訓練
前回のあらすじ:訓練を受けることになりました。
こうして、オレは訓練を開始し始めた……わけなのだが、何故か今現在訓練場のグラウンド的な場所を走っていた。
訓練を開始した際に服装変更となった体操服(半袖ブルマー)姿のオレだが、靴のほうも革靴などではなくファンタジーぶち壊しと言ってもいい運動に適したスニーカーになっていた。
だから正直な話、走れと言われて走ったとしても問題は無い。
問題は無いのだが……。
「こらー! そこっ!! 恥かしがらずにちゃんと走るッスーー!!」
「むっ、無茶言うな!! ただでさえこんな服装だというのに……、し、視線がっ!!」
オレを氷橋かおるボイスで叱り飛ばす赤毛のポニテ女性を見ながら、オレは逆ギレっぽく返事を返す。
ちなみに叱り飛ばした女性のほうも、ふっつーに半袖ブルマーなのだが……慣れ切っているのか胸下辺りで半袖を結んで臍だしをしているにも拘らず、平然としながら首に長めの赤いタオルを引っ掛けながらメガホンを片手に持っていた。
「遅い、遅すぎるッスよーー!! もっと、腕を振り上げて、脚を上げてちゃんと大地を踏み締めるッス!!」
「わ、分かってるけど……、ま、股ずれというか……ブルマって、走ってると喰い込むって言うか……ごにょごにょ」
メガホンを口に当てて女性はオレにアドバイスと、本気を出すように指示する。
けれど、本当に何度もいうけれど、視線もだが……初めて、というか人生で着用するわけが無いと思ってた初ブルマーはオレを地獄の道へと引き摺り落としていた。
力を込めて脚を上げて走ろうとはした。だが、走って行くに連れて股間辺りに外周を覆うゴムが喰い込んでしまうわけだ。
……いや、実際のブルマーってこうなのかは知らないけれど、これをデザインした人はきっと想像で補ってるに違いない……!!
きっと、漫画とかアニメとかでブルマー穿いてる女子が御尻に喰い込んだブルマーを直す的な感じの。
……え? そんなことは良いから、この女性は誰だって?
うぅ、オレの地獄は別にどうでも良いってのかよ……、彼女の名前はミリ=リットル。
設定ではリットル訓練場の教官のひとりで、赤毛のポニーテールが印象的な19歳の身長高め女子だ。
そして、設定ではリットル訓練場の跡取り娘という……が、中身の神さま同士は本当に親子なのかは分かる訳が無い。
更に恐るべき情報……それは――。
「もー、何やってるッスか!? こう、腕を振り上げて、脚を上げてって言ってるじゃないッスか!!」
『『オオオオオオオオッ!!』』
――ブルンブルンブルンッ!!
まるでそんな音が聞こえるかのごとく、並走するミッちゃんの胸元は激しく揺れた。
それが起こった瞬間、我を忘れた男性たちの歓声が聞こえる……が、姿を見せようとしていない所から隠れているようだ。
…………そう、ミリことミッちゃんの恐るべき情報……それは、超が付くほどに巨乳なのだ。いや、爆乳という種類か?
だがその爆乳、見てて気色悪いとか思ってしまう奇乳と呼ばれる類ではなく、活発な中にある滲み出るエロスというものなのだ!!
それを間近で見たオレは、興奮……よりも、驚愕を抱いていた。
だって、遠くから見たら体操服越しに巨大なメロン……いやスイカが縦横無尽に暴れ捲くっているだけなのだ。
だが、目の前……ほぼ隣で見るそれは、凶器! 間違いなく凶器なのだっ!!
「こんな感じッスよ? ……どうしたッスか?」
「いえ、なにも……。というよりも、何でオレは走っているんでしょうか……?」
「どうしてッスか? あー……まあ、簡単に言うとッスね」
「ふごっ!?」
ミッちゃんは言い辛そうにしていたが、一気にオレへと近づいてきた。――2つの凶器へとオレの顔が沈む。
ぐ、ぐおおお……、あ――柔らかくて良い匂い……♪ 汗と香水の混ざったような香りがすばらし――って、変な世界に旅立つなオレッ!!
