閑話:邪神たちは踊る~囚人解放編~
お待たせしました。
今回は、基本会話少なめのロクでもない話です。
エルミリサ違反者アバター専用牢獄は、その名前の如くエルミリサ内での違反者が使用していたアバターを牢屋の中へと閉じ込めておく施設です。
外見は大きな塔のようであり、その中はレンガ造りであるけれど苔生して湿気が強い上に壊せない鉄格子という……ファンタジー世界特有なデザインをした牢屋ですね。
けれど、その牢屋一つ一つは狭く……大きさで言うと畳2畳ほどの物でした。
そしてその床には棺おけが置かれており、その中にはミイラがするような胸の上に腕をクロスさせたポーズで寝かされた違反者たちが入っていますが、中身が入っていないのでそのどれもが目を閉じています。
……ですが、その牢屋の幾つかの棺おけは開かれており、牢屋の中ではその中で眠っていた違反者が叫んでいました。
「おい、こら、出せ! オレ様をここから出しやがれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「うるっせぇぞ! ギャンギャンギャンギャン毎日毎日うるっせぇんだよ! ぶち殺すぞ!!」
「ひぃっ!? す、すんませんっ!!」
雄叫びを上げながらガシガシと鉄格子を押し引きする赤毛の少年が叫んでいます。
ですが隣の牢屋か近くの牢屋に居るであろうモスグリーン色の髪を短めに設定した青年が壁に蹴りを入れてキレました。
その声に怯えたのか少年はすぐに頭を下げて鉄格子から手を放しました。
そんな彼らの様子を見ながら、マイクロビキニを何の恥かしげも無く着用している紫色の髪をした美女が体をくねらせながら悶えます。
「あぁん……♪ も、もう、こんなにも逞しい声を出してぇ……♪ んっ、お姉さん濡れてきちゃうわぁ♪」
「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ……現実だぁっ!?」
「ふっ、これだから下賎な者共は……、この上流階級である俺を見習うが良い」
そんな彼らの様子が目に入らないのか、灰色の髪をしたガリガリ男は現実を逃避しており……、すぐ近くではワザとらしい金髪の長い髪をファッサァと手で巻き上げる青年が居ます。
そして少し離れた場所では、腹が空き過ぎているのかハゲでデブといった某錬金術師漫画に出てきそうなデザインをしたおっさんがガシガシと鉄格子を齧っています。……痛くないのですかね?
更に隣の牢屋の棺桶では動いては居ないけれどパジャマを着ているピンク色の髪をした少女が目を閉じて眠っています。どうやら自分から動く気はないのでしょう。
そう思っていると、赤髪の少年が溜息を吐いて声を上げている彼らへと問いかけるように口を開けました。
「……つーかさ、オレ様たち……いったいどうしたんだ? てか、ここって牢屋の中だよな?」
「そうだな……。多分だけど、エルミリサの違反者用の監獄じゃねぇのか?」
「あらぁ? それだったら、何でワタシたちこんな所にいるのかしらぁ? ……あぁ、違反者として垢BANされたっていうのは覚えてるわよぉ?」
「……ふむ。そうだな。俺も確かにこのゲームで違反者となった。……貴族らしくNPCを奴隷として売買していたためにな」
「ぼ、ぼくも……ただたんに、好きな子を追いかけてて……そ、その子に男が近づいてきたから……は、はじめてを奪われる前に、ここ恋人であるぼくが奪おうとしただけなのに……」
「鉄の味がたまんねぇー……ガジガジ」
「……でもよ、それ以前によ……お前ら、こうなる前の記憶覚えてるか……?」
『『『…………ああ』』』
そう言って口々に喋りますが、詳しく彼らの情報を漁ると……違反者となった理由が簡単に見つかりました。あと、地球の本体の死因も。
まず赤髪の少年は、同級生を無理矢理ゲームに参加させるとその同級生をいい様に使っていたみたいです。
初めは初心者装備で上級者向けのダンジョンに送り込んで壁役を無理矢理させたりとかしていたそうですが、徐々にその行為はエスカレートしていき、最終的にリアルマネーが関係する出来事が起きて違反者として処分されたようですね……。
