も~っとお話しましょう、そうしましょう。#
お待たせしました。
「……ああ、なるほど。そういうことですか」
計野さんが溜息を吐いた直後、何かをしていたらしく神さまが納得したようにそう口にした。
いったい何がなるほどなのだろうか?
そう思っていると、案の定オレの考えていることを読んだのか神さまはオレを……いや、オレと計野さんを見てきた。
「計野さんがそうなった原因が分かりましたよ」
「え?」
いきなりそう言われたからか、信じられないらしく唖然と計野さんの口からは声が洩れた。
まあ、普通はそうなるよなあ……。
そう思っていると神さまの説明が始まった。
「はず初めに計野さんが掛かっていた病気ですが、原因は魂魄内に時限爆弾とも呼べるような致命的な異常があったようです。
その異常は時限爆弾といったように、ある程度の年齢までは普通に過ごすことが出来ますが……ある日いきなり魂魄だけではなく体までも蝕んでいくというものでした。
結果、計野さんの体は徐々に衰えて行きましたが、その理由が分からないために原因不明の病とされていたようですね。
そして、治療法として色々と体を弄繰り回されたみたいですが……、その中で動物の神経を移植するというものがありましたよね?」
「は、はい……、体を動かすためにと実験的な移植を行って、あと少しで成功するかも知れないという所で移植した神経が突然死滅したそうです。その結果……ますます体が悪くなってしまいました」
暗い表情をする計野さんだけれど……、それは本当に地獄過ぎると思った。
というか、オレだったら耐えれるだろうか? ……無理かも知れない。
それに両親自身そこまで親身になってくれるかと聞かれると、多分途中で諦めるだろう。きっと間違いない。
そんな風に思っていると、神さまの話は続いていたようだ。
「死滅した動物の神経ですが、そこに若干魂が残っていたらしく計野さんの魄に張り付いていたようです。……そして世界を渡った影響と魂魄にある異常の時限爆弾を取り除いた結果、あなたの魂魄を補うために残ったその魂を肉付けしたようですね」
「えっと、つまり……?」
「要するに、傷付いた魂魄を再生するための材料として計野さんに張り付くように残っていた猫の魂が使われたというわけです。
その結果、猫の魂を材料に使ったために計野さんはこの世界に来たときに魂魄の情報を元にして創られたアバターが獣人として登録され、猫耳に尻尾が生えていた……というわけです」
その説明を聞いて、オレにも理解出来た。
ちなみに計野さんも神さまの言葉で、長い間気になっていたことが解消出来たような顔をしているけれど何処か悲しそうな表情をしていた。
まあ、当たり前だよな……。だって、聞いた話だと普通はなるはずが無い病だったんだし、本当だったら家族と団欒して楽しい毎日を暮らしていたかも知れないんだし……。
……ダメもとで、聞いてみるか。
「なあ、神さま。計野さんを……向こうの、オレたちが居た世界に戻すことは出来ないのか?」
「え?」
突然のオレの言葉に悲しそうな表情をしていた計野さんは、驚いたようにこちらを見てきた。
その一方で、神さまのほうは……悲しそうな表情を浮かべながら、頭を下げてきた。
「……申し訳ございません。状況からしてとても可愛そうですが、向こうでの計野さんはもう死んでおり……更には向こうの輪廻の輪へと戻すことも出来ません。本当に、申し訳ありません」
「そんな……。何とか、何とかならないのかよ!?」
それじゃああまりにも可哀想過ぎるだろ!? 心からそう思いながら、オレは神さまに詰め寄ろうとした。
けれど、それを止める声があった。
「き――気にしないでください……! あ、あたし自身はもうパパとママにはお別れをしていますから……。だ、だから…………あ、あれ……?」
「計野さん……」
「へ、変です……。何で、……な、涙が止まらない、の……かな?」
気丈に振舞う彼女だったが、見た目からして……現実のオレと同年代だったと思う。
それなのに、中身は大人……いや、多分達観しているのかそれとも諦めているのか分からない。分からないけれど、心と魂は別物だと思う。
だって、気にしないでという心があると同時にまだ生きたかったということを告げるように涙を見せる計野さんがそこに居るのだから……。
……オレに、何かできるのかと聞かれたら、出来ないと思う……。けど、これぐらいは……やっても良いだろ?
そう思いながら、オレは立ち上がり……涙を流す計野さんを男と違い小柄である体で包み込むように抱き締めた。
「――――え?」
「何も分からないまま、この世界に来て……怖かったよな? もっと、生きたかったんだよな? 学校、通いたかったよな……? やりたいこと、いっぱいあったよな?
だから、いっぱい……思う存分、泣いて良いと思うぞ。というよりも、泣いて泣いて泣きまくって……悲しい気持ちを吹き飛ばすまで泣き続けろよ……」
「あ、あの……え、っと…………。――ふっ、うぅ……ぅえ……うえええええええぇぇぇぇぇぇ………………」
オレの行動に、言葉に戸惑っていた計野さんだったけれど、優しく背中を撫でるとまるで氷が溶けるかのように……計野さんの口から嗚咽が漏れ出し、堰を切ったように泣き始めた。
そして、泣くだけではなく……彼女は、生きたかった生への渇望を叫びながら……オレの背中にしがみ付く。
……嗚咽交じりに叫んでる言葉は、彼女のために割愛させてもらうことにする。というよりも、オレ自身彼女のその慟哭に口出しできるような立場ではないはずだし……。
だからオレはただ静かに、泣き続ける計野さんの背中を優しく撫で続けた……。
◆
「……落ち着いたか?」
「は、はい……その、ありがとう……ございました」
しばらくして、泣き止んだ計野さんは恥かしそうにオレから離れ、オレがそう言うとお礼と共に頭を下げてきた。
とりあえず、それは良いのだが……さっきから生温かい瞳でオレを見つめている神さまをどうにか出来ないだろうか?