何とか自制をしたオレは、照れながらオレから胸を離れさせるミッちゃんを見ていたが――。
『えっと、これで通じると思うッスけど……如何ッスか?』
『え? あ……ああ、内緒相談か』
頭の中に聞こえるミッちゃんの声に、オレは納得した。
内緒相談、それは他のゲームで言うところのウィスパーチャット的なものだ。
ちなみに使うときは、互いの体を密着させるとか……言うわけはないのだが、今の抱きつきは何か意味があったのだろうか。
そんな疑問を抱きつつ、頭に聞こえてくる声にオレは小さく頷くと、ミッちゃんは頭の中で話し始めた。
『今、キミが入ってるエル様の体って十全に使えていない状態だっていうのは分かっているッスよね?』
『それは、分かってる。武器も持てないし……街の外に出たら、それ以前に暴漢に襲われたらひとたまりもないだろうな。……まあ、武器は使えなくても軽く退けるぐらいは出来るだろうけど』
『……武器だけ、って思ってるみたいッスけど……バトルアビリティのほうもかなりガタガタになってるッスよ?』
『えっ!?』
驚きつつも、オレは心の中でバトルアビリティを唱えるとオレだけに見える透明なパネルが表示された。
それを見た瞬間、オレは愕然とした。
――――――――――
・gぬいのうあんvば術 : LVあ
・ 術 補 : LVえ
・ 体gなうvにうあ化 : LVQ
・ mなないbなおlb : LVんごいな
――――――――――
……うわ、ナニコレ…………?
初めて見たバトルアビリティのバグっぷりにオレは天を仰ぎ見た。
こんな状態で、暴漢などに襲われたりしたらアイテムとか盗まれるだけじゃなくて、オレも競売にかけられるじゃねーかよ。
……ちなみに酷い話をするけれど、このゲーム……一応PK行為が容認されていたりする上に、他人のエルミリサを誘拐されたりもするという鬼畜過ぎる面もあったりする。
誘拐された場合は、何処の誰が誘拐したとプレイヤーに連絡は行くし、連れて行かれた場所とかも表示されたりする。
つまりは、捕まった者を取り返せと言うことなのだ。……が、別の言い方をすると放置したら放置したで構わなかったりする。
けれど、その代わり街のNPCからの印象が悪くなる……それもあからさまな態度でだ。
イメージ的に言うと、騎士道を重んじる騎士団長が普通ならば固い感じながらも受け答えしてくれていたのが、誘拐されたエルミリサを放置していたらゴミを見るような目で「貴様に放すことなど無い、去れこの屑が!!」と剣で叩き斬ってくるのだ。
他にも、元気にニパーって笑顔を向けてくれる道具屋の娘さんは、やさぐれて一番格安の回復薬でさえも粗悪品である上に1000倍の値段で無理矢理購入させるのだ。
……ちなみに誘拐した側は裏の世界的なものがあるのでそっちで色々としているので、特に支障は無い。
それはこのゲームでの最悪すぎる暗黒面だと思う。
そんな風に軽く現実逃避をしていたら、ミッちゃんが話しかけてきた。
『そういうわけで、キミがエル様の体を上手に扱えるようにするための訓練と同時に、軽いながらも身体強化系のスキルを再習得してもらおうと思ったわけッスよ』
『な、なるほど……。お願いします』
改めて危険な状況だったことを知ったオレはミッちゃんに頭を下げて、本格的に訓練を行うことを心で誓ったのだった。
……けど、男性プレイヤーたちによるスクショとか録画とかをどうにかして欲しい。と思うの、今は諦めるしかないのか……。
その視線に気づくミッちゃんは、優しく慈愛に満ちた瞳で……首を横に振るった。
つまりは、諦めろと言うことだ。
とりあえず……諦めよう。多分きっと、今のオレは死んだ魚のような瞳をしていることだろう。
心からそう思いながら、オレは走ることを再開したのだった。
◆
~~~~~~~~~~
