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巫女さん事情聴取【前編】

お待たせしました。


◆の後から回想に入ります。

『すみません、すみません! ほんとぉ~に、すみませぇ~~んっ!!』

「あー……、別に大丈夫だから。というかこっちは被害ゼロだけど……そっちは大丈夫なのか?」


 半透明となっている樹之命さんが必死に頭を下げるのを見ながら、オレは何と言うか申し訳ない気持ちのまま言う。

 ちなみに視線は黒こげでピクピクとしか動いていない様子の樹之命(残念)に向いている。

 その視線に気づいたのか、半透明の彼女もピクピク動くアバターを見るが……その表情は何というか、どういえば良いのかわからないといった様子だ。

 まあ、そうだろうな。事情は良くわからないけれど、黒焦げのそれはこの世界での彼女のアバターだろうし……。

 ……とりあえず、さっさとポーションを掛けておこう。


『あ……、す、すみませぇん……』

「あー、気にするな。けど、話し合いがきちんと出来る状況をオレは望みたいんだけど……大丈夫か?」

『大丈夫です。丁度、命様も気絶していますからぁ……こうやってぇ』


 黒こげが治っていく自身の体を見ながらホッと一息を吐く半透明の樹之命さんだったが、オレの言葉に返事を返すかのように半透明の自身の体を黒こげが治ったけれど未だプスプス煙が出ているアバターへと突っ込ませる。

 すると、半透明の樹之命さんがアバターの体の中に入っていく代わりに、にょろにょるとか言う奇妙な効果音が似合いそうな感じにぐてっとした半透明の幼女がアバターから出てきた。……自己紹介のときに見た偉そうな幼女だった。

 そして……半透明の樹之命さんがアバターの中に入り、カップめんが作れそうな時間が経ったところで閉じられていた目蓋が動くのが見えた。


「んっ、んんっ……。んぅ~……ふう、これで安心ですぅ~」


 起きた体を慣れさせるように腕を伸ばし、首を回し……特に問題が無いと判断したのか安堵の息を再び吐く。

 そして、茶色と緑色の瞳をオレへと向けて、彼女は頭を下げた。


「本当、ご迷惑をお掛けしましたぁ。……あの、エルサ、さんで良かったですよね?」

「あ、ああ、そういうあんたは……樹之命、さんで良いんだよな?」

「はい、そうですよぅ。覚えていてくれたんですねぇ」


 良かった。どうやら当たっていたようだ。

 そう思いつつ、オレは話を続ける。


「とりあえず、あんたの事情も何かあるみたいだけど……、それよりも今は何でここに居るのか聞いても良いか?」

「そう……ですねぇ。というよりも、エルサさんは知っておかないといけないと思いますからぁ」


 そう言うと、樹之命さんはここに落ちてくるまでの経緯を語り始めた。


 ◆


 エルサさんが釣り上げようとしていた龍神様につれさらわれたと同時に、うちらの船も遭難したんですよ。

 ……あ、怒ってませんからねぇ。少なくとも、うちのほうは。

 え? 他に怒っている人が居るみたいな言いかたですか? 当たり前じゃないですかぁ。だから、再会したら素直に怒られてくださいねぇ。

 話は戻りますがぁ、遭難自体はリットルさんたちが何とかしてくれましたので、問題はありませんでしたぁ。

 そして、戻るか進むかの話し合いの結果でうちらはルーツフ地方に向けて進路を進めることにしたんですよ。

 で、航海に4日ほどかかって……え? 海に落ちてから2日しか経っていない? たぶん、うちらのほうか……エルサさんの周囲の時間がちょっとだけ狂ってるんだと思いますよ。