……多分無理だろうなあ。そう諦めつつ、神さまを見る。
「何にせよ神さま、この世界に紛れ込んだ存在っていう計野さんが見つかったんだから、これで慌てる心配は無いだろ?」
「……いえ、計野さんは見つかりましたけど、未だ緊急事態継続中です」
……ん? なんだろうか、この若干嫌な予感は。
神さまの言葉に嫌な予感を感じつつ、オレは神さまの言葉を待つ。
「もしかしてと思っていると思いますが、この世界に吸い込まれた魂魄は計野さんだけではありません。まだ正確な数は調査をし終えていないので分かりません。さきほど……あなたの家の周辺に浮遊している魂魄を一気に吸い込んだと言いましたよね?」
「あ、ああ……、ま、まさか……オレの家の近くに居た魂魄が数百とか言わないよな? というか、家の近くにそんなに魂とか幽霊が居たなんていわれたら普通に泣くぞ?」
「いえ、それはありませんので安心してください。ですが、最悪なことにあなたの家の上空を巡っていた輪廻の輪からも大分魂魄を吸い込んでいったみたいなんですよね……。
まあ……、ほぼ大半は世界を越えることが出来ずにこの世から消え去ってしまったみたいですが……」
……吸い込まれたのは計野さんだけじゃなかったのかー……って、消え去るって何だっ!?。
多分、摩擦とか何かそういうものがあるに違いない。……良く無事だったな、オレ……。
「一応あなたの場合は転生の鍵を所持していたので、魂魄の摩擦は無かったんですよ」
「そ、そーなんだー……。無事で本当に良かった、オレ……」
「それで無事だった魂は10にも満たないそうです。ですが……その魂は誰なのかって言うのはまだ完全に特定出来ていない状態なんですよ。
まあ、その内のひとつは計野さんでしたが……」
要するに、緊急事態と言っておきながらまったく対策も何もされていなかった。
と言うことで良いのだろうか?
まあ、こっち側としては本当にいきなりだった上に色んなことが急に起きたから対策なんて出来るわけがないよなあ……。
でも……。
「……つ、つまり砂漠の中で砂を拾い集めるような作業をオレに行えって言うことか?」
「今のところはそうなりそうですね……。まあ、近い内にこちら側でも対処をするつもりです。ですから、それまで何があっても問題が無いようにすぐに行動が出来るように準備をしておいてください」
「いや、準備って言っても……計野さんのような感じに普通に話しかけたら良いんじゃないのか?」
「……それがここに来る直前に何とかこちらとあちらのスタッフの頑張りで一部だけですが特定出来た魂があったのですけれど、その魂はこの世界で垢BANをくらったプレイヤーだったんです」
垢BAN……要するにやってはいけないことをやった結果、運営にゲームへのログインを禁止されること。
……要するに、垢BANされたキャラの中にそれを行っていたプレイヤーの魂が入ってる可能性もあるって言うことか……。
とりあえず全員が全員、垢BANをくらったプレイヤーで無いことを祈るべきだろうか。
そう思いつつ、ひとつ気になったことがあった。
「なあ、神さま。このゲームは魂をそのまま送り込んでプレイしてるってことは垢BANをされたプレイヤーって現実だと犯罪傾向が強い奴らだったりするのか?」
「……そう考えてもらえれば良いです。垢BANの基準はプレイヤーへの殺人や窃盗、奴隷売買……酷いもの強姦未遂などがあります」
「え、一般的なVRMMORPGだって言うのに強……げほごほ、とかあるのか?」
「やろうとした瞬間、所謂……路地裏とかに連れ込んだり押し倒したりしたところでその意思が感じ取られた瞬間に垢BANされているので今のところ実害は無く大丈夫ですが……、この世界の住人となったなら垢BANなんてありません……」
「じゃあ、殺人とか、窃盗とかは?」
「それらはカウント、とも言えますし……一応ストッパーはかけてるのにそのタガを外した場合、戻らないと判断したらその時点で……ですね」
つまりは酷い事件が起きる可能性が高い……と。
これは、速く捕まえるべき……だな。
心の中でそう決意していると、神さまは付け加えるように言ってきた。
「ちなみに垢BANになったプレイヤーのアバターは、街からだいぶ離れた周りと隔絶した監獄に閉じ込められています」
「それって普通に大丈夫なんじゃあ……」
「いえ、そうとも言い切れない可能性もあると言うことです。それに……そういう面白そうなこと、あの子たちが見過ごすはずが――」
「え?」
「いえ、何でもありませんっ! なんでもっ!!」
何か神さまが言っているが、オレは聞こえなかった。
そして、聞こえなかったにも拘らず神さまはそのことを必死に隠しているようにも見えた。
……神さま、いったい何を隠しているんだ?
というか、神さまの言葉で何かが発動した……ってことは無いよな?