ちなみに死因はその垢BANが起きた原因が自分だというのにその同級生が悪いと責めて、学校内で掴み掛かったところ抵抗してきた同級生に階段から突き落とされて首の骨を折ったようです。
自業自得ですね。
次にモスグリーン色の髪をした青年ですが、彼は格闘技が好きな人物だったようですが……現実ではうだつの上がらない青年だったようです。
で、ゲーム内で初めはモンスターに格闘戦を挑むだけだったようです。けれど、その欲求はまったく満たされず……モンスターから自分のエルミリサへと変わり、路地裏に連れ込んだNPCに変わり……最後にはプレイヤーに襲い掛かったようです。最低ですねこいつ。
垢BANされてからは、公園を徘徊しながらシャドーボクシングっぽいことをしてたそうですが……帰り道にDQNなヤンキーたちにぶつかったときにゲームで出来たのだから現実でも出来るはずと自分の力を過信して殴りかかった結果、BKBKにされて腹をナイフで刺されて、翌朝死体で見つかったらしいです。
次に紫色の髪をした女性ですが、彼女は所謂コスプレイヤーだったようです。……ただし、イベントでいい感じの男を見るとお持ち帰りする系の。
要するにH>>>>コスプレ。というよりも、コスプレを餌にエッチするのが目的って位のヤバイ変態ですね。
エルミリサでもセクハラ行為ギリギリのことを何度もしており、ホーム内でやることをやるだけではなく、外で何度もしたりとイエローカードを稼いでいますね。
でもってそれだけでは飽き足らず、気に入った相手をリアルで呼び出してホテルへレッツゴーを良くやる人物だったらしいです。……まあ、結局リアル情報を公開し過ぎたために何か起きてからでは遅いというわけで垢BAN処理を行ったんですけどね。
楽しみの一つが減っただけなので彼女は別に気にしていなかったようです。けれど、彼女は情報をネットに流しすぎたようですね。
ある日何時ものように男漁り目的にイベントに行ったら、イケメンに個人撮影会に誘われたようです。勿論イケメンだからOKを出したようですよ。
けれどそれはイケメンを餌にした893の罠だったようで、イケメンとのエッチを期待してた彼女は監禁されて道具のように扱われたようです。
で、ヤバイクスリを何発も打たれて、まともな精神をしていない状態になっていたみたいですね。……うわ、これはえぐいです……。でもって最終的に使えなくなったので、身元がわからないように頭をかち割られて……死体は挽肉機でグチャグチャですね。
……肉はしばらく無理ですね。
次に現実逃避をしている灰色の髪のガリガリ男ですが……、俗に言うストーカー気質の持ち主ですね。
エルミリサでの垢BAN理由は……っと、ああ……彼は魔法を使えるようですね。で、魔法を使って、モンスターを倒してたら偶然やられそうになってた女性プレイヤーを助ける形になったようです。
で、予想通りと言いますか……「助かりました。ありがとうございます」と普通に女性プレイヤーはお礼を言ってきたようですが、何処をどうしたのか男はお礼を言われた=「貴方に恋をしました、付き合ってください」と判断したようです。
勘違い怖いですね。
でもって、その日から彼女がログインするのを見つけたらこっそりとついて周ってピンチのときは助けに入ったようです。けれど、そんな状況が何度も続けばいい加減変だと思うのが当たり前です。
彼女はそのことを友人であるプレイヤーたちに相談していたようですが、その殆どは男性プレイヤーだったので男は告白してきたのに別の男と話して……! と苛立っていたようですね。
自分以外の男たちと一緒に居るなと言いたいけれど、こっそりとついて周ることしか出来ない彼でしたが……ある日からその女性プレイヤーは相談を求めた男性プレイヤーたちと共に狩りをするようになったようです。
それに嫉妬し、男はぶち切れたらしく……魔法で彼らをPKしようとしました。ですがそれを行うよりも先に、男のストーカー行為とPKを行おうとしていたことが男を背後から見張っていたプレイヤーによって告発されました。
その結果は違反者ですね。
……けれどそれだけでは終わらなかったようですよ?
