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進むか戻るか?

お待たせしました。

メリークリスマス。

 ――――― 雪火サイド ―――――


 叩きつけるような雨が降りしきり、轟々と唸る風により船内が揺れる中、甲板の上ではエルサが雨に濡れながらもグンと撓る釣竿を握り締めていた。

 拙者は糸を切るように言った。そしてエルサもそれに頷いて着る動作を行っていたように見えた。

 なのに、エルサは船内に戻らず……今なお釣りを行っていた。

 何故だ? 何故切らないのだっ!? お前は船ごと心中するつもりなのか!?

 頬に伝うのは雨か、それとも冷や汗かと思いながらエルサを見ていた拙者だが、同じようにエルサを見ていた者がポツリと呟いた。


「……もしかして、糸が切れないんじゃないのか?」

「え、そんなはずは……無いんじゃ……?」

「……いや、ありえるかも。通常ならば魚などは魔力の干渉など出来るわけではないわ。だけど……、あいつが引っ掛けてしまっているのは龍神。つまりはこの地上に残る神……魔力の扱いなんてお茶の子さいさいよ」


 と、拙者たちの否定しようとしていた言葉を遮るかのように、えっと確か……エクサ、さんだったな。

 そう彼女が拙者たちに告げた。

 ……なるほど、やはり……糸が切れなくて半分困っているということか……。

 そう判断したので、拙者は急いで糸を切ってエルサを船内に連れて行く段取りを頭の中で考える。

 ……しかし、運が悪いことに拙者が外へと出ようとした瞬間、エルサは濡れた甲板に足を滑らせてしまったのだろう。

 ツルッと綺麗に足を滑らせ、背中を甲板上で一度バウンドさせた直後――引っ張られるようにして彼女の体は海へと投げ出されていった。


「エル――――さとるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 突然のことで、一瞬頭の中が真っ白となった拙者だったが、急いで甲板に飛び出してエルサ……いや、さとるへと手を伸ばした。

 けれど、さとるは意識が朦朧としているのか……拙者の姿を瞳に焼き付けながら、海の中へと消えて行った。

 そ、そんな……、さとる……。

 その場でぺたりとしゃがみ込んでしまった拙者だったが、不意にグイッと腕が引かれるのを感じ……そちらを見ると、流星が居た。


「悲観に暮れるな、とは言わない。だが、ピンチなのは我らも同じだ。だから、今は無事に目的に着くことだけに専念するのだ」

「りゅ、流星……さん。そう、だな……すまない。取り乱していた」


 流星さんに謝罪し、拙者は頬を両手でパンと叩くと活を入れ直す。

 そうだ、さとる……というよりもエルサの体は異常なんだ。だから、ちょっとやそっとでは死なないはず。

 だったら今は拙者たちが生き延びることを考えなくては!

 そう決意をすると後は速やかに活動を開始した。

 船員たちと協力して帆を畳み、荒れる海に対してテラさんを始めとしたリットル訓練場の3人が対処を始めた。

 ……が、これは非常識すぎるのではないだろうか?

 エクサさんがあられもない破廉恥な格好に着替えると船の周囲に風を吹かせて、完全に倒れないようにしているのは魔法使いだからと納得は行く。

 だが、テラさんとミリさんその2人の対処法は……拙者というか、プレイヤーたちに度肝を抜かせたのだ。

 何故ならばだ……。エルサが吊り上げようとしていた龍が居た影響か荒れ狂った海は大きな津波を引き起こし、拙者たちの船を呑み込もうとする。それに対し、テラさんもミリさんが船の両側に立ち鎖つきの巨大な鉄球を投げ出した。

 ヒュゴッという風を斬る音とともに放たれた鉄球は船に向かう津波を穿ち、船へと向かって行こうとしていた津波が生みの中へと沈んでいく。……しかも、時折モンスターらしき影が見えるのだが鉄球で穿たれているのが見える。

