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雪火のケーキ作り

拙者、まだ続投。


※今回も雪火視点です。あげく、一心不乱にケーキを作るだけの話です。

 食事を終え、稽古をした拙者は疲れた体を湯の中へと浸し……ゆっくりと疲れを取っていく。

 今日の稽古は剣術から始まり、槍術へと移り、最終的に柔術へと移っていった。

 他にもまだまだあったりするが、今回はあまり時間を掛けたくなかったというのもあったため早々に練習相手である門下生を薙ぎ倒して行った。

 そして今、拙者はゆっくりとお風呂に入っているのだった。

 ……ちなみに今浸かっているお風呂へも昔は襲い掛かってきたりもしたのだが、最近は思春期ということもあるため母を含む女性陣が部屋とお風呂とトイレは闇討ち禁止区画と力づくで男性陣の言うことを聞かせた。

 なお、それでも諦めきれずに拙者の体を覗きたいという不届き者の門下生が居たりもしたが、そいつらは両手両足を複雑骨折にしてから精神病棟に家の権力を使って収容したらしい。……怖いな。


「……ふう、良い湯だった。凝りも解れたようだな……」


 体を清め、凝り固まった体を解き解した拙者は寝巻きである浴衣に着替えると部屋へと入った。

 ちなみに家族たちには寝ると言っているので、やって来ることは無いだろう。……いや、まあやって来たとしても疚しいことをしているつもりは無い。

 そう思いながら、拙者はテーブルの上に置かれたノートパソコンの電源を入れ起動するまでにゲームの準備を行い始める。

 まあ用意するといっても、ゲームをプレイするためのヘッドセットをつけるだけなのだが……。

 パソコンが起動した音を響かせると、拙者はインターネットに繋げるための操作を行う。しばらく振りに起動させるのだが、やりかたはまだ覚えてるようだった。

 パソコン側のゲーム起動の準備を整えるとヘッドセットの小型のイヤホン部分からピピッと音が鳴り、ヘッドセットからゲーム起動の準備が整ったことを知らせてくれる。

 その音を聞きながら、拙者は布団に寝転がると部屋の電気を消す。部屋の明かりはオレンジ色の電灯とパソコンの画面のみとなる。そんな周囲の明かりを遮るように目元のバイザーを降ろす。


 ――起動準備が完了しています。精神を落ち着かせて、ゆっくりとしてください。


 薄ぼんやりと光るバイザーにこの一文が乗せられており、拙者はゆっくりと目を閉じる。

 精神を落ち着かせ半睡眠状態に精神を委ねさせるためか、クラシックなメロディが鳴り……その音を聞いていくと意識はうつらうつらとし始め……、拙者の意識はVRMMO『エルミリサ』へと落ちていく……。……ぐぅ。


 ◆


 ――ようこそ、エルミリサへ! 今回も楽しんで行ってください!


