第一章~低層突破は難しい~Ep33
投稿遅くなりました。
ごめんなさい。
静寂に染まる黒い空間が視界を覆う。
床に、壁に天井に張られた無数の青色光のラインがこの空間の血流であるかのように、光を流している。
その様はまるで電気信号を流す回路のようで、機械の中に入ってしまったようだった。
電脳体とやらになったらこのような世界の中で光粒子の一つとしてあり続けることになるのだろうか。
しかし、目の前の光景が一転し、そのような思考に耽っている場合ではないことを悟らせる。
サーティンとの銃撃戦は既に数巡目に達した。
俺がやっとのことで出した『4』『3』という計7の最高目が俺を奴に近づける。
そして、最初の一本道の終わりへとたどり着き、俺は広い空間の入り口へと出た。
広大な円形の空間。
青色光のラインが入った黒い壁で構成されている点は変わらないが、道が二次元的ではなくなっていた。
空間の周囲を沿うような螺旋を描き上へと延びているルート。
そしてところどころから頭上を横切るように、円の端から端を一直線につなぐような橋が架かっている。
そしてなにより、上方に進むにつれて、障害物が多くなっている。
一方を既に側壁で塞がれている螺旋状のルートは、上方に行くほど、中心側にも地面が隆起してできた障害物が散らばっているのだ。
そして俺がいるのはこの円形の空間最下層。
「奴はどこだ?」
今までのとこからプレイヤー全員がサイコロを振り終わった時点から攻撃が可能になるようだと推測していた。
となるともう銃撃は始まるはずだ。
俺は【索敵】を発動し、奴の居場所を探る。
既に、かなり上方へいることだけは確かだろう。
俺が索敵マップを広げた矢先、頭上から飛来する弾丸。
「っ!」
ギリギリ索敵マップが一端を捉えていたため。回避が間に合う。
あぶねえ……。
今の方向からするとおそらく、奴はこことの対角、二、三周くらい上方くらいにいるか……。
「それに……」
奴の放った銃弾がさっきのと違う。
おそらく、道中で新しいものが手に入ったのだろう。
スピードはあまり上がっていなかったが、威力は上がっているはずだ。
「俺には威力とか関係ないけどな」
思わずほくそ笑みながら、俺は矢を構える。
先程の射線を中心に索敵マップを広げ、奴を捉えた俺、だがその位置に顔をしかめる。
「くそっ、壁の後ろに隠れてるか!」
奴は黒い壁の裏側に身を潜めていた。
止まっているマスの外には出られないはずだから、奴があそこから逃げ出すことはないが……。
「こっちの攻撃は届くのか?」
奴は壁から身を乗り出し、自由に俺を狙うことができる。
だが、俺はチャンスを待つしかないってのか?
「って、何もしないわけないだろ?」
もし、他のプレイヤーだったら銃弾の数の問題で無駄に打つことができなかったかもしれないが、俺は違う。
俺にはボウガンがある。
「隠れてるってんなら好きなだけ打たせてもらうぜ?」
俺は奴の前に聳えている2メートルほどの壁に矢を放つ。
矢が壁に当たり、振動を走らせる。
空間に響いた音が反響し、残響した音が鼓膜にざわついたまま残る。
「いけそうだ…………な!?」
今の一撃で、壁の一部が破損していた。
これならいつか壊せるはずだったのだが…………。
「そんなのありかよ!?」
空間中に走った、青色光のラインが破損部目がけて光を送出する。
空間の傷口に集まった光が傷口から新たな黒壁を構築していく。
俺がポカンと口を開けている間にも修復は進み、完全に元に戻ってしまった。
「このラインは空間の血管