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船の旅(前編)

お待たせしました。

と言うか、何時の間にか50話到達してたんですね。

 ザザーーッと潮騒の音とともに波が船へとぶつかり、バシャッという音を立てる。

 けれど船はその波飛沫を物ともせずに、逆に波を切るようにして帆に追い風を受けながら海上を走っていく。

 そんな中、オレは甲板に立っており、潮風を受けて銀色の髪や着ている服がバサバサとはためいていた。

 左に右にと風を受けて髪が顔に張り付き、唇に入ったりしているがオレはまったく動くつもりはない。

 ついでに言うと……ワンピースのスカート部分が風に靡いて大きく捲れ上がり、質素な白い下着が丸見えとなってしまっており……少し恥かしい気持ちはあったが、動く気はしなかった。

 そんな状態でオレはプルプルと震えつつ……、呻くように呟いた。


「どうして……、どうしてこうなった? オレは自由が欲しかっただけなのに……。本当、どうしてこうなった?」


 そう呟きながら、オレは甲板まで逃げてきた(・・・・・)理由を思い出し始める。

 というよりも、失意のニィナを置いて今朝家から出て……集合地まで向かった辺りから思い出すべきだよな?

 ……ニィナ、まともになってくれると良いんだけど。

 そう思いながら、オレは家を出て集合場所に到着したときのことを今度こそ思い出し始めた……。


 ◆


 何時もの喧騒が無くなった街中を歩きながら、オレはガクリと項垂れていたニィナの様子を思い出す。


「……ニィナ、大丈夫かなぁ? 変なことを起こさなけりゃ良いけど……」


 戻って慰めようかと思ったが……やっぱり、一度ここは突き放すべきだと考え、オレは頭を振りながら歩き出した。

 そういえば、集合場所の神殿前って……こっちで良かったよな?

 歩きながら静かになっている街を見るが、本当に珍しいよな。こう静かなのは……。

 グルリと周囲を見渡しても、プレイヤーのプの字もまったく見当たらない。


「何時もならプレイヤーが多く歩いてたり露店を出しているけど、今居るのは向こうとかこっちとかの神さまぐらいだしプレイヤーは拠点で眠ってるんだよな?」


 ……あれ? けど、拠点に戻らずに宿屋にも戻らなかったりするプレイヤーってどうなっているんだ?

 所謂、アップデートで自動的にログアウトさせられるならギリギリまで粘ってプレイとかしてそうなんだよな、プレイヤーは。

 けれどその疑問はすぐに解消されることとなった。……何故なら。


 ――ヒヒィィィィィンッ!!

 ――ヒヒヒヒィィィ~~ンッ!!


 数頭の馬の嘶きとともにガラガラと車輪が走る音が聞こえ、その方向を見ると巨大な幌無しの馬車が本道を走って来るのにオレは気づく。

 多分、操車しているのは兵士を担当している神かその眷属だよな?

 そう思っていると、兵士が操車する馬車の荷台に荷物がこんもりしているのに気づいた。……って、これ荷物じゃない、プレイヤーだ!

 驚いた様子でそっちを見ていると、馬車が走ってくるのと同時に脇道からぞろぞろとエルミリサたちが姿を現し始めた。


「これは、いったい……」


 呆気にとられながら見ていると、オレの前を通り過ぎた馬車が……そこから少し移動した街の中央広場辺りへと停車した。

 しかも、馬車はオレの前を通り過ぎた物以外に別の方向からも来ており、その全てに意識が無い……いや、魂が入っていないプレイヤーたちが乗せられていた。

 ……どうやらログアウトに間に合わずにフィールドに倒れて放置されているプレイヤーを回収していたようだな。

 そう思っていると、エルミリサたちが馬車へと近づき……自分の相棒のプレイヤーのアバターを背負って歩き出していた。

 しかも、エルミリサは感情がないと言われているけれど、どうやらプレイヤーが見ていないだけで反応はかなり違うようだ。

 何故ならば、身形がきちんとしているエルミリサの場合は割れ物を扱うようにそっとプレイヤーのアバターを抱き締め歩き出すのに対し、ボロ布を纏わされたままのボサボサ髪のエルミリサは両足を掴んで地面を擦るように歩き出していた。


「な、なるほど……こうやって、アップデート明けに目覚めたらベッドの上っていう感じか……。数割は背中とか頭が痛そうだけど……多分自業自得で良いんだよな?」


 納得しながら見ていると、何時まで経っても近づかないオレへと兵士が相棒の受け取りを促すが……別の兵士がオレが普通のエルミリサではないことに気づいたのかすぐに耳打ちをして、オレに声をかけてきた兵士とともに頭を下げた。そんな一幕があったが、しばらく様子を見ているとエルミリサへと相棒を全て渡し終えたらしく、その場から兵士は馬車とともに立ち去って行った。

