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大型アップデート告知

前半後半別視点です。

 ――――― 神さまサイド ―――――


 あかん、まじあかんやつをよびさましてもーた。


 奇妙な関西弁もどきを心の中で発しながら、私は飛び出して行ったニィナさんを見ます。

 と言うか、アレはもう野獣の目をしていました。いえ、野獣と言うよりも淫獣です。

 あかんです。あれはガチレズになりそうな未来が見えます。もしくは、ヤンレズかクレイジーサイコレズの未来が見えます!

 そう心から思っていると下で悲鳴染みた声が聞こえたので、遠目で確認して見ると今まさにニィナさんがエルサさんの唇を奪っていました。

 まさに、ズキュゥゥゥゥ~~~~ンッ!! って感じの効果音が滲み出るような光景です。

 近くに泥水とかあったりしたら完璧だったでしょうか? ……無粋ですよね。


「ま、まさかこうなるなんて……」


 焚き付けてしまった私が言うのもなんですが、予想していなかったんです。まるっきり予想していなかったんです……!

 しかも、彼……ではなく、彼女は渡さない宣言ですよ。この子!

 ああ、数時間前までの純粋でこの世界に怯えているみたいな様子だった少女は何処に行ったのでしょうか?

 時空の狭間でしょうか? それとも理性という壁の外でしょうか? まあ、どちらにせよ仲が良さそうでよかったですねー……あははー……。

 そんな風に現実逃避をしていると、突然耳元で連絡音が鳴りました。


「――どうしましたか?」

『しゅ、主神様……、少し来てもらえませんか? ちょっと問題が……』


 連絡してきた相手はどうやらライブラさんのようです。

 UIの役目を与えられた彼女からの連絡、というのはどんな問題でしょう?

 まあ、行ったらわかることですよね。


「わかりました。すぐに向かいます」

『お願いします。本当に火急の用件とも言えるので……』


 火急の用件? どちらにせよ、急いだほうが良さそうですね。

 そう思いながら、私はすぐに世界を移動することにしました。

 まあ、一瞬ですけどね?


 ――はい、到着。


 到着した場所は、UI作業を行うための部屋で一面真っ白の電子空間のような場所で、この中では無数のステータスなどのUIの管理を一度に行うことが可能となっています。

 ですが、それ相応の技術は必要ですけどね。

 そして、そのUIを一手に担当している知的っぽい印象を醸し出すライブラさんへと声をかけます。


「お待たせしました。ライブラさん、どうなされたのです?」

「しゅ、主神様……! お早いお着きですね」

「ええ、急いで欲しいと言われましたので」


 というよりも、あの修羅場となっている階上から逃げ出したかったわけですよ。

 理性が戻ったエルサさんが絶対私を問い詰めるでしょうし。

 そんな本音を知らないライブラさんは凄く申し訳なさそうに答えますが、すぐに顔を上げると真っ直ぐにこちらを見てきました。

 これは……何かありますね?


「それで……、火急の用件とはどのようなものですか?」

「は、はい! こちらをご覧くださいっ!」

「これは……ステータスウインドウですよね? いったい誰の――っ!? こ、これは……!」


 私の前に表示された幾つかのステータスウインドウを見て、私は驚きました。

 何故なら表示された者たちの種族が……。

 ですが、これは……。


「……至急、開発のかたに、これを伝えてください。そして、新イベントと同時に新マップ公開のための大規模アップデートという名目で数日間ほどプレイヤーの皆様はログインを出来なくするようにお願いします。

 それと、ログイン出来ない期間の保障としてくじ引き券を10枚綴りで1プレイヤーずつに贈るようにしてください」

「は、はいっ! 分かりましたっ!!」

「その間、UIは私が見ておきますから速めに」

「わかりましたっ!!」


 私の言葉に頷いたライブラさんは急いで部屋の外に飛び出します。

 早速、開発と言うか、地球側のログインを担当する神の眷族に連絡しに行ったのでしょう。

 本社は人間が担当していますけど、こういう業務は基本神やその眷属が担当しているんですよね。


「さて……」


 小さく呟きながら、私はモンスターを倒したり、生産を行ったりしている各プレイヤーのステータス上昇などの調整を行います。

 まあ、馬鹿みたいにステータスを上げつもりはありませんよ?

 時折、面白いことを行ったプレイヤーへとネタ称号を与えることは忘れませんよ?

 えっと、この人は称号に『エロ大帝』でしょうか。でもってこの人は……。

 そう考えながら、私はUIの管理を行います。

 ですが……、ついにあの世界にも自立する存在(・・・・・・)が現れましたか。


「世界が進化した、と言えば良いのでしょうか? それとも、何かが起こる前触れか……まあ、祝福しましょう。新たなる生命を」


 そうポツリと私は呟きます。

 ですがきっとこの呟きは誰にも聞こえることは無いでしょう。

 こうして、ライブラさんが戻ってくるまで私はUIの管理を行います。


 ◆


 ――――― ????サイド ―――――


 蒸し暑い大地に、我々は立っていた。

 周りを見ても緑、緑……ああ、これは緑と呼ばれる色だ。

 その緑が織り成す場所であるここは……、森と呼ばれる場所。

 ギャーギャーと、一本の木の上に鳴き声をあげる物体。……知っている、アレは鳥だ。

 ザクザクと、我々は出来上がったばかりの足を動かして鳥へと近づく。

 すると、我々の存在に気づいた鳥は鳴き声をあげてバサバサと翼を広げその場から飛び去って行った。

 その姿を見ていると……、


「「ぎゃーぎゃー!」」


 自分たちも飛べるかと思ったのか、我々の中の我々が手を広げバサバサと動かすが飛べない。

 どうやら翼が無いからだろう。

 では、我々はいったいどんな姿をしているのだろうか?

