城詰めの女王と国渡りの青年
初めて投稿する作品になります。一応確認はしましたが、なにぶん慣れていないため、変なトコロに執筆途中の変な文章が残っているかもしれません。その場合はお手数ですが、感想を通じてお教え頂けると大変助かります。それではどうぞ。
あるところに、一人の青年がいました。青年は、王様の命令を受け、様々な国々を巡っていました。そして、他の国の情報を仕入れたり、自分の国の様子を伝えたりするのを仕事にしていました。この日は、これまでの活動報告のため、数年ぶりに国に戻ってきました。
久しぶりに国に戻ってきた青年は、その光景に驚きを隠せませんでした。周りの国には春の日差しが差し込んでいるというのに、この国には雪が積もっていたからです。時折、冷たい風が吹くことからも、ただ雪解けが遅いだけには思えませんでした。加えて、子供たちが雪遊びをしている様子もありません。不思議に思った青年は、雪道に足をとられながらも、王様の城に向かいました。
青年の国には、季節を司る4人の女王様がいます。今年は冬の女王様が四季の塔から出てこず、春の女王様と交代出来なくなっていました。王様は、国民たちにそのことを知らせました。しかし、女王様に会いに来る人は、誰もいませんでした。
王様からその話を聞いた青年は、女王様への面会を申し出ました。職業柄、青年は人と話すのが得意で、王様もそれを知っていたため、喜んで塔の中へ案内しました。
塔の中はとても温度が低く、これも女王様に何かあったからなのだろうと青年は思いました。階段を上ると、部屋の中央の椅子の近くで、女王様が泣き崩れていました。女王とは役職としての名前で、歳は青年とそれほど変わらないハズです。にもかかわらず、その姿には、若者らしい明るさがまるでありませんでした。
やがて、女王様は青年に気が付くと、立ち上がってドレスのしわを伸ばしながら、頭を下げてこう言いました。
「申し訳、ありません、お客様。その、涙が、止まらなくて……。また後日、お越し頂けないでしょうか?」
女王というより使用人のようなその言葉に、青年はうなずき、その日はすぐに帰りました。涙目の女の子を、無理矢理に連れ出すワケにはいきません。かと言って、初対面の男が、涙のワケを聞かせろというのも失礼だと感じたからです。
次の日、青年は王様の所へ行き、昨日のことを話しました。女王様が泣き止んで、落ち着いて話をするためにはもう少し時間が掛かるだろうということ、国に戻ったばかりの今の自分では、女王様の説得は難しいことも伝えました。
それを聞いた王様たちはとても驚き、また深く悲しみました。自分たちは季節が変わらないこと、冬が終わらないことばかりに気を取られ、冬の女王が抱えている悩みに気が付かなかったからです。
青年は考えました。どんなに寒い季節でも、暖かい日はあるハズだ、と。冬を終わらせることが出来なくても、春らしい穏やかな陽気を増やす方法は見つけられないか、と。
王様は言いました。季節を司るのは4人の女王だが、季節の変化を体現するのは、山や森などの自然である、と。一年の移り変わりを空で見ている、月と太陽なら何か知っているかもしれない、と。
青年は、お日様とお月様に会いに行きました。そうです。青年はコミュニケーション能力を極限まで高めることで、遂には人間以外の動物や自然とも言葉が通じるようになったのです。
お日様は言いました。確かに、僕が起きている間は、温度が上がり続ける、と。だけど、お月様が出てこなければ、夜行性の動物たちや、暑さに弱い植物たちが困る、と。
お月様は言いました。私たちの仕事は朝と夜の交代制で、勤務時間は季節によって変わる、と。スケジュールを管理している神様なら、何か知っているかもしれない、と。
青年は、神様に会いに行きました。ドコに行けば会えるのかが分からず、とりあえず雪の積もった地面にでっかく『SOS』と書いてみました。すると、突如として上空から光が降り注ぎ、神様らしき人物が出現しました。
神様らしき人物は、古ぼけて所々に穴の開いた、見るからに防寒性の低いボロ切れを身に纏い、手足を震わせながら言いました。暦とは、動物たちの生活リズムや、植物たちの育ち具合をみて作られたモノで、おいそれとは変えられない、と。実際に自然の中で暮らす生き物たちなら、何か知っているかもしれない、と。
青年は、生き物たちに会いに行きました。お城の周りほどでは無くとも、やはり森にも雪が降っていました。生き物たちの多くは、自宅で眠りについていましたが、青年は『国家の一大事である』として、片っ端から叩き起こしていきました。