 もしかするとまだプレイヤーアバターは色んなところに転がってるのだろうか……。

 ダンジョンとか森の中だったら、馬車は入らないはずだから……お疲れさまです。


「……まあ、労いの言葉をかけているけど、オレには関係ないことか」


 そう結論付けると、オレは集合場所である神殿前へと向かい歩き出した。

 とは言っても、神殿は中央広場からほんの少しの距離だから時間はかからなかった。けれど、集合していた面子を見て、オレは驚きを隠せなかった。

 何故なら……。


「ぃよぉ~~うこそ、エルサァァァァッ!!」

「あ、エルサさん。こんちわッス!」

「あら……、あんたも来たのね」


 老本さんボイス、氷橋ボイス、遊林ボイスが続けて放たれ、3人は一斉にオレを見ていた。

 ようするに……テラっさん、ミッちゃん、エクサの3人だ。

 何故、この3人がここに? そう驚きを隠せなかったが、オレ以外の現地協力者ということかも知れないと判断することにした。

 と言うか、エクサが痴女スタイルじゃなく厚手のローブ姿だということに驚いたが……、触れてあげないでおこう。


「こんにちわ。今日からよろしくお願いします。けど……訓練場は良いんですか?」


 そう口にして、すぐに気づいた。良いのかと聞いても、訓練に参加するプレイヤーが居ないのでは意味が無いか? って、プレイヤーのほとんどは居ないから開店休業状態なのか?

 と思っていると……。


「それについては心配ないッス! わたしらが居ない代わりに他のリットル一族が担当することになってるッスよ!」

「お前の説明は端的過ぎる。一応、私たちが居ない代わりにフェムト、ペタ、ヘクトの3人に任せている。補助要因的役割だが、彼らも教えるのが上手いぞ」

「そうなのですか?」

「我輩は攻撃魔法専門だが、ペタは治癒魔法専門なのよ……」


 面倒臭そうにエクサが答える。そういえば、オレ自身【†SSS†】時代のときはテラっさんとミッちゃんにしか会ったことが無かったから、一度その3人に会ってみたいな。

 そう思っていると、オレとテラっさんたち以外の残りのメンバーも揃い始めた。

 そのメンバーとは、道具屋を営んでいる姉妹のベンティさんとショートちゃんに、鍛冶屋を営むナット親方と弟子のハロンさん。

 それに土木関係の仕事を担当しているバイト一家だった。

 最後に護衛なのか、名無しの兵士が数名が城のほうから現れた。

 事前に聞いていたように、街づくりを行うための要員なのだろう。

 そうでなければバイト一家が要る理由が付かないに違いない。

 ……ルーツフ地方ってどんな建物があるんだろうな?

 それにもしかすると、道具屋や鍛冶屋は現地人であるエルフたちに出来るように教えるとか?

 まあ、そんな理由だろうから彼らは理解出来る。理解できるのだが……。


「それで、何でこの方が居るんですかねぇ? 掃除のしかたってよりも、破壊活動を行うことになりません?」


 そう呟きながら、オレの言うこの方へと何名かの視線が向く。……その視線の先には、何故か箒を1本持ってソワソワ……いや、ウキウキするメイドさんが居た。

 それは……通称、歩くトラップであるドジメイドのグランデさんだ。

 どう歩くトラップなのかは……後々知るだろうから今は語らないで置こう。


「ああ……なんでも、わたしもバカンスが欲しいですぅ~~!って暴れたらしい」

「え、わたしの聞いた話だと、今までも城の調度品が壊されまくっていたから、折角の休日なのに物が割れる音は聞きたくないと島流しされたと聞いたッスよ?」


 テラっさんとミッちゃんからそんな情報を貰う。……何にせよ参加させたかったんだな、城の人たちは自分たちの安寧のために。

 そしてこちらには被害が被る可能性が増えたと……、本当何も無ければ良いんだけど。

 そう思ってると、オレたちが居る足元が光り始めた。……って、あれ?


「プレイヤー側の参加者が全然来ていないけど、どうしたんだ?」

「聞いてなかったの? 彼らは、我輩たちが今から移動する港街ポーッシュで合流するのだぞ」

「なるほど、……って、港街に一度行くのか? ってことは、船に乗る?」


 まったく聞かされていなかった言葉に驚きながら問いかけると、何を今更みたいな顔をしながら頷かれ……少しだけ恥かしくなった。

 ……おのれ神さま、そういうことなら事前にちゃんと連絡してくれよ……!

 そして、そうこうしている内に時間は過ぎて行き、転移する時刻となったらしく……全員はその場に待機し始めた。

 ……そういえば、これだけ巨大な転移って初めてだよな?

 ある意味貴重な体験をする。と思えば良いのか?

