第一章~低層突破は難しい~Ep6
急いては事を仕損じる。
「にしてもこれあたらないな……」
さきほどと同じ作業を十回以上繰り返しているが一向に当たる気配はない。
俺のハイディングスキルだけはあがっていくが、矢が当たらなければ敵を倒せない。
20発目の矢を外したところで、近くにプレイヤーがやってくる。
「やばいな」
俺は祠の中へと逃げ込む。
そして祠の入り口にトラばさみを6つ仕掛けた。
ギリギリのタイミングで設置が終わり、プレイヤーに気付かれることなく奥へと逃げ込む。
彼らはどうやらこの祠を探索するつもりらしい。
俺の【夜眼】が捉えたのは6人パーティ。
「この祠は罠が多いらしい。気をつけて進むぞ」
「「「「「あぁ」」」」」
リーダー格らしい短髪の男剣士に続いて、斧を構えた大男や、全身鎧に包まれたタンクがいる。
あ、あの全身鎧、俺をキルしたやつだ!
トーマス率いる【トレインズ】は今日の目標としてこの祠の探索を掲げていた。
町のプレイヤーの噂だと、罠が多くて通れないということだったが、こちらには全身鎧のゴードンがいる。
彼なら罠に引っかかってもキルまではされないだろう。
そう考えての探索だった。
しかし、それは祠に入った瞬間の出来事だった。
パーティ全員の足がトラばさみに捕まったのだ。
トーマス達は急な罠の作動に動転する。
情報ではこんな入り口付近に罠なんてないはずだったのだ。
しかし、まだあわてることではない。
トラばさみ程度なら、多少のダメージは食らうが時間が経てば解除される。
モンスターのいないこの祠ではただの時間稼ぎにしかならないだろう。
が、そんなトーマス達の思考は甘かった。
「ぐはっ!」
ゴードンが悲鳴を上げる。
「ど、どうした!」
頭を回転させ後ろを振り向くと、そこには頭をヘルメットの上から矢で貫かれたゴードンがいた。
刻々とHPが減っていく。
「くそっ、トラばさみのせいで矢に手が届かん!」
そして、ゴードンがキルされた。
トーマス達が、何が起こったのか、あたりを見渡していると、祠の奥から次々と矢が飛んできた。
「ま、まさか奥にプレイヤーが!?」
正解だった。
だが気付くのが遅かった。
それもしょうがない、この祠はいまだ誰一人としてクリアしたことがなかったのだから。
【罠解除】など取る人がいなかったためだ。
DTDにおいてスキルは命綱。
さらにそういったスキルはDEXの値によって成功率に影響が出る。
トーマス達はトラばさみから抜け出す前に、矢に貫かれてキルされた。
「ふぅ、ビビったぁ。敵が近くなら割と当たるな。しかも威力がかなり高い」
弓攻撃はDEXによる威力補正があるらしいから、俺の高いDEX値のおかげだろう。
どうやらプレイヤーはキルされると、デスペナルティで剥奪される経験値とカネはキルされた相手に譲渡されるらしい。
俺のレベルが一気に上がった。
「これは…………結構いい作戦だったな」
実のところトラばさみは攻撃すれば壊れたのだが、気が動転していたトーマス達はそこに気付かなかった。
さらに祠の狭さでは彼らの大きな武具を振ることができなかったということもあった。
その後、クレハは日が沈むまで、ウサギ相手に矢の練習を、近づいたプレイヤーには罠&デストロイで対処し続けた。
「ふぅ、そろそろここからでるか」
クレハは外を確認して、フードをさらに深くかぶる。
現在時刻午後六時。
モンスターの種類が一転し、草原には夜のモンスターたちが跋扈していた。
******
NAME:kureha / 残りステータスポイント:0
レベル:2
HP:1
MP:0
SP:0
STR:0
VIT:0
DEX:75
INT:0
AGI:100
スキル
【弓攻撃】Lv:1【索敵】Lv:3【隠密】Lv:3【静音】Lv:3【罠設置】Lv:2【罠解除】Lv:3【罠作成】Lv:1【罠感知】Lv:3【逃走】Lv:3【夜眼】Lv:2
******
夜のダンジョン。
月明かりのみの世界。
