暴走する友情と2ヶ月の成果
お待たせしました。
とりあえず、イーゼに襲われそうになったのはどうにかなった。
……なった。のだが…………。
「まったく! エルサ、何故お前は何時もそうなるのだっ!?」
「……はい、面目次第もございません…………」
今にも頭から湯気が出てしまいそうなほどに怒っているブシドーの前で正座をさせられながら説教を受けているオレが居た。
……どうしてこうなった?
本当心からそう思う。そして、原因となっていたイーゼに対してはサンフラワーさんが怒っているのか少し離れた所で話をしているのが見える。
だが何故だろう、説教しているというよりも……何かを話し合っている。その上、オレに被害が来る気がするのは……。
「エルサ、聞いているのかっ!?」
「ひゃ、ひゃいっ! 聞いていますっ!!」
ダンッ、と床を力強く踏み締めながらオレに顔を近づけてきたブシドーにびっくりしながら返事を返す。
と同時にサンフラワーさんが立ち上がった。
「……なるほど、こんな感じの木か。それじゃあ、行くとするか」
「待て、サンフラワー。お前はいったい何処に行こうというのだ?」
「決まっている。わたくしのミルクをエルサに飲ませるために、例の樹液を浴びに行くつもりだっ!! 止めてくれるなブシドー!!」
「「は?」」
グッと拳を握り締めながら、サンフラワーさんが立ち上がると爛々と瞳を輝かせていた。
……そんな彼女の言葉に、オレとブシドーは固まってしまっていた。
えーっと……いま、こいつ何て言った?
「というわけで、エルサ。待っててくれよ? 今、わたくしが美味しいミルクをご馳走して上げるから! わたくし、の美味しい、ミルクをッ!!」
「――って、ちょっと待てッ! サンフラワー、お前は何を言ってるんだっ!?」
いざ出陣、そんな感じに扉に手をかけていたサンフラワーさんの肩をブシドーが力強く掴む。
突然のことで固まっていたオレもブシドーがサンフラワーさんを止めるのを見てようやくハッとした。
「待て、サンフラワーさん。お前は本当に何をしようとしているんだ!?」
「決まっているだろ……。エルサにものすっごい、ものすっご~~い友情を与える方法。それはわたくし自身から搾り出された物を与える。それが一番だと思ったから、わたくしのミルクをエルサさんにちゅっぱちゅっぱごっくごっくと飲んでもらいたいんだ」
「ごめん、それ無理。普通に無理だから。オレそんな趣味は無いから、逆にそんなことをされると友情にヒビ入るから」
うっとりしながら、友情を確かめる方法を想像しているであろうサンフラワーさん。そんな彼女に対してオレは素でササッとそう言う。
冷静すぎる返事にショックを受けたのか、サンフラワーさんは愕然とした表情でこちらを見る。
「なん……だと……」
「サ、サンフラワー!? …………うぅむ、頭の行きつく先が変な方向だけど、かなり友情を大事にしたいっていう人のようだな……」
ガクッと膝をついて、通常『orz』のポーズを取った彼女を見ながら、ブシドーが何とも言えない表情を浮かべる。
ああうん、そうだよなぁ。行動はどうあれ……サンフラワーさんの友情に対する熱意は果てしない物を感じるな。
……少しぐらい慰めるか。
「あ~、えーーっと……、サ、サンフラワーさん。そんなに落ち込まなくても……、というよりもミルクなんて飲まなくても別に嫌ったりしないから……」
「……ほんとか?」
言葉に気をつけながら言うと、何と言うか捨てられた子犬のような瞳でチラリとサンフラワーさんはこちらを見る。
なので、オレはこくりと頷く。
「お、おぉ……、エ、エルサァァァ!! お前はやっぱり心の友だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うわっ!? お、おぉ……よ、よ~し、よーし……」
ガシリと抱き付いてきた彼女に驚いたが、それを言うときっとまた落ち込むと思うので宥めるように頭を撫でることとする。
……ブシドーを見ると、何とも言えない表情でこちらを見ていた。まあ、どう反応すれば良いのか本当に悩むよな?
