表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/103

親方、空から――

お待たせしました。

「よし、とりあえずは……これで良いか」

「うーん、うーん……、グルグルするのだぁ……」


 あの後、泉まで戻り、オレは魘されるE-0を彼女の寝床に寝かせた。

 さっきまでは魂が抜けかけている様子だったけれど、少しは回復しているのかうんうん魘されていた。……回復してるのか?

 そんな疑問を抱いたが、まあ良いだろうということにした。


「しかし、この泉周辺ってホームになってたんだな」


 今朝まで居たけれど、武器と呼べる物をインベントリから出していなかったから気づいていなかったが、ウイングソードを握り締めたまま泉に入った直後に警告が鳴ったときは何事かと思ってしまった。

 だけど、その直後に表示された警告表示でその警告が何事かは理解出来た。


《――警告。ホームでの武器の所持は禁止されております。直ちにインベントリへの保管をお願いいたします。》


 その表示を見て、この泉はE-0にとってのホームなのだろうと思いながら、ウイングソードをインベントリの中へと戻したのだった。

 ……というのを思い出しながら、オレは魘されるE-0に毛布を掛けてやる。

 そういえば今気づいたけど、この寝床にって石で作られたと思しき寝床はあるけど……毛布って無かったんだな。

 いや、すぐ近くに何処で入手したのか分からないような大きな葉っぱが一枚置かれているから、たぶんこれが毛布代わりなんだろう。

 流石、野生児……。などと少しばかり酷いことを思いながら、オレは彼女を寝かしてから寝床から出て泉の前に立つと……周囲を見渡した。


 ――GYAAAAA!!

 ――GURURURURURURRUURRU!!

 ――GOUAAAAAAAAAAA!!

 ――BUUUUUUUU!!


 泉の周囲の森からオレたちを観察するように数多くのモンスターたちが、唸り声を上げながらこちらを見ていた。

 ……所謂包囲網、というやつだ。


「というか、ホームじゃなかったら無双なゲームのプレイヤーになってるところだったな……」


 ポツリと呟きながら、オレはオレたちを見るモンスターを見る。

 詳細が表示されないモンスターが多く居るけれど……、その殆どが隷属状態であると判断した。

 というかいったい何処のどいつだよここまで酷い状況を作り出した奴は……。


「けどその前に、明らかに情報が少なすぎる……よな。誰か事情を知ってそうな奴が降ってきたりしないかなー」


 などと馬鹿なことを呟いてみたけれど、フラグという物は何処にでも落ちているらしい。

 何故なら……。


「……ん? E-0? 目が覚めたのか?」

「来るのだ。我々でない、誰かが降ってくるのだ」

「は? い、E-0……?」


 何処となくフワフワとした様子でE-0は謡うようにそう口にする。

 これは……お告げ的な何かか? それとも、E-0が繋がっているって言う大本の言葉?

 そんな知ったかぶりなことを思っているオレだったが、E-0の腕がゆっくりと上がり……指が空を指し示した。


「――来たのだ」

「え? ――は? はあぁっ!!?」


 E-0が指差す方向を釣られて見てみると……親方、空から女の子が! といった感じに、少女が落ちてくるのが見えた。

 初めはそれが何であるか良く分からなかったが、落ちてくるのが巫女服を着た少女であることに気づき……オレは間抜けな声を漏らしたのだ。

 というか、どうしてそうなったっ!?

 心の底からツッコミを送っていると、少女は地上に真っ逆さま――いや、泉に真っ逆さまだった。

 直後、バシャアアアアアンッ! という激しい音とともに水柱が上がり、オレは何も言えずその光景を見ていた。


 ……そして、水柱が収まった泉には……足が生えていた。


 ◆


「…………え、えーっと?」


 泉からにょっきり生えた……いや、泉に植えられた足を見ながらオレはどう反応すれば良いのか悩みつつ、E-0を見る。

 だが、E-0は報告を終えたとでも言うように、フラフラと寝床へと戻っていくのが見えた。

 ……ど、如何すればいいんだ、この状況。

 心の底から思っていると、泉に植えられた足の真上辺りに……薄ぼんやりと人影が見え始めたことに気がついた。

 なんだ、あれ?


