エクサレッスン(中編)
お待たせしました。
静かに呼吸し、意識を奥底に沈めていくと……、先程と同じ感覚……魔力を感じ始めた。
けれど、それを軽く触れるだけ、そう思いながらそれに触れると――オレはダンジョンとは違う場所に立っていた。
「――え?」
いきなりのことに唖然としながら周囲を見渡すと、そこは広大な海原であり……宙に浮くお椀のような物が大量に浮かんでおり、そのひとつにオレは乗っていた。
ただし、おわんと言っても巨大な物であり……木製だったりプラスチック製だったりするのではなく、透明なガラスで出来たような物だった。そんなお椀の中で幾つか巨大な物があり、それよりも小さい物もあるけれど少し造詣が凝っている物もあるのが見えた。
いったいどうなってるんだ? またも困惑するオレだったが……、周囲はそんなこと知ったことかとでも言うように周囲は変化を始めた。
オレの近くにあったお椀がゆっくりと光を放つと、青白い光を放ち始めたのだ。他にも明滅するように赤い色の物や緑色の物、黄色の物がありそのどれもがゆっくりと傾くとお椀の中に海原から海水を掬い始めた。
そしてお椀の光に反応するように海水も光を放ち始め、ゆっくりとその中身を減らしていく……あれ? もしかしてこれって。
「魔力?」
何となく思ったことだけど、オレ自身が呟いた言葉がオレの考えを納得させるようだった。
この海原は魔力の根源というか使うために必要な物で、お椀は自分の魔力を使う器。
水を掬うことは魔力を汲み取って消費すること。
そう考えると本当に納得出来る。
「じゃあ、オレの魔力の器はこれってこと……だよな? …………でかいな」
小さく呟きながら、オレは周囲のお椀と見比べて並みの大きさではないことを知る。けれど大きさは違うがそこら中に浮かんでいる器と同じように見える。……ってことは、そこら中に浮かんでいる器はエルミリサの魔力の器ってことか?
でもって、それらよりも小さいけれど色つきで光っているのはプレイヤーで魔法が使える奴らの器?
オレよりも大きいのとか近い物はNPCを演じている神さまたちってことか。
そう思いながら、オレも自分の器に魔力を溜めてみるべきだと思いながら行動を開始する。
まずは全身に魔力を行き渡らせる……。すると、オレが乗る器が淡い銀色の輝きを放ち始めるのが見えた。
もう少し……行き渡れそうな気がするけど……ダメだな。これ以上送ったら、ついさっきと同じことになりそうだ。
というよりも、この状況も可笑しいんだ。普通に魔力の世界が見えるってどういう状況だよと。
そんな風に軽くツッコミをいれながらオレは海原から海水をお椀の中に入れる。
すると、体が熱くなる感覚を覚え……淡い光だった銀色の輝きが段々と光を増し始めた。
「多分だけど、これが魔力を溜める行為……だよな?
それじゃあ……魔法を使うにはどうする?
……風、火、土、水の属性を与えるのか? 魔力に酔ってバトルアビリティが金メッキとか馬鹿にしてしまったけど……、アレと同じ感覚で行ってみるか」
よくよく何度も使用してきた風魔法、それを使うような感覚を感じながら……静かに息を整えてゆっくりと器に風を送り込んでいく。
すると、銀色に輝き出していたお椀に緑色の光が混ざり始めていくのが見えた。
そして二色のヒカリはグルグルと混ざっていき、最終的に緑銀色に輝くお椀に変化した。
それを見届けながら、体の表面に纏わせるイメージを考え始める。
直後、ひゅうひゅうと耳元に風の音が聞こえ、表面が涼しく感じられた。
多分だがこれで体の中にある魔力に風の属性が与えられたってことだろう。
その感覚を感じながら、少しだけだけれどやりかたを掴んだのでオレはゆっくりと風の属性を溜めた魔力を外に散らすイメージをする。
するとイメージどおり体の表面から風の涼しさが消え、緑銀色のお椀は透明に戻った。
「あ、お椀の中にあった水が消えてる……ってことは、散らしたときに溜めた魔力も無くなったってこと……だよな?
じゃあ、属性だけを散らしつつ、次の属性を与えて再利用とか出来ないのか?