 「す、すごい……」と呆気に取られた誰かが呟いたのが聞こえたが、その力の違いに拙者は眼をそらすことが出来なかった。


 そして、そんな正直言って洒落にならない光景を見続けてから、数時間は経過したらしい。

 見上げれば何時の間にか嵐は過ぎ去っており、晴れ渡った空には綺麗な星が見えていた。


「ふう、これぐらいなら大丈夫ッスよね!」

「まあ……こんなもんだろう。お前たち、怪我は無いか?」

「え、あ、は……い」


 まるでひと汗流した。とでも言うかのごとく、2人は手に持っていた鉄球をインベントリの中へと戻していた。

 ミリさんは額を拭い、テラさんが拙者たちへと安否確認を行う……だが先程の光景が過ごすぎて、拙者を含めて上手く返事が出来ていないようだった。

 ……や、やはり、神は……凄いということか。そう拙者は実感しながらも、彼らを見つめていた。

 そして、そんな彼らへとエクサさんが深刻そうな表情を浮かべながら近づいてきた。……なんだろうか、嫌な予感がする。


「あー……、テラの旦那。ちょっと良い?」

「どうした、エクサ?」

「どうやらエルサが魚釣り……じゃなくて龍神釣りしていたときにこの船も流されていたみたいなんだよね」

「え、マジッスか?」

「……仕方ない、事態が事態だから開くことにしよう……」


 エクサさんの言葉にミリさんが反応し、テラさんも顔を顰めるのを見ているのだが……流されていたのか。

 確認のために視界内にマップを表示させてみるのだが、【NO DATA】と書かれているだけでマップは表示されていなかった。

 開発エリア、という扱いか。という声が流星さんかブラッドレックスさんが呟いているのが聞こえたが、拙者には良く分からなかった。

 多分、さとるなら分かるのだろうな……。

 そう思っていると、テラさんたち3人が頷き合い3人で円陣を創り始めた。

 どうやら何かをするようだ。


「この世界を見守る神の一柱である我輩が願う――」

「この世界を見守る神の一柱であるわたしが願うッス――」

「この世界を見守る神の一柱である私が願う――」


 キラキラと発光させながら、3人は片手を空へと挙げて宣言するように口を開く。

 暗い夜の世界で輝く姿はまるで星のように見え、神聖さを感じさせたりもした。

 その幻想的な光景に見惚れていると、


「「「世界よ、その姿を見せよ――オールマップ」」」


 そう言い終えた瞬間、円陣を組んだテラさんたちの中心に半透明な球体が出現した。

 これは、地球儀? いや、球体に表示されている大陸の形は見覚えがあるぞ?

 あれは……拙者たちの居た大陸だな? ……ということはこれはこの世界版地球儀ということか? だが、それは殆どが真っ黒で表示されており、表示されている箇所が限られている物だった。

 もしかしなくても機密情報という奴なのだろうな。

 それを分かっているからか、他の者たちも何も言うつもりはないようだ。

 そうしていると、エクサさんが説明を始めた。


「あんたたち、今見ているこれは必要に駆られて行っていることだから、通常ではまだ出来ない……もしくは予定が無いものだっていうのは覚えておいてよ? 返事は?」

「わ、分かった……」

「わかり、ましたぁ……」

「了解した」

「……わかったわ」

「分かったネー」


 そう口々に返事を返すのを確認しているのだが、何でだろうかジ・ゴールドは裏切る気満々に見えるのは気のせいだろうか?

 まあ、何か起きたとしても、拙者に被害が来なければ良い……と思っておこう。

 結論付けると、エクサさんたちの説明を拙者は聞き始める。


「球体に表示されている巨大な大陸が今まで私たちが居た大陸だ。そこはマップを使用してたなら分かるだろう?」


 テラさんの言葉に頷く。


「でもって、その大陸から海を挟んだところにある大陸に、わたしたちは向かおうとしてたわけッス」


 ミリさんが指で球体をなぞって行くと、赤い点線が航海路となって描かれていく。

 通常ならばこんな感じに移動をするはずだったのだろう。……だが、途中からエクサさんが指を這わせ始めると青色の点線がぐにゃりぐにゃりと軌跡を走らせ始めた。

 これは……エルサの釣りをした結果だろう。


「けれど、エルサの釣りが原因で航海路からこんな感じにずれてしまったわけ。……で、今我輩たちが居る場所はここ」


 エクサさんがそう言いながら指差した場所に白い点が表示された。

 白い点は拙者たちが居た大陸からだいぶ離れた海上で、更には目的地であるルーツフからも距離がある場所に表示されていた。

 ついでに言うならばミリさんたちが引いた赤と青の航路からも外れている。

 これは……どっちに向かおうとしても、だいぶ時間が掛かりそうに思えた。


「現状、選択肢は二つある。一度数日かけてポーッシュの港に戻ってから再びルーツフに向けて航海をするか、もしくはこのままもう一度ルーツフに向けて航海をするか……という選択肢だ」