垢BANされてから、折角強くしていたキャラクターだったのにという恨みに突き動かされて彼はそのプレイヤーたち……いえ、女性プレイヤーのリアルを執拗に調べたようです。その結果、彼は女性プレイヤーの本名及び住所の情報を手に入れました。
で、計画を立て……ある日の夜に彼は計画を実行します。復讐と己の欲求を満たすための計画でした。
そして結果だけで言うと、それは成功しました。暴れる彼女を男は無理矢理犯し、勢い余ってそのまま殺害という結末で……。
自らの欲望で穢された女性の死体を前に男は自分がしたわけではない、これは夢だと現実を認めようとせず彼女の住んでいたマンションから飛び降り、その最後を迎えたようですね。
…………後半分もあるんですよね……、原因と人の死を語るの……はぁ。
気が滅入りますけど……頑張りましょう。
次に金髪の青年ですが、彼は地球のほうではある大企業の社長の息子だったそうです。
大企業の息子という立場を利用し、彼は自身の通う大学のサークルで最悪なことを行っていました。
それは所謂ヤリサーと呼ぶべき物でした。何も知らない新入生たちは餌食とされ、ズルズルと深みに落ちていくという朱に交われば赤となるといった感じですね。
しかもコネ作りとして、そのサークルの美女を親の会社の上役たちに贈ったりもしていたようです。クズですねクズ。
で、ゲームのほうではリアルで得たお金とサークルの仲間を使って、奴隷市場を創り上げていたそうですね。
ゲームの黒歴史のひとつとして上げられている、他人のエルミリサを拉致って奴隷とするようにしていたものと同じ物です。
最悪なことに、プレイヤーたちが何度も潰してもこの青年は何度も同じことを繰り返し、周囲を嘲笑うように何度もエルミリサを拉致していました。
垢BANをしなかったのかと言えば、出来なかった。というのが正しいですね。……何故なら、その青年の父親はゲーム機を販売している会社の社長だったのですから……。
ですが、わたくしたちの活躍で社長の座を引き摺り降ろすことに成功し、青年に権力が無くなったので問題無く垢BANをしたそうです。
そして、青年の末路はヤリサーで妊娠したために彼氏からも親からも捨てられた女性が腹に突き刺した包丁による出血死だったようですね。
これが権力者と思い上がっていた者の末路です。
次に鉄格子を噛んでるハゲでデブなおっさんですが……、垢BAN理由は食べ過ぎ及び無銭飲食みたいです。
元々このおっさんは食べることが大好きで、ゲーム内で未知の食べ物を食べるということを期待していました。
事実、ゲームプレイ当初は普通にプレイして、食べる物は食べるといった感じのことをしていたようですね。
ですが、食べてばかりでレベル上げも狩りもまったくしていないおっさんはアイテムも金も底を尽き始めて……それでも食べたいという衝動が抜けなかったようです。
普通ならばお金を貯めるために雑魚敵を倒してレベルアップしつつ素材を拾うことをすれば良いのでしょうが……このおっさん何をとち狂ったのか、無銭飲食を繰り広げるようになりました。
見た目とは違って妙に素早い太ったおっさんだったようですね。
ですが、何度も繰り広げるとNPCからもプレイヤーからもこの人物には注意という回覧が周ってきたらしく、おっさんは入店禁止となりました。
当然何度も進入をしようとおっさんは努力したようですね。というか地道に金を稼げば良いでしょうに……。
ですがその度に強制ログアウトを受けて、その際に後何回行ったら垢BANしますという警告も出ていたようですね。
でも、それでめげないおっさんだったようです。……めげろよ。
……結局、おっさんは垢BANになったようです。
しかも最悪なことに、おっさんはゲームで無銭飲食をするドキドキに嵌ってしまったらしく……ある日、高級レストランに赴き腹いっぱい食べました。
で、会計の際にお金を払わずに逃げ出したようですが、すぐに追いつかれそうになり赤信号の道路を突っ走ったそうです。
そのとき車が走っているのに気づいていなかったのか、それとも避けれると思っていたのか分かりませんが……おっさんは何台もの車に轢かれてしまい、救急と警察が駆けつけたころには既に息は無く体はグチャグチャだったそうです。
食い逃げなんて、ダメですね。
そして最後に未だ棺桶の中で眠っているピンク色の髪の少女ですが……あ、あれ??
彼女に、犯罪履歴は……無い? しいて言うなら、パーティーを組んだときに仲間がダンジョンボスと戦闘しているときに戦闘に参加せずに眠っていることが何度もあったぐらい……ですか?