……試してみるか」
何というか時間も大分あるみたいだし、試したいと思ったことは試すべきだと考えたオレは再びお椀の中へと海水……魔力を溜め込む。
お椀の中に魔力が入り、先程と同じように全身に魔力を行き渡らせるようにするとお椀は銀色に輝きだし……そこに風の属性を与えると、緑銀色に変化する。
海水(魔力)は……少しだけ減っている。というよりも、属性を与えられて光っている状態で減り始めてる。
なるほど、属性が入った魔力は消費するのか。そう思いながら、オレは属性のみを散らすようにしてみた。
「ふっ、このっ、てりゃ……! ふう……」
……少し難しかったが、何とかなった。けど、次は上手く出来るかも知れない。
そう思いながら、少し海水が減ったお椀を見る。
とりあえず、次は水の属性だ。
水を注ぎ込むイメージをお椀に与えていくと……、銀色に徐々に青みが掛かり……青銀色へと変化していくと同時に風とは違いシットリとした冷たさを感じた。
水の属性を感じ取りながら、再びお椀から属性を散らすと……今度は土の属性を与えていく。
「……てっきり、黄金色に輝くものだと思ってたけど……違ったか」
呟きながら、黄金色に輝くのではなく……白銀で造られたお椀といった感じに変化した魔力の器を見ながら呟く。
というか、現物でこんな物があったら幾らになるんだろうか……。
そんな馬鹿なことを思いながら、オレは属性を散らす。すると、白銀製のお椀は透明な物へと戻った。
もしかすると、他の属性のときのお椀も微妙に変化してたのだろうか? そんなことを思いながら、オレは最後に火の属性を器に注ぎ込んだ。
すると、銀色に輝くお椀に変化は無かったのだが中の魔力が油にでもなったかのように一気に燃え上がりキラキラときらめきを放ちながら赤い焔を燃やした。
「こうなるのか……。色々と興味深いって思うけど、どちらにせよすごく綺麗だな魔力って……」
ポツリと呟いた瞬間、パチッと目が開く。そんな感覚を感じた瞬間……オレの視界は海原からダンジョンへと戻っていた。
あ、あれ?
いきなり場面が切り替わったとでも言うかのような状況に戸惑うオレだったが、直後怒涛の勢いでステータス画面が表示されてきた。
「う、うおっ!?」
~~~~~~~~~~
バトルスキル【魔力操作:LV1】が【魔力操作:LV10】にレベルアップしました。
バトルスキル【風魔法:LVEX】を獲得しました。
バトルスキル【水魔法:LVEX】を獲得しました。
バトルスキル【土魔法:LVEX】を獲得しました。
バトルスキル【火魔法:LVEX】を獲得しました。
エクストラスキル【魔力視】を獲得しました。
エクストラスキル【魔力接続】を獲得しました。
バトルスキル【風魔法】【水魔法】【土魔法】【火魔法】が統合され、【四系統魔法】に変化しました。
バトルスキル【四系統魔法:LVEX】を獲得しました。
称号:息をするように魔力を使う者――を獲得しました。
称号:濡れスケ痴女――を獲得しました。
称号:魔力の海を視た者――を獲得しました。
称号:白銀の魔法使い――を獲得しました。
称号:駆け出し魔法使い――を獲得しました。
称号:駆け出しエレメンタルますたー――を獲得しました。
称号:魔法痴女――を獲得しました。
~~~~~~~~~~
……色々とツッコミを入れたいと思うバトルスキルやら称号が大量に手に入った。
というか、神さま! 仮にもこの体はあんたの外見を少し幼くした感じなんだろ!? なのに痴女普通に入っちゃってるんですけどぉぉーーっ!!
心の底からツッコミを入れた瞬間、痴女関連がザザっと砂嵐みたいな感じになるのが見えた。
その直後――。
~~~~~~~~~~
称号:濡れスケ痴女――が強制的に改変されました。
称号:魔法痴女――が強制的に改変されました。
称号:濡れスケ美少女――を獲得しました。
称号:魔法美少女――を獲得しました。
~~~~~~~~~~
「……………………」
「……苦虫噛み潰した顔をして、どうかした?」
「いや、ちょっと神さまの最大級のいげんっぷりに哀れみを覚えただけだから……」
自分で美少女と言ってる人間(神さま)ほど、残念なものはない。
そう心から思いつつ、頭の中に何処かから抗議の声が聞こえたけれど無視する。
『美少女じゃないですか! なに聞こえない振りをしてるんですかーーっ!?』
……無視だ無視。
すると、エクサからほう……という息が聞こえ、そちらを向くと熱い視線をオレに向けていた。……何故?