「まあ、どちらにせよ龍神はどこかに行ったから再び襲うという可能性は無いと思うから、どっちを選んでも関係ないと思う」


 テラさんの言葉にエクサさんが付け足し、どうするかを拙者たちに委ねようとしているように見えた。

 ……彼らが一存で決めないのは何故だろう? そんな疑問が頭を過ぎったのだが、表情で読まれたのか理由をミリさんが拙者たちへと教えてくれた。


「わたしらが決めない理由は、この世界はプレイヤーのためにあるからッスよ。つまりはわたしたちは神ッスけど、この地上に居るのは皆さんッスからね」

「……つまりは裏方に徹する。という訳か?」

「そもそもが私たちはゲームの中では先導役、と言えば良いものだからな」


 なるほど、そういう考えがあったのか……。

 そう思いながら、拙者は他の者たちを見る。すると彼らもテラさんたちの言葉でどうするべきかを考えているらしかった。

 ちなみに思案顔は様々な物であった。目を閉じていたり、腕を組んでいたり、腕を胸の前で合わせてたり、顎や頬に手を当てて指をトントンと叩いてたりというものだ。

 ……とりあえず、どうするべきか……。拙者としてはさとるのことが気がかりだから、どうにかしたいのだが……さとるが何処にいるかわからないのだよな。

 だったら戻ることにするべきか? だが、遅れた分がルーツフの都市開発などに面倒が来るのではないのか?


「うぅむ、どうするべきか……」

「……我としては船に問題が無いならばルーツフに向かうことを押す」

「ミーも同じくルーツフに向かうことを押すネー。未知のモンスターにドラゴンが居る可能性があるし!」

「ワタシは、一度戻ったほうが良いと思うヨ。だって、わからないまま航海したら遭難するだけダヨ?」

「ワシも同じ意見じゃな。今度はこんな帆船ではなく、イージス艦並みの凄いので行くべきじゃ!」

「わたくしはどっちでも構いませんわ……」

「ワタクシは……はっ、今街に行ったらニィナさんが一人きりのはず。それにエルサは消えた……だったらいける!」

「えっとぉ、どうしましょうかぁ?」


 何がどういけるのかはさっぱりだが、エルサが無事なのかは凄く気になる。

 どうにかして、生きているか知れないだろうか? ……テラさんに聞いてみるか。


「テラさん、良いだろうか?」

「どうした、ブシドー? ……いや、何を聞きたいのかは分かっているつもりだ」


 拙者が聞きたいことを理解しているらしいテラさんは素早く球体を見始める。

 すると、拙者たちが居る地点よりも遠くルーツフであろう大陸に向けて高速で移動する点が表示された。


「これは……だいぶお怒りのようだな」

「あー、海じゃなくて空飛んでる時点でかなりストレス溜まっているッスねー」

「しかも、この様子からしてルーツフのほうは荒れてるわね……」


 テラさんたち3人は顔を顰めながら呟く。……そういえば、日本でも昔から龍神は雨とかを降らせる存在と言われていたはずだ。

 ……そう考えるとさとるは何という物を釣り上げようとしてたんだ……。

 改めてさとるの存在が半端無いものになってしまっていることに驚きつつも、拙者はどうするかを決めた。


「悩んでいたのだが、拙者はルーツフに向かうことに賛成する」

「ふむ、ルーツフに行くことを望むのは3名、一度戻ることを望むのは2名、そして3名は中立か」

「では……どうするのだ?」


 正直、どっちに転ぶか分からない。わからないが……さとるのことが心配だから、出来るならば逸早くルーツフへと向かいたかった。


「……仕方ない。ならばリーダーとして決めさせてもらう。我らは――」


 ……流星の言葉で、拙者たちはどうするかを決定したのだった。

次回はエルサのほうに戻ります。


……ああ、時間があったらサタンさんがサンタさんをして、生写真を配る話書きたかったけど……むりぽ。

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アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
ベルと混人生徒たち
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