エルサ無双
お待たせしました。
――GURRRROOOOOOOOOOOO!!
――GGGAAAAARRRRRRRRRRUUUUUUUUU!!
まったく出てくる様子が無いオレたちに痺れを切らし始めたのか、熊型のモンスターと狼型のモンスターを筆頭にホームの境界を叩き始めた。
その音にイーゼがビクリとするけれど、ホームにはエネミーの進入が禁止されている。だから何の心配も無い。
まあ、代わりにオレたちが出るのも一苦労しそうだけどな。
「そろそろ、敵も痺れを切らしているし……他のメンバーもどうなってるか気になるところだから、出るか」
「そうですねぇ……。けど、周りを囲むようにモンスターがびっしりですよ?」
「そうだよなー。……とりあえず、オレが先に出て道を切り開くから、その間に出るってことで」
「え? ちょ――ちょっと待!」
オレの言葉に唖然とした声を漏らす樹之命さんだったけれど、返事を待たずにオレは飛び出す。
そんな飛び出したオレの背後から樹之命さんの慌てた声が聞こえたが、そのとき既にオレはホームから飛び出した後だった。
――GGGRRRRRUUUUU――GA!?
走りながら、ホームから飛び出す瞬間――、折り曲げた膝をガリガリとホームの境界に爪を立てる狼型のモンスターの顔面へと打ち込む。
直後、膝へとミシリという何かを砕く感触と柔らかい感触が一瞬だけ伝わったけれど、それが終わる頃には膝を打ち込まれた狼型モンスターは後ろに居たモンスターを何体か巻き込みながら後ろへと吹き飛ばされていた。
だがオレはその様子を見届けること無く、地面に足を付けると素早くナイフを両手に一本ずつ握り込み立ち上がるとともにスッスッ、と下から上へと腕を振るった。
すると、唖然と見ていた両隣に立つ熊型モンスターの体が下から上に向かって真っ二つに切り裂かれ、左右に分かれて倒れていく。
その瞬間、操られたモンスターたちは怯えて逃げること無く、ましてや怒ることもなく一斉に敵意を向けながらオレへと襲い掛かってきた。
……このまま逃げてくれたら良かったんだけどな。
心の中で思いながら、一斉に襲い掛かるモンスターたちの対処を開始する。
「一発でも当てれば勝手に倒れるから、問題は無いな」
呟きながら、襲い掛かるモンスターたちを見るが……殆どが狼型と熊型ばかりだ。そしてその中に紛れるように兎型や鹿型のモンスターがいるのが見えた。
やっぱり森だから獣系が多いってことか?
そんなことを考えながら、手始めに槍のように突撃して噛み付こうとする狼型の眉間へとナイフを突き出す。
ナイフが突き出されたのが突然のことだったので対処が出来なかったらしく、狼型の眉間へとナイフは吸い込まれるように突き刺さった。
そのまま狼型が突き刺さったままのナイフを振るって熊型を殴りつけるとゴキャという音が耳に響き、熊型が崩れ落ちる。
――GGOOAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
そしてもう片方の手に握ったナイフを、両腕を広げて襲い掛かろうとする熊型の喉目掛けて突き刺す。
……が、突き刺しただけではしとめ切れなかったようでオレへと腕を振り下ろしてくる。なので、突き刺したナイフを喉の中で回して方向を変えるとそのまま横にスライドさせた。
――GO――GOGAGA――GOHYA?
