嫉妬の果て・1
お待たせしました。
苛立ちながらオレたちから去っていくアニマステラさんを見ていたオレたちだったけれど、一度体を綺麗にしたい。
そう考えて、一旦イーナの集落へと戻ると泥まみれとなったオレたちは何処から引かれているのか分からない井戸から水を汲み上げ、頭からそれを被っていく。
少しは綺麗になった。そう思うけれど、泥という物はこびり付いている物なので服を着たまま水を被っても簡単に取れるわけが無かった。
なので、少し……いや、かなり恥かしいけれど着ている泥まみれの服を脱ぐと、インベントリから取り出したタライへとぶち込み石鹸を混ぜて洗い始める。
体のほうも、下着姿となった状態で先程と同じように頭から水をぶっ掛けることにする。……というか正直言って寒すぎる!
と、オレ自身は気にしないようにしている……というよりも、他のメンバーも下着姿になって泥を洗い流しているので向こうを向いているのだけれど……強烈な視線を感じていた。
「……布下着の白、か。……素朴だけど、それが良いって人が多いんだよなー」
「…………えっと、サンフラワーさん。頼むから、興奮した瞳でオレを見ないでくれないか?」
何というか、見られていて恥かしい。そんな気分を味わっているからか、そんなふうに思い始め……気づけば体を縮ませるようにしながらそう口にしていた。
すると……。
「おっと、悪い悪い。それじゃあ、お返しにわたくしの下着を見てもいーんだぜ? ほらほら♪」
「っ!? み、見る気はないから!! というか、恥かしがってくれっ!!」
女同士、そんな条件が彼女の何かを緩くしているようで、ニヤリと笑いながらその肢体をオレへと曝け出して来た。
一瞬ながら見せられた白い肌とそれを包む黒色の下着にオレの顔は赤くなるのを感じ、急いでサンフラワーさんから視線を反らす。
オレのその反応に「ちぇ、つれねーなー」と口にしながら、離れてくれたようだった。
……もし、オレの中身が男だったって知ったら、どんなことになるのか……怖くて聞くに聞けないな。
はあ、と溜息を吐きながら一度頭の中を冷静にするために、しゃがんだままジッとする。
「やっと脱ぐことが出来たのだ」
「ちょっ!? イーゼさん! だから、裸になったら駄目だって言ってるじゃないですかぁ!」
「泥だらけのパンツを穿くのはもう嫌なのだ。だから、脱いだのだ」
「だったら、新しい下着を用意しますから!」
「い、いやなのだー!」
背後でそんな感じの問答が聞こえ、ドタドタという音が聞こえる。
……どうやら、イーゼはまたも裸となっていたようでそれを見つけた樹之命さんが、もう一度パンツを穿かせようと頑張っているのだろう。
放って置けば良いのだろうけど、それが出来ない人間なんだろうな彼女は。
そう思いながら、一度パンツの中の泥も洗い流すべきだと考え、汲み取った水が入った桶に柄杓を突っ込み、水が入った柄杓を片手にパンツを少しだけ広げると……ゆっくりと柄杓を傾けた。
「…………んっ、やっぱり……冷たいな」
日の光を浴びて少しだけ温かくなった肌に冷たい水は堪えたらしく、ビクッと体が震えると同時に口から声が洩れる。
けれど、パンツの中に入っていた泥が流れていくようでザラザラとした肌触りが消えていくのが分かる。
前を一通り流したので、今度は後ろへと水を流していく。……というか、これって凄く馬鹿っぽいポーズじゃないか?