生き物たちは、寝ボケた頭を働かせながら言いました。俺たちは、冬の女王様とはまだ一度も会ったことが無いが、ずっと泣き続けてるってコトは、やっぱりヤバい病気なのか?と。コレ、俺たちのところで集めたヤツで、今まで渡しに行けなかったんだが、良かったら女王様に持って行ってくれ、と。
生き物たちの話を聞いた青年は、王様の所に戻りました。そして、青年が冬の女王様の過去を尋ねた時、王様は語り始めました。
昔々―具体的には、今から15年ぐらい昔、この国に一人の女の子がいました。彼女はとても寒がりであり、同時にとても寂しがり屋でした。この国の優秀な王様は、その女の子を冬の女王に任命しました。どんなに寒い冬が来ても、優秀な王様が守る城の中であれば、快適に暮らせるからです。また、クリスマスやバレンタイン、大晦日や初詣などの年中行事を通して、家族や友達と楽しく過ごせるからです。こんなに素晴らしいアイディア、我らが誇る優秀な王様で無ければ思い付かなかったでしょう。
しかし、そんな優秀な王様にも、想定外の事態というものはあるものです。
そう、女王様たちの過ごす塔の中には、冷房設備はおろか、暖房器具すらろくすっぽ設置されていなかったのです。春、夏、秋ならいざ知らず、冬には低体温症で生死の境を彷徨うほどの、まさしく地獄のような寒さとの戦いになります。風呂釜の調子が悪くなったり、寒さで送水管が破裂したりすれば、湯船に浸かって温まるといった方法も取れません。
また、その季節の女王は、原則として塔の外に出られません。どんなに城の中が快適だろうが、やれクリスマスだやれバレンタインだと世の中が盛り上がっていようが、あまりの寒さで曇っている窓ガラスに何故かお花畑が見えようが、塔の外には出られないのです。
冬の女王様は、塔の中での恐ろしい体験がもとで、部屋に戻ってからも、あまり外には出てこなくなりました。自分の部屋にいれば安全だ、もう外の様子など見たくも無い―女王様は、窓から見える景色の変化、季節の移り変わりを知らずに育ちました。そう、外が暖かくなり、雪が解け、みんなが外に出るようになったのを知らなかったのです。
冬の女王様が姿を見せず、部屋のカーテンも閉め切られているのを見て、国民たちはこう考えました。女王様が外に出られないのは、きっと身体が弱くて、悪い病気にかかっているからだ、と。冬の間はみんなも大人しくして、女王様が元気になった時に盛大にお祝いしよう、と。
しかし、冬の女王様はこう考えていました。
私が塔にいる間は誰もいなかった→私が部屋に引っ込んだ途端、みんなが外に出始めた→そうか、みんなは私が嫌いなんだ、と。冬の女王様は、自分が仲間外れにされていると勘違いしたのです。
それでも冬の女王様は、城の中でだけ、家族の前でだけとは言え、これまで必死に明るく振る舞ってきました。しかし、寂しさと辛さに耐えられず、とうとう泣き出してしまったのでした。
王様がそこまで語り終えると、青年はこう言いました。
「ドコが優秀な王様だこのクソジジイ。全部テメェのせいだろうがボケ」
青年はそう言うと城を飛び出し、もう日が沈みかけている中で、国中を駆け巡りました。歩く人の少ない国で、青年の足跡が雪道に残っていきます。
次の日、青年は塔に入り、女王様に会いに行きました。前日に走り回った疲れを感じさせないほど、顔には充実した表情を浮かべ、背中には大きな荷物を背負っていました。
女王様はまだ泣いていましたが、青年の様子を見ると、目線を上げました。
「あら、あなたはこの前の……?あの時は申し訳ありませんでした。それで、私に何か?」
「あなたに伝えたいことがあって来ました。あとは、みんなからの預かり物も届けに。ただ、まずは俺の用件から」
青年は、女王様に全てを話しました。しかし、それを聞いた女王様は力なく笑うと、下を向いて首を振りました。迎えに来てもらった以上、部屋には戻るが、誰も私のことなんか気にも留めていないだろう、と。みんなが心配しているのは私では無く、終わらない冬の方だろう、と。
「あなたがそう言うと思って、みんなからコレを預かってきました。開けてみて下さい」
青年はそう言うと、背負っていた荷物を下ろし、女王様の前に置きました。女王様は、不思議そうな顔をしながら、自分宛ての荷物―大きな大きな箱のフタを開きました。
するとどうでしょう。
暖かい毛布が入っていました。女王様が寒くないように、鳥たちが自分たちの羽毛で作ってくれたモノです。
様々な病気や症状に効く薬が入っていました。女王様の病気が良くなるように、動物たちが集めてくれた材料を、薬師が調合してくれたモノです。
