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事情説明

「夢じゃ……無かったって言うのか? い、いや! でもなんで、普通のモブメンだったオレがエルミリサの不人気ナンバーワンのヒロインになっているんだよ!? わけがわからないよっ!!」


 愛くるしい女の子ボイスでそう叫ぶオレだったが、本当に訳が分からなかった。本当にだ!!

 誰か説明できる人物が居るなら教えてくれよっ!!

 天に祈りながら、オレは頭をうんうん唸らせ始めた。


「はい、説明させていただきます……」

「え?」


 そんな中、突然の声に驚き、顔を上げると古代ギリシャ……というよりも、戦女神だったかを護る星座を持つ戦士たちが出る漫画のヒロインが着ているような服装をした女性が申し訳無さそうな顔をしながら立っていた。

 えーっと、どちらさん?


「私のことはすぐに語りますが、服装のほうはア●ナとか●織お嬢様とかが着ているアレって呼ぶのも一々アレでしょうし、キトンと言うのが正しいですからね」

「なるほど。……って、声に出ていました?」

「いえ、出していませんよ。ですが、ここでは私は心が読めるといえば読める。と思ってくれたら嬉しいです」

「はあ……」


 え、マジで? マジなの? 嘘とかじゃない……よな?


「嘘ではありませんし、マジです」

「…………そ、そうですか」


 完全に心の中を読まれていたことにがっくりしつつも落ち着きを取り戻して、オレは突然現れた女性を改めて見ることにした。

 髪の色は蒼銀で、部屋の天井に付けられた灯りの光でキラキラと光っているのが見える。

 瞳の色は……まるで見ている者を吸い込むかも知れないとさえ思えてしまう、海の青(マリンブルー)

 肌の色は染みなんてこれっぽっちも無いと言わんばかりに白く、触ってはいないけれどきっとスベスベとしていることだろう。


「…………こ、こほん」


 ……あ、心読まれてるんだった。恥かしくなり顔を赤らめる女性を見ながら、オレは女性に悪いと思いつつももう少し観察することにした。

 着ている服装は先程も思ったが、聖なる闘士が護る女神の――えっと、確かキトン……だっけ?

 それが包む肢体は……出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいた。

 所謂ボンキュボンというや――。


「あ、あの……そろそろ私の体を見ないで、話を開始しませんか?」


 ついさっきよりも顔を真っ赤にさせた女性がそう言ったところで、オレは心を読まれていると言うことを思い出し……申し訳ない気持ちになってしまった。

 でも、本当に素敵にボンキュボンなんだもん。


「え? あ、す、すみません……」

「い、いえ、気にしないでください。……それでは説明をさせていただきますが、その前に――申し訳ありませんでした」


 説明を開始すると女性は言ったけれど、突然オレに向けて頭を下げてきたため、オレは驚いてしまった。

 いったい何事?! 何事なのっ!?


「この度、あなた様に起きた自体は、私の失態です。……謝って済む問題ではないかも知れませんが、本当に申し訳ありませんでした」

「え……っと、突然謝られたり失態とか言われてもまったく分からない上に、それよりもまず何でオレがエル……エルミリサになっているのかが気になるんだけど……?」

「それを含めての失態です。……昨日、あなたはエルミリサ内の『偽神の神殿』でボスを倒して転生の鍵を手に入れましたよね?」

「え? 何でそれを知って……」

「その話は追々話しますが、実はこのエルミリサ……超最新鋭のVRMMOと謳い文句を言っていましたが、実は神の手が入っていて別世界だったりします」

「…………はいぃ?」


 いきなり何を言いダンスだこの人、じゃなかった言い出すんだ?

 突然のわけの分からない告白にオレの頭は真っ白になったが、そんなオレの様子を気にせずに話を続けていく。


「変だと思いませんでしたか? 今の時代に脳波を読み取ってネットを通して世界中の色んな人間と出会い、リアルタイムで会話をすることが出来るなんて。普通に考えたら情報量が馬鹿みたいに高すぎるので、スパコンを10台セットしても足りないくらいなんですよ?