一瞬そんな考えが浮かんでしまったが、オレの中では汚れを取りたいほうが重要と判断したので気にせずに洗い流していく。
そして、ある程度流し終えてすっきりすると一度布のワンピースに装備を変更する。
「……って、一度装備を変更してから脱いだほうが良かったんじゃ……いや、そしたら泥が嫌だし……ううん、どうしたらよかったんだ?」
悶々と悩みながら、濡れてグショグショな布下着を別の物へと変更させる。
すると体を包んでいたグショッとした感触は無くなり、フワリとした感触が体を包み込んだ。
……こうしてみると本当に下着って重要なんだな……。
改めてオレはそれを理解させられる。というか今までトランクス派だったのにピッチリとした女性用下着に変わった野田から尚更だ。
そんなふうに落ち着いていると、視界に新たな告知が表示された。
《――告知。アニマステラさんが寝返りました。》
「「「は?」」」
表示された告知に、オレたちの口から呆れた声が洩れる。
というか当たり前だよな、怒って出て行った結果のこれだからそんな声も出るだろう。
「周りに迷惑かけるだけじゃ飽き足らず、いきなり寝返ったって……人としてどうかと思うんだけど?」
「あー……、ああいう自分勝手な人って自分の都合が良い方向にならないと色々なことをしますからねぇ……」
「一応、わたくしも実家の付き合いでよく似た性格をした肥え太った豚どもの相手を偶にしてるけど、都合が悪くなったら途中で席外してそのままドロンってのが多かったなー……」
「良く分からないけれど、あいつが我らに更なる迷惑をしてきたのか?」
「そんな感じだと思ってください……」
体の泥を洗い落としたらしく、手持ちであろう簡素なワンピースに着替えた彼女たちも見た告知に呆れたように声を漏らしている。
一方で告知などが見えないこの世界の住人であるイーゼは首を傾げながらも、会話で何となく察したようだ。
そんな彼女への返事は樹之命さんに任せることにした。
と、告知の下に続きがあるのに気がついた。
何だか嫌な予感がしたので、プレイヤーである二人に開いても良いかと言う確認を視線で取ることにする。
多分だけど彼女たちにも同じような告知が届いているのだろう。
事実そうらしく、神妙な顔をしながら頷いていた。
それを確認してから、オレは告知の続きを表示させた。
するとそこには……。
《――邪魔呼ばわりした貴方がたに、ワタクシの強さを見せてあげますわ》
…………どう見ても、あの似非魔法少女からの挑戦状と言えば良いのか、復讐状と言えば良いのか……いや、この場合は逆恨み状って言うことにしよう。
そう思っていると、オレたちが立っているすぐ側の地面が盛り上がり始めた。
何か現れるのか? そんな盛り上がる地面を警戒しながら見つめていると一つの像が姿を現した。
……何というか、造形が良いと言えば良いのだけど……無茶苦茶美化しまくっているようなデザインの像にオレたちは顔を顰めさせる。
「これって、アニマステラ……さんだよな? 凄く美化してるけど」
「こういう美化はまだ良いぜ……、酷い物だとモデルと出来上がった代物がダレコレって言いたくなるのもあるからよー……」
「あ、けど何というか……色々とミスをしているのか気味が悪い感じがしますね。これってアレですよね? 昔流行ったっていう邪神像」
樹之命さんが何でそんなことを知っているのかは気になるけれど、言われて見れば何というか邪神像。そう一言で言えばしっくり来るのは確かだった。
というか、自分がこんなふうだと思っているのかあの人は……。
そう思っていると邪神像から赤黒いオーラが立ち込めているのに気づいた。
オレ以外のメンバーもそれに気づいたのか、ますます離れていく。
そんな時……。
『オ~~ッホッホッホッホ! どうかしら、ワタクシの素敵な像はっ! こんなに素敵で素晴らしい像を貴方がたには造れます? 無理ですわよね? む~り~ですわよね~ぇ?』
何かいきなり喋り出した。
というか、何だか凄く腹が立つ喋り方だった。
それを聞いていると、壊してやろうかと思い始めるのだが……あまり近づきたくないので抑えることにする。
『しかも、しかもですわよ。この像、なんと一方通行でワタクシが待っているイースの集落に辿り着きますのよ! クソ生意気なエルサさん、そしてワタクシを馬鹿にしたチビエルフ! 早くワタクシの前に来なさいな! 徹底的に叩き潰してあげますからっ!!』
オレとイーゼを名指し、というか物凄い悪口で呼んできたので、オレもイラッとし……イーゼもイラッとしているのかむっとしている。
……徹底的に叩き潰す……ねえ。出来るのかな?
「…………どーすんだ。エルサ?」
「あまりされたくないご指名ですが、どうします?」
「ぶっちゃけると、無視したい……。けど、何か無視したら追いかけて来そう……というか、行く先々であの邪神像を生やしそうだから、行くしかないよな?」
夜に寝ているときにも、道を歩いているときにも、戦闘中にも絶対にこの邪神像地面から生えてきそうだ。
というか、絶対に生える。
確信しながら彼女たちを見ると否定出来ないようで、口を噤んでいた。
「……分かった。けど、エルサひとり、もしくはイーゼを入れてふたりでなんて行かせねーからな? わたくしもついて行くから」
「同じく、うちも付いて行きますよ」
「あの馬鹿をボッコボコにして現実というものを教えてやるのだ」
「三人とも……。分かった。それじゃあ、戦う準備を整えて……1時間後に出よう」
「「「わかった(のだ)」」」
三人が頷くの見て、オレも装備を整えることにする。
…………何事もなければ良いけど……、というよりもどうやってあの似非魔法少女は自分の力を見せ付けるんだろうか?
ま、大丈夫だろう。
そう思いながら、オレは再び装備を整える作業を開始した。
像のイメージは、よくよく小学生の女の子が描く手足とか鼻が長い感じのイラストを立体化させた感じです。
で、顔の目元辺りの造形がアレになってるために邪神像っぽい印象がありますね。
……うん、普通に邪神像だ。