様々な種類の本が入っていました。女王様が退屈しないよう、大人たちが選んでくれたモノです。
クレヨンや色鉛筆で描かれた絵が入っていました。外に出てこない女王様に向けて、子供たちが描いてくれたモノです。
千羽鶴が入っていました。女王様の回復を祈って、大人から子供まで、たくさんの人が折ってくれたモノです。
箱の中身を見た女王様は驚いた顔をして、またすぐに泣き始めました。しかし、その顔に悲しみは感じられませんでした。あるのは、寒さに怯え、他人を疑い続けてきた自分を、見放さないでいてくれた者たちへの感謝の気持ちでした。
女王様が泣き止むのを待って、青年は、女王様に外を見るようにお願いしました。女王様は涙をぬぐうと、カーテンを開けて窓を開き、塔の前の広場に目を向けました。
そこには、会ったことの無い女王様を心配して、大勢の人たちが集まっていました。人だけでは無く、森の生き物たちの姿もありました。もちろん、みんなに呼び掛けたのは青年です。みんなの荷物を受け取る時、事前に塔の外へ集まるようにお願いしていました。
みんなは、女王様が顔を見せてくれたこと、女王様が元気でいてくれたことに、喜びの声を上げます。
女王様は、みんなが自分を想ってくれていたことに、瞳をうるませながら手を振って応えます。
青年は、その様子を見て、女王様にこう言いました。
「女王様、どうか塔の外へお来し下さい。あなたとお会い出来ることを、国のみんなが待っています」
冬の女王様が塔の外に出ると、入れ替わりに春の女王様が大急ぎで塔の中に入っていきました。すると、塔の前の広場にある桜が、瞬く間に咲き乱れていきました。それを見た冬の女王様は、塔の窓を見上げながら、幸せそうな顔でつぶやきました。
「良かった……。もう一人で起きられるんだね……」
過去、冬の女王様はこう言いました。
「春の女王様はとても優しい人で、いつも笑顔を絶やさず、みんなから愛されている」と。
それに対し、春の女王様は言いました。
「私は冬の間は基本的に寝てるから、春が来ても正月ボケが抜けてないだけだよ。今までずっと、冬の女王様に起こしてもらってきたから、いつかお礼がしたいなー」と。
みんなは、桜を囲んで、盛大なお花見を執り行いました。
春の女王様にとっては、毎年寝坊する自分を起こしてくれていた、冬の女王様への恩返しになりました。
冬の女王様にとっては、生まれて初めての外でのお祭りであり、みんなと楽しむ最初のパーティになりました。
そして、国のみんなにとっては、冬の女王様の無事を祝う、長らく待ち続けたお祭りの日になりました。
青年は、今回の事件を解決した見返りとして、王様に一つの要求をしました。これからの年末年始―具体的には、クリスマスを祝ってから七草粥を食べるまでの2週間の間、四季の塔で冬の女王様と一緒に過ごさせてほしい、と。
冬の女王様は、青年にはずっと近くにいて欲しいと頼みました。しかし青年は、自分には仕事があるし、女王様にもこれから多くの人や動物たちと触れ合って欲しいからと言ってなだめました。王様も、2人が決めたことならば、2人が幸せでいられるならと、青年の申し出を聞き入れました。
お気付きの通り、王様は冬の間、塔の内部がどれだけ苛酷な環境になるかを薄々は知っていました。
実際問題、塔の中が冷えきっていたのも、冬の女王様の力では無く、ずさんな管理体制によるものでした。
しかし王様は、この件に自分が関与したこと、自分の判断にミスがあったことを知られるのを恐れ、改築工事を行いませんでした。青年から塔の中の様子を聞いて驚き、悲しんだのも、塔の管理・運営について追及されるのを想像したからです。
お察しの通り、この王様は、長年女王様を苦しませ続けた大罪人として、裁きを受けることになりました。同時に、あまりにも居住性に難のある四季の塔も、建て直されることになりました。
二重の意味で住みやすくなった四季の塔で、二人は毎年、幸せな年末年始を過ごしました。また、国のみんなも、今まで会えなかった冬の女王様と、楽しい日々を過ごしました。
お疲れ様でした。
全体としての構成上、意図的に一文が長くなっている箇所、「」を使っていない部分が多く、非常に読みにくかったことと思います。申し訳ありません。
自分でもまだまだ未熟なところ、詳しく詰められる部分があることは承知しています。読者の方々の反応によっては、書き直していきたいとも考えています。
よろしければ、感想を頂けると嬉しく思います。
ありがとうございました。