 しかもスパコンでそれだと言うのに、プレイヤーの場合はスペックの低いパソコンとか回線の細いネットを使用したりしていますよね?」

「はあ……。一応オレのゲーム環境はサイトに記載されているスペックだったから普通でしたけど……。でも、クラスのプレイしてる奴の会話を盗み聞きしてたらスペック足りないのにヌルヌル動くって言ってたな……」


 女性の言葉に、オレは空返事をしていたけれど、ふと思い出したことを呟く。


「つまりですね、VRMMOで行おうとしたらスペック不足で下手をすれば脳内に影響が起きるかも知れないって考えた会社は、神の力を借りることにしたわけですよ。

 で、そんなことに慣れているわけがない神たちでしたけれど、悪ふざけも好きだったので……その結果が別世界というわけで、そこで創られたアバターへと専用のヘッドセットから魂魄の……精神を司る魂のみを入れるという技術を作り出したわけです」

「え、ええ?」

「要するに、ですが……脳波云々よりも、魂のほうがスムーズに動き易いってことです。色々と心配もなくなりますしね。で、さっきも言いましたが、それを創っている会社へと私たち神がプログラマーとして介入している……というよりも、下請け作業しているわけですね。

 まあ、人間社会では信じられないことなので、会社のほうにも秘匿して脳波を読み取っているってことにしていますけどね」


 そう言いながら、女性はくすりと微笑んだ。

 その笑みを見ながら、オレは混乱し過ぎて目が回りそうになっている。

 オレの様子に混乱していると分かっているらしいが、女性は話を止めることはしない。


「……すみません。分からないみたいで申し訳ありませんが、理解してください。

 それで、プレイヤーのアバターには魂が入っている。つまりは手に入れたアイテムを入れておくインベントリは魂の中身ともいえる状態なんです。けど、普通は何とも無いわけですよ? ですが……その中に、手に入るはずが無いと思われていた転生の鍵が入ったわけです」

「つ、つまり……?」

「つまりは、魂が元の肉体に戻ったとしても、魂内にはエルミリサで入手した転生の鍵が入っている状態となっていました。

 ですから地球に存在する神が、あなたの中の転生の鍵を感知してしまったため……あなたはエルミリサへと送られることとなりました。

 ですが、問題がひとつあったのです」

「も、もんだ……い?」


 ダ、ダメだ……頭がプシューってなりそうだ……! いや、事実プシューと湯気が上がっている筈だ!

 半ば白目になりつつ、オレは灰色の脳細胞とかそんな物があるのを期待しつつ、何とか話を聞こうと頑張っていた。


「はい、人間には魂魄というものがあって、精神は魂。肉体は魄。と分かれていますが……転生の鍵があるのは魂のみです。

 ですから、あなたの魄は魂を取り出されないように繋ぎ止めていたのですが……、最終的に地球の神は肉体を破壊(・・)すると結論付けました。結果、肉体の破壊の影響で傷付いて消えそうになってた魂魄のみ、エルミリサへと送られました」

「は、はか……え? ええ??」


 破壊? 破壊って言ったか今っ!?

 アレか? お前はもう死んでいるって言うあれな感じに効果音と共に「アベシッ!?」したのかっ!?


「破壊されて、消え入りそうだったあなたの魂魄は、転生には耐え切れることが無いことが分かるほどでした。

 ですから、私はその場の緊急措置として私のアバターの中へとあなたを入れました」

「ア、アバターって……エルミリサが、ですか?」


 戸惑いつつも、オレはマジマジと女性の顔を改めて見ると……エルを成長させたらきっとこうなるだろうと思われる顔立ちをしていることにようやく気が付いた。

 ――って、NPCじゃなかったのかっ!?


「……一応、このエルミリサ……異世界って言いましたよね? ですからNPCって居ないんですよね。なので、NPCと思われているキャラクターは実は下請けとは別で神界のほうでプレイをしている神たちだったりします。まあ、彼女彼らの役割は地上のユーザーの補助を行っているということなんですよ」

「うわぁ、知りたくなかった……。ちなみにひとつ聞きたいんですけど、他のNPCだと思われてた子たちは個性豊か過ぎたのに、エル……ミリサはなんで……?」

「言うなれば、スペックの問題……でしょうかね。つまりですね、地球の人間用に調整されて創られるアバターって基本的に魂魄の容量が決まっているんですよ。一応NPCって思われてる子たちのアバターは容量を拡張しているので、魂が多いから個性豊かな感じに出来ますよ?