「これは【夜眼】がなきゃむりだな……」
俺はひしひしと感じていた。
索敵マップにも視界にも何も映っていないが、感じる。
とてつもない殺気だ。
「これが夜か……」
だが俺は興奮していた。
なぜならここにはだれもプレイヤーがいないからだ。
「まだ矢は当たるようにならないしな……」
ということで俺は夜のうちにいろいろと罠を仕掛けておくことにした。
この一層のダンジョン中に…………。
一息つく。
作業が終わったのは夜の十時。
「結構かかったな」
俺は今【罠設置】で一度に二種類の罠を合計二十個設置することができる。
俺は至る所にトラばさみを設置しておいた。
DTDでは戦闘中に一度でもダメージを与えていれば、その敵が倒れた場合、キルしたプレイヤーとして経験値がもらえるらしい。
夜のモンスターは罠に引っかからないだろうが、明日の朝が楽しみだ。
俺は町に戻っていた。
罠はまた入手できると分かったため。手に入れた残りの罠を全て売り、宿代と食事代に回す。
俺は路地裏に潜む隠れ家的宿に泊まることにした。
DTDでの二日目が終わりを告げる。
俺が起きたのは朝の四時。
いつも通りだな。
早朝もプレイヤーが少ないため、俺はダンジョンへと向かう。
まだ敵に矢が当たるようになっていないのだ。
10メートルほどなら当たるようになってきたが、それはトラばさみに嵌めた対プレイヤーの時。
モンスター相手では、20メートルの距離は確保しておきたい。
ということで俺は残りの四日を昨日と同じく、祠からの射撃訓練、そして近づいたプレイヤーのキルによるカネと経験値稼ぎを行うことにした。
ただ、どのプレイヤーも大してカネも経験値も持っていないのだが。
そんなこんなで、6日目に突入する。
ゲーム時間で今日の午後一時にログアウトする予定だ。
現在時刻は午前十時。
俺は習慣となってきた祠からの射撃訓練を続ける。
「おっ、ゴブリン発見」
この一層の草原にはウサギとゴブリンがいることが分かっていた。
ソロだと他のプレイヤーからの情報が入ってこないから、自分が体験したことしかわからない。
掲示板も現実世界でしか見られないしな。
俺はボウガンに矢を装填し、右手を構える。
そして狙いをゴブリンの右目に定め、矢を放つ。
ヒュゥウイッと放たれた矢が標的の右目を打ち抜く。
DTDは敵の急所に当たるとダメージ判定にクリティカルがでるようで、ゴブリンはかなりのスピードでHPを減らす。
矢が刺さっていると継続的にダメージが加わるのだ。
ゴブリンが攻撃元を探している間に、俺は次々と矢を放っていく。
全てをクリティカルヒットで当てていくと、10発目にしてゴブリンは倒れた。
俺に経験値とドロップアイテムの入手がされたというメッセージが届く。
モンスターを倒した際のドロップアイテムは直接アイテムボックスへ送られるのだ。
倒されたゴブリンが光の粒子となって消えていく。
俺は6日目にして、20メートル先を正確に狙えるようになっていた。
まあDEXの補正があると言えばそれでおわりなんだが……。
にしてもこのボウガンの威力は、普通じゃない。
急襲のため、クリティカルを狙えているというのが大きいが、敵をソロで倒せる。
俺のステータスはAGIにほとんど振っているが、実際DEXのほうが役に立つと今では思っている。
そのためこれからのステータスはDEXに全振りすることにした。
そして俺がもう一つ続けていたことがある。
夜の罠設置である。
朝になってダンジョンを探索していたプレイヤーたちはあるはずのないトラばさみにかかって、モンスターにキルされていた。
おかげで俺は経験値とカネを稼げたけどな。
その戦闘中に一度でもダメージを与えていれば、その相手がその戦闘中に倒れた時に経験値とカネをもらえるというシステムは俺には都合がいい。
俺が6日間の成果を噛みしめていると――実のところソロでモンスターを倒せたのは今日で初めてだ――6人パーティが近づいてきた。