 軽快なメロディと共に、可愛らしい声が聞こえた直後――光が溢れ、ボスっと体が柔らかい何かへと深く沈んだのを感じた。

 ゆっくりと目蓋が瞬き、もぞもぞと体を起こすとログインしたことを自覚しつつ、ベッドから起き上がる。

 そういえば、最後にログアウトしたのは自室のベッドだったな。そう思いながら、拙者は自身のアバターの姿を鏡で見る。

 とは言っても、普通に剣道の防具一式に顔や体を隠している何処にでも居る普通のアバターだ。

 特に問題は無い。


「……うん、大丈夫だ」


 何時も通りと拙者が小さく頷くと同時に扉がノックされ、少ししてから部屋の中へと拙者のパートナーであるエルミリサが入室し、頭を下げてきた。

 無表情であるが、ちゃんと相手を敬う意思が感じられるお辞儀だ。


「おかえりなさいませ、ブシドー。今日は何をしますか?」

「おはよう、エルミリサ。今日はしばらくぶりに商品を作ろうと思うのだが、材料は揃っているだろうか?」

「少々お待ちください……。……、……、大丈夫です。各種材料は揃っており、キッチンも清掃が行き届いています」

「そうか。ならば向かおうか」

「かしこまりました」


 そう言うとエルミリサは頭を下げてから、部屋を出て行く。

 ちなみに他のプレイヤーのエルミリサと違い礼儀正しいようだが、拙者が頑張ってマナーを仕込んだつもりだ。

 あのころが本当に懐かしい。そう思いながらしんみりとしたが、とりあえずやることを済ませるために部屋を出て一階にあるキッチンへと向かう。

 キッチンの中は、清潔でそして甘い砂糖の匂いが充満していた。……ああ、良い香りだ。

 ワクワクとし始めてくる心を何とか抑えつつ、エルミリサに指示を出す。


「エルミリサ。今日は苺の生クリームを15ホール、チョコクリームを15ホール作ろうと思うから、そのつもりでよろしく頼む」

「かしこまりました。それではオーブンを温めておきます」

「よろしく。それが終わったら、それ分のケーキ型を用意して粉を振るっておいてほしい」

「かしこまりました」


 拙者の指示に従い、エルミリサは行動を開始し始める。拙者はその様子をチラリと見てから、何時ものように行動を開始する。

 まず始めに、巨大なボウルを前にし両側にそれよりも小さめのボウルを2つ。そして片方には大量の卵が置かれており、反対側には何も無い。

 分かるものが居れば分かるだろう。拙者が何をするのかを……。


「…………いざっ!!」


 面越しに目蓋をカッと開けると、拙者は素早く卵を掴みボウルの端で軽く叩き殻にヒビを入れると同時に両手でパカッと卵を開け、中身をボウルに落として殻を隣のボウルへと入れる。

 それをまるで阿修羅の如き腕捌きで動かし続け、卵が入ったボウルは10分もしないうちに空になり、卵黄と卵白が並々と入ったボウルと殻のみとなったボウルがそこにはあった。

 そして中身が入ったボウルを掴むと一定の温度で湯煎を行う魔法道具に載せると、拙者は大型の泡だて器を手にする。

 ……普通ならこれほどの卵を手回しの泡だて器で一度に加工など出来るはずが無いだろう?

 しかしこれはゲーム。そして拙者の料理の腕があれば、このような動作など容易いこと!!


「はあああああああああああああああぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあああああああっっ!!」


 ――シャコシャコシャコシャコシャコシャカシャカシャカ!! シャカシャカシャカシャカシャコココココココ!!


 ボウル全体を混ぜるように泡だて器を回していくと分かれていた卵黄と卵白は混ざり合って行き、卵液へと変わり始めていく。

 そして、魔法道具による湯煎によって掻き混ぜている卵液は段々と人肌に近い温度へと変わり始め、拙者はボウルを魔法道具から取り外す。

 更にその中へと砂糖を投下し、軽く掻き混ぜて行き……砂糖が溶けていくようにしていく。


「………………。よし、全部溶けた……いざっ!」


 底をザラリとした感触が無くなるのを感じると、拙者は再び手に力を込め始め……一気に掻き混ぜていく。

 混ぜて混ぜて混ぜて混ぜて、愛情を込めて混ぜていく!

 時折雄叫び染みた叫び声を上げるのは愛嬌だと思って欲しい。そして、拙者が混ぜて行くに連れて卵液はもっさりと膨らみ始めた。

 良い感じだ。そう思いながら混ぜて行き、泡立ちを続け中の気泡を均一に混ぜ合わせるとエルミリサへと指示を行う。


「エルミリサ、そろそろ粉をお願いしたいのだが大丈夫か?」

「かしこまりました。では少しずつ投入して行きます」

「分かった」


 粉が入った袋を手にエルミリサが返事を返したので、拙者は道具を泡だて器からヘラへと持ち替える。

 そして、エルミリサがボウルへと粉を入れると同時に、泡立てた卵と粉をヘラで切るようにして混ぜ合わせていく。

 それを続けて行き、粉を含んで段々と重くなり始めていく生地に面越しに笑みを浮かべながら、ザクザクと混ぜ合わせ……粉っぽい感じが無くなり、拙者は溶かしたバターを入れた容器をインベントリから取り出すとエルミリサへと差し出す。

