【†SSS†】は駆け抜ける。
エルミリサ最凶最悪のSSSランクダンジョン『偽神の神殿』
そこは、どんな高レベルのLMSプレイヤーだとしても、複数のパーティーでダンジョンアタックを行うことを必須とされ、殆どのモンスターは一番弱いものでSランクのモンスターという超が付くほど鬼畜仕様のダンジョンだ。
しかも、このゲームのダンジョンは入る前に設定によって『表』と『裏』を変えることが出来るということが出来る。
『表』、と言うのは今あげた超鬼畜仕様の鬼ダンジョンだ。
では、『裏』とは何かと聞くならば、『表』の難易度を更に2段階~3段階上げられたダンジョンというものだ。
要するに昔懐かしのRPGゲームでいうところのスライムとレベルカンストゆうしゃが戦った場合、『表』だったら楽勝だけれど『裏』ならば逆に倒されてしまうという可能性も出て来る。
つまりはそういうことだ。
そんな状況下で……壁に取り付けられた発光石の灯りのみを頼りにしながら、薄暗い中をオレは疾走していた。
周囲から聞こえるのは、獰猛なモンスターたちの唸り声。
……だが、その暗がりの中からオレへと狙いを定めたらしいモンスターが飛び掛ってきた!
「何だ、スマートモンキーかよ。だったら、脳天一撃だっ!!」
現れたモンスターが何であるかということに気づき、オレはため息を吐きつつ手に握り締めた剣を軽く振った。
その瞬間、オレの剣は目に見えない速度で連続的に振って降ろしてを繰り返した。
結果、オレを襲おうとしていたはずのスマートモンキーの頭は一瞬で砕けたように割れ、命が尽きたモンスターは光の粒子となって消え去った。
そして、その下にはスマートモンキーのドロップアイテムであるバリューバナナが落とされたが、インベントリの所持数がマックスになっているので上に乗ったとしても滑って転ぶだけだ。
なのでオレは無視して先を進む。
それからも何度もオレを警戒しながら監視するモンスターは居るのだが、実力差が分かっているのか手を出そうとはしていなかった。
『裏』であるのに、もっとやる気を出せよっ!! まあ、今はこの状況が楽で助かっているけれど……。
そう思いつつ、歩みを進め……。最終的に、オレは目的地の手前である重厚で巨大な扉の前に立っていた。
「この先に、ダンジョンボスが居るんだよなぁ……。改めて条件を確認だ」
呟きながら、オレはダンジョン内で表示される詳細画面を確認する。
そこには、時間が刻一刻と削られていくタイマー表示。そして、パーティーメンバーが表示されている。
普通ならば、パーティーメンバーには多くて自身を含めた8人のプレイヤーの名前が表示されているのだが、今現在表示されている画面には、オレの名前である【†SSS†】とだけ表示されていた。
「裏ダンジョンでありながら、時間はまだある。そして、パーティーはオレ一人。これで隠しボスの条件が揃っているはずだよな……っと、これを忘れていたな」
オレは一番大事なことを思い出し、扉の側面に分かり辛いように創られた戸を引いた。
するとそこには、何かをはめる窪み2つほどがあり……、オレはこのダンジョンの特殊条件をクリアすることで手に入った道具を填め込みはじめた。
オレの手の中で光り輝く『光の水晶』と同じくオレの手の中で未だ闇よりも暗い闇を生み出し続ける『闇の水晶』
それらを填め込んだ途端、戸はひとりでに閉まり……重厚な造りをしていた扉に変化が訪れた。
光り輝き、暗く濁り……それを繰り返し、最終的に何の色も見せなくなった。
その扉をオレは息を呑み込みながら、ゆっくりと手に掛けた。
扉は見かけとは裏腹にギギギと軽い音を立てながら、開かれた。
「さぁってと……、それじゃあ……行きますか!」
覚悟を決めて、オレは部屋の中へと入ると扉はひとりでに閉まり……部屋の中央に魔方陣が現れた。
その魔方陣の中からは、まるで大晦日に出るラスボスが乗っていそうな物が姿を現し……部屋中に響き渡るように喋り始めた。
『我は無。この世界を無に帰す神の使者なり――。人よ、抗うこと無く我に滅ぼされよ』
「はいはい、テンプレ乙乙。……ま、格好良く言うとすれば、こう……だよな。
――お前が神の使者だと!? そんなこと、信じられるかっ!! それに、人は滅びなんて求めちゃ居ない! 人は人であるからこそ美しいんだ!!」
結構中二病染みた台詞をオレは吐くが、マモーの正直銀河系美少年系の声を入れているために超絶格好良いとオレは思う。
そして、そのモンスターはオレの吐いた言葉を理解しているのか、語り始めた。
『人よ。滅びに抗うと言うのか? ならば、我を倒してみせよ』
「ああ、やってやるよ……! 人間を、舐めるなよッ!!」
そうして、モンスターへのダメージ判定は解禁されたので、オレは一気に駆け出し始めた。
けれど時折右や左に跳んだり、ジャンプしたりする。
それは何故かと言うならば、このモンスター……使う攻撃が接近以外は『無』つまりは見えない攻撃を仕掛けてくる上に、ぶつかればHPが1割も残らない鬼仕様となっているのだ!