『み、命様ぁ~~! 起きてくださぃ~~! 溺れてる、溺れてますからぁ~~!! だ、だれかぁ~、いませんかぁ!? いま――あ』


 ワタワタと慌てるその人影は、スケスケな薄布一枚で見ている者も恥かしくなるような格好であるのに……どこか残念染みた気配を感じた。

 ……あれ? この子見覚えが……確か名前は、って気づかれてしまった。


『あ、あなたはぁ! お、お願いしますぅ! 助けてくださぃ~~! 命様が溺れてるんですぅ! というか、うちの体が沈んでいくんですぅ!!』

「あ、ああ……、わ、分かった……って――え?」


 ――ヒョイ、バサーー!


 そんな効果音が似合うとでも言うように、泉の中央に生えている世界樹の若木から枝が伸びたと思ったら沈み行く足首を掴むと上に引き上げた。

 ち、知能でもあるのか? それとも、自分のところに沈むんじゃないという警告?

 謎すぎる現象に頬を引き攣らせるオレだったが、溺れなくて済んだんじゃないのか。とか思いながら、釣り上げられた足の持ち主である……樹之命、だったっけかを見る。

 ……あ、ぱんつ。

 釣り上げられた彼女を見ると、巫女服をイメージしているであろう装備のスカート部分が捲くれ上がっており、周囲に下着が晒されることとなっていた。

 ちなみに、オレンジ色と白色のツートンカラー(しましま)だ。


『え、いったい何を見――ひぎゃああああああああ~~~~~~~っ!! み、見ないでぇ! 見ないでくださぃぃ~~!!』


 半透明の人影となっているもう一人の樹之命さんが必死に自分の体を隠そうとするのだが、半透明なので隠し通せていない。

 そんな彼女にオレは手を合わせる、もちろんご愁傷様(ご馳走様)という意味でだ。……合掌。

 まあ、それからすぐに世界樹の若木が泉の隅、要するにオレが立っている場所へと彼女を下ろしたので、無事かどうかを確認し始めた。

 それから20分もしない内に、樹之命の目蓋が動き始め……、


「う、うむ……? こ、ここは何処じゃ?」

『よかったぁ、命様が起きましたぁ』

「おぉ樹よ、わらわはいったいどうしたというのじゃ?」

『お、覚えていないのですかぁ!? 大変だったじゃないですかぁ!!』

「ふむ…………、むぅ……そうじゃ、何となく思い出してきたぞ」

『良かったですぅ……!』

「うむ。……ところで、そこに居るのは人の魂を持つ分け身かえ?」


 半透明の樹之命さんがホッと安堵する中、もう一人の樹之命さんが緑色の瞳をこちらへと向けてきた。

 ……あれ? この子のアバターって、オッドアイじゃなかったっけ?

 茶色と緑色の……って、このクソ生意気そうな古風というか年寄りっぽい喋りかた、覚えがあるぞ?

 …………あ。思い出した!


