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外を散策しよう

 門番たちが護る巨大な門を潜り抜けた先は、広大な平原であった。

 色鮮やかな緑色の草、商人たちの馬車やプレイヤーや旅人たちが歩いて創られた足だけで地均しされた道。

 そして奥のほうに見えるのは巨大な山で、その手前には広大な森。


「わぁ……」


 そんな初めて見る自然な光景に、ニィナの口からは先程と同じように驚きの声が洩れていた。

 まあ、そうだよな。ニィナはこの世界に来るまでは病院で暮らしていたらしいし……、それに現代社会に此処まで広大な自然なんてもうお目にかかれないしな……。

 そう思いながら、ニィナの手をオレは引く。


「にゃ!? エ、エルサ? ど、どうしたの??」

「ああ、ここで立っていると周りに迷惑だったりするし……、隅のほうに移ろうか」

「あ、そ……そう、だよね。あ……えと、ご……ごめんなさい!」

『『えっ!? い、いやいや、良いから良いから!!』』


 道の真ん中に立っていたことをようやく思い出したニィナは慌てながらオレの後に続いて歩き出すが……、思い出したように後ろで立ち止まっていたプレイヤーたちに頭を下げる。

 いきなり謝られた彼らは驚いたようだけれど、即座に全員ハモるように声を出し、前に突き出した手をブンブン振るという同じ行動を行った。

 仲良いのかこいつら……。

 そんな風に思いながら、オレはニィナの手を引いて門のすぐ近くの外壁の側まで移動する。


「ここら辺で良いかな……。ニィナ、しばらく自然を見てても良いぞ」

「あ、う……、うん。ありがとう、エルサ」

「別に気にしなくても良いからな?」


 ニィナから礼を言われるも、オレはそう答える。

 その言葉に彼女はどんな心境を抱いてるのかはわからないが、不快感を抱いていないと思いたい。

 そう思いながらオレは外壁に背中を預け、ニィナを見ると……チラリとオレを見ていたニィナが慌てて周囲を見始めた。

 ? いったいどうしたんだろうか? ……ま、良いか。

 とりあえず、外に出たんだから一度試してみるか。


(――――マップ!)


 心の中で唱えた瞬間、オレの視界に半透明のパネルが表示され……そこにはこのマップの地図が表示されていた。

 ただし、【†SSS†】ではなくエルの体だからか表示されているマップには採取ポイントや先の道は何処に続くかという詳細が描かれてはいない。

 ……どうやら初期化されてる。と考えたほうが良いのかな? ってことは、ワープポイントも同じようになってると思えばいいのか?

