限界なんて無い!
「……さて、一応成り行き上こうなってしまったけど、今現在オレが何をどう出来るのかを調べるのが先決……かな?」
神さまが居なくなってしばらくして……オレは呟きながら、椅子に座るとステータス画面を表示してみることにした。
(――ステータス!)
心の中でそう言うと、オレの目の前には透明のプレートで長方形の形をしたステータス画面が姿を現した。
その画面には今現在のオレのステータスが表示されるのだが……、表示された内容に思わず眉を顰めてしまった。
「えー……っと、なにこれ……?」
半分呆れ返りながら、そう呟いた。
まあ、それも当たり前だろう、……何故ならオレのステータス画面はこうなっていたからだ!
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名前 : エルミリサ
種族 : 半神
年齢 : 14
H P : 3218/3218 (∞)
M P : 329/ 329 (∞)
STR : 452 (∞)
VIT : 253 (∞)
DEX : 530 (∞)
AGI : 893 (∞)
INT : 10 (∞)
MND : 42 (∞)
LUK : 3 (∞)
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見た目は普通なステータスだった。というよりも、【†SSS†】のときのカンストしたステータスだ。
……ここでひとつ話をしよう。
このゲーム、エルミリサ……そのゲームではアバターのカスタマイズとして髪の色やら顔立ちとか色々は変えることは可能である。
けれど、アバターごとに割り当てられたステータス、それには成長限界というものが存在していた。
今表示されているステータス画面で言うならば、(∞)となっている場所に成長限界が設定されてるのだ。
つまり、オレが【†SSS†】だったころは、カンストしていたところまでで成長は終了し、絶対に伸びることは無かったのだ。
普通にゲームなんだから一定値でやらせろと思ってはいたけれど、神さまの話から考えると……魂が影響しているってことだろうか?
……ちなみに現状は大分落ち着いてきたから、そんなことを考える余裕が出てきたわけだ。……が、同時に疑問が浮かんできた。
「オレのアバターは成長限界が来ていた筈なのに……、(∞)ってどういう意味だ?」
「ああ、言い忘れていました」
「――とぅおわっ!?」
悩み始めようとした瞬間に、突然神さまが現れ……突然のことで驚いたオレは、椅子から滑り落ちるようにして床に尻餅を着いてしまった。
その様子を見つつ、何をしていたのかと神さまはオレを見ていたが……徐々に頬を赤らめつつ、視線を反らしてきた。
一体何事だ? そう思っていると……。
「……えっと、女性の身体になったからといって……その、いきなり感度とか……女の子の部分を確認しようとするのはちょっとどうかと思いますよ……」
「っ!? ち、ちげーよっ!! 誰がそんなことをしようとしているんだよっ!? オレはただ単にステータス画面の確認を――」
「け、けど……、裸で……椅子に座ってすることといったら、それかひとりプロレスごっことか……」
「何でその発想に行き着くの神さまっ!? やったのっ!? やったことあるのっ!?」
「あっ――ありませんよっ!! あるわけないじゃないですかっ!!」
酷い想像をしていたらしく、それにツッコミつつもオレはついつい神さまに経験ありかと言ってしまった。
それに対して神さまは顔を真っ赤にして否定したが……ひとりプロレスごっこなんて言われたら変な意味で勘繰ってしまいそうだぞ! というか、ボンキュボンで美人な神さまがそんなことを言ったらエロく感じてしまうじゃないか!!
そう思っていると、まだ何か言いたそうにしていた神さまだけれど、諦めたように溜息を吐き……。
「…………とりあえず、今はその話は止めておきましょう。それよりも、何か服を着てくださいお願いですから」
「え? あ……、い、いやん?」
神さまに言われたことでようやく裸だと言うことを思い出したオレは、手早く装備欄を表示させる。
表示された装備欄は、当たり前の如く何も装備されていなかった。
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頭 :
腕 :
上着:
下着:
下着:
脚 :
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なので、手早く服を着るために画面で操作を始めるのだが……、インベントリの中に何か入ってるのか?
魂の中がインベントリで、その魂はオレ自身だって話だけど、アイテムのほうはどうなっているのかが怪しい。
そう思いつつ、下着の欄に触れると……。
――――――――――
麻の下着
布の下着
絹の下着
黒の下着
縞の下着
勝負下着
――――――――――
良かった、アイテムは表示されていた。……って、オレはこんな物を持っていた覚えが無いんだけど?
