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気分が乗らないときはログアウト

 自宅……と設定名に登録した拠点の床に設置したポータルが光を放ち、光が止むと同時にオレはダンジョン『偽神の神殿』から自宅へと転移を完了していた。

 拠点の外から聞こえる街中の賑わいを少しだけ鬱陶しく思いながら、1階の居間として設定している部屋に入るとそこに置かれた椅子へと座り込み、テーブルへと肘を乗せると溜息をひとつ。


「はあ~…………、あのダンジョン自体はやりがいがあった。けどなぁ、ボスを倒して手に入ったアイテムがこんな訳の分からないアイテムってどういうことだよ?」


 ウンザリとしながらオレはインベントリからついさっき手に入れた鍵を取り出し、眺めてみる。

 ……うん、装飾がちょっと綺麗でアンティーク好きには堪らない逸品かも知れないけれど、やっぱりただの鍵だ。

 そう思っていると、入口の扉が開かれる音が聞こえ……少しすると目の前の扉が開かれ……同居人である少女が居間へと入ってきた。

 少女は、青みがかった銀髪を二つ結びのツインテールにしており、この世界でよく見られる服の中でも上質の物を着込み、買い物袋を手に持っていた。

 そして、無表情としか言いようが無い顔を動かし、オレが居ることを確認すると……。


「おかえりなさい、【†SSS†】。ダンジョンは楽しかったですか」


 そのまま、スタスタとオレの前へと移動すると声を掛けてきた。

 その声は、大倉湯飯特有の声なのだが……淡々とし過ぎていて、言うなれば彼女がデビューして数年目に演じたあるアニメの主人公と戦ったロリ女神さまの役以上に淡白な声の質だった。

 ……所謂、言葉に込めるべき感情をどこかに置き忘れたとでも言うような感じだ。


「ただいま、エル。楽しかったけど、散々だったよ……」


 それでも、オレにとってはこのゲーム内で一番話し易いキャラなので、苦笑しながらもそう答えてみせた。

 ……本当、エルミリサ。オレの場合は愛称としてエルと呼んでいるけれど、彼女の存在はこのゲーム内でとっても助かっている。

 何故なら……オレは所謂コミュ瘴というやつで、普通に道具屋の娘さん(ヒロインの一人で元気でおしゃべりなNPC)に話し掛けただけでも、しどろもどろになるぐらいなのだ。

 それに比べると、目の前に居るエルは言いかたが酷いだろうけれど……所謂、未発達なAIを搭載した美少女ロボットと会話しているような気分なので正直助かっている。

 そう思いながら、オレはダンジョンでボスを倒したことを語り、それが落とした鍵を彼女へと見せた。


「…………。散々でしたね。こちらは晩御飯の買い物をしてきました」


 オレが見せた鍵をエルはマジマジと見つめ……一瞬瞳の奥が光ったような気がしたが、きっと気のせいだろう。

 そう思いながら、オレは鍵をインベントリの中へと戻す。

 その様子を見ているのかは分からないが、エルはオレに話をしてきた。


「それで、【†SSS†】はまたダンジョンに行くのですか? それとも、街中を散策するのですか? ちなみに私は今から料理を作りますが、食べますか?」

「……いや、良い。オレはこのまま部屋に戻ってから、ログアウトするから」

「そうですか、それではおやすみなさい【†SSS†】。――良き夢を」

「え? 今なんて」


 一瞬、彼女の口から洩れる言葉に感情と呼ぶべき物が感じられ、驚きながら振り返ったが彼女は既に台所へと歩いており質問しても無理だということが分かるようだった。

 ……まあ、きっと気のせいだろう。

 そう考えて、オレは居間から2階にある自室へと移動し……ベッドに寝転がるとそのままログアウトを行った。


 ◆


 直後――、オレの意識はゲーム世界であるエルミリサの【†SSS†】から解き放たれ、現実の世界へと戻ってきた。


「……く、ああぁ~~~~…………! あ~、身体がバキバキする……」


 背筋を伸ばして、骨が鳴るのを感じつつオレは、エルミリサを行うために装着していたヘッドセットを取り外した。

 するとあら不思議、そこに居るのは金髪碧眼なイケメン主人公キャラっぽいアバターの【†SSS†】……ではなく、黒髪黒目なギャルゲでいうところのモブAっぽい人間が居るじゃないですか。

 …………そうだよ、オレだ! 【†SSS†】の中の人だよっ!!

 いいだろ、ゲームでオレTUEEEEEEEEEEEEなイケメンキャラを使ってもさあ! 現実じゃあ、秀でるところも無ければダメなところもあまり無いって言う本当に平均的な特徴しか持っていない人間なんだよ!!


「――って、いったい誰に話しかけてるんだよオレは……」


 疲れているのかなー……。そう思いながら、オレはアナログ式の目覚まし時計を見ると……秒針がカチカチと音を立てつつ、時刻が日付を変わろうとし始めていた。

 うわ、もうこんな時間だったのかよ!


「ダンジョンボスとの戦いに白熱しすぎてたからか、時刻見ていなかったな……寝るか」


 そう言いながら、ヘッドセットを机の上へと置いてパソコンを終了させてから、オレはベッドへと潜り込んだ。

 そして、物の数分も経たずに意識は闇の中へと落ちていった。


 ……そして夜中、オレは夢を見ていた。

 そんな夢なのかと聞かれたら、本当良く分からない夢だ。……あえて言うならば、何故かオレは真っ白い部屋の中にポツンと立っていた。

 えーっと、何だこの夢? 首を傾げていると、不意にその部屋全体に響き渡るような声が聞こえてきた。


『魂内に転生の鍵の所持を確認。プロセスを開始します――』

「え? いったいな――ぐがっ!?」


 良く分からない声が響き渡った瞬間、突然オレの体に激痛が走り――倒れた。

 痛い、痛い痛い痛い!! 何だ? 何なんだこれ?! 何だこれ!?


『魄に異常発生、プロセス停止を申請――却下。再度プロセス停止を申請――却下』

「ぎ――がっ!? が――がああああぁぁぁあぁっ!!?」


 まるで体の中から何かが引き千切られようとしている感覚を感じつつ、オレは倒れたまま蹲り始めた。

 けれど、痛みは取れない……まったく、取れないのだ……!

 いったい、いったい何が起きているんだ?!


『このままでは魂内にも異常がきたす恐れがあり――魄を繋ぎ止める肉体の破壊を開始します』

「な、にを言って――――え? あ、れ? おれの、からだ……え?」


 聞こえた言葉にオレは訳が分からないなりにも問い掛けようとしたが、不意に目の前が紅くなり、ポタリポタリと鼻から何かが垂れる感覚を感じた……。

 それを拭うと、黒い何かが見えたが良く分からな――げほっ!!


「あ、え? おごっ、おごご……おご――」


 喋ろうとしたオレだったが、突如胸の奥から込み上げてくる何かに逆らうことが出来ず……噴出すようにボタボタとそれを地面へと零した。

 それらが零れていくに連れて、オレの体は徐々に冷たくなるように感じ……ピクピクと動いていた体が動かなくなっていった。


『肉体の破壊を確認――魂魄共に引き剥がしを開始します』


 薄れ行く意識の中、オレは引っ張られる感覚に抗うことが出来ず……そのまま引っ張られ、下に見える自分の体だと思うものを見たが……真っ赤な血溜りがみえるだけであった。


 ああ、これは夢だ。本当に性質が悪い夢なんだ……。


 夢から覚めれば普通に何時も通りベッドで目覚めて……。


 そう思いながら、オレは意識を完全に手放した。

肉体とログアウトしました。(ぉ

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アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
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