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巫女さん事情聴取【後編】

お待たせしました。

『くすす、本当は何もしないつもりだったのですけど……、そろそろ始めたいって言う人が出ましたから、フィールドを整えることにしましたの』


 女性の笑い声とともに、リットルさんたちが睨み付けていた場所が陽炎が発生したかのように揺らめくとともに、黒い女性が姿を現しました。

 ……あれは、この世界に来たうちらにチュートリアルを受けると与えられるエルミリサそっくりの……ああ、なるほど、たぶんですけどあの女性はこの世界の頂点に君臨する神様と対になる神様なのでしょう。

 きっと、この世界の頂点に君臨する神様もあの女性に近い感じでしょうねぇ。

 ……って、暢気にしていましたけどちょっと待ってくださいよ! うちもボーっとあの神様見てたけど、頂点に君臨する神様の対の存在って言ったら、最高位の悪神か邪神ってことじゃないですかぁ!?


『樹よ、気づくのが遅すぎるじゃろ』


 うちが心底驚いている隣で呆れた様子の命様が溜息を吐くけれど、それにツッコミを入れる余裕が今は無い。

 だって、悪神とか邪神だったら、睨みひとつで精神や魂に異常を来たす可能性が高いじゃないですか!

 そんなふうに恐れ戦いているうちだったけれど、怯えているのは自分だけなのではという疑問に思いながらチラリと周囲を一瞥する。

 ……何名かはゴクリと唾を飲み込み、冷や汗をかいている様子が見受けられるけれど、目を放そうとはしていない様子でした。

 …………一名ほど、泡吹いて気絶していますけれど、気にしないでおきましょう。


『色んな意味で駄目じゃジジイじゃな。こやつ、本当に強いのかのう?』


 命様、何気に辛辣ですね。

 ……って、あれ? 今気づいたのですけど、ブシドーさんは恐れているっていうよりも、面倒なことが起きたといった表情をしていませんかぁ?


『ふむ? この娘、まるであの神と面識があるといった様子じゃな? よし、樹よ! この者と会話をするのじゃ! って、おーい、返事をせぬか、樹よ?』


 そう思っていると、リットルさんたちがあの神へと抗議の声を上げます。


「シャマラ! この土地で厄介ごとを始めたい言った奴が居るのは分かった! だが、私たちの動きを封じるというのはどういうつもりだ!?」

「そうッス! このままじゃあ、わたしたち沈む船と一緒に溺れちゃうじゃないッスか!?」

「理由……、答えてもらえるだろう?」


 シャマラ……、たぶんあの神の名前なのだろうと思いつつ、リットルさんたちから感じる威圧に体を震わせていると、くすすと言う笑い声が響き渡った。


「くすす、うふふ。本当は貴方がたも参加させようと思っていたんですよ? ですが、貴方がたが参加したら、ワタクシも参加しないといけないじゃないですか。ワタクシが参加しないのですから、貴方がたもこれが終わるまでは参加してはいけませんよ」

「……つまり、これから行われる厄介ごとのイベントをプレイヤーたちに任せるように、と言いたいのか?」

「はい。ただでさえ半神という強力な切り札が切られているのですから、そこにワイルドカードである貴方がたも追加されたら過剰戦力になるじゃないですか」

「なるほど。エルサさんはまだ発展途上ッスけど、戦いかたが噛み合ったら切り札になるッスからね」

「要するに、我輩たち神とその眷属はしばらくは手を出すな。そう言いたいのだな?」

「ええそうです。貴方がたというカードが切られるのは、プレイヤーの皆様がこの騒動の原因である『高慢』を倒すか、もしくは全滅したときです」


 そうシャマラと呼ばれた神が言った途端、うちらが停泊するはずだった港のある集落近くに、巨大な船が姿を現した。

 今まで無かったのに!?


「透明化? それとも、顕現させた?」

「本当のところ如何なのかは分からないねー。けど、ああいうサイズの船ってロクでもないことをしてることをミーは知ってるよ」


 姿を現した船を見ながら、何名かが小声で話をしているのですが、突然港の近くを数隻の小船が走っている姿が空中に投影されました。

 その小船には……。


「あれは……エルフ?」

「拘束されてるネ? ……まさか」

「……あの船は奴隷商船とでも言うつもりなのかしら?」


 映し出された映像を見て、そんな考察を立てて行くと不意に神の視線がリットルさんたちからうちらの乗る小船へと向けられた。

 その視線に、うちらの体がビクリと震える。


「ええ、どうやら『高慢』の彼は奴隷を売るのが好きみたいなの。だから、今回この世界に生まれたエルフは彼の格好の商品となった。そういうことです」

「な――っ!? そんな横暴許されるわけが無いだろうっ!?」

「ええ、許されるわけが無いですわね。けど、そういうのを食い止めるのもプレイヤーの役目だとワタクシは思いますの」


 神が言った言葉に反応したブシドーさんが怒鳴りながら立ち上がり抗議をする。

 すると、それに対しブシドーさんへと神はそう返事を返した。

 というかそんな大事をうちらだけで何とかしろってかなり不味いんじゃないでしょうかぁ!?