そう思っていると、エクサが熱視線を送ってきた理由を語り始めた。
「ついさっきまで、強烈な魔力光をあんたは放ってたの……。
銀色に緑、青、黄、赤って属性の光が混ざって魅力的だったわ……、それに……始めの魔力を体に行き渡らせたとき、上手に出来ていたから……綺麗な魔力紋が現れてた」
「まりょくもん? ……あ、もしかして、エクサが瞑想してたときに体の表面に現れた紋様?」
「そう、それが……魔力の循環していることを現す魔力紋。
……あんたが男だったら、我輩が襲って子作りしたくなる程の素晴らしさだった。
そういえば、あんたは男。体は女……だけど心は男……じゅるり、イケル」
……なんか身の危険を感じ始めたが、目の前の野生の痴女――じゃなかったエクサが理性を保てる神さまだと信じたい。
目指せ両刀使いがどうとか言ってるような気がするがあえて無視だ。関わったらロクでもないに違いない……!
すると、エクサは諦めてくれたのかぶつぶつと何か算段するのを止め、気だるそうに喋り始めた。
「とりあえず、諦めはしないけど経験不足だから今度改めて襲うわ……」
(「とりあえず、魔力が使えるようになったから、特訓第二段階に進もうか……」)
「絶対に思ってることと口に出してること逆だよな?」
襲うって何だ襲うって!? 心から必死に思いながら、渾身のツッコミを放つと「あらイヤだ、間違えたわ……」と言って平然を保っていた。
……警戒しておこう。というか痴女警報でも付けてくれ。
心から神さまに願っていると、痴女……じゃなくてエクサがようやく説明を始める。
「まあ、仕切り直して……。特訓第二段階に進もうか」
「第二段階? これで終わりじゃないのか?」
「当たり前、これはただ単に自分の中の魔力に触れて出し入れを出来るようになるための準備なだけ……。こんな状態でオークの群れになんて突っ込んだら、くっころ一直線だから」
「……何となく言いたいことは分かる。分かるけど、ツッコミはいれないからな?」
「残念、それを口実に既成事実をと思ったのに……」
絶対につっこまない。つっこんだら負けな気がするんだ……。
そう思いながら、オレは無駄にくねくねとし始めるエクサを見ていたが乗ってこないことに残念そうな顔をしながら、部屋の出入り口であろう木の扉を指差した。
あ、今気づいたけど……壁に木で作られた剣と杖が掛けられてた。
ということは……扉の先に何かあるってことか?
「気づいていると思うけれど、扉の先には……幽霊系の魔物が1体居る。それを倒すことが特訓第二段階」
「倒すだけ、で良いのか?」
「そう、倒すだけ……。それだけで良いから」
エクサはそう言う。その言葉に若干引っ掛かりを覚えたが……何とかなるだろう。そう考えてオレは扉の前へと移動すると剣と杖、どちらを選ぶかを考える。
まあ、考えるだけだけどな。そして、選ぶのは普通に剣一択だろう。誰が好き好んで使い慣れていない杖を使えって言うんだ。
掛けられた木剣を掴み、オレは扉の手を当てるとギィィとファンタジー独特の開閉音を立てながら扉は開かれた。
その先は別マップとなっているのか、先が暗く見えない。
「一応、倒せないと判断したら強制的にこの部屋に戻されるから……。介護、頑張ってするよ……ふふふ」
「倒れないよう頑張ります!」
気絶してたら何されるか溜まった物ではないと思いながら、オレはしゅたっと片手を挙げて挨拶するとすぐさま部屋から出て行った。
というか、キャラ変わってないかエクサ……。
オレが出て少しすると扉は閉まり、細い回廊が続き……ゆっくりとその道を歩いていくと、先ほど居た部屋よりも大きめの部屋へと辿り着いた。
ぼんやりとした灯りに照らされた部屋の中は今まで訓練が行われてきたことを知らしめるようにボロボロで、奥にはゆらゆらと揺らめく幽霊タイプのモンスターが居た。
「さてと、それじゃあとっとと倒しますか!」
元気よく言うと木剣を構え、モンスターに向けて駆け出した。
木剣だから少し心許ないけれど、ステータスが高いのだから一撃で片付くだろう。
そう思いながら、勢い良く木剣をモンスターに振り下ろした。
そして、オレの予想では透明なボロ布は千切れる。そう思っていた。……だが
「――――え?」
スルッと、木剣はモンスターの体をすり抜け、オレは戸惑った。
どう言うことだ? いったい何が起きたのか、オレが原因を考えるよりも先にモンスターの獲物を前にした笑みを最後に……オレの意識は闇の中へと落ちていった。
何故攻撃がすり抜けたかは、次で語ります。




