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第一章~低層突破は難しい~Ep7

一旦帰還。

俺は設置出来るだけの数のトラばさみを設置し、奥へと潜む。


「ここか? 最近噂になっている祠は」

「そうみたいね。攻略組の私たちに依頼してくるなんて、ったくいい迷惑だわ」

「まあそれだけの報酬もらえるってんだからいいじゃないすか」

「いいから行くぞ、話してる時間がもったいねえ」

「ほいほいさー」

「ラジャー、レッツゴー!」


その六人組をみた俺はすかさず自分に矢を放った。

HP1の俺は簡単にキルできる。


教会に戻った俺はさっきのパーティのことを考えていた。

あれは俺でも知っているほど有名なパーティだ。

攻略最前線パーティ【兵の狂宴(フィアフィスト)】、DTD内最強と言われるプレイヤー6人でできている。

攻略組を罠に嵌められるとは思っていない。

こんな大層なやつらに絡まれたくはない。

だから俺は自分をキルした。

そのせいで先程のゴブリンの経験値と所持金はゼロになったが、俺は誰にも会うことなくログアウト地点の教会まで戻ってこられたし、逃げ切ることができた。

悪くはないといったところだろう。


HP1で良かった。

でないと自分をキルなんてできないしな……。


だが、【兵の狂宴(フィアフィスト)】には【索敵】スキル持ちもいただろう。

あいつらは、あの祠に入るときに抜剣していたしな。

プレイヤーはいたことまでは掴まれているだろう。

彼らが突然消えた反応を見て、何を思うか……。


「くそっ!」

俺は勝ち誇ったような笑みを鎮め、顔を引き締める。

マントをアイテムボックスへとしまい、教会をすぐにでて、近くの鍛冶屋へとはいりこんだ。


あいつらは俺が自分をキルした可能性にたどり着いて、教会に戻ってくるかもしれなかった

マントも怪しまれないように取るべきだ。

ったく、ソウタの奴が一時に教会集合とかいう戯言を伝えてきたせいで、俺はここで時間をつぶさなくてはならない。


ちなみに、フレンド登録していると連絡を取り合うことができる。


「らっしゃいよ。アンタは何しに来たんだ?」

赤髪の兄ちゃんが声をかけてくる。

年齢は20歳くらい。

顔はこわもてで短髪とかみ合わさって、さらにワルに見える。

だが、若さの割に使い込まれた職人の手。

何かを見極めるような目つき。

そして頭の上には『gouse』の文字。


この人はプレイヤーだった。



出来れば交流は避けたい。

だが教会に戻るのも入ってすぐ抜け出すのも不審だ。

俺は意を決して話しかける。

「プレイヤーですよね? なんて読むんですか?」

「あぁ、俺はガウスだ。お前はクレハか?」

ガウスというのか。

ガウスは話し好きではないらしい。

「あぁ、で生産プレイヤーなのか?」

俺が訪ねる。

するとガウスは持っていたハンマーを横に置き、面倒くさそうに答える。

「そうだ。お前は何しに来たんだ?」

俺は今の時間に考えていたことを問う。

「ここって物つくれるんだよな? 俺にそのスペース貸してくれないか? 器具はある」

するとガウスは少し驚いたのか、眉毛をピクリと動かす。

しばらくしてガウスが言った。

「…………1000エルだ」

「ごめん、ない」

即答。

それが現実だ。

「なら出直して来い。俺はお人よしじゃねえ、さっさと出ていくんだな」

「ガウス、お前矢は作れるか?」

俺は話の筋を少し違う方向へ持っていく。

「あぁ、作れる。でそれがどうしたって?」

ガウスは鍛冶師の自負なのか少し堂々と答える。


そこで俺が一言。


「俺と契約しないか?」



今俺はガウスと一緒に工房の中にいる。

俺は罠を作り、ガウスは受注中の剣を作っていた。


俺とガウスは契約に成功していたのだ。

俺がゲットしたドロップアイテムをガウスにタダでやる。

それに、俺の矢は全てガウスから購入することにする。

俺の場合、防具は着ても着なくても、もう大差ないから買わない。


その代り、工房を借りて罠を作らせてくれ、という契約だ。


このDTDでは生産職プレイヤーの現状はあまりよくない。

そのため専属で利用してもらえる客ができることはガウスにとってかなりのアドバンテージだ。

俺がこの契約をふっかけたのは、ガウスが人と関わるのを面倒くさがっていたのと、罠作成の場を確保したかったからだ。


まぁ、とはいってもタダで使わせてもらえるのは今回だけ。

今回はゴブリンのドロップアイテムである『こん棒』をガウスにあげたからタダとなったが、次回からは500エル払わなくてはならない。

それでも、半額にはなった。

矢はどうせどこかから買わなくてはいけなかったし、俺に損はない。


俺はその後、ガウスとは話すことなく、罠作成を試行錯誤し、結局、鉄のインゴット全てを無駄に使って終わった。

俺のDEX値でできないってどういうことだよ!