 何時ものことなのでエルミリサも軽く頷き、容器を開けボウルへと溶けたバターを垂らしていった。そして拙者はバターが生地と混ざるように大きく底から掬うようにヘラで掻き混ぜながら、全体を混ぜ合わせていく。

 バターを入れることでボウルの中の生地は滑らかとなり、そろそろ良いと判断しながら拙者はエルミリサが用意していたケーキ型へとボウルの中身を注いでいく。

 トローッと生地がケーキ型に広がって行き、出来上がった順からエルミリサが軽く台の上でトントンと叩き余計な気泡を抜いていくのを見ながら、拙者は残りの生地も型へと注いでいく。

 そして、ボウルに入っていた生地が全て無くなるのを見計らうように、15個のケーキ型に生地は注がれた。


「さて、普通の15個準備完了。後はオーブンに入れている間にチョコも用意せねば」


 頭の中で算段を付けながら、拙者はオーブンを開く。……ムワッとした熱気が漂うが、これは見た目は薪をくべるオーブンだが魔法道具であり魔力で温度調整などが出来る物である。

 ……まあ、拙者たちプレイヤーは魔力があまり無いので、充填された魔石を使うというものであるがな。

 そんなことを考えつつ、15ホール分の型をオーブンの中に入れるとどれだけの温度で何分焼くかを設定した。

 すると、オーブンの中は熱を発し始め隙間から光が洩れ始めた。

 そしてその間に拙者は先程と同じ要領で卵を割り、溶き、混ぜ、粉にカカオパウダーらしき物を混ぜた物を加えて生地を作っていく。

 しばらく振り、本当にしばらくぶりに行う作業だが……本当に楽しい。凄く、すごく楽しい……!

 そう思いながら、同じように15個のケーキ型へと今度は茶色の生地が注がれていき、次に移るたびにエルミリサが気泡を抜くためにトントンと叩き、15個の準備が終わったと同時にオーブンが中のケーキの焼き上がりを告げるように音が鳴った。


「中の物を取り出したあとは、今度はチョコを……。エルミリサ、一気に出すから裏返すのを頼む」

「かしこまりました」


 拙者の言葉にミトンを両手にはめたエルミリサは答え、拙者はオーブンを開ける。

 ムワッとした熱気と共に甘い砂糖の香りが鼻をくすぐり、得も言えない気持ちにさせるが何とか堪えつつ籠手をはめた手と掴み棒を使ってオーブンの中にあるケーキを取り出していく。

 ちなみに竹串を刺して、生焼けかは既に確認済みだが大丈夫だった。

 取り出した型に入ったケーキは作業台の上へと置かれ、素早くエルミリサが手に取るとクルリと上下回転をし網の上へと置く、すると置いたときの衝撃で外れ易くなっていたケーキは型から外れて網の上で荒熱を取るために置かれていく。

 それを素早く15個繰り広げると即座に、チョコケーキ生地の入ったケーキ型をオーブンの中へと入れて時間を調整していく。――その間、僅か5分。

 うむぅ……、もう少し速くならなければ……。


「荒熱を取っている間に、クリームの準備のほうが良いか? それともフルーツを……どうするべきか」

「ブシドー、今の状態でクリームを作っても手間取るだけかと思います。なので、先にフルーツを切ってはどうでしょう? 消費する量も多いですから」

「なるほど、だったらそうしようか。エルミリサ、苺の準備を頼む」

「かしこまりました」


 そう言って拙者へと頭を下げ、エルミリサはキッチンから出ると冷暗所から苺を取り出してきた。……インベントリから出せば良いのかも知れないが、風情と言うものは大事である。

 そんな風に思っていると3分もしない内にエルミリサは戻り、手には真っ赤な苺が入った籠があった。

 水滴が滴っているところを見ると、洗ったのだろう。


「お待たせしました、ブシドー」

「ありがとう、エルミリサ。それじゃあ、始めようか」


 籠を持つエルミリサへと礼を述べると、ケーキが置かれた台の反対側へと立ち……大きめの皿を置く。

 陶器製の皿で、真っ赤な苺が映えるものだ。それを確認しながらエルミリサを見る。

 既に、拙者のテーブルを挟んだ向かい側に立っており、その手には苺が入った籠が握られている。

 それを見ながらインベントリから小太刀に近い形状をした包丁を2本取り出すと、拙者はエルミリサへと頷く。

 直後、エルミリサは拙者に向けて籠の中の苺をぶちまけてきた!


