巨乳と状態異常とミルク騒動
お待たせしました。
「ごちそうさまでした。…………ふう、美味しかった」
「おそまつさまでした~。お茶をどうぞぉ」
「ああ、ありがとう。……あぁ~、やっぱりご飯の食後には緑茶だよなぁー」
綺麗に平らげた定食を前に合掌するオレへと、樹之命さんがお茶が入った湯呑みを差し出したので受け取り中を見ると……紅い液体ではなく澄んだ緑色だったため緑茶だということに気づき、オレは喜々としながら口を付ける。
すると、口の中には爽やかでありながらもあっさりとした苦味が広がっていき、口の中の緑茶を呑み込むと共に……息を吐いた。
もう一口、そう思いながら湯呑みを口に付けた瞬間――、扉が力強く開け放たれた。
そして扉を開けた人物が力いっぱいオレへと跳びかかってきた。さながら銀色の弾丸のように。
「うわっひゃあああぁあぁぁぁぁぁっ!! エルサァ! 会いたかった、会いたかったぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
鼻息荒く、興奮しながらこれを行っている人物……サンフラワーさんが声をシャウトさせながら、オレの頬へと自身の頬を押し付けてスリスリしたり、背中から抱き付いてやっぱりスリスリしてきた。
彼女曰く友達とのスキンシップなのだろう。
何と言うか久しぶりに行われたこの行為にどう反応すれば良いのか悩む。……あと、彼女の体から漂っているのか女性特有の香りが気恥ずかしさを増してしまう。
「あー……ひさしぶり、サンフラワーさん」
「おう、久しぶりだなエルサ! わたくしは2ヶ月間エルサに会えなくて寂しかったんだぞ!」
「そ、そうなのか……。それで、良い感じに復興出来たのか?」
「あたりまえだ! わたくしは、頼まれた仕事はきちんとやる女性なのだからな!!」
オレとの会話が凄く楽しい、そんな感情が顔に出ているとでも言うようにサンフラワーさんは物凄く嬉しそうにニコニコと笑っている。
本当、どうしてこうなったんだろうな? あと、微妙に男らしいですサンフラワーさん。
とか思っていると、閉まりかけていた扉がまたもバンと力強く開かれた。
「や、やっと追い付いたのだ……! お前、我を置いて行くな! そして、主は我のものなのだ!」
「くそっ、撒いたと思ったのに……到着するのが早いんだよ。だが、わたくしはエルサを放す気はねーぞ!!」
いえ、誰の物でもありません。
そして、キミたち競争でもしてたのかい?
そう心から思いながら、オレは扉を開きドスドスと怒りを足に込めながら近づいてくる……イーゼを見る。
「…………え?」
固まった。そう、オレは固まった。……と言うか、此処に居る他のメンバーもサンフラワーさんを除いてお茶を咽せたり、素っ頓狂な声を上げていた。
当たり前だ。何故なら、オレへと近づいてくるイーゼだが、姿形は一部分を除いて同じなのだが……その一部分が大問題だったのだ。
その一部分、それは……たゆんたゆん。
それは……ぶるんぶるん。
それ……は……ぶるるんぶるるん。
「な、なんで、おおきくなってるんですかぁ…………?」
「む? どうしたのだ、主?」
震えながら呟くオレの言葉が聞こえていないようで、様子がおかしいオレを心配そうにイーゼは首を傾げながら見る。
そんな軽い仕草でも、たわわに成長してしまった双丘はゆっさと揺れる。
「……ちっ。この乳牛が……!」
「む、むぅ……、で、でかい……」
イーゼの急成長っぷりに苛立ちを抱いているのか、サンフラワーさんが舌打ちをし、ブシドーはゼツボーしていた。
ブシドーのゼツボー……。うん、座布団ぜんぶ持ってってください。
っとと、それよりもだ。
「イーゼ……、お前……そのおっぱ、うぉっほん、おっぱお……じゃなくて、その……む、胸は、いったい……?」
や、やばい、おっぱいって言うのが凄く……恥かしいッ! 今までだって普通におっぱいぱいぱいおっぱいぱいなんて言う台詞を喋ったこと無いんだからな!
それでも言い切ったオレは頑張ったと称賛されても良い。良いに違いない!
え、まったく称賛されない? そんなー……。
というか、だ。つい一週間前にやって来て、夕飯食べてお風呂に入ったときは普通だったはずだ。
……もちろん混浴とかしていない。湯上りの姿を見ていただけだ。
「おぉ、我のこの胸か? これはだな、今日のためにと昨日木の実を取っていたら、その白くてドロドロとした樹液を浴びてしまったのだ」
「……ん?」
ちょっと待て、樹液? 樹液って言ったか? そこはかとない嫌な予感を感じつつ、イーゼの話を聞いていく。
というか全員妙な顔をしながら、首を傾げている。
「昨日被ったときは何ともなかったのだが、今朝になったら物凄く胸が脹れてしまっているのだ。正直胸が痒いしパンパンに張っているのか痛いし、どうすれば良いのだ?」
「「って、それ状態異常になってるんじゃないですかーーっっ!!」」
「状態回復薬を飲めっ! すぐに出すからッ!!」
良く見ると、これは巨乳じゃない! 腫れ上がっているだけだ!!
