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更なる異変

お待たせしました。

「ふう……とりあえず、一先ず安心……って思えば良いのか? っと、大丈夫か、E-0?」

「あわ、あわわ……あわわわわわわ……のだのだのだのだのだのだ……?!」


 モンスターが襲い掛かってくる様子が無いのを確認すると、オレは抱き抱えたままのE-0を見る。

 ……のだが、彼女は未だ混乱から抜け出せていないのかガクガクと震えながら、壊れた機械みたいに同じことを繰り返していた。

 これは……、衝撃が強すぎたのか?

 やってしまった感を感じつつ、正気に戻すためにE-0の体を揺すり始める。


「おーい、しっかりしろー? 大丈夫かー?」

「の、のだっ!? こ、ここは……、わ、我々はいったいどうしたと言うのだ??」

「良かった、正気に戻った……と言えばいいのか?」


 目をパチクリさせるE-0を見ながらオレはホッと一息吐き、様子を見る。

 が、E-0が急にどこか恥かしそうな様子に見せ始めたことにオレは気づく。どうしたんだ?


「どうした、E-0?」

「お、おまえ……、そ、そろそろ下ろして欲しいのだ……」

「ああ、悪かった。……でも、下ろしたとしてもお前、立てるのか?」

「だ、大丈夫なのだ。大丈夫なはずなのだ」


 だから下ろせ、そう端的に言っているE-0の願いを断る理由は無いので、オレは彼女を地面へと下ろす。

 下ろされたE-0はフラフラと立ち上がろうとしているようだが、脚に力が上手く入らないらしく……ペタンと可愛らしい女の子座りとなって地面に座り込んでしまっていた。


「あー……、とりあえず……また抱き上げるか?」

「い、いいのだ……。我々は、お前に抱き上げられるいわれは無いのだ」


 オレの言葉に何処と無く意固地になるようにE-0は返事を返すのだが、やっぱり脚に力が……というよりも腰を抜かしているようだった。

 まあ、たぶん生まれて初めての絶叫系だったしな……。

 愛くるしいチワワでも見るようにE-0を見ているオレだったが、今この現状では危険だと思う。

 だから、実力行使(・・・・)に出ることにした。


「っ!? な、何をするのだ!?」

「悪いけど、立ち上がるのを待っている時間は無い。このままじっとしているとさっきみたいにオレたちを襲ってくるモンスターが来るかも知れないしな」

「………………わ、わかったのだ」


 もんの凄く不満ですよ。といった雰囲気を出しながら、渋々とE-0が頷くのを見てからオレは歩き出す。

 とりあえず……、泉まで戻るか。

 そう決定すると、少しだけ駆けながらオレたちは泉へと戻って行った。

 ……のだが、そうは問屋が卸さないようだった。


『『GGGGGGRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』』

「っ! こいつは……さっきの熊モンスター? しかも……」

『『GROROROROROROROROROOOOOO!!』』


 森の中を駆けていたオレの前に立ち塞がるように、2頭も熊型モンスターが立ち塞がった。

 ……更に背後からも同じモンスターが道を塞ぐように現れた。

 しかも、明らかにオレたちを襲う気満々といった様子だ。


「どういうことだ? こいつらってノンアクティブだったんじゃないのか?」

「なんだか、様子がおかしいのだ。まるで、我々の声が届いていないみたいな感じなのだ」

「何か、理由があるのか……? いや、それよりも先ずはこいつらを何とかしないといけないな!」


 怯えた様子のE-0を抱き抱え直すと、インベントリから狂戦の斧……いや、E-0を抱いているから厳しいか。だったら、これだな。

 インベントリから、耐久力はかなり低いけれどその代わり振る速度が異様に速いことが受け売りであるウイングソードを取り出すとオレは構える。

 久しぶりに……というよりもこの体になって初めて取り出す武器だけど、上手く触れるだろうか? そんな疑問を抱きながら、軽く肘と手首だけで鳥の羽根のような外見で薄く軽いウイングソードを振るうと問題は無いことが確認出来た。