 絶対にこれは数百人とか数千人単位でのプレイヤーが頑張るようなイベントのはずだとうちは心から思う。

 その考えはリットルさんたちにも通じているらしく、彼らが神へと抗議を始めた。


「シャマラ! お前はこれほどの大事をここにいるプレイヤーだけで行えというつもりなのか!?」

「そうッス! 彼らには正直荷が重過ぎるッスよ!?」

「彼らの優位な点は魔法が使えるということだけだ。そんな彼らにどうにかしろと言うつもりなのか?」

「ええ、そうです。……と言いたいところですが、ワタクシの目にもこれは無理ゲーと言わせて頂きましょう。ですから……」


 そう言って、神は一拍置き……口を開いた。


「条件を設けさせていただきますわ。数が少ないプレイヤーの皆様が優位に立ってもらう、とは行きませんが貴方がたでも何とか出来る方法を……ね」


 くすりと微笑む神は悪神か邪神だと思う。なのに、その笑みは見ていたうちらを呆けさせる物であった。

 それほどまでにその微笑みは蠱惑的であったのだ。

 そして、その微笑みに呆けるうちらへと、条件を差し出した。

 それがこれらだった。


 ・奴隷として捕まっているエルフを200名救出。

 ・奴隷商船の主である『高慢』に致命傷を与えること。

 ・エルフを100名救出して、こちらが拘束した神と眷属を救出する。


 このどれか1つを行ったならば、うちらへと2ヶ月の猶予が与えられて……、アップデート後の公式イベントとして開始されるというものだった。

 更に神は言いました。


「一部のエルフたちは、この港の集落に拘束していますので開放したければご自由にどうぞ。残りはあの奴隷商船に入れられていますけどね。

 そして、彼らは……集落の広場に十字架に磔にしておきます」

「ぶっ!? ちょ、ちょっと待つッス! ご飯とか如何するッスかッ!?」

「安心しなさい。磔にしている間は時間を止めておきますから」

「却下ッス! 却下ッスーーーーッ!! わたしは果物を要求するッス! 果物ーーっ!! ごは――」


 最後まで言い終わる前に、ミリ=リットルさんの姿が掻き消えました。

 たぶん、十字架に磔にされたのでしょう。

 それを皮切りにどんどんとNPCの役割を演じている彼らの姿も消えて行きます。

 その光景をうちらは唖然と見ており、最後の一人が消えると……神はうちらを見ました。


「さて、次は貴方がたですが……、このまま小船で港に行かせるわけにも行かないので、殆ど無人となった幾つかの集落に飛ばさせて頂きます」


 神はそう言って、優雅に手を振るう。その瞬間、視界は闇に染まった……。

 闇に染まった視界と同時にフワリと軽くなる体。いったい何が?

 頭が混乱しかけたけれど、何処かへと体が流されていこうとする感覚にうちは抗うことが出来ずに頭の中もボーっとし始めて――瞬間、耳元で命様が慌てた声を上げた。


『樹! 急いでわらわをその体に降ろすのじゃ! このままじゃと、見知らぬ場所に転移させられるぞ!!』

「え、あ、わ――分かりました!」


 その声に体がビクリとするとともに頭の中の靄が一気に晴れ、慌てながらもうちは祝詞を唱える。

 祝詞を唱えると同時に頭の中が真っ白に染まっていく感覚を覚えるが、これは一種のトランス状態なので気にしない。

 真っ白になっていくうちの中へと、命様が入り込んでいくのが分かる。それと同時に、うちの体が体から抜けていくのを感じ……、うちと命様が入れ替わった。


「憑依完了じゃ! 見ておれ、樹よ! わらわがこの転移を中断してやろう!!」

『え、あの。命様? 転移中にキャンセルとか行ったら壁の中にいるとかなりませんよねぇ?』

「大丈夫なはずじゃ! まあたぶん、空から落ちたりするじゃろうがな!!」

『それってなんだか危なくないですかぁっ!?』

「大丈夫じゃ、とりあえず叩き壊すぞ! てりゃあっ!!」


 うちの焦る声を無視して、命様は手と手を併せ、神だけに使える特権である神力を解き放つ。

 直後、体の周囲から命様の解き放った光る蔦が闇の中へと解き放たれました。

 すると、光る蔦が闇を払うように光り輝き、闇の世界が元通りへと戻っていきます。

 って、空じゃないですかぁ!? このままじゃあ、落ちますよ!!


「大丈夫じゃ、樹よ。わらわの力を信じるが良い!」


 そう言って、命様は再び神力を使い地面に見える森へと干渉しようとします。――が、突如あの神の声が響き渡りました。

 しかも、どこか怒っている様な気配を感じます。


『あらあら、貴女の存在は気づいていましたのよ? だけど、これはいけません。ですから、お仕置きですわ』

「っ!? ぐ、ぐあああああっ!?」


 まるで困ったちゃんへと言うように、神の声が響き渡った瞬間――闇の世界の残滓とも呼べる物が黒い雷となり、うちの体へと命中しました。

 ……が、うちには特にダメージが入った様子が無いので、たぶん命様限定に何かをしたのかも知れません。

 そして、うちの体は真っ逆さまに落下し……運良く、と言えば良いのか森の中の池へと落ちたのでした。


「ということがあって、今に至るわけです」


 と言って、うちが言い終わると、話を聞いていたエルサさんが美人さんな顔立ちを、物凄く面倒臭そうな感じに歪ませていた。

プレイベントなので、敵全滅とかボス単独撃破なんてムリゲーです。

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アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
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