そして、イーゼ自身の体もプルプルと震えているしっ! 顔も蒼ざめ始めているしっ!? というか、お胸様もますます膨らんでるしっ!? このままだと爆発するんじゃないのかっ!?
全員で叫びながら、慌てつつインベントリから状態回復薬を各種取り出しながら、イーゼの手を引くと奥の部屋へと連れ込む。多分他にも付いて来てくれているはずだ。
そう思いながら振り返ると、オレとイーゼだけだった。おおぅ。
「と、とりあえず、頭から薬を掛けるぞ? あと、これを飲め」
「わかったのだ。――わぷっ、ごくっ、ごく……っ」
一緒に来てくれなかったことにちょっとしょんぼりしつつ、効果がありそうな物を選ぶと頭から振りかけて、口に瓶の口を咥えさせるとそのまま容器を傾けさせて中の液体を飲ませる。
されるがままのイーゼだったが、そのお陰かブルンブルンとなっていた胸……いや、状態異常で膨れ上がっていた胸は徐々に萎んで行き、元のサイズに戻って行った。
……ん? 何かアイテムが手に入った?
「おおっ、痛くないし痒くないのだ!」
「あー、うん、よかったな……。こっちは凄く焦ったけどな?」
「……すまなかったのだ。そして、ありがとうなのだ主」
アイテム獲得音が響いたと同時に申し訳ないと思っているのか、イーゼは眉を垂れさせながらきちんと頭を下げてきた。
そんなイーゼを見ながら、オレはホッと一息吐いたのだが……インベントリに追加されたアイテムを確認することにした。
だが……なんだろう、そこはかとない嫌な予感を感じるぞ?
心からそう思いつつ、追加されたアイテムを手元に取り出す。
ちょっとピンク色のミルクが入った牛乳瓶だ。……これはいったい?
何のアイテムか調べるために詳細を確認した瞬間、オレは固まった。
何故なら……。
――――――――――
アイテム名:イーゼのミルク
品質 :最上級
説明 :ミルクタンクの樹液を浴びたアバターから採取したミルク。口当たり滑らかで、美味しい。
――――――――――
……えー? ミルクゥ? ミルクって何ですかぁ……?
微妙にほんのりと温かいことに気づき、妙な生々しさと言えばいいのかどう言えばいいのか分からないそれを握り締めながら、オレは目を閉じ天井を仰ぎ見る。
一方、オレの手に持っているそれが気になっているのかイーゼはマジマジと眺めている。……が、それは甘かった。
「主、それは飲まないのか?」
「えっ!? あ、あー……いや、その……ちょっと……」
正直、飲む気は無い。というか、知り合いから出たと言うミルクを飲めと言うのは無理。
……いや、それ以前に人型から出されたミルクは飲みたいとは思わない。
そういえば昔漫画で、ミノタウロスの子が乳を搾った物を出していたってのがあったとネットで聞いたことがあるけど……無理だ。
そんな拒否の方向に持っていこうとするオレを見ながら、イーゼは再び口を開く。
「我としては、主に我のミルクを飲んで欲しいのだ」
「…………」
「飲んで欲しいのだ。そして、味の感想をしっかりと口にして欲しいと思うのだ」
「…………あ、あの?」
「さあ、飲むのだ。我から搾られたミルクを飲んで欲しいのだ……っ!」
あかん、何か興奮しているのか鼻息荒くイーゼがオレに近づいてくる。
近づいてくるイーゼから逃げるようにジリジリと後ろへと下がり始めたのだが、すぐに背中が壁にぶつかり……横に逃げようとしたが、イーゼの伸ばした腕によって阻まれた。
しかももう片方の手には何時の間にかオレの手からミルクの瓶を奪いとっていたようで、蓋が開かれた物を手に持っていた。
何と言うか、正気じゃない。この子今正気じゃないよ!!
「いや、だから飲まないってばっ! ――って、何か妙に力強くないっ!? これっていったいどう言うことなのっ!?」
「飲むのだー。飲むのだぁ~~!」
「い、いやーーっ、た、助けてぇーーーーっ!!」
何なのこの状況、本当どう言うことなのっ!? 誰か説明してちょうだいっ!!
そう思っていると、バンと力強く扉が開け放たれた。
「ようやく扉が開いたっ!! 無事かエルサッ!? …………は?」
「いったい何が起きて…………は?」
開け放ったと思っていたが、どうやら蹴破ったらしく。スカートを翻したサンフラワーさんとブシドーの2人が部屋に突入し……固まった。
……まあ普通固まるだろう。壁ドンしながら、牛乳を飲ませるロリエルフと……壁ドンされながら、物凄く震えてる見た目銀髪ポニーテールのと言う状況は……。
と、とりあえず、助かった……のか?
状態異常:乳爆弾




