お疲れパーティーinエルミリサ
お待たせしました。
「……もう、それだけ時間が経っていたのか。時が経つのは速いと言うが、本当だな」
神さまが居なくなり、少し間を置いてから……ポツリと流星さんが呟く。
そうだ。されど2ヶ月、だけど2ヶ月。この世界の住人となったオレやこの世界の住人であるイーゼ以外、ブシドーも武者小路雪火としての生活もある。他の皆もだ。
だけど正直、この世界内の時間で2ヶ月間を戦いや村造りに費やしていたのにいきなり現実に戻る。というのは辛い物があるだろう。
それは他の……と言うよりも、学生だと思われる樹之命さんもわかっているのか、少し渋い顔をしている。……ブシドーは忘れていたことを思い出した。といった表情だ。
とか思っていると、不意に横から抱きつかれた。
「う、うわああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~んっ!! エ、エルサァァ~~! 離れたくない、わたくしエルサと離れたくないぃぃぃ~~~~!!」
……サンフラワーさんだった。美人な彼女がガチ泣きをしており、チラリと横目で見てみれば涙と鼻水を垂れ流しながらオレの頬と自分の頬をスリスリ擦り合わせている。
……見た目は残念だけれど擦り合わされる頬は柔らかいし、髪や肌からは良い香りがする。
女性特有の香りってこういうのを言うんだろうか? ――って、そうじゃなくてっ!?
ほんわ~っと夢心地に付きそうだったオレは何とか自分を抑えて、サンフラワーさんの肩を掴むと引き剥がした。
そして引き剥がしたサンフラワーさんの顔を正面から改めて見ると、美人がしてはいけないような表情をしていると思ってしまった。鼻水と涙が垂れ流されているって……化粧とかあったら酷いことになるよな?
だけど、こう言うときこそ、気の利いた台詞を言うべきだろう。考えろオレ!
「え、えーっと、サンフラワーさん。……そのー、だなぁー。え、えーっと……そう! そうだ! 今回ログアウトしたとしても、また少ししたら会えるだろ?」
「……悪い、今回は神様とのコネを作るためとしか、わたくしは思っていなかったんだ。だから、これが終わったら、ちょっと暫く邪悪な教団の壊滅に向かわないと行けねぇんだ……」
はい、気の利いた台詞失敗でした! というか、邪悪な教団の壊滅って何っ!? 地球でそんなこと起きてるの!?
アニメや漫画の世界だけだと思ってたのに、本当にあるんだなぁ……。
何とも言えない返事に、何とも言えない表情を浮かべるオレは何も言えなくなっていた。
「くそっ、こんな素晴らしい親友に出会えることが分かってたら、そんな予定を入れることはなかったのによぉ……! いや、でも他のメンバーに気合を入れさせて通常よりも早く終わらせるとか……、最悪科学兵器を使ってでも……」
そして、本当に悔しそうにサンフラワーさんは唸るように呟いていた。
と、とりあえず、悔しがりながらこのまま翌日になってログアウトさせるのも忍びない! 何か良い手は無いか?!
そう心で考えながら、オレは周囲を……オレたちを見ている他の仲間たちを見る。
ブラッドレックス……、いっしょに連れてきていた3人の女エルフといちゃついているのかこちらを見ていなかった。このリア充め……。
流星さん……、静かに待っている。実家のような安心感を感じさせているのだろうけれど、こう言う人って誤解受けそうだよな?
嵐牙さん……、状況が決まり次第動きそうだ。
樹之命さん……、同じように暗くなっている。長期休み明けの学生ほど厳しい物は無いしな。
ブシドー……、オレの答えを待っているのか、目を閉じている?