そう思っていると、神さまはそっと視線を反らした。
……ああ、そういえばエルって神さまのアバターだったんだよな。ってことは、買ったのは神さまか……。
色々と言いたい気分ではあるが、所持金が減っていたことは無かったのできっと、ゲーム上の設定でエルミリサがお金を貯めて買っていたってことなんだろう。
そう思いつつ、手頃な布の下着を選択すると……貼りつくようにして布の下着はオレの体に装備された。
そういうところはやっぱりゲームと同じってことなんだよな……。
だったら話は早い。そう考えて、オレはそのまま残りの装備も選択していった。
その結果がこれだった。
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頭 : ツインテール用青リボン
腕 :
上着 : 布のワンピース(上下一体)
下着 : 布のワンピース(上下一体)
下着 : 布の下着
脚 : 革の靴
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「……よし、何時ものエルの服装……のはずだ」
「まあ、それで良いでしょう……。それでですね、言い忘れていたことですが……」
オレがチョイスした服を不満そうに神さまは見つめながら、説明を始めた。
何を言うのかと疑問に思いつつ、オレは神さまを見る。
「ステータスを見ていたと言っていましたから分かると思いますが、成長限界の中が(∞)になっていますよね?」
「なっています。というか、どういう意味かわからないんだけど……」
「それを今説明しますから。現在、あなたが入っているエルミリサの成長限界……それは(無限)です」
「…………は?」
「ですから、無限です。つまりは、頑張って鍛えれば鍛えるほど、エルミリサは強くなっていきます……どうしました?」
いきなり恐ろしいことを言われたため、オレの冷え始めていた頭は再び沸騰し始めた。
無限? 無限って言った? 無限って言ったよな?
無限って言うとアレだよな? ゴールが無い、終わりが無い。鍛えれば鍛えるほど強くなっていくって……。
「はい、親指ひとつでダウンさ~♪ も可能ですよ!」
「ユーはショ――って、それはダメなやつだろっ!!」
心を読んだらしく、オレの心の声に神さまは返答をするが、如何考えても危険すぎるだろうっ!!
……が、これもやっぱり読んだらしく、慈愛に満ちた微笑みをオレに向けながら……肩を優しく叩いた。
「……あなたは、自制できる人だって、信じていますから……」
「……何この、無責任な人……」
「まあ、何をすれば良いのか分からないでしょうけど、成長限界は無いってことを伝えたかっただけですから、今度こそ失礼しますね~♪」
それじゃあ~♪ とにこやかに微笑みながら、神さまは消えて行った。
――って、オレにも何か言わせろよっ!!
心からそう思っていても、既に神さまはいないのでその声は届かないことだろう……。
「……仕方ない。今はオレ自身、何が出来て何が出来ないのかを今度こそ確認してみるか」
諦めて、オレは寝室から出ることにして……拠点内に造られた作業部屋へと移動することにした。
拠点の1階の隅にある部屋……そこは6畳間ほどの部屋で中には大きな釜や、炉や机が置かれており、机の上には各種調合に必要な機材が置かれている。
部屋に入ると、ツンとした薬草の香りが鼻を突き……一瞬顔を顰めたが、何時ものことなので気にしないでおこう。
…………よし、鼻が慣れた。
鼻が部屋の臭いに慣れたのを感じると、オレは備え付けられた椅子に座ると……アビリティを確認することにした。
(多分、予想通りだと思うけど……――ホームアビリティ!!)
心でそう念じると、オレの視界にはついさっきのステータス画面と同じように透明なプレートが出現したが、今度はオレ自身が設定していた5つのアビリティが表示されていた。
――――――――――
・鑑定 : LV5
・調合 : LV5
・鍛冶 : LV6
・製薬 : LV4
・細工 : LV3
――――――――――
「……やっぱり、【†SSS†】の成長限界のままだよな。けど、これらも成長は無限なんだろうなー……」
そう呟きながら、オレはその内のひとつをタップすると、オレが取得している控えのアビリティが幾つか表示された。
裁縫とか料理とかだ。……けれど、今はこれで十分なので確認だけだ。
なので、ホームアビリティ設定画面はそのまま閉じた。
……ちなみにこの『ホームアビリティ』は家(拠点)に置かれた工房や作業部屋で作業を行う際に設定すると、それでの作業を行ったり補助されたりする物だ。
そして狩りやダンジョンアタックなどでは『バトルアビリティ』という物があり、それは名前の如く戦闘関連の補助を行ったり、魔法の才能が無いプレイヤーが魔法を使用するのに必要なものがあったりする。
【†SSS†】のとき、『偽神の神殿』で風魔法を使ったのはそのアシストがあって出来たものだったりする……っと、話が脱線して行ったな。
「さてと、まずは……作り慣れているポーションを作ってみるか」
呟きながら、オレは机へと視線を向けて、上に置かれた乳鉢を手元へと近づけた。
その一方でビーカーっぽい容器へと水を溜めると、アルコールランプっぽい機材に火をつけて水を温め始める。