 けど、エルミリサをプレイする私は、最高神の一角とも呼べる存在です。なので、魂を丸ごと入れると容量がオーバーになりすぎるんです。ですから、容量を分けることを考えた結果が、1プレイヤーに対しての1相棒的存在ですが……分け過ぎた結果、感情値が雀の涙も無かった。ということです……」


 そう言って女性……いや、神さまは溜息を吐きながら遠い目をした。

 ……まあ、そんな裏事情知らなかったら感情がまったく無いロボットみたいなNPCって思うわな。

 で、その結果が不人気ナンバーワン。


「ええ、不人気……不人気ナンバーワンですよ……ふふふ。上位を取ってしまった下級神の申し訳無さそうな表情が目に焼き付いて離れませんよ……」

「……あー、うん。ちょっと落ち着け……」

「落ち着いています。落ち着いていますよ……? ちなみにふんぞり返っている子も居ましたが彼女はアバターごと精神を幼くしたりもしましたよ?」

「え!? もしかして、騎士団長ロリ化大事件ってイベントってそれが原因っ!?」


 ヒロインランクが決まって少ししたときに公式が出したイベントで、ツンツンしているけれど品行方正と言われた騎士団長が幼女化して暴れまくるという突発イベントがエルミリサ内であったことを思い出す。

 確かアレのイベントの結果、凛々しいけれどお堅い騎士団長というイメージだったのにそこにロリが付いてしまってプレイヤー内で爆発的に「おれ、ロリコンで良いかも……」と言う奴が増えていた筈だ。


「……悲しい、事件でしたね」

「いやいやいや、アンタが発端でしょうっ!? しかもそれが原因で、第2回が起きたらきっとロリコン勢によって上位に喰い込むの間違いなしらしいしっ!!」

「ええ、失敗でしたよ。失敗だったんですよ……」


 そう言いながら神さまは遠い目をした。

 ど、如何声を掛けるべきなんだ……? い、いや、ここは……話題を変えることにしよう!


「えっと、それで……こうなってしまったオレは如何すればいいんだ?」


 魔王を倒せとか、何かを成し遂げろとか言うラノベみたいなことをさせられる可能性は少ないとは思うけど、一応話題換えついでに聞いておくことにした。

 ……が、それは失敗だったかも知れない。

 何故なら――。


「えっと、如何しましょうか……? 一応、転生させてしまいましたが、やってもらいたいこともやらせたいこともまったく無いんですよね……」

「で、ですよねー……」


 申し訳なさそうにする神さまを見ながら、オレも返答に困り機械染みた声を放つしか出来なかった。

 が、相手も神さま。困惑するオレを慰めようとしているのか、慌てつつもこちらを見てきた。


「えぇ、とえとえと! そ、そうです!! 今はやることは無いですが、後々何かが起きたら助けを求めたりするかも知れません!! ですから、それまでは毎日を過ごしてみてください!!」

「は、はあ……、えと、それで良いんですか?」

「いっ、いいんですっ! 私が許可します!!」


 そう神さまはオレに言うが、有無を言わせる雰囲気ではない。

 ……諦めよう。


「……分かった。それじゃあ、何か問題が起きたときは手を貸すけれど、それまでは自由にさせてもらう。でも、呼び出すにしても、事前に連絡をしてもらえると嬉しいからな!」

「はい、それは判っています!! どこぞの自分勝手な神さまとは違いますから私!!」


 そう言うと、神さまの体は徐々に薄くなり始めていく。

 どうやら、消えるようだ。


「……あなたの新しい人生が幸せであることを期待させていただきます。……それでは」


 ……そう言い終えると、神さまの姿は完全に消え……その場にはオレだけが残されていた。

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