イーゼ……、良く分かっていないようだ。事実、オレを見ながら首を傾げていたが、目が合ったときに嬉しそうに笑ってくれた。可愛い。
「……な、何か気分良くお別れする方法って無いか?」
答えが出ない。そう結論付いたオレは、呻くように皆に尋ねることにした。
自分だけじゃ無理だったんだよ。
すると、待っていました。とでも言うかのように嵐牙さんが立ち上がった。
「だったら、お疲れさまパーティーを開くのが一番ヨ!」
「パーティー?」
「そう、出会いがあれば別れもある。そして、再びまた出会いがあるアル! だから、その祝いをするために盛大にパーティーをするのヨ!!」
「なるほど……、それはありだろう」
拳を握り締めながら熱く語る嵐牙さんの言葉に、流星さんも賛同し頷く。
そんな2人の言葉を聞きつつ、オレもアリだろうと考える。
……と、不意に袖を引かれ始めた。引かれているほうを見ると、イーゼが不思議そうにオレを見ていた。
「主、パーティーとは何なのだ?」
「あれ? もしかして、エルフにってパーティーとか祝うってことが無かったのか?」
「うぅむ、我には分からないのだ。イワンたちはしていたかも知れないけれど、我は一応知識にはあるといえばあるのだが、やっぱり理解出来ていないのだ」
オレの言葉にそう返事を返しながら、イーゼは眉根を寄せて唸っている。
そんなイーゼを軽く見てから、ブシドーを見る。彼女にもイーゼの言葉は聞こえていたようで、彼女はオレに向けて頷いてくれる。
だからオレは素直に思ったことを口にした。
「よっし、それじゃあサンフラワーさんたちとの暫くのお別れと、イーゼたちと知り合ったと言うお祝いを兼ねて盛大にパーティーをしよう!!」
「エルサァ……!」
「主よ、感謝するのだ」
「……で、エルサ。どんな感じにパーティーをするつもりなんだ?」
「あ、そうだな。それが一番大事だったか……」
瞳を潤ませるサンフラワーさんと、瞳を輝かせるイーゼ、そんな2人の視線を浴びるオレへと、ブシドーが問いかけて来た。
その言葉に、オレは大事なことに気が付いた。
パーティーはパーティーでもどんな感じのパーティーでどれだけの規模で行うのか考えていなかったのだ。
集落全体で行うのか、それとも島全体で行うのか? はたまた今此処に居る面子だけで行うべきなのか……。
「どうするべきか……」
「わたくしとしては、今は個人的にパーティーを行って……色々とやらかした敵を倒してから島全体でパーティーをしたら良いって思うぜ」
「拙者も同じ意見だな。今馬鹿みたいに浮かれても意味が無いだろうし」
悩むオレへとサンフラワーさんとブシドーが意見を言う。
そんな彼女の立ちの言葉を聞きながら周囲を見渡すと、同意見だと言うように頷くのが見える。
まあ、それもそうか……。そう考えながら、オレは確認のために多数決を求めることにした。
「とりあえず、皆に聞くけど……、今回のパーティーは今此処に居るメンバーだけで行えば良いと思う人ー」
オレが問いかけた瞬間、全員が挙手した。……うん、これは普通にここ限定だな。
そして、何か見るからにお偉いさんオーラがある皆には悪いけど、勝手にパーティーの方向性を決めよう。
「それじゃあ……、普通にダンスとか隠し芸とかは無しで、美味しい物を食べて和気藹々と話す普通のお家パーティーにしようと思うけど……良いか?」
「え、ダンス……無いのか?」
「普通無いだろう。というよりも、日本の一般家庭のようなパーティーだろうから色々と求めるな」
オレが想像しているパーティーのイメージを語ると、サンフラワーさんがキョトンとした表情をする。
……どうやら、サンフラワーさんはお貴族様のようです……。
そう心の底から思っていると、流星さんが静かなるツッコミを入れてくれる。
それを聞きながら、サンフラワーさんは「そうなのか……」と静かに呟く。
「ま、まあ、とりあえず……パーティーをする部屋はここにして、飾り付けを行って、美味しい食べ物とケーキを用意しようぜ! ブシドー、ケーキを頼めるか?」
「分かった。……が、普通にワンホールを作れば良いか?」
「ああ、それで頼む。他にもご飯を作ることが出来る奴は頼めないか?」