さすが『裏』! これぞ鬼畜、超鬼畜!! 鬼、悪魔、エルミリサ!!
って、危なっ!! 今当たりかけたしっ!!
……ちなみに何故オレがその見えない攻撃である『無』を回避出来ているかと言うと、風魔法にある『気流操作』を自分の体に纏わせているお陰だ。
『無』は全てを無に帰す攻撃。つまりは近づいただけで気流も無に帰されるのだ。だから、気流が感じられなくなった場所には『無』が存在し、当たると危険であると言うことが判断出来た。
だから、回避しつつ……空中とか回避し辛くなった場所では体術スキルである『二段跳び』や風魔法の『エアダッシュ』を行い回避しつつ、ダンジョンボスへと接近を行った。
けれど不意に立ち止まると、軽く背後に跳ぶ。同時に懐から取り出した袋をボスへと投げつけた。
投げつけられた袋はバサっと開かれ、中からは赤茶色の粉がばら撒かれ、周囲の見えない物を現せた。
「くそっ! やっぱり、近くなったら近くなったで『無』が多いか! けど、その対策をしていないとでも思ってるのかっ!?」
そう言いながら、オレはこのダンジョンボスのためだけに用意した武器を抜いた。
眩い光を放つ剣と、暗い光を放つ剣。
これは『光の水晶』と『闇の水晶』を加工して作ったライト&ダーククリスタルソードだ。(通称L&DCS)
この武器は加工費も馬鹿高い上に、格好良いのは見栄えだけでどんな最弱なモンスターに攻撃しても一撃で破壊される。
そんなインテリアグッズ推奨の戦闘職にとってはゴミアイテム。……かと思っている奴は馬鹿だろう。
まあ、限られた戦闘でしか本来の役割を果たさないアイテムなんて気づくほうが可笑しいか……。
「はあああああっ!! 輝け光よ、侵せ闇よ!! 『無』を掻き消すほどに!!」
そう叫んだ瞬間、オレへと迫ろうとしていた大量の『無』は握り締めた剣が砕け散ると同時に解き放たれた光と闇に呑み込まれていった。
そして光と闇は『無』だけでなくダンジョンボスの動きも阻害し始めた。
だが、これが有効な時間はほんの90秒。だから……オレは砕けたL&DCSの代わりとなる武器をインベントリから取り出し、一気にボスへと駆け出した。
だがボスも、駆け寄ってくるオレの存在に気づいているらしく『無』の代わりに、物理攻撃として巨大な手を叩きつけ始めた。――が。
「遅えっ!! くらえ! 『閃光烈斬』『剣の大雨』!!」
スキル名を叫びながら、オレは一気に接近したボスへと片手ずつ握り締めた剣をボスに打ち込んだ!
無数の剣の嵐とも呼べる攻撃がボスの身体を切り裂き、痛みを感じているのか絶叫が漏れ出した。
一閃ごとにボスから光の粒子が漏れ出し、同時に視界の隅に設置したタイマーが徐々に数を減らし始めていくのが見えた。
……タイマーがゼロを示すこと。それはオレ自身の敗北を意味するんだ。
だから――速く、もっと速く!! 力を込めて――!!
