お話しましょう、そうしましょう。
――キィ、バタン!
と、ドアが軋む音を立てながら、オレとオレに手を引かれた猫耳少女は滑り込むようにオレの家の中へと入ると、即座に扉を閉めた。
すると先程まで喧騒に包まれていた街中の騒がしい音が緩和されて静かになり……、溜め込んでいた息を一気に吐き出した。
「ふうーーーー……、やっとついた……。っと、それ外しても良いぞ」
「は、はい……」
オレがそう言うと、戸惑いながら猫耳少女は頭に被せられていた布をゆっくりと取った。
すると、布の下からは白と黒の斑の髪と共に猫耳少女の猫耳がぴょこんと姿を現した。
……あの後、手を繋いだ少女へとオレが初めに行った行動。それは頭に布を被せることだった。
何故なら、猫耳を露わにしている状態だと色々と目立ってしまう。そう考えたオレは猫耳を隠すために少女の頭に布を被せたのだ。
まあ、当たり前だが突然布を被された少女は驚き、叫びそうになったが居場所がばれると言うと、叫びそうになるのを堪えてジッとしてくれた。
……なんだろう、この犯罪臭。いや、今現在オレも少女だ。だから特に問題は無い! ……はずだ。
そして、そのお陰か少女を追いかけていたであろうプレイヤーたちはオレたちを通り過ぎて行き、しばらくしてオレたちはゆっくりと移動を開始した。
ちなみに猫耳少女にかけた布だが、実は認識阻害が掛かっている隠密系のイベントで必需品ともいえる『隠れ蓑クロス』という在り来たりな名前のアイテムだったりする。
「とりあえず、玄関で話をするというのもなんだし……居間のほうに案内するから、ついて来てくれ」
「あ、はい……。あ、あのっ!」
隠れ蓑クロスをインベントリの中へと入れて、猫耳少女にそう言うと少女も反射的なのか頷いたが……すぐにハッとしながら警戒しつつオレを見てきた。
その視線を感じつつも、少女が何を言いたいのかというのを若干理解しつつ……。
「……別段何もする気が無いし、何時までもそんな所に立っているよりも居間で話そう。良いだろ?」
「で、でも……」
「一応お菓子もあるから、如何だ?」
瞬間、猫耳少女の猫耳がピンと立つのが見えた。しかも、後ろでは尻尾も立っているらしく……着ている服の後ろを大きく捲くれ上がらせていたが、見なかったことにしておこう。
きっと後ろから見たら、下着とか丸見えになっているかも知れないし……。
そんな猫耳少女は自身の様子に気づいていないらしく、仕方なく……と言った様子でコホンと咳払いをした。
「わ、分かりました。そこまで言うのでしたら……その、ご相伴にあずかりましょう!」
そう言いながら、少女はスタスタとオレが行こうとしていた部屋の先へと歩き出していた。
……それほどお菓子が食べたいのだろうか。そう思いながら、先を越した猫耳少女の自身の尻尾によって捲れ上がった下半身がオレの視界に飛び込ん――ブッ!?
「ぶほっ!? げほっ!!」
「にゃっ!? ど、どうしたのですか……?」
突然咽たオレに驚きながら、猫耳少女が恐る恐る声をかけてきた。ちなみに尻尾は驚いた拍子に一度ピンと立った後にヘナヘナと垂れていった。
結果、捲れ上がっていた服も下がっていったので良しとしよう。……だけど。
「な、なあ……?」
「は、はい……?」
「キミ、何でパンツ穿いていないの……?」
「え? あ、あの……、その……」
オレがそう言うと、猫耳少女は顔を真っ赤にしながらその場にへたり込んでしまった。
そんな少女を見ないようにしつつ、オレはインベントリからトレードを猫耳少女に申し出ることにした。
「――え? なん、ですか……これ?」
まるで初めて見るような物を目にすると言った風に少女は戸惑いながら目の前を見ている。
多分、少女の視界にはオレの名前とトレード内容が表示されていることだろう。
「何って……トレード画面だけど、もしかして分からないのか?」
「え、えと、ト……トレード?」
「そう、その視界に出ている透明なプレートで≪了承≫のボタンをタップして、トーレドをするんだ」
「こ、こう……?」
戸惑いながらも猫耳少女はプレートの≪了承≫をタップしたのだろう。すると、少女の名前とトレードが了承されたという透明なプレートがオレの目の前に表示された。
……が、表示された内容を見て、オレはギョッとした。
何故なら……。
~~~~~~~~~~
『計野新那』さんがトレードを承認しました。
トレードする内容を選んでください。
~~~~~~~~~~
計野、新那……? 凄く、日本人……というよりもリアルネーム過ぎる名前なんだけど?
その名前に戸惑いつつ、オレはその場しのぎのパンツを1枚選択するとトレードボタンをタップする。
そして、トレードは成功しているらしく受け取ったアイテムの名前が表示されているのだろう。顔が赤くなっている。
そんな恥かしがっている猫耳少女に、オレは問いかけることにした。
「えっと、計野新那……さんで良いのか? 何だか凄く、リアルネームっぽいんだけど……ガチで本名なのか?」
「え? あ、はい。あたしは、計野新那……です。それと、リアルネームとかって、本当どういう意味……ですか?」
戸惑いつつも聞いたオレの質問に、猫耳少女……計野新那さんは頷き、オレの言っていることが判らないと言った風な反応をしていた。
しかも……装備をどうすれば良いのか分からないのか、下着を装備するといった行動も行っていない。
……まさか、ねぇ?
