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散り散りのメンバー・1

お待たせしました。

「ああクソッ、クソッ、チクチョウ! 本当、一体全体なんだってんだよっ!!」


 苛立ちながら、わたくしは口汚く叫び声を上げながら廃墟と言っても可笑しくない集落の中を駆け回る。

 その間にも、わたくしを狙う狼タイプのモンスターたちが一気に地面や屋根の上を駆けながら迫ってくる。


「ちぃぃっ! 炎の鞭よ、奴らを叩け! 『フレイムウィップ』!!」


 ――GYAN!?

 ――GURURU!!?


 わたくしの口から紡がれたスキルにより、虚空から炎の鞭が姿を現すと同時にわたくしを狙っていた狼タイプのモンスターの顔や鼻を的確に叩いた。

 叩かれたモンスターは熱さと傷みが同時に襲い掛かったようで、情けない声を上げながらゴロゴロズササとわたくしを追い越すようにして地面を転げていった。

 やった。とわたくしは自分を褒め称えたいと思う。けれど……わたくしを狙っているのはあれらだけではない。


 ――GAAAAAAAAAAAAAA!!


「――っ!? っくぅ!! あっぶねぇなこの野郎がっ!! 穿て氷よ! 『アイシクルランス』!!」


 スピードを緩めないまま曲がり角を曲がろうとした瞬間、目の前に待機していたらしき熊タイプのモンスターが振り上げた腕をわたくしに向けて一気に振り下ろしてきた。

 けれど、寸でのところで体を倒れこませて、地面を擦りながら転がって民家の壁にぶつかりながら止まるとすぐさまスキルを放つ。

 放たれた氷の槍は熊タイプのモンスターの胸に突き刺さり、そこから全身に広がるようにしてモンスターの体を凍らせていく。その間にわたくしは立ち上がるとその場から移動を再開する。

 ……が、無理な体勢で回避をしたからか片足の足首を挫いてしまったらしく、一歩歩くごとにズキンズキンと痛んだ。


「くっそ、痛ぇ…………仕方ない。ちょっとあの家で休ませてもらうか」


 あー、くそ。本当なんでこんな目に遭ってるんだろうか?

 普通にエルフたちと一緒に街造りをするだけだと思っていたのに……。

 ぶつくさと文句を言いながら、家の扉を開けてわたくしは滑り込むように家の中へと入り込む。

 外の気配を探るけれど……、家の中だと気づかれ難いようで近くにモンスターが屯っている気配は無い。

 そのことにホッと息を吐きながら、わたくしは自らの髪を掻き揚げる。

 掻き揚げられた髪は銀糸のようにキラキラと輝きながら上から下へと下りていく。それを目で追いつつ……服を見る。


「ああ、っくっそぉ……折角のドレスが泥だらけじゃねーかよ……!」


 もう一度言うけど、何でこんなことになってんだよ! 誰かいい加減事情とか教えろってのっ!!

 心からそう思いながら、わたくしことサンフラワーは荒っぽく椅子に腰掛けると苛立たしげに貧乏ゆすりを開始しながら、この状況をどうやって切り抜けるか考え始める。


「正直言うとモンスターも馬鹿みたいに多いし、絶対に正面突破なんて行ったら途中で魔力が尽きる。というかその前に囲まれて絶え間ない攻撃でやられて死ぬ!」


 何だよこの無理ゲーは。というか他の面子も大丈夫なのか?