バトルスキル【身体強化:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【脚力強化:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【瞬発力強化:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【ダッシュ:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【持久力強化:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【気配感知:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【肉体再生:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【精神耐性:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【隠蔽:LV1】を獲得しました。
バトルスキル【無の境地:LV1】を獲得しました。
~~~~~~~~~~
「っ!?」
1時間が経過し、無我夢中で走り続けていたオレだったが聞き慣れたポーンという音と共に透明なパネルが表示され、ズラリとオレが獲得した情報が流れ出した。
突然のことで驚いたオレはビクリとその場で跳ね、どうしたのかとミッちゃんに見られた。
……が、すぐにスキル獲得が完了したと理解したのか笑みを浮かべた。
『その様子だと、スキルを獲得したみたいッスね!』
『あ、ああ……。けど、ここまで獲得するって如何いうことだよ……って、ああ、そういうことか』
そう言ってオレの成長限界が無限であることを思い出し、すぐに納得をした。
……が、幾つか普通に走っていたら覚えるはずが無いバトルスキルがあることに気づいた。
……いや、理由は分かる。理由は分かってるつもりだ。
何せ、あのネットリとした男たちの視線を感じていたのだから頭が変になりそうだったから【精神耐性】が付いたのだろう。
そして、【気配感知】は何処から視線が来るのかを初めのころは感じていたからだ。でもって、その視線から体を隠すようにしていたから【隠蔽】が付いた。
じゃあ……、【無の境地】って何だ? そう思いながら、そのスキルを見ていると詳細が表示され始めた。
――――――――――
バトルスキル【無の境地】
説明:考えるな、感じろ。
――――――――――
いやいやいやっ! 何その説明!? 何処のカンフースター!?
まあ、覚えはある。覚える原因となったことに覚えはあるのだ。
周りの気配を感じ取りながら、体を隠しつつ走っていた。けれど……羞恥心がある一定値に到達した辺りからもうどうにでもなれ~☆的な感じに頭を空っぽにして走り続けていたんだ。
多分、それが原因だろう……。と言うよりも、それ以外の原因は無いだろう。
ちなみに……一時間走り続けてステータスはどうなっているかも一応確認しておいたほうが良いかな。
そう考えて、ステータスを表示させる。
――――――――――――――――――――
名前 : エルミリサ
種族 : 半神
年齢 : 14
H P : 2218/3718(+500) (∞)
M P : 309/ 489 (∞)
STR : 452 (∞)
VIT : 353(+100) (∞)
DEX : 594 (∞)
AGI : 943(+50) (∞)
INT : 42 (∞)
MND : 52(+10) (∞)
LUK : 9 (∞)
――――――――――――――――――――
……うわぁ、またも上がってる。
ぐんぐんと上がってるよこれ……。
そう思いながら、簡単に計算すると……HPを1000消費して、半分の500が上昇。
でもって、VITは10の1の100。
AGIは20分の1の50。
あと、何故かMNDも20分の1上がっている。……いや、ある意味精神的にきつかったけどさぁ!
……まあ、良いか。
「さて、それじゃあ今度こそ、剣の訓練を始めるッスよ!!」
「あ、お願いします」
「この、ミリ=リットルにド~ンと任せるッスよ!!」
そう言ってミッちゃんが自らの胸をドンと叩くのだが、その衝撃でおっぱいがボヨンと揺れていたるところから歓声が聞こえた気がした。
……いや、気がしたではなく、事実だろう。
そう考えながら、オレはミッちゃんが差し出してきた木剣を掴んだ。
これからが、本番と言うことだ。
………………頑張ろう。
まだ続くんじゃよ。