若干嫌な予感を感じつつ、先に装備を着せるためのやりかたを説明することにした。
「えーっと、計野さん。今渡したのは、装備しないと意味が無いけど……やりかた知ってる?」
「え、えっと……? その……、知りません」
計野さんはオレの質問に困りつつも、知らないと答えた。
なので、オレはやりかたを説明することにした。
「まずは装備欄を表示させるんだ。表示のさせかたは、装備と頭の中で呟けば透明なプレートが目の前に表示されるから」
「は、はい。そ、装備! ――わっ!?」
多分、目の前にプレートが表示されて驚いているのだろう。
そう思いつつ、オレは話を続ける。
「現在装備が表示されてると思うから、そこの欄にある下着の空欄をタップして」
「えと、こう……ですか?」
「んー、オレは見えないから判断出来ないけど……、装備出来る下着が表示されたらそれを押すんだ」
「あ、出ました。えっと、ここを……こう……。あ……」
ウロウロとした指で押しながら、計野さんは装備欄をタップしていき……無事にパンツが装備出来たらしく、突然下半身に現れた布の感覚に驚いているようだった。
……まあ、これで一応は一安心、だよな。っと、最後にこれだけ注意させておかないとな。
「ああ。あと、装備欄の名前の部分はタップするんじゃないぞ。そうしたら――」
「え?」
「……遅かったか」
オレが言い終わる前に、計野さんはどうやって装備欄を閉じれば良いのかと考えたらしく、様々なところをタップしたのだろう。
そして、名前のところを押したに違いない。
結果――。
「……装備欄の名前を押すと、装備が全解除となるんだ……が、遅かったな」
「にゃ――にゃああああああああああああ~~~~~~っ!!?」
露わとなった肌を隠すように、計野さんは叫びながら自身の体を隠したのだった。
……とりあえず、もう一度装備し直して貰ったのだが、しばらく計野さんは目に涙を浮かべて顔を真っ赤にしていた。
◆
「うぅ~~…………」
「え、えーっと、とりあえず……これでも食べて機嫌を直しなよ?」
「うぅ~……、あ……ケーキ♪」
居間に置かれた食卓の一席に座りながら頬を膨らませる計野さんへと、苦笑しながらオレは居間……というよりもそこに隣接する調理場の冷蔵庫モドキの中に入ったケーキを出した。
それを見た彼女は、膨らませた頬を萎ませて置かれたケーキに視線が向けられる。
そんな彼女へとフォークを差し出すと、計野さんはまるで子供のようにケーキを食べ始めた。……まるで、長い間食べていなかった物がようやく食べることが出来た。
そんな風に、計野さんは何時の間にか涙をポロポロと流しながら食べていたのだ。
……その様子にきっと何かあると思いつつ、オレはミルクを温めて彼女が飲むためのホットミルクを作ることにし……静かに席を立った。
「えと、ご……ごちそうさま、でした……」
「おそまつさまでした。……良い食べっぷりだったな」
「は、はぅぅ……」
顔を紅くしながら、計野さんが手を合わせたので、オレはそう言う。
ちなみにからかっているつもりは無いのだが、計野さんは顔をますます赤らめながらホットミルクに口をつけて顔を隠した。
「さてと、お腹が膨れたってことで……話を聞きたいんだけど、良いか?」
「あ、は……はい」
ホットミルクで創られた白い髭を付けながらオレの言葉に計野さんは頷いた。
……とりあえず、白い髭は黙っておこう。
「それじゃあ……、名前の計野新那って、プレイヤーネームじゃなくて本名ってことで良いのか?」
「は、はい。……えっと、何度も気になってたのですが、本名とかプレイヤーネームってどういうこと……でしょうか?
他にも、初心者とか種族とかまったく意味が分からなくて……」
そう言った彼女の表情、それは紛れも無く何も知らない。といった表情であった。
……仕方ない。知らせることにするか。
「……計野さん、エルミリサってゲームに聞き覚えは?」
「える、みりさ? えっと、ごめんなさい……、あたしは病院で入院し続けていたのでそういう物は全然知らなくて……。
でも、ゲーム。なんですよね? テレビで遊ぶタイプの」
「ゲーム、には違いないのだけど……テレビじゃなくてVR、つまりはバーチャルリアリティタイプのゲームだけど、その様子からしてプレイをしたことも無いみたいだな」
「は、はい……。えと、それで……そのえるみりさ、というのと今の話……どういう関係があるのですか?」
「えーっと、つまりだ……。ここはプレイヤーたちにとってはゲームの世界であり。オレたちにとっては現実だってことだ」
どう言えば良いのか悩みつつ、オレは計野さんにそう言うと……、オレの言葉が理解出来ていないのか彼女はポカーンと口を開けていた。