 そう思いながら、今のわたくしの様子を見たら他の面子はどんな顔をするかが見物である。

 多分、ハトが豆鉄砲を食らうのではなく、ハトにガトリング砲を撃ち込まれたような表情をするだろう。

 それほどまでにわたくしは、彼らの前でクールキャラっぽい感じになっていただろうと自負出来る。

 というよりも、あまり会話をしないように気をつけているから、物静かだったりクールだったりという印象が付いているのだ。

 こう見えて、わたくし――サンフラワーこと本名ルクレチア=フラウは物凄く言葉が汚いのだ。

 誰の影響なのかは分からないが、12歳になった頃には「うるせぇ!」とか「クソがっ!」がよく出る少女だった。時折「フ●ック!」とかも出る下品さだ。

 真面目な両親は当然頭を抱えた。だから、執事のセバスを常時同行させるようにさせたし……あまり喋らないようにとも言われた。

 結果、わたくしは寡黙でクールなお嬢様という印象が付いてしまっていた。

 その事実を知って、当然頭を抱えたくなったけれど、付いてしまったイメージは今更払拭することは出来ない。

 ゲームでも現実(リアル)でもだ。


「はあー……、今更だけどわたくしの悩みを分かち合ってくれるような人はいねーのかなー?

 こう、女の子女の子した外見なのに、中身は女の子ってよりも男の子よりな感じで、イカレタ奴……」


 イカレタ、という言いかたは酷いだろうけど、現実のほうは環境的に無理だと分かっているのでゲーム内でのイカレタ奴だ。

 こう……異常な攻撃力とかで並み居る敵をバッサバッサと薙ぎ倒して、それをさも当然と言わんばかりのことをする奴が良いな。そして、色々と苦労性な感じで……。


「ま、そんな奴はいねーわな。それよりも、ここからどうやって出るかが問題……か。本当、来てくれねーかな……イカレタ救世主」


 そんな希望を呟きながら窓の外を見ると、熊タイプのモンスターがすぐ目の前をノシノシ歩いているのが見えた。

 しかも、一軒一軒家の中を窓から見ているのだろう、窓を覗こうとしているところだった。


「っ!?」


 今はもう少し休みたい。心から思いながら、わたくしは椅子から滑り込ませるようにして体をテーブルの中へと潜り込ませた。

 直後、熊タイプのモンスターが家の中を窓から覗き始めたようだった。


 ――GURUURURURURURURURU…………。


 獣特有の唸り声が窓から聞こえる中、わたくしは息を押し殺してジッとする。

 ああいうモンスターはほんの少しの動きでも敏感だから、余計な音を立てないように……。

 そうしていると、熊タイプのモンスターは調べ終えたようで、ノソリノソリと窓から離れていく。

 普通なら、ここでふうと息を吐けば良いだろうけど、それをやったらフラグとか立ってしまいそうだから……押さえることにする。

 ……そして、数分ほどジッとしてからわたくしはテーブルの下で足首の治療と減った体力を回復させるために動き始めた。


「患部に塗り薬を塗っておいて、体力回復は……パンと飲み物で良いか」


 インベントリの中から軟膏タイプの回復薬を取り出し、靴を脱いだ素足に塗りつけてから……すぐ隣に置いておいたパンに齧り付く。

 硬いフランスパンに近いそれを無理矢理咀嚼しながら、船でかっぱぐっておいた白葡萄ジュースを口にする。

 ……正直、甘過ぎる。甘すぎるが……疲労回復に甘い物が一番だし、パンのお陰で口がボソボソしているから我慢して飲む。

 というか……わたくし、今物凄くお嬢様っぽくないよなー……。まあ、元からか。


「はあ……。まあ、隠れて食うことは魅力を感じるけど……よし、痛みが引いてきた」


 足首の痛みが薄れて来たのを感じながら、わたくしは頷きつつ靴を履こうとする……が、ちょっと考える。

 というか、ようやく休めたのだから考えないといけないはずだ。

 今履いている靴はドレスに見合ったパンプス。当然、太いながらもヒールが付いているので運動には適さないデザイン。

 周りの意見を無視して太目のヒールの物を作って貰って良かったと思う。

 だけど、これはちょっと走るのには適さないと思うから、わたくしはそれらをインベントリの中へと収納させると変わりに革のブーツを装備する。


「これで少しは足元が安心になる……って所か。上も変えることが出来ればいいけど、生憎とストリーキング……いや、クイーンになるつもりは無いからな」


 呟きながら、わたくしは一瞬でも下着姿になるのに抵抗しつつ装備を改める。

 ドレスの上にドレスと同色のケープを羽織り、防御力を上げる指輪と速度を上昇させる腕輪を嵌める。

 最後に向日葵を模った杖を手にし、戦闘をするための準備は完了だ。


「まあ、無理に飛び出してモンスターに囲まれるよりも、誰かが来てくれることに期待するつもりだ……け……ど……あ」


 視線を感じ、わたくしが窓を見ると……ジーッと数匹の熊タイプのモンスターが中を見ていた。……当然視線はわたくしを、だ。

 こ、これは……危ないのでは?