それを確認してから、乳鉢へとインベントリの肥やしとなっている薬草を5枚ほど取り出すと、乳鉢の中へと入れた。
乳鉢の中に薬草が入ったのを確認してから、ぬ~ぼ~……じゃなかった乳棒を掴むと、ゴリゴリとそれを潰すように掻き混ぜ始めた。
ゴリゴリというか、指先に伝わる乳鉢独特の感触がちょっと背筋をゾクゾクとさせつつ……薬草が独特のにおいを放ちながら磨り潰されて行き、段々と緑色のクズっぽくなり始めていく。
その中へと沸騰したお湯を少々加え、更に磨り潰して行き……完全に緑汁っぽいようになるまで潰し終えると、今度はそれを漉すために布を被せた容器へと乳鉢を傾けた。
すると乳鉢から磨り潰された薬草と混ざった水が布を漉して容器へと注がれて行き、緑色の液体が容器を満たし始めた。
50ccぐらいほど溜まり、最後に口を結ってから残りのエキスも容器へと落とすために搾り出すと……磨り潰した薬草は少しシットリするぐらいまで水分を失っていた。
「下準備はこれで良しっと、次に沸騰したお湯を冷まして……」
呟きながら、シュンシュンと沸騰したお湯を見つつ、アルコールランプっぽい機材をこれまたアルコールランプっぽい感じに蓋を被せて火を消すと、冷めるまで休憩をすることにしてついでにインベントリ内をチェックすることにした。
……まあ、結論から言わせて貰うと…………、インベントリ内には覚えのあるアイテムが大量に含まれていた。
本当に魂=インベントリなんだなと改めて実感したが……予想通りなのか分からないけれど、転生の鍵だけは無かった。多分、神さまが回収したのかも知れないな。
という風にインベントリをチェックしていると瞬く間に時間は過ぎ、沸騰していたお湯は冷めていた。
「よし、それじゃあ次に薬草のエキスを凝縮したものをこの湯冷ましで魔力を込めながら延ばしていけば……完成っと」
ガラス棒を手に取り、もう片手に緑色の薬草エキスが入った容器を持ち、トローッと湯冷ましに流し込みつつ、それを拡販させるようにゆっくりとガラス棒で掻き混ぜていく。
ちなみにガラス棒で掻き混ぜている最中は指の先から魔力を込めて行かなければならない。……初めのころは本当、これで苦労したんだよなあ……。
懐かしい出来事をシミジミと思い出しつつ、魔力を込めようとしたのだが……上手く出来ない。
……? どうしてだ? 上手く行かないことに疑問を感じたオレだが、すぐに理由に思い至った。
多分、エルの体だからって可能性が高いよな。……要するに、慣れていないってことで。
「どうする……このまま混ぜていっても出来るのは粗悪なポーションだけだし……。まあ、何とか少しずつでも送れるようにしてみるか」
そう決めると、オレは目を閉じて……指先から魔力を少しずつ流して行き、今現在掻き混ぜている水に染み渡るようにしていった。
感覚的に言うならば、チョロチョロと水が流れていく感じをイメージしているのだが……その考えは上手く行っているようだった。
その証拠に、魔力が浸透していくと薬草のエキスが反応して薄く光り始めるのだが、その現象が目の前で起きていた。
光り始める緑色の水を見つつ、薬草のエキスが無くなってからもゆっくりと魔力を込めつつ掻き混ぜていたのだが……少し感覚が掴めて来たため、もう少し込める魔力量を増やしてみることにした。
「1……5……、10……50……!」
それ以上行ける! そんな予感がして、オレは込める魔力の量を増やして行き……もう少し! と思ったところで、自身の魔力が尽きたのを感じた。
「もう少し出来そうだと思ったんだけどなー……。まあ、出来上がっただろ」
残念に思いつつ、ガラス棒で掻き混ぜるのを止め、容器を見ると予想通り透き通った緑色の液体が溜まっていた。
これは、間違いなくポーションだと実感出来た。
事実、鑑定を使用して見てみると、等級などは確認していないけれど……ちゃんとポーションであることが確認出来た。
「とりあえず、これは瓶詰めして……。よしっ、完成」
『瓶詰めしますか?』のメニューが表示され、『はい』を選択するとインベントリ内にある空き瓶へと自動的に注がれ、インベントリにはポーションが2個追加された。
今回は練習としてだったから、2個で十分だと思いつつ……オレはどれだけMPが減ったのかを確認するためにステータスを表示させた。
……が、表示されたステータスを見た瞬間――
「……は?」
呆れた声が漏れ出した。
何故なら……、オレが今見ているステータス画面はこうなっていたからだ。
――――――――――――――――――――
名前 : エルミリサ
種族 : 半神
年齢 : 14
H P : 3218/3218 (∞)
M P : 9/ 489(+160) (∞)
STR : 452 (∞)
VIT : 253 (∞)
DEX : 594(+64) (∞)
AGI : 893 (∞)
INT : 42(+32) (∞)
MND : 42 (∞)
LUK : 9(+6) (∞)
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「これは……上がりすぎだろ?」
呆気に取られながらそう呟きつつ、オレは成長限界が無限の恐ろしさを実感し始めたのだった……。
補足するならば、普通は3回ほどポーションを創ってようやく、MPは2ぐらい上がる的な感じです。
所謂、色んなことをやってたらステータスが上がるタイプのゲームですね。