「武者小路流小太刀術、速の型――『百華繚乱』!!」


 掛け声と共に、拙者の腕は素早く動き――一瞬の内に苺のヘタは切り落とされ、そのままのものや、短冊切りに薄く切断されたり、半分だけに切られたり、十字に切られたりしながら更に上へと落下していく。

 1個につき5秒。それ以上は時間をかけるつもりは無い、そう思いながら拙者は包丁を振るう。……ちなみにこの技の本当の使い方は乱戦に持ち込んださいにどれだけ相手の陣営を掻き乱すことが出来るかを重視したものだが、それをケーキ作りに使われていると知ったら怖いな……。

 そう思いつつ、最後の1個が皿の上に落ちたと同時にオーブンから焼き上がりの音が鳴り響く。

 その音を聞きながら、拙者はオーブンへと向かうとエルミリサも既に準備を終えており……先程と同じようにケーキを型から外していった。

 網の上に置かれた黒に近いこげ茶色のスポンジケーキは美味しそうで、味見をしたいと思うのだが……我慢だ。

 そしてその一方で、普通のスポンジケーキの荒熱が取れてきたと判断し……拙者は包丁を掴むとケーキの真ん中の高さに突き刺すと軽く回す。

 ズッと少し抵抗のある柔らかな感触を感じつつ、ケーキを動かすと見事にケーキの上下は別れ……、分かれた場所から黄金色のスポンジケーキが見えた。そしてそれと同じ動作を残り14回繰り返すと刷毛と瓶を取り出し、エルミリサへと差し出す。

 彼女は受け取った瓶の蓋を開けた瞬間、フワッとした春を押し込めた甘い匂いが漂い、その中には微かに酒の香りが混ざっていた。瓶の中は製菓用の蒸留酒を混ぜたシロップである。


「しっとりと満遍なくよろしく」

「かしこまりました」


 拙者の指示に頷き、エルミリサは作業を行い始める。

 ちなみに普通のスポンジケーキの場合はいちごをふんだんに使うケーキであるため、春を感じさせる果実で作られた酒であるけれど、チョコレートケーキのほうは苦味を感じさせる類の蒸留酒を混ぜたシロップを使う。プレイヤーが作成した珈琲酒を混ぜたときも面白い味だと思った。

 そんなことを考えながら、拙者はボウルへと並々に注がれた生クリームを見る。牛乳と違ってほんの少しだけトロッとした見た目であるがそれが良い。

 生クリームの中へと砂糖を入れ、香り付けとしてエルミリサに塗って貰っている蒸留酒と同じ物を軽く注ぎ入れ、大型の泡だて器を使って大きく掻き混ぜ始めた!

 シャコシャカと泡だて器がボウルの内側を擦り、バシャバシャと生クリームが跳ねていく。けれど、段々と掻き回されていた生クリームは液体から固体に変わるように固まり始めていく。

 今は大体トロッとしてるから5分か6分だろう。基本的には8分まで混ぜれば良いのだ。そう思いながら混ぜ続けて行くと、生クリームは段々と固くなっていく。

 そしてしばらく混ぜ続けた結果、生クリームは8分ほどまで泡立ち……泡だて器を上げると生クリームはピンと立ち、ゆっくりと頭を垂れていった。


「では、少し冷やしておく間にチョコのほうも半分に切るか」


 言うや否や拙者は素早く先程と同じように包丁を付きたてグルリと回し、上下を真っ二つにしていく。

 ……見事なチョコレート色のスポンジケーキであり、チョコの香りも漂う。……はぁ♪

 思わずうっとりとしている拙者であるが、即座にハッとする。早く商品を作らねば!!