 そう思いながら、冷や汗を垂らしながら愛想笑いとともに手を軽く振ってみる。……ただし、驚いてしまっていたからか中指以外を閉じた挑発を込めた手で。


 ――GAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOO!!

 ――GUUUURRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOO!!!


「う、うおおおおおおおおっ!? ア、『アイスガトリング』!!」


 わたくしの挑発を受け取ってしまったのか、モンスターたちは切れ気味に家の壁を叩き壊した。

 当然わたくしは慌てながらテーブルの下から飛び出し、すぐさま杖を前に突き出しながらスキル名を叫ぶ。

 直後、スキルが発動し前面に向けて無数の氷の礫が連続的に放たれた。

 ドゴゴゴゴゴと放たれる氷の礫に、熊タイプのモンスターたちの雄叫びが聞こえるが止めるつもりは無い。

 というよりも慌てていたから消費魔力の限度を間違えたのだ。


「……やっべ、やりすぎた」


 土煙が収まるとそこには、襤褸のようになった熊タイプのモンスターたちが転がっており、周囲にも穿たれた後が出来ていた。

 ……けれどその代償は大きく、魔力を半分以上使っていたのだ。

 そして、更に最悪なことに今のスキルの爆音を聞きつけたらしきモンスターたちが近づいて来ているのか、唸り声が所々から聞こえ始めた。


「これは……、万事休すと言うやつだよなー……」


 諦め気味に呟きながら、わたくしは荒々しく椅子へと座る。

 もう諦めた。今の魔力で戦っても、応戦出来るわけが無いし……逃げたとしても狼タイプに襲われて終わりだ。

 だったら、諦めて身を委ねよう。


「あー、本当……今のこの状態でアバターが死んだらどうなるんだろう?」


 そんな疑問を抱きながら、組んだ脚に肘を置いて頬杖を付きながら崩れ落ちた家の壁を見ているとモンスターたちが姿を現した。

 とりあえず、お手柔らかに頼むわ。そう心で思いながら、目を閉じる。

 そしてモンスターたちはわたくしを襲ってきた……はずだ。


 ――GYAAAAOOOOOOOOOOO!?

 ――GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?

 ――KYUUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOONNNNNN!!


「な、なんだぁっ!?」


 目を閉じた瞬間、突然響いた無数の雄叫びにわたくしは慌てながら目を開いた。

 直後、わたくしの瞳には青みがかった銀髪で作られた2つの尻尾を揺らしながら、ナイフを振るいモンスターたちを屠っていく少女の姿が飛び込んできた。

 その姿は荒々しくも優美で、まるで舞いやダンスでも踊っているとでも言うような動きでモンスターたちは切り裂かれていった。


「す、ごい……、すごい、すげぇ……!」


 その姿を見て、わたくしは段々と興奮し始め……口荒く少女を称賛する。

 これだ、これなんだよ! 見たかった、イカレタ奴ってのはこういうのを言うんだよっ!!

 荒々しい鼻息とともにわたくしは、少女の姿を見続ける。

 最後の一匹を切り伏せ終えると、少女はふうと息を吐いてから……ゆっくりとわたくしのほうへと近づいてくる。


「おーい、無事かー?」


 愛らしい声で紡がれた言葉を耳に、わたくしは少女を見るのだった。

ってことで、一人目はサンフラワーさんとなりましたが、実は物凄く言葉が汚いからあまり喋らない系となりました。

そして、こうしてエルサ信仰者が増えていくという……。

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