瞬間、熊型から呻き声が洩れたが、最後まで言い終る事無く首が落ちながら倒れていった。
倒れたモンスターたちが素材へと変わっていくけれど、倒したら空いた場所に別のモンスターが入り込んでくるので休む暇はない。
「ああ、次から次へと……!」
パキンと音がし、ナイフが折れたことを理解しながらインベントリから新しいナイフを取り出して振るっていく。
狼の口を斬り、熊の腕を落とし、兎の歯と打ち合い、鹿の角を叩き折る。
それを繰り返していくのだが、樹之命さんとイーゼがまったく出てこないので……チラリと泉を見るとモンスターに圧倒されて出れないようだった。
「二人とも出れそうにないか?!」
「は、はい! 何だか倒しても倒しても穴が空かないといった感じで、出るに出られません!」
「大丈夫なのだ、出たら良いと思うのだ!」
「とりあえず、樹之命さんはイーゼが飛び出さないようにしておいてくれ! その間にオレは一気にモンスターを蹴散らすから!!」
飛び出そうとするイーゼの肩を掴む樹之命さんにそう言うと、オレはホームの近くまで敵を斬りながらバックステップで戻る。
トンッと地面に足を踏み締めるとオレがついさっきまで居た場所は既にモンスターの領域となっているようで再び埋め尽くされていた。
本当、このモンスターの量は異常すぎるだろ……。
「まあ、幾ら湧いたとしても、無限じゃないだろうし……何とかなるだろ」
っと、余所見はいけないな。
ナイフを構え直し、正面を見ると先程までの馬鹿みたいな突撃とは打って変わって、ジリジリと様子を見るようにしながらオレを見ているのが見えた。
それならこちらも好都合、といったところだろうか。
……それとも、こちらの油断を誘っているのかも知れないけど……。もしそうだったら乗ってみようか。
「二人とも、でかいのを放って一気に周囲の空間を空けるから、その後に出てくれ。あと、ちょっと森が削れると思うけど気にしないように」
「わ、分かりました! ……って、今なんて?」
「わ、わかったのだ……! え? お前、今なんて」
その言葉に背後を見ていないけれど、ビクッとした様子で返事を返す二人の声が聞こえた。後に続く言葉は無視で。
さてと、それじゃあ……始めるか。
両手のナイフをインベントリの中に収めるとモンスターたちがより警戒を露わにし、唸り声を上げながらオレを見る。
突然丸腰になったことで何かをするのではないかという危険を抱いたようで、オレを取り囲むようにしながら周囲を歩き続ける。
そんなモンスターの様子を見ながら、オレはインベントリから狂戦の斧を取り出す。
地面に沈むようにして現れた巨大な斧を見て、モンスターたちはより警戒を表す。だが……ここで襲ってこなかったのがこいつらの失敗だったな。
そう思いながら両手で掴んで持ち上げると、振り被り――足を前に力強く踏み締めるとともに、一気に薙いだ!
「はあああああっ! 『フルスイング・バーストーー』!!」
――GYAN!!
――GAAAAAA!!
――KYUUUUUU!!
ブォンと重厚な物質が風を斬る音が周囲に響き渡り、オレを取り囲むモンスターの体を叩き切る。
だがそれだけでは終わらない。一回転、二回転とブォンブォンと風を何度も斬る音が響き渡り、斧の重さに回されるようにしてオレの体を軸に斧は止まること無く回転していった。
回転が速くなるにつれ……モンスターたちの血飛沫と断末魔が巻き上がり、さながら嵐となっているようだった。
そんな中、オレは斧へと風の魔力を込め始める。
すると、緑色の輝きを斧が発し始め、風切り音とともに風の刃が四方八方へと放たれ、モンスターも木々も全て薙ぎ払っていった。
そして最後に自分たちが進むべき方向を見た瞬間――足を使って地面を踏み締めることで回転を一気に停めた。
ミシミシと急に停まったために回転の力が体に襲い掛かるが、無理矢理方向を変え――地面に向けて振り下ろした! 直後、体全体に溜め込まれた全て力が解き放たれた!!
「く――らぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぇぇぇーーーー! 『テンペスト――ブレイカァァァァァァァーーーーッッ』!!」
オレの魂からの叫びとともに、斧が振り下ろされた地面から複数の嵐が扇状に広がり、地面や空をモンスターとともに抉り取っていった。
そして、荒い息を吐きながら見た先には……抉り取られた地面があり、まるで荒野のような有様となっていた。
「うわ……、すご……」
ふうはあと息を整えつつ、斧を見ると……重い硬い壊れ難いといった狂戦の斧が所々にヒビが入っているのが見えた。
……これだけの威力なんだから、ヒビが入るのも当たり前だよな。
戻ったら鍛冶屋に持っていって修理出来ないか相談しようと考えながら、インベントリの中へと斧を入れる。
すると、打ち漏らしがあったらしく、チャンスと見た狼型モンスターが襲い掛かってきた。
――GAAAA――ヒュ――トス――GA!?