「もしかして、お前は自己紹介のときからずっと背後に立ってた頭の可笑しい幼女かっ!?」

「誰が頭の可笑しい幼女じゃ! わらわは神なるぞ!!」


 指を突きつけた瞬間、フカーーッ!! と猫が威嚇するかのように、樹之命(?)がオレへと突っかかってくる。

 そして、そんな彼女を止めるように半透明の樹之命さんが止めに入る。


『あわわ、命様ぁ、落ち着いてくださぃ~!』

「わらわは落ち着いておるわっ! じゃが、この愚か者には天罰を与える必要があるみたいじゃがのう……!」


 ふふふ……と、悪い表情を浮かべながらオレを見るそれを見ていたオレだったが、急に彼女は立ち上がり両手を大きく広げ始めた。

 すると、綺麗な青空だった空に真っ黒い雲がモクモクと……モクモクと……モクモ……わたあめほどの雲が出来上がっていた。


「むぅ……、何故じゃか知らぬが少し集まりが悪いのぅ。じゃが、これぐらいでも構わぬ! 受けてみよ、この愚か者めっ!!」

『駄目だめですよぉ。命様ぁ! これは、本当に危ないですからぁ!!』


 ……えーっと、何あれ? こいつは何がしたかったんだと思いながら、それを見ていると……その黒いわたあめからバリバリと軽い音が鳴り響き始め、ゴロゴロバリバリとそんな音が空から響き渡った瞬間、オレに向けて雷が落ちた――――が、オレに落下する直前にバシンと膜のような物にぶつかって霧散していった。

 たぶんだけど、あれはホーム内の戦闘禁止のための結界的なものなんだろうなー。

 そんなことを思いながら、両手を空に広げたままの樹之命を見る。

 すると彼女は信じられないとばかりにわなわなと体を震わせていた。


「な、なな……何故じゃあ~~~~っ!? わらわの力が届かぬっ!? き、貴様……、まさか人の身でありながら神の力を使えたというのかっ!?」


 いえ、違います。ホーム内だから届かなかっただけです。

 あと他の攻撃手段なんてしないほうが良いと思うけど……。

 心からそう思っていると、「神の力が届かぬならば、武器を使うのみ!」とか言い出してインベントリから武器を取り出そうとしていたらしい。

 けれど……。


「くっ!? こ、こやつ……わらわの武器を出させないというのかっ!? な、何という奴じゃ……!? ええい、ビービービービー五月蝿いわい!!」

『え、あの……命様? この音って……』

「ええい、黙っておれ樹!!」


 半透明の樹之命に怒鳴りながら、なんとしてでもオレに一泡吹かせたいという雰囲気を醸し出す樹之命を見るのだが……なんだろう、この滑稽さは。

 残念な物を見るようにしつつ、半透明の樹之命のほうを見ると……このまま続けるとどうなるのか理解しているらしく、顔面を蒼白にしているのだが、同時にオレに対しても申し訳ない気持ちがあるのかペコリペコリと頭を必死に下げていた。


「ええ、神力も通じない、武器も出せない……ならば、別の方法で行くしかない! そう、魔法の力でな!! 喰らうが良いのじゃ! って、なん――――ふぎゃあああああああっ!!?」

『み、命様ぁっ!? え、えと、えとぉ……あわわ、あわわわわわわぁ~~~~……!!』


 ホーム内の戦闘行為を繰り広げようとしたペナルティなのか、自身が与えた攻撃が自身に返ってきているらしく……昔ながらのガイコツを見せるような表現でビリビリと痺れ始めている。

 半透明の樹之命さんのほうにはダメージがいっていないのか、ガイコツを見せる本体を慌てながら見ており……どうにも出来ずに両手を広げて慌てふためいていた。


 ……とりあえず、回復薬でも用意しておくか。

 痺れる彼女を何とも言えない表情で見つつ、オレはインベントリからポーションを取り出した。

「親方、空から巫女さんが!」


 ということで、事情知っていそうな人が来ました。

 次回は落ちてきた理由を語るつもりです。……語れると良いね。


・ニィナの日記【3日目・2】


 現在、フェムトさんの下で必死に鍵開けの練習をしていた。

 シーフの基本は鍵開けで始まり、鍵開けで終わるらしい。

 頑張って鍵開けを覚えようと思うんだけど……上手く行かない。

 ここは無心でやれば良いとフェムトさんに言われたので無心になることにした。


 エエエエエエエエエエエエエエエ

 ルルルルルルルルルルルルルルル

 サササササササササササササササ


 ……あ、開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
ベルと混人生徒たち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