 そう思っていると、地面を走る光は最高点へと到達し――眩い光に視界が遮られた瞬間、オレたちは転移した。

 けど本当に転移出来ているのかと疑問を抱いてしまったが……その疑問はすぐに解消された。

 何故なら、内陸では味わうことのない潮の香りと、押し寄せる波が防波堤を叩く音が聞こえたからだ。ついでにいうと、海鳥の鳴き声が空から聞こえ、海上からはミャウミャウと海猫が防波堤を登ろうとしつつも登れずに鳴いているのが聞こえた。

 その音を聞きながら、ようやく目が慣れてきたようで白色の世界に色が戻り始めた。

 そして、聴覚と嗅覚で感じ取っていた世界に視覚が含まれ、改めてオレは転移したことを実感した。

 何故ならば、オレの視界に移る世界にはこの世界特有のディープなエメラルドグリーンの海と、防波堤あたりに爪を出してしがみ付きながら海から陸に上がろうとする猫、空を飛び交う何羽もの海鳥が映っていたからだ。

 なお、陸に上がろうと防波堤にしがみ付いている猫は、この世界でのウミネコだった。……鳥じゃない。


「……おお、本当に着いてる」

「そりゃそうだろう」

「テラの旦那。多分そういう意味で言ってるんじゃないよ……。けど、これだけの人数を一度に転移は事故らなくて良かった」


 オレの言葉を聞いたテラっさんとエクサからその言葉を貰う。……って、ちょっと待て。エクサの発言からすると事故る確率高かったのか?

 ……もしかして、プレイヤーたちを現地に先に向かわせておいた理由ってこの実験をオレたちだけでやらせたかったって意図もあったりするのか? ……いや、考えすぎだろう。

 それとも近い将来転移事故でも起こすつもりは無いよな?

 そう思っていると、転移酔いでフラフラしているミッちゃんを含め、テラっさんたち全員が歩き出した。

 やっぱり事前に集合場所を教えられていたのだろう。……おのれ、残念神め……!

 心の底からグギギと思いつつ、彼らの後に付いて歩き出すと……転移した場所の近くに建てられている港の船を待つための待合所へと向かっているようだった。

 けど、今まで船が無かったから待合所って建物だけで中に入れないっていう仕様だったんだよなぁ……。

 そう思いながらついて行くと、待合所は……開放されていた。

 おぉ! 開放、されている!!

 驚きながら中へと入ると、そこでは船の乗船を受け付けるための窓口と客を座らせるための長椅子が設置されていた。

 イメージとしては、普通に駅とか船とかにある待合室を素材を全て木材にした感じだろうか。


「悪いな、待たせたか?」

「ご苦労様です。プレイヤーの方は上のほうでお待ちしております!」

「分かった。それじゃあ、あとの準備を頼む」

「かしこまりました! それでは失礼します!!」


 と、そんな風に中を見ていると何時の間にかテラっさんが待機していた兵士と会話をしていた。

 ……って、あれ? もしかして、テラっさんがこっちサイドの隊長ポジションってことなのか?

 まあ、こういう系の担当の人は洗脳されているらしいし、仕方ないだろう。

 テラっさんと兵士の様子を見ていると、兵士は敬礼をしてその場から立ち去って行った。

 会話からして多分何かの準備をしに行ったんだろうけど……何の準備だ?

 首を傾げていると、やっぱり彼らは歩き出し、2階へと上がり始めていく。で、やっぱりオレはその後について歩いていく。

 すると、待合所の2階は会議室的な部屋となっているらしく、豪華な造りをした扉が階段を上がった先にある窓際の廊下の真ん中辺りにあった。

 奥のほうにも部屋があるが、多分従者などを控えさせるための部屋かも知れない。

 それとも、扉のすぐ近くにあるあの部屋のほうが従者部屋で、奥のはトイレとかだったりするのか?

 ……そんな馬鹿らしいけれど個人的に気になったことを考えていると、テラっさんが扉をノックした。


「……どうぞ」

「では、失礼する」


 すると、中で歩く音と気配が扉の奥からし、少しして男性の声が聞こえた。もしかしなくてもプレイヤーの1人だろうな。

 そう思っていると、テラっさんは扉を開けた。

 テラっさんの巨体で見え辛いが横から見た限りだと、開け放たれた扉の前でプレイヤーたちが立ち上がって整列しており、オレたちへと頭を下げてきた。


「ようこそ、異世界の神とその眷属の方々。これからしばらくの間よろしくお願いします」


 そう言ってライオンヘアーな感じのダンディなスーツ姿の金髪のおっさんが頭を下げると、他の面子も頭を上げてきた。

 その面子をオレは見始める。ミニ丈チャイナドレスの紫髪のお団子頭な女性、黒に緑色を混ぜた髪をしたオッドアイの巫女さん、成金趣味爆発な男、荒々しい鎧を着込み大剣を背負った赤髪の男、先端に向日葵を模った杖を手にする銀髪の黒いドレスを着た女性、何か妙に痛々しいピンク髪をした魔法少女風の衣装を着た女性。

 そして、最後の一人に視線を移すと……オレは驚き、びくりとした。

 だがびくりとしたのはオレだけではなく、相手のほうもだったようだ。


「っ!? …………!!」


 ……が、ここで驚きの声を上げずに自分を自制したのは大したものだと思うことにしよう。

 そう思いながら、驚きながらもジッとオレを見つめるブシドーを、オレは見るのだった。


ご意見ご感想、評価お待ちしております。

特に、どこどこの癖を直したほうが良いかもね、という感じの声を貰えたら嬉しいです。

少しでも話を良くしたいのですのよ。

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