 それを確認しながら、オレは取り囲むモンスターたちに視線を向ける。……というか警戒しているからか、待っていてくれたのかは分からないけれど、襲い掛かってこなかったモンスターたちに感謝しつつやつらを見る。

 すると、4頭の中の1頭が捨石なのか力に自信があるのか、ノシノシと四足のまま歩み寄り始め……それが段々と近づくに連れて速度を上げ始め……最終的にドシンドシンと地面を揺らすような足音とともにオレたちに駆けて来た。

 体当たりをしてくるのか?! そう思ったが、オレたちが互いに対処出来る距離まで進んだ瞬間――突進するように近づきながら急に前足を広げ始め、ベアハッグでもするかのようにオレたちへと飛び掛ってきた!!


「っ!?」

「……心配するな」


 迫り来るモンスターの巨体が怖いのかE-0がギュっとオレにしがみ付く。

 そんな彼女を安心させるように出来るだけ優しい声でオレはそう口にしながら、ウイングソードを振るった。

 フォンブォンッ――と空を切る音が耳元に届いた瞬間、ボタタ……という音が耳に届いた瞬間、グロ画像が視界に広がった。

 というかE-0に見せなくて正解だったと思う。

 何故ならば、迫り来る熊型モンスターの両腕をオレは始めに斬り落とした。だが、締め付けられるのは回避したけれど……このままだと体当たりが直撃することに気づいたオレは更に素早くウイングソードを振るった。

 すると、体当たりをしようとしていたモンスターの体がさいころステーキヨロシクといった感じに細切れとなった。

 これにはやらかした本人であるオレも驚きが隠せなかったが、本当にE-0は見ていなくて助かっただろう。

 そんなことを思いながら、素材を落として消えていくモンスターを視界に納めつつ……残りのモンスターを見る。

 ……どう出る?


『『『GGGRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOO!!』』』

「そう来るか……!」


 襲うのを考え直してくれないだろうか? と思いながら見ていたオレだったが、襲い掛かるモンスターたちを見ながらオレは叫ぶ。

 というか、本当についさっきすれ違ったタイプと同じなら、明らかに様子が変だろ!?

 そんなことを考えながらオレは、たった今モンスターを倒したことで襲い掛かってくる目の前のモンスターたちの詳細を見れないかと思いながら奴らを見る。

 あ、そういえばニィナに一度倒したモンスターの詳細が見れるって言ってなかったな。戻ったら言うか……もしくは気づいているよな?


 ~・~・~・~・~~・~


 名前:ルーツフモリノクマサン

 タイプ:攻撃

 詳細:

  ルーツフの森林部に生息するモンスター、比較的温厚で大人しい。

  ちなみに森のクマさんではなく、モリノクマサンである。

  攻撃をされなければ攻撃を仕掛けてこない。


 備考:隷属状態


 ~・~・~・~・~~・~


 森のクマさん……じゃなかった、モリノクマサンって名前なのかよ。

 って――ちょっと待て、備考欄に何て書いてあった?

 隷属状態……だと? つまり、誰かに操られて……いや、使役されてるような物なのか?


「くそっ、どういうことだ? けど、悩むのは後だ。E-0、ちょっと目を閉じて……しがみ付いててくれるか? かなり揺れると思うから」

「わ、分かったのだ……!」


 悩んでいる暇は無い。そう理解しながら、オレはE-0へと言うと彼女はビクリと震えつつも、今度は戸惑ったり嫌がる素振りを見せないまま再びギュッと抱きついてきた。

 そんな彼女の背中に片腕を回しながら、オレは正面から迫り来るルーツフモリノクマサン……ええい、長ったらしい! 熊さんで良いや!! 熊さんへと駆け出す。

 正面の熊さんも迫り来るオレをなぎ払うべく、腕を振り上げる。だが、素早く地面を蹴ると同時に一瞬で熊さんとの間合いを詰めるとそのまま止まること無く突き進みながら、ウイングソードを振るう。