その思いに呼応するように剣速は段々と速度を増し、気合が昂ると共に剣は眩いほどの輝きを放ち始めていった。
そして、残り5秒となったとき、俺は両手に掴んだ剣をひとつに纏めるように握り締めた。
すると剣は本来の形を取り戻し、大剣タイプへと刀身を変化させた。
――3秒。
「これで――終わりだああああああああああああっっ!!」
雄叫びに近い叫びと共に、オレは大剣をボスの頭に向けて振り下ろした。
――2秒。
振り下ろされた大剣はボスの頭から体全体を真っ二つにすべく、下に落ちていく。
――1秒。
あと少しで真っ二つ。その瞬間――タイマーは0を示した。
直後――見えない『無』がオレの体を呑み込むべく、周囲に展開されたようだ。
事実、HPバーが一気に緑から赤へと変化し、危険値をさし始めた。
だが――。
「やられて――たまるかアアアアあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
最後の気力を振り絞り放った唐竹割りが、地面を抉った。
そう、つまりは……ダンジョンボスは真っ二つになったのだ。
『ば、馬鹿……な。我が、滅びる……? 滅びを司る神の使者である我が、滅びる? 馬鹿な……馬鹿なあああああああああぁぁぁぁぁ…………』
悲鳴染みた絶叫を最後に、ダンジョンボスは完全に光の粒子となり……消えて行った。
そして、しばらくすると……マップ中央にでかでかと<<CONGRATULATIONS!!>>の文字が表示された。
ああ、クリア……したんだ。そう実感しながら、オレはどかっとその場でしゃがみ込むと息を吐き出した。
その直後――、ピロリンというシステムの報告音が頭の奥に響き、オレはステータスとログを表示させた。
そこにはHPが危険な範囲まで下がっていることが分かり、急いで回復のために回復薬を飲み干し……。
ログのほうではボスを倒したことを告げる表示がされていた。それと後は称号獲得の報告だ。
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『偽神の神殿』:裏を攻略しました。
称号:神に抗う者――を獲得しました。
称号:全ダンジョン踏破――を獲得しました。
称号:御使い殺し――を獲得しました。
称号:SSSランクダンジョン単独クリア――を獲得しました。
称号:エルミリサへの資格者――を獲得しました。
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「……何だこりゃ?」
首を捻りながら、オレは最後の称号に首を傾げた。
資格者って……何を如何する称号なんだろうか?
っと、考えるのは後だ後! とりあえず、ボスが落としたアイテムを拾ってとっとと拠点に戻ろう。
そう思いながら、オレは<<CONGRATULATIONS!!>>の文字が回転している場所の真下へと歩き始めた。
いったいどんなアイテムが手に入るだろうか? これで石ころだったりしたら……「おのれディケ――じゃなかったラスボス~~っ!!」って感じに叫ぶぞ?
そうして、オレはダンジョンボスの落としたアイテムを取った。
本当は普通にインベントリに送られるという設定もされてるけれど……、ここまで苦戦したボスなんだ。直接取るほうが良いだろう。
「…………鍵? 何処か隠し部屋とかの鍵だったりするのか?」
そう、ダンジョンボスが落としたアイテム。それは鍵だった。
昔のアンティークショップに売られていそうな、細い金属で創られた特殊な装飾が施された……銀色の鍵だった。
初めて見るアイテムであると同時に、どんなアイテムであるのか気になるためにオレは詳細を確認するために確認を開始した。
えーっと、何々……?
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名称:転生の鍵
種類:unknown
説明:
ダンジョンクリアおめでとう、あなたは選ばれました。
近いうちに、あなたは新しい世界の扉を開くこととなるでしょう。
初めての試みとなりますが、成功するように頑張らせていただきます。
――――――――――
…………えーっと、なにこれ?
まさかのネタアイテム? ネタアイテムなのか?
「あ、あれだけ地獄の戦い繰り広げて手に入ったのがこんなアイテムひとつって如何いうことだよなぁ……。
あー、ダメだ。もう拠点帰ってからログアウトしよう」
鰻上りだったテンションが一気に叩き落されて、オレは意気消沈としながら拠点へと帰るためのポータルを展開し自宅へと帰ったのだった。