 そう思いながら、急いでチョコ生クリームを作り始める。湯煎したチョコは既にインベントリの中にあるのでそれをドロリと生クリームの入ったボウルに混ぜて砂糖を少なめで掻き混ぜていく。

 すると白い生クリームに段々と色が付き始め、均等に混ざるように掻き混ぜていくと生クリームとチョコは混ざり始め……チョコ生クリームへと変化していった。

 うむ、いいぞいいぞ。そう思いながら混ぜていき、8分の固さになったころにはチョコ生クリームは完成した。


「準備は完了した。中華料理は最後の数分で一気に仕上げるというが、拙者の菓子作りもまさにそれだな」


 小さく呟き、瞳を閉じ……軽く深呼吸を行い、カッと見開くと一気に行動を開始する。

 ヘラを使いボウルの中の生クリームを適量すくうとパパッと一気にケーキの上へと落としていく。

 ボトボトとスポンジの上に生クリームが乗せられた瞬間には、拙者は動き生クリームの上へと十字に切った苺を落としていく。

 更にその上へと生クリームを落とすと、パレットナイフを握り締めると素早く形をなだらかに調整していく。

 なだらかにし終えると分けていた上側のスポンジケーキを上へとかぶせて行き、その上へと生クリームを落としていく。

 落とした生クリームを軽く全体に塗るようにパレットナイフを走らせて行き、即座に側面へと短冊切りにした苺を貼り付けていった。

 そしてそれを隠すように生クリームの本塗りを行い始める。だが、それは一度に行わない。何故なら最後の仕上げなのだから……。

 1つ1つ回転台の上へと乗せていくと、拙者は生クリームをヘラですくい――。


「さあ、白く染まれ!」


 段々と乗り始めて来たテンションに拙者は叫ぶと、大目の生クリームを上に落とし……上から横へと広がるようにパレットナイフを動かしていく。クルクルと回転する台によって生クリームは広がって行き、丸いケーキは真っ白く彩られた。

 それを同じように繰り広げて行き、15個のケーキたちはおめかしをされた。……さあ、後は飾り付けだ。

 何となく生温かい瞳をしているような気がするエルミリサから絞り袋に入れられた生クリームを受け取ると、素早く……けれど繊細かつ丁寧に生クリームを搾っていき、彩られたケーキたちを飾っていく。

 飾られた15個のケーキへと最後に苺を載せて行き、苺のケーキが完成した。


「エルミリサ、出来上がった物から順に店頭に持っていってくれ」

「かしこまりました」

「さて、これが終われば次はチョコだ。チョコと苺……ああ、何とも素晴らしい」


 楽しそうに言いながら、拙者は次々とケーキを作り上げていく。

 そして、出来上がったケーキを清潔にした艶のある木板にエルミリサが載せていくと店頭にあるショーウインドウへと持っていく。

 同じ動作を続け、チョコケーキへと移ると最後の仕上げとしてチョコレートを削ったものを散らしていくのが増えていった。……普通異世界にチョコレートは無いらしいがゲームだから良いのだろう。

 最後のチョコケーキをの上に苺を載せ、削りチョコレートを塗し……エルミリサがそれを持っていくのを見届けてから、拙者は溜めていた息を吐き出した。


「…………ふぅ~~……。久しぶりに満足するまで作った……!」


 面越しで拙者の顔は見えないだろうが、きっと充実した顔をしているに違いない。

 そう思っていると、店舗側が賑やかになってきたから多分店のオープンを知った客たちが食べに来たり買いに来たりしているのだろう。

 ……ケーキ以外を買いに来たプレイヤーたちには悪いが、今日はケーキを作りたい気分だったのだ。だからシュークリームやタルトは勘弁して欲しい。

 そう思いつつ小窓から店舗を覗くと、拙者のエルミリサを始めとして他プレイヤーのエルミリサのバイトが接客を行っている。

 その姿を見届けてから、拙者は……。


「そろそろ、あいつの家に向かうとするか。……そういえば、あいつのエルミリサは主の死を知らないのだよな……」


 悲しく呟く拙者だが、ゲームのキャラクターに悲しいという感情があるのか少し疑問に思ったが、会えば分かることだ。そう思いながら、裏口からキッチンを抜け出すと街を移動し始めるのだった。


 …………どうしてこうなったんでしょうね?

 あと、誰の家に向かうかは……ねぇ?(恐怖

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アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
ベルと混人生徒たち
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