雄叫びを上げながらオレに向かって突っ込んできたモンスターだったが、直前に背後から矢が撃ち込まれ地面に崩れ落ちた。
モンスターの背中に突き刺さった矢は薄っすらとした光を放っていたが、しばらくすると光が消え始め……光とともに矢は消滅した。
強力な効果があるように見られた攻撃だったが、矢を放った人物のステータスはまだ弱いので一撃で倒すまではいかなかったらしい。
フラフラと立ち上がろうとする狼型モンスターだったが、そこへと飛び掛る影があった。
「はあっ! ……ふう、倒しましたぁ」
青い軌跡とともに飛び掛った影が振るった薙刀の刀身はモンスターの首を狙いすまし、ヒョオッと素早く風を斬る音と同時にモンスターの首を斬り落とした。
倒れたモンスターが素材になったのを確認し、飛び掛った影である樹之命さんはホッと息を吐く。
そのすぐ近くではイーゼが弓を構えて立っているのが見えた。……どうやら、二人とも出ることが出来たようだ。
「二人とも無事に出られたみたいだな」
「ええ、はい……出ることが出来ましたよぉ。それまで本当に怖かったんですけどねぇ……?」
「……あれは、怖かったのだ。我も本当に怖いという感情を抱いたのは昨日から2度目だが、本当に怖かったのだ……」
オレの言葉に反応するように表情を暗くした二人が、恨みがましい瞳でオレを見る。……あれ?
いったい何があったのかと思うが、十中八九オレが原因だろう。そう思っていると、二人が恐怖した理由が語られた。
まあ、端的に言うと……『フルスイング・バースト』を使用したときに風の魔力を込めて四方八方に風の刃を放っていたときにホームに向けても放たれていたらしい。
幸いなことにホームの境界に当たった瞬間、霧散していったらしいけれど……当たるかも知れないという恐怖は並大抵の物ではなかったようだ。
「あー……うん、ごめん。本当、ごめんなさい……」
「殺されるかと思いましたよぉ! ……けど、あの『テンペストブレイカー』の威力は異常ですねぇ……」
怖い思いをさせてしまったことを自覚しているので、素直に頭を下げてオレは謝る。
というか、ホームの境界も壊したなんてならなくて本当に良かったと思う……。
「ああ、うん。元々『テンペストブレイカー』って斧スキルの回転から地面に向けて放つと扇状に風が巻き起こるスキルだったのに、あの威力は使ったオレでさえ驚いてる」
「確かあのスキルって聞いた話だと、攻撃力×魔力っていう計算式でしたよね?」
「そのはずだ。……ああ、そういうことか」
最後に見たときのステータスで攻撃力は7500を行ってたのを思い出す。
今は恐ろしくて見る気がしないけれど、下手をすれば1万越えをしているかも知れない。
しかも、今の戦いも含めると……どれだけ上昇しているのか本当恐ろしくて見る気がしないぞ。
そう思っていると、イーゼがオレに近づいてきた。
「お前、まだ行かないのか? そろそろモンスターがやって来ると思うのだ」
「おっと、そうだった。それじゃあ……集落巡りを開始するか」
「はい。……誰が居るかは分かりませんけど、大丈夫だと良いですねぇ」
「そうだな。っと……まだ残ってるモンスターが居るな。それじゃあ、気をつけて行くぞ」
「分かりました」「わかったのだ」
二人の返事を聞きながら、インベントリから再びナイフを取り出し、集落に向けて移動するためオレたちは歩き出した。
……そういえば、【ナイフの心得】を持っていないはずなのに、何でナイフを使えるんだろうか?
もしかして、手に入れたことに気づいていなかった? うーん……まあ、良いか。
考えたら切りもないし、後にしよう。
そう結論付けながら、オレは襲い掛かるモンスターへとナイフを振るった。
ようやく移動を開始しました。
向かう集落で誰と出会うでしょうね。
とりあえず、サイコロの神様に頼ってみようと思います。




