なんだけどな。でもシリスたちが口を開く様子もないし、いいか。



「なに?」


「我が主が呼んでいる。……急かしている、と言う方が正しいか。とりあえず向かったほうが良い」


「え、もしかしてもう行くこと伝えちゃったの?」



 ジオが頷いた。……ちょっと、そこは様子見てから伝えて欲しかった。ジオにそういう気遣いを求めるのは無駄だろうけど。



「移動方法は?」


「我が空間を繋げる。研究所に出るはずだ」



 さらっと言った。……いいんだろうか。曲がりなりにも国の重要人物がほいほい国の中枢に空間繋げちゃって。

 そもそも一応あそこってそういう現象を一切遮断してるはずじゃ……いや、あの人が作ったんだから勝手に一部解いたのかも。あの人世間一般で言う『常識』とか通じないし。



「わかった。――シリス、ガイエン」



 声をかけると、二人ともまだちょっと戸惑った感じの視線を向けてきた。……やっぱり『命の恩人』っていう表現は大げさだったかもしれない。



「ジオが都まで連れてってくれるみたいだけど、いい?」


「いい、っつーか……まだよく状況とか飲み込めてねぇんだけど」



 ……だよね。まだ説明も中途半端だし。でも悠長なことしてるとあの人何してくるか分からないし仕方ない。



「向こうについてから、またちゃんと説明するよ。面白い話じゃないと思うけど」


「……リアがそう言うなら」



 まだ困惑を浮かべつつシリスが言って、ガイエンもそれに頷いた。



「では行くぞ」



 全くの前振りなしにジオが告げ、瞬間、あたし達は足元に突然広がった闇に飲み込まれたのだった。




 ……昔から思ってたけど、この移動方法って事前に聞いてないとものすごく怖いよ、ジオ。聞いてても怖いけど。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Wavebox


↑2/19パラレルっぽい小話追加。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