 今までの経験がゼロになってる箇所があることを改めて実感していると、何時の間にかニィナがオレを見ていることに気が付いた。


「どうしたんだ?」

「え、あの……エルサが、難しい顔をしてたからどうしたのかなって思って……」

「あ、ああ……ちょっとマップを見ててさ」

「マップ? 地図?」

「そうそう、心の中でマップって言ったら見れるようになるから」

「そうなの? ……わっ、本当だ!? こんな感じになってるんだね!」


 どうやらニィナもマップを使ってみたようで、楽しそうに前を見ながら言う。

 そんなニィナへとオレは語りかける。


「ニィナ、マップが見えているならそこから追加される機能も教えておこうか?」

「追加機能? どんな物なの??」

「それはだな、えーっと……確か、ここからだと少し歩けば良いんだったよな?」

「わっ、待ってよエルサ!」


 首を傾げるニィナへとそう言いながら、オレは歩き出すとオレを追いかけるようにニィナも駆け出した。

 そして、街から50mほど離れた草原の中にポツンと生えた木の前に辿り着くと、オレはその場にしゃがみ込んだ。


「あったあった。ここだここ」

「はぁ、はぁ……っ。エ、エルサ……一体、どうしたの?」


 しゃがみ込んだオレに少し遅れてニィナも追いつくが、突然のことで走り出したからか呼吸が整っていないように見える。

 そんな彼女をオレは招き寄せると、釣られるように彼女は近づいてきた。


「ごめんごめん、でも実際に見せたほうが分かり易いと思ってさ……見てみ」

「? あれ? 何だか……光ってる?」


 オレが指差した場所。そこは木の根元辺りなのだが、そこがオレとニィナの目には薄く光っているように見えた。

 いや、オレやニィナだけでなく全てのプレイヤーが近く出来るように光って見えるのだ。

 それが何なのかを分かるようにオレは手をそこに伸ばす。すると光は明滅を繰り返し……ゆっくりと引き抜いたオレの手には1枚の薬草が握られていた。

 それを見たニィナはますます目を点にする。

 なのでオレはこれが何であるかを説明することにした。


「ニィナ。これ……というか光っている所は採取ポイントって言って、その中に手を入れると素材が手に入るんだ」

「採取ポイント?」

「そうだ。でもってこれと同じような場所がマップ上には幾つもあったりして、自分で見つけることが出来たらマップに表示されるんだ」


 そう言いながら、オレはマップを表示させると、自分が今立っている箇所に◇マークが表示されていた。

 よし、ちゃんと採取ポイントの記憶はされるようだな。

 ニィナを見ると彼女のマップにも表示されているようで、興味心身に頷いているのが見えた。


「その採取ポイントで素材を取ったら、別のプレイヤーも採取することは可能だけどその後は半日近く待たないと次の素材は取れないようになってるんだ」

「なるほどー。えっと、エルサ。あたしも取って……大丈夫かな?」

「別に大丈夫だから、入れてみたら良いぞ」

「う、うん……じゃあ……入れてみるね」


 ニィナは少しビクビクとしながら、採取ポイントに手を入れると……採取ポイントから光が明滅し、彼女がゆっくりと手を抜き出すと、そこには林檎が1つ握られていた。

 握られているそれに驚く彼女であるが、採取ポイントは役目を果たしたとでも言うように輝きを失い、黒くなった。これで次プレイヤーが採取を行うか、6時間ほど経たないとオレやニィナの目には光って見えることは無いだろう。

 そう思いながらその場から離れようとしたとき、ガサリと音がし……音がした方向を見ると頭から角が映えたウサギが茂みから出てきた。

 白い毛並みに赤い瞳という可愛い見た目ではあるが、頭から生える角は……何というか禍々しいデザイン。

 それがこの世界における初心者用モンスターの1体である、『角ウサギ』であった。


「わっ、か、可愛…………い?」

「可愛さと狂気が入り混じってるだろ? あれ……雑魚モンスターなんだぜ……」

「え? モ、モンスターなの? 倒す……んだよね?」

「ああ、モンスターだから倒すのは当たり前だろ?」


 現れた角ウサギにニィナは可愛いと言おうとしたが……頭の角がやっぱり異常すぎたのか、最終的に疑問符が付いているように感じられる。

 そんなニィナへとオレはモンスターであることを告げると、恐ろしそうに目の前のそれが敵であることを問いかけてきた。

 なので、頷くことにし……手本として、倒すところを見せるしかないだろうと考えたオレはインベントリから鉄の剣を取り出す。

 その様子にニィナは顔色を青くさせる。多分、可愛い見た目だから倒すことに躊躇うんだろうな……。


「ニィナ。お前のそういう心境はゲームプレイをしてた頃から何度も見かけたことはある。その結果、倒されて死に戻りをしてるプレイヤーを何度も見た。

 ……だけどな、これはもうゲームじゃなくて、現実だ。可愛いから殺せないとか、人型モンスターだから殺せない何て言ってたら、死ぬのはオレたちなんだぞ?」

「うっ、そ……それはそう……なんだよね?」

「まあ、今は慣れるしかないっていうのがオレから言えるアドバイスなんだけどな。……ってことで、ちょっと倒してくる」


 戦わなければ死ぬ。それを改めて聞かされたニィナは表情を暗くして何も言えなくなるが、慣れるしか手は無いと言いオレは角ウサギへと攻撃を仕掛ける。

 鉄の剣を握り締め、その場から一気に角ウサギまで間合いを詰めると一瞬で角ウサギの眼前まで辿り着き――オレ自身驚きつつも剣を振るった。

 直後、シュンッ!――という音が耳に届き、何が起きたのかわからない表情のままだった角ウサギはオレに脅威を感じたらしく逃げ出そうとする。……が、三回ほどピョンピョンと飛び跳ねたところで……真っ二つに胴体が斬れて、素材へと変化した。

 ……グロが無くて良いとは思うけれど、倒した=素材を落とすってある意味シュールだよなぁ。

 そんな風なことをオレは思うのだが……、そろそろ現実を見るべきだろうな。


「エ、エルサ……、それ……」

「あー、うん、ニィナ……見なかったことに、出来ないよな?」

「無理、かも……。これは、本当に……無理かも」


 顔を引き攣らせるニィナを見ながら、オレは現実逃避を再び行いたくなる。だがニィナも現実も許してはくれないようだ。

 ある意味やってしまった感を抱きながら、オレが剣を振るった方向を見ると……茂みから続く林ほどの木々がある一定の距離まで地面が抉れていた。

 そう……、どうやらオレが鉄の剣を振るった結果、角ウサギだけではなく地面にも影響が与えていたのだ。

 そして、手に握り締めていた鉄の剣を見ると……根元からポッキリと折れているのに気が付いた。

 ……これは、色々と自身の制限を掛けたほうが良いのかも知れないな……。

 そんな今更ながらなことを思いながら、ニィナを見る。それも笑顔で。


「え?! な、何かな、エルサ……っ?」


 いきなり笑顔を向けられたニィナは顔を真っ赤にしながら、あわあわとしだしたが……そんな彼女の手を掴むとオレは――。


「逃げるぞ、ニィナ!」

「えっ? わにゃっ!? エ、エルサァ~~ッ!?」


 その場から一気に逃げ出した。……多分目撃者は居ないはずだから問題は無いはずだ。

 だから知らない振りをしたら良いだけなんだ!!


 そしてその後……、初心者向けの採取ポイント近くの林付近の地面が抉れているのをプレイヤーが発見し、掲示板にその光景のスクショが張り出され、初心者向けマップに危険なモンスターが出現したかそれとも新たなイベントの要素のひとつなのかという議論が語られることになっているのだが……オレは何も知らないことにした。

通常のモンスターに対してこのステータスは周りを巻き込む環境破壊レベルだとようやく気づけた件。


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アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
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