 原因はたぶん、龍神様ですねぇ……。

 まあ、それは今は別に良いんですけど。……兎に角、ルーツフ地方の周辺まで到着したんですよぉ。

 ちなみに到着目的地は海周辺で暮らすエルフの集落の浅瀬でした。

 リットルの方々が出したマップを見たときに、ルーツフ地方の全体図も見たんですけど……大陸ってよりも大きめの島って感じでしたねぇ。

 まあ、そこで顔合わせをして、少し集落を発展していくという予定でした。

 ですが、うちらが到着したとき……、酷いことになってたんですよ。

 ……あ、今から回想みたいな感じに思いださせてもらいますねぇ。良いですか? 良いですよねぇ。

 問答無用で回想に入りますね。


 …………。

 ……。


 海岸が、燃えていました。

 いえ、正確に言うと……海岸に面した集落が燃えていたんです。

 当然、それを見ていた甲板に居たうちたちは全員絶句してました。

 けれど、誰かが「なにこれ……?」という言葉で全員がハッとし、リットルさんたちが指示を出しました。


「っ!? お前たち! 気をつけ――っ!?」


 リットルさんがうちたちに注意を呼びかけようとした瞬間、バシンバシンという激しい音とともに船の周囲に水柱が上がりました。

 そして、船はグワングワンと揺れ、甲板に居た人たちは膝を突くなり転ぶなりします。

 うちも揺れに耐えることが出来ず、尻餅を突きました。

 けれどそれで終わりではなかったんです。


「敵船確認! 狙われていますっ!!」

「っ!! お前たち、船から落ちないように気をつけろ!!」

「壁に手をつくなり、どこかに掴まるなりするッス!!」

「え? ――っ!!?」


 船員の声が聞こえたと思った直後、リットルさんたちの声がうちらへと届いた。敵船? え?

 ポカンとした瞬間、水柱ではなくバキャリという木が圧し折れる音とともに船を揺さぶる衝撃が来ました。

 い、いったい何が? そして、驚いていたうちはゴロゴロと甲板を転がってしまい、海に落ちるかも知れないと思ったけれど、ブシドーさんにギリギリ助けられて事なきを得た。


「大丈夫か? えっと……」

「た、樹之命です。ありがとうございましたぁ」

「いや、気にしないでくれ。……しかし、いったい何が起きているんだ?」

「わ、わかりません。けど……異常なことが起きているのは分かります」

「ああ、確かにそれは言えている」


 そうブシドーさんと会話をしていると、流星さんが慌てた様子で近づいてくるのに気づきました。


「お前たち、無事かっ!?」

「は、はぃ」

「あ、ああ……、いったい何が起きているんだ?」

「我にも良く分からない。だが、船の側面に穴が空いたらしい……、だから備え付けられた小船に乗るように言っているんだ」


 そ、側面に穴ッ!? ということは沈没ですかぁ!?

 頭の中に、テレビで放映していた昔の映画の豪華客船が沈むシーンが思い出され、うちは顔を青くする。

 そして、当然すぐに起こす行動は決まっていた。


「ち、沈没ってぇ!? に、逃げないといけないじゃないですかぁ!!」

「落ち着け、樹之命。何もすぐに沈没するわけじゃないだろう? そして我らは、船内ではなく甲板に居るんだ」

「そ、そうですねぇ……。す、少し落ち着きます……」


 危ない危ない、落ち着かないとぉ。すぅはぁと呼吸を整え、頭を冷静にさせようとする。

 数回ほど呼吸をしていく……すると、冷静になってきているのか、落ち着くことが出来た。

 そして、うちは周囲を見渡す。

 するとうちらプレイヤーはどこか慌てているけれど、リットルさんたち神さまの皆様は警戒しながらも落ち着いているように見えた。


「では、拙者たちは脱出用の小船に向かえば良いのだな?」

「そう言うことだ。では我は他の者たちにも言ってくる」


 うちが慌てている間に、ブシドーさんと流星さんの2人が話をしていたらしく、脱出の算段をつけていました。

 そして、流星さんは他の人たちの下へと駆けて行きました。……あ、ジ・ゴールドさんが慌てふためいています。


「うおおおおおおっ!! か、金なら幾らでも払うぅぅ! じゃから、じゃからワシを助けろぉぉぉぉぉっ!!」


 ……何というか、凄く醜いですねぇ。

 その光景を見ていたうちだったけれど、ポンと肩を叩かれハッとするとブシドーさんがうちを見てた。

 ふぁっ!? え、え? な、何ですかぁ!?