イーゼのほうを見ると、自分も主の下へっ! という感じに飛びつこうとしているのが見えたので……とりあえず、制止するように手を動かした。
凄く残念そうな顔をした。
「えーっト……、これハ如何言う状況ネ?」
とか思っていると、嵐牙さんが部屋の外から顔を出して奇妙な物を見るような顔でこちらを見ていた。
その返答として、どう言えば良いのかわからないので、苦笑を彼女に送りつける。
だがそれがいけなかったらしい。彼女は誤解してくれた。
「あー……ウン、詳しくは聞かないヨ。皆、性癖は人ソレゾレと言うものだからネ。この世界は同性婚もアリだと思うカラ」
「ちょっと待てーーーーっ!? 何か変な感じに誤解していかなかったかぁっ!?」
「気にすることじゃないヨ。それよりも、ブラッドレックスサンも到着したから、そろそろ会議始めるネ!」
いや、だからオレの話をちゃんと聞いてくれっ!? そう言い終わる前に彼女は言うだけ言って戻って行った。
後に残されたのは、やれやれと言ったポーズを取って出口に歩き出すブシドーと、オレたち……いや、オレに向けて跳びかかるイーゼ、そしてゴロニャンと言う効果音が似合いそうなほどにオレに密着するサンフラワーさんだけだった。
◆◇◆◇◆◇
「……来たか、では会議を始めたいと思うのだが、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ……。そ、それより、皆はこの2ヶ月はどんな感じだったんだ?」
揉みくちゃとなり、服は整えたけれど髪が少しだけボサボサとなったオレを見ながら、流星さんが尋ねてくる。
なのでオレは返事を返しながら椅子に座る。……その周囲にブシドー、イーゼ、サンフラワーさんが座る
あの、周囲の皆さん? ちょっと、距離近くありません?
気のせい、最初はそう思っていたのだけれど、気のせいではなかった。
もう、肘と肘が普通に触れ合うくらいにギリギリに座っているよこの子ら!
「気にするなよエルサ、わたくしたちの仲だろ?」
「気にしないで欲しいのだ主、我は主と共に居るのだ」
「せ、拙者は、この者らが不埒な真似をしないか……じゃなくて、貴様が不埒な真似をしないか心配なだけだ!!」
「と、彼女たちは言っております……」
アナウンサーな感じに言うと、流星さんが何と言うか残念なもの? それとも哀れなものを見るような瞳でこちらを見てから、溜息をはあと吐いた。
「とりあえず我は色恋沙汰には疎いので、お前たちのことに口を出すつもりはない。だから今は何も言うつもりは無いし、そう言う話題は話を終えてからにして貰おうか」
「う……、わ……悪い流星さん。ほら、お前たちも謝れよ!」
「悪かったのだ。気をつけるのだ」
「わ、悪ぃ、ちょっと初めての親友に心踊っちまった……」
「す、すまぬ。拙者も強く言うべきだった」
ライオンを髣髴させるような気配に、オレは息を呑みこみつつベッタリと引っ付く3人に向けて言う。
すると彼女たちも悪かったことを理解しているようで素直に謝罪をする。
そしてその後はオレに構うということを一時的に止めて置くことを考えたようで、何も言わないまま話を開始した。
…………。
………………。
……………………。
「……なるほど、2ヶ月で大分集落だったものが村に変わり始めているようだな」
「NPC……いや、神様たちが操作しているアバターとエルフが頑張って家を建てているから、島の見た目には問題はないと思う。ただ……」
「問題は、エルフの少なさ……か」
オレの言葉に、全員が何とも言えない表情を浮かべる。
104名のエルフは救出された。けれど、半分ほどだ……。
しかも圧倒的に女性エルフが少ない。
「FOO……、残りのハーフは何処にいるだろうネー?」
「どこか、聞くなら……十中八九あの船の持ち主の所だろう」
「きっとイベントで、残り半分のエルフを救出しようって感じの物が始まるに違いないヨ」
「でしょうねぇ、きっと新イベントは荒れるに違いありません~」
……ああ、そう言えば公式上ではアップデート、実際は新地開拓が終わったらイベントなんだったな。
けど、疑問に思ったことがあったからオレは口を開く。
「そういえば、アップデート後に何か公式上では変化が起きたりすんのか? というかどんなアップデート内容になってるんだ?」
「確か……、ルーツフ地方解禁だけだったが、きっと何かが起きているのではないだろうか?」
「あーあ、こう言うとき、きちんと説明をしてくれる人物がいてくれたらなぁ……」
あ、それフラグ。絶対にフラグだ。
頭を抱えながらサンフラワーさんが呟いたのを聞いた瞬間、オレはそう思った。
そして、その予感は正しかった。
『では、私が説明に赴きましょう!』
「「「!?」」」
部屋全体に声が響いた瞬間、オレを除いたメンバーがビクッと体を竦ませた。
そして直後、光の粒子が集まると……2ヶ月振りに神さまがオレの元へと姿を現したのだった。