 シャンッと小気味の良い音とともにオレたちを薙ぎ払おうとしていた熊さんの腕が斬りおとされる。痛みと戸惑いを感じさせる雄叫びが耳に届くが、その全てを聞き終える前に熊さんを通り過ぎた先の地面に足を付けると同時に弾かれるようにして自身の体を熊さんへと突撃させる。


「はっ!!」


 突撃しながら、掛け声とともにウイングソードを振るい、熊さんの首を斬り落とし――首と片腕を無くし、素材を残して消えようとする熊さんの体を踏み台にし、オレは迫り来る2頭の熊さんに向けて自身を加速させながら迫る。

 そして、互いに交差する瞬間、素早くウイングソードを振るう。……さながらそれは旋風といったところだっただろう。

 熊さんたちには何が起きたのかは分かっていないだろう。そしてオレ自身も、熊さんがどうなっているかはわかっていなかったりする。

 ……が、それは熊さんが振り向いたときに理解出来た。


『『GRRRRRUUUUURRUUURURU――――RU?』』


 たぶんだけれど、熊さんたちにはオレたちの姿がずれて行くのが見えたのだと思う。そしてそれが熊さん2頭の最後の光景でもあった。……いや、実際には振り返った熊さんたちの体が輪切りとなったようにずれていったのだ。

 マジデ? 思わずそう思ってしまうくらいに、バラバラになっていった熊さんたちを見ていたのだが……最終的に素材を残して死体は消えて行った。


「……ふう。終わったな」


 他に襲ってくるモンスターは居ないかと注意をしていたオレだったが、そんな気配が感じられず……息を吐き出し、緊張を解く。

 っと、そういえばE-0は無事か? …………あ、緊張し過ぎたからか、それとも重圧に耐え切れなかったからか気を失ってグッタリしているな。

 ……とりあえず、落とした素材を拾ったら泉に戻ろう。

 そう考えながら、オレは素早く落とした素材を確認しつつ回収していく。


 ――――――――――


 アイテム名:クマ肉

 品質   :中級(5)

 説明   :

       モリノクマサンの肉。調理法によっては筋張っているので噛み辛い上に、臭みが酷くなる。

       その代わり、上手に調理出来るとスタミナ回復にバッチリ。


 ――――――――――

 ――――――――――


 アイテム名:クマサンの右手

 品質   :中級(6)

 説明   :モリノクマサンの右手。蜂蜜を何時も食べているためとっても美味しい……らしい?


 ――――――――――

 ――――――――――


 アイテム名:壊れた隷属の首輪

 品質   :最低級(0)

 説明   :隷属の首輪だった物。他人を隷属させる効果は失われているため、触っても平気である。


 ――――――――――


 ……最後に拾ったアイテムを見て、オレは固まった。

 どう見てもこれは……、最悪すぎるアイテムじゃないのか? ――って、待て待て。確かこれって一時期話題になってたアイテムだよな?

 確か、何処で手に入れたのかわからない謎アイテムだったけど、それを手に入れたプレイヤーのグループが他人のエルミリサを誘拐して奴隷市場なんて馬鹿げたことしてたはずだ。

 その事件は当時のプレイヤーたちには忘れられない事件となって、それ以降もゲーム内で語り継がれる黒歴史の一つとなっていたはずだけど、主犯格であるプレイヤーは当然蛸殴りの上に垢BANだったはず。


「……もしも、そのプレイヤーが現実で死んでて、この世界にやって来てたら……そ、そんな訳無いよな? ……ない、よな?」


 何となく嫌な予感を覚えながら、オレはそうでないようにと願うように小さく呟きつつそれらをインベントリに収め……その場を後にした。

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アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
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