 ジッと見られているうちは動揺し、アタフタするけれど……そんなことは関係ないとでも言うように、ブシドーさんはうちの手を握り締めてきた。


「ふぁおえっ!?」

「何を奇声を出している。早く脱出するぞ」

「あ、そ……そうですねぇ」

『樹よ、幾らこみゅ瘴じゃからと言ってこれは無いと思うんじゃ』

「み、命様? ついさっきから黙ってたのにいきなりそれは無いんじゃないですかぁ?」

『いやぁ、何というか緊迫していた状態じゃったから、つい……なぁ』

「ついって……」


 耳元で語りかけてくる命様の言葉に、うちは何とも言えない気分となる。

 が、少し話しすぎていたらしい。その結果……。


「樹之命さん……。拙者はプレイの仕方は人それぞれだと理解している。……だが、ボソボソとまるで誰かがいるような感じに会話をしているのはどうかと思うのだが?」

「あ、あわわ……、す……すみませぇん!」

『む? こやつ、凄い力を持っているのに何故わらわのことが見え……いや、持っていると言うよりも繋がっている。といったところなのか?』


 ペコリペコリと頭を下げるうちの隣で、命様はマジマジとブシドーさんを見ながら何かに気づいているようだった。

 み、命様ぁっ!? し、失礼ですから! 失礼ですからぁっ!!

 見えないからと失礼過ぎることをしている命様に戦々恐々とするうちだったけれど、まじまじ見られていることに気づかれていないブシドーさんは小船へと向かっていきます。

 それを見ながら、うちもその後について行くと、プレイヤーの殆どが集まっていました。


「やっと来たネ?」

「すまない、待たせたか?」

「大丈夫ですわ。ワタクシ、このような些細なことで苛立ったりはしませんので」

「とりあえず、ミーたちは小船に乗ることにしようか――ってうわっ!?」

「うおおおっ! ワシが一番乗りじゃあああああっ!!」


 集まっていた皆様は冷静だったらしく、慌てた様子はありません。ですが、いざ小船に乗ろうと言うときにドタドタと駆け走りながら、ジ・ゴールドさんが周囲を押し退けるようにして小船へと乗りました。

 ……うわ、酷い、酷すぎます。


「……こういう大人にはなりたくは無いな」

「そ、そうですねぇ……」


 ブシドーさんの言葉に釣られてうちは素直に返事を返します。

 というか、周りの人たちのジ・ゴールドさんを見る瞳が冷たいですね。

 そう思いながら、うちも小船へと乗りました。

 プレイヤー全員が乗り終わり、後はNPCを担当している神々の皆様が別の小船に乗るのを待つだけでした。

 ……ですが、異変が起きました。


「――ぐっ!?」

「か、体が……重いッス……!」

「これは……、呪術? いや、我輩たちにのみ干渉する何かか?」


 突然、NPCの方々が膝を突き……脂汗を滲ませ始めたではありませんか。

 これはいったい……?

 そう思っていると、リットルさんたちが苦しみながらも空に視線を向け始めたのに気づきました。

 キョロキョロと視線を彷徨わせ、三柱が同じ場所を見ました。

 そこには……何も無い? そう思っていると、命様がうちの耳元に近づき……真剣な表情をしました。


『気をつけよ、樹……。そこに、何も見えていないようじゃが……居る。この世界の神、それも上位の神が……』

「え?」


 命様にしては珍しく真剣な表情で、言われた言葉にもうちはポカンとする。

 何が起きているのかわからないけれど、不意に言いようも無い重圧が周囲に放たれるのを感じ……うちらの精神はゾクリと震えた。

 そして、リットルさんたちが、この姿の見えない重圧の正体へと……叫んだ。


「どういうつもりだ!? シャマラ!!」

「ちゃんと説明をしてもらうッスよっ!!」

「だから、姿を現せ……邪神!」


 その言葉から少しして……、周囲の空気を震わせるように笑い声が響き渡りました。

ということで、次回に続きます。

っていうか、樹之命が犬●家なことになるのがまだ語られていませんしね。

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