と幾度となく呟いた。


タイムリミットが来たころには、鉄のインゴットは全てなくなっていたのだ。


俺はガウスに礼を言い、教会へ戻った。

礼はちゃんと言わなきゃだめだよな。

日本人だから。


教会に行くと、他の面々はもう既に集まっていた。

「おっ、クレハ。じゃあ、成果発表をしよう!」

「はっ?」

俺だけが聞き返す。

え?

情報公開するんですか?


と思ったが、公開するのはレベルとパーティレベルだけらしい。

そのくらいならまあいいか。


「じゃあ僕ら【青の円卓(ブルー・ラウンジ)】からいこうか。僕はいま16Lvになった。パーティレベルは9だ」

た、たかい!

今の攻略組のレベルが20台だったはず。

パーティレベルは確か15だったか。

それに追いつきかけてるこいつらって…………。

「い、いま何層にいるんだ?」

「あ、あぁ。そうだね。それも言ったほうがいいかい? 僕らはいま4層を攻略中だよ」

な!?

攻略組ともう三層差まで縮めてるだと!

常にゲームの研究してるとはいえ、こ、こいつらただもんじゃねえな…………。


「じゃあ次は俺たち【無形軍隊(アモルファス)】だな。俺は今19Lvだ。パーティレベルは4だ」

ガクが言う。


こっちもたけぇええ!

どうやらソウタたちの方はパーティレベルも合わせてのレベルアップを。

ガクたちの方はプレイヤーレベルを中心にあげているようだ。

ちなみにアモルファスも4層攻略中だとか。


「次はクレハの番かな?」

ソウタに問われる。

俺は苦し紛れに、恥を忍んで答える。

「レベルは5。パーティは組んでない。まだ一層だ」

それを聞いた瞬間、ある者はぽかんと、またある者は予想通りだと、呆れるものもいれば、笑うものもいた。

「はっ、お前どの大学通ってんだよ! それでまだ一層とかザッコ!」

「えぇえええ、まだ一層とかカスかよぉ」

「いや、一層にいれば初心者の女の子を助けられるぜ?」

ガク、マツカス、ケンジャが俺についての話題でケラケラと笑っている。

「やめてください!」

「ちょっとアンタ達ねぇ…………」

アイリとシノが彼らを注意する。


俺は彼らの反応が妥当だと考えていた。

ソロで行くとか粋がってた結果がこの差なのだ。

モンスターを俺だけで倒せるようになったのも今日だしな。


だがこの場で唯一、ソウタだけはクレハの現状を聞いて、眉毛をピクリとさせ、真剣な顔をしていた。

その顔はまるで、チェス盤の前で次の一手を考えているプレイヤーのようだった。



******

NAME:kureha / 残りステータスポイント:0

レベル:5


HP:1

MP:0

SP:0


STR:0

VIT:0

DEX:90

INT:0

AGI:100


スキル

【弓攻撃】Lv:3【索敵】Lv:5【隠密】Lv:5【静音】Lv:5【罠設置】Lv:4【罠解除】Lv:4【罠作成】Lv:1【罠感知】Lv:4【逃走】Lv:4【夜眼】Lv:4

******



意識が戻る。

現実世界の時刻で午後七時。

俺たち有馬ゼミメンバーはゲームをログアウトし、この現実世界へと戻ってきていた。

「いやぁ、今日は疲れたわ」

「だな、飯食いに行こうぜ?」

「おう! いこいこ!」

と、俺以外の面々は元気に飯を食いに行く。


俺は一人カプセルに入ったまま、考え事をしていた。


悔しい。

そして恥ずかしい。

ここ有馬ゼミはゲームを研究するだけでなく、今回のように自身が被験者となりゲームをプレイすることが多々ある。

それなのに、他の奴らと比べて俺は弱すぎる。

いや、実際あいつらが強すぎるだけなのかもしれないが。

この差を埋めるためにはあいつらよりログイン時間を増やすしかないよな。


クレハは再ログインを実行する。

彼はもう部屋には誰もいないと思っていたが、その姿を見ていたものがひとりいた。

彼女はそれを見て、しばらくした後、その部屋を後にした。



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