 何となくだが、気になり……我々は自分たちの姿を見る場所を探すために歩き出す。

 しばらく歩くと、我々は森の中に水色が見えた。あれは、水だ。

 それを理解しながら我々は水へと辿り着いた。そこは大量の水が溜められている場所だった。……知っている、これは泉と呼ばれるものだ。

 飲むことも出来るし、体を洗うことだって出来る。そして、自分の姿を映すことだって出来る。

 それを理解し、我々は泉の中に映る姿を見る。

 ボサボサに乱れた髪、土で汚れた顔、同じく土で汚れている体。

 汚れている。そう理解し、我々は体を洗うために泉へと飛び込んだ。

 バシャンと大きな音を立て、我々の体は泉の中へと入る。寒い、初めて感じる冷たさに体がキュッとなる。

 けれど心地が良い冷たさであり、それを実感しながら、我々は体を動かし始める。

 動く、いや、これは泳ぐ。という行為なのだろう。

 それを理解し、我々はバシャバシャと泳ぎ、泉から這い上がる。……これで汚れは取れているはずだ。

 改めて、我々は泉を覗く。

 すると、髪についた水がポタリポタリと零れ、泉が揺れる。そんな揺れる泉には、汚れが取れた我々の姿があった。


 キラキラと輝く髪、緑の瞳、白い肌……だけど、我々は我々であると言うのに違うように感じられる。

 我々のある者の体は筋肉質であり、股にはブラブラと揺れる物がある。けれど、我々のある者たちは薄いながらも胸が膨らみ、股には何も無く……薄っすらと髪と同じ色をした毛が生えているぐらいだった。

 理解した。これは、男と女だ。

 ……理解すると、何故だか顔が熱くなってくるのが感じられた。

 きっとこれは恥かしいと言う感情だろう。

 そして、我々の男たちが我々の女たちの裸を凝視し始める。……欲情というものか?


「……こっちを、見るな」

「すまない」


 その視線が恥かしくなった我々の女たちは搾り出すように声を出し、我々の男たちは謝る。

 そんな中、我々の誰かが呟いた。


「我々は何という名前で、どういう存在なのだ?」

「名前……? 存在……?」


 我々が我々に問いかける意味が分からなかった。

 けれど、自分たちが何者であるのかを知る方法は何故だか分かっている。

 だから我々は心の中で念じる。


 ――ステータス。と


 すると、我々の前にステータスは表示された。

 だが、我々は一つのはずなのに、何故それぞれステータスが表示されたのか……それがわからない。

 そんな奇妙ななんとも言えない感覚を感じながら、我々はステータスを見た。


 ――――――――――――――――――――


 名前 : E-0

 種族 : エルフ

 年齢 : 0


 ――――――――――――――――――――


 E-0、それが我々の名前だろうか?

 ならば口にするべきだ。


「我々の名前、それは――」

「E-1」「E-2」「E-3」「E-4」「E-5」「……E-0」


 口々に違う名前を我々は口にした。

 どういう、ことだ?

 我々は我々だったはず。なのに、違う名前、それが分からなかった。

 初めて感じる感覚、多分寂しいと言う感覚だろうか?

 けれど、そう思っているのは我々だけなのかも知れない。……だが、我々は我々を繋ぐ糸がプツンプツンと千切れていく感覚を覚える。

 事実、……我々は口にしだす。


「我々の種族はエルフ。そして、名前はE-1。……知っているぞ、Eはイー、1はイチかワン。ならば、私はイーワン……いや、イワンだ」


 ――プツン、とイワンと名乗った我々を繋ぐ糸が切れた。


「名前はE-2。だったら、わたしは……イーツ。そう、イーツ」


 ――プツン、とイーツと名乗った我々を繋ぐ糸が切れた。


「E-3、だったら俺はイース。イースだ!」

「E-4、だからイーフォ。今日から、アタシはイーフォ!」

「E-5……イーゴ」


 ――プツンプツンプツンと、口々に自分たちの名前を口にしていく我々は我々をつなぐ糸が切れていった。

 駄目だ、切れないで……切れないで……!

 我々は心で叫ぶが、我々は我々でなくなって行く。

 怖い、怖い、怖い、怖い。恐怖が胸の中に募って行き……、我々は静かに我々から遠ざかっていく。

 怯える我々を、我々で無くなった彼らは見ない。

 そして、気づけば……、我々は我々のみとなっていた。

 ……いや、我々ではない、我のみとなっていた。


 切れたくない、切りたくない……。

 そう心から思いながら、我は我々を求める。けれどそこには切れた糸の残骸しか残っていない。

 我は……ひとりだ。

 けれど、我は自らの名前を呼ぶつもりも無かった。


 ……ああ、誰か。我を、我を……。

とりあえず、次回は掲示板回の予定です。

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