「わかたヨ!」
「あ、それじゃあ、うちもやります~」
「では飾りつけは我が行おう」
「ミーも手伝うネー! キミたちもイイかな?」
「わたくしも飾り付けを行うぜ」
やることを決めれば後は自発的に動き出す。
そんな感じに、オレたちは即座に動き出し、パーティーの準備を始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇
その翌日、パーティーを終えてブシドーたちのログアウト時間が近づいてきた頃、港のある集落の広場……テラっさんたちが磔にされていた場所に女神像が光と共に姿を現した。
「これでこの場所もポイントとして認定されたな」
「でも何と言うか、微妙な気分っすね~。わたしらが捕まってた場所にこれが出来るっていうのは……」
「まあ、色々と目立つ場所だったのだから、仕方ないだろう。我輩気にしてないからな……気にしてなんて……ギリッ」
「テラっさん、ミッちゃん、エクサ……」
現れた女神像をテラっさんは平然と見つめているのだが、ミッちゃんとエクサは微妙そうな表情で見ていた。
まあ、そうなるだろうな。
とか思っていると、女神像を通して神さまの声が聞こえてきた。
『テストプレイヤーの皆さん、そろそろ時間なので女神像の周囲に移動してください。ログアウトを行い次第、皆さんのアバターは一時的にこちらが預かります、次回プレイ時には何の変化も無くこの場でプレイが出来るようになっています』
「分かった。何とも新鮮な2ヶ月だった。感謝しよう」
「わかたヨー! それじゃあ、また会おうヨー!」
「OK! それじゃあ、カワイコちゃんたちミーが来るまで大人しくしててネー!」
「いやじゃあああああああ、2ヶ月も檻の中に居ったというのに、戻されるのはいやじゃああああああああ!!」
流星さん、嵐牙さん、ブラッドレックスさんがジ・ゴールドのクソジジイの入った檻を蹴りながら女神像の周囲に進んで行く。
というか、このジジイログアウトされていなかったのかよ……。
そう思いながら見ていると、初めにジ・ゴールドが檻ごと消え、続いて他の3人も次々と消えていく。
「とりあえず、うちは2、3日したらまた来ますので、そのときはよろしくお願いしますぅ」
「ああ、またよろしくな」
「はい~。それではぁ」
樹之命さんと軽く会話をし、彼女も姿を消して行った。
それを見送っていると、背中から抱き付かれた。
言わなくても分かるが、サンフラワーさんだ。
「うあー……、やっぱりいやだぁ! わたくしこのままエルサと一緒に居る~~!!」
「いや、そう言うわけにはいかないだろ?」
「そうだけど、そうだけどよぉ! おろろろ~~んっ!!」
……なんだろう、本当に駄目大人か残念美人ってイメージしかもう無いぞ?
とか思っていると、耳元で「うげっ!」という声とともに、抱きつかれていた感触が消えた。
どうしたのかと思って見ると……ブシドーがサンフラワーさんを拘束していた。
「エルサ、とりあえずこのままだと埒があかないから、拙者がサンフラワーを連れて行く。それで良いか?」
「あ、ああ、頼めるか?」
「任せろ。それじゃあ、また会おう」
「ああ、またな。ブシドー」
「ありがとうなのだ。またケーキを食べたいのだ!」
パーティーで食べたケーキの味が忘れられないのか、ブシドーに手を振りながらイーゼが礼を口にする。
その言葉に彼女は笑みを浮かべつつ、手を振り返し歩き出す。
「ああ、また会ったとき、もしくは王都に行ったときにでもご馳走しよう。ではな」
「エ、エルサァァァッ! ぜったい、ぜったいに近いうちにまた会いに来るからなぁぁぁっ!!」
ジタバタ暴れるサンフラワーさんと共にブシドーは女神像へと向かい、それが引き金となったのか彼女たちの体も光の中へと消えて行った。
あ、時間になったら強制ログアウトのようになるんだな……。
消えて行った彼女たちを見送り……、オレは軽く背を伸ばすとイーゼを見る。
「…………とりあえず、一度戻るか?」
「我は主とどんなときでも共にいるのだ」
そんな彼女の言葉を聞きながら、オレたちは移動を開始するのだった。