その際に組んだプレイヤーから叱責は受けたみたいですが、馬耳東風な感じだったようですね。
じゃあ、本体のほうに何か問題があったりとか? ……あ、この子、病院でずっと入院していたのですね。
……ああ、なるほど。親がせめてネットで自由に動けるようにとエルミリサを与えて、面倒臭いけれどキャラ作りをしてプレイしたようですが……やっぱり面倒臭くて眠ることばかりを行っていたようです。
で、ネットの中にログインしている最中に静かに息を引き取った……ですか。
つまりは、監獄の中にあるもうプレイ出来ないプレイヤーのアバターとして収容されてたのですね。
「ん? 何だ……この音??」
「爆発、音……?」
「何か……起きているのか?」
「鉄は飽きたし、棺桶食えねぇ……、ちゃんとした食べ物食べたい……」
「ぁん♪ おなかの中に、ズシンズシン響いてくるわぁ……んっ♪」
そう思っていると、彼らの耳にドゴンドゴンと爆発音が聞こえてきました。
直後、彼らが居る牢屋の部屋の壁がぶち壊され、土煙がモクモクと広がりました。
いったい何が、そう思いながら彼らの視線は壊された壁に注がれます。
するとそこから、カツンカツンと石畳を歩く音が響いてきました。
そして……、煙を切り裂くようにして優雅に一人の女性が現れ、その後に続くように個性豊かなメンバーが現れました。
言うまでも無く邪神一行です。
現れた女性の容姿に目を奪われ、後に続くメンバーに眉を寄せていると女性が彼らへと優雅にお辞儀をしました。
「ようこそ、憐れな魂たちよ。ワタクシはシャマラ、このエルミリサと呼ばれている世界の神と対極を成す存在ですわ」
「え、あ……は、はい」
「簡単に言いますと、貴方がたは死んでいますが、この世界のアバターの中に魂が入りました。理由は特に聞かなくても別に良いですわよね?」
自分たちに何があったのかを聞こうとしていた彼らへとシャマラはきっぱりと言いますが、そう言われると彼らもこうなった理由なんて考えなくても良いかと思い始めたようです。
そんな彼らの様子を満足そうに見つつ、彼女は口を開きます。
「ワタクシが貴方がたに聞きたいことはただ一つ。ワタクシに忠誠を誓い、この世界に混沌を巻き起こすかどうかだけです。
もしワタクシに誓いを捧げるならば、貴方がたには絶対的な力を差し上げましょう。……いかがですか?」
シャマラがそう言って、しばらくその場で立ちます。……どうやら、考える時間を与えるようですね。
それが分かっているのか何名かは互いが見える相手へと目配せしています。そして……。
「好き勝手に出来るんだろ? だったら答えはひとつしかないだろ?
オレ様はあんたに忠誠を誓うぜ!」
「ワタシも誓うわぁ~♪」
「腹立たしいが、今は俺も従おうではないか」
「ぼ、ぼくも……したがうよ」
「美味しい物が食べれるなら、従う」
赤毛の少年がそう言うと、他のメンバーも口々に賛同していく。……ピンク髪の少女は手で答えてるようです。
それを見届けると、シャマラは笑みを深めました。
「その忠誠の言葉に偽りは無いと信じさせていただきますわ。では、貴方がたに力を与えましょう。それぞれに見合う原罪の力を……」
シャマラはそう言うと、7つのどす黒い玉を何処からとも無く出しました。
そして、それらが黒く光を放つと……牢屋の中に居る彼らに向かって飛んで行き、体の中へと吸い込まれていきました。
突然のことで彼らは驚いていましたが、即座に驚きは絶叫に変わりました。どうやらボディを普通とは違う物に創り変えられているのでしょう。
悲鳴が止むころには、彼らも新たな存在となり……この世界に混沌を巻き起こすのでしょうね……。
そう思っていると、シャマラがわたくしを視ており――ゾッとした恐怖が全身を突き抜けました。
「さて、ライブラさん。ワタクシが行っていることは以上です。ですので彼女にご報告お願いしますね?
そうしたら彼女はきっと、この騒動を静めるためにプレイヤーたちにイベントとして要請することでしょう。ですのでそのときを楽しみにさせていただきますね」
シャマラはそう言って、クスクスと妖艶に笑います。まるで、止めれる物ならば止めてみろと言うように……。
そうしていると、力を手に入れた彼らがまるで産声を上げるかのように、雄叫びを上げました。
直後、シャマラがその様子を見せないようにしたのか、監獄の状況は見えなくなりました。
……それを見届けてから、わたくしはすぐに主神様へと事の顛末を報告し、交代要員へと見届ける役目を交代しました。
交代要員の神が作業に入るのを見ながら、わたくしはこれからのことを考えます。
多分、近い内に大々的なストーリーを作成して、ゲームとしてクリア困難だけれど何とか倒せるという風にするんでしょうね……。
そして、主神様の分け身に入れられた災難な目に遭ってる彼が、同時に何かをしなければならない……でしょう。
「ま、大変でしょうが頑張ってくださいね」
小さく呟きつつ、わたくしはお爺ちゃんたちに挨拶をし、住んでいるアパートへと帰るために歩き出しました。
ということで、次回からエルサたちの視点に戻ります。
いい加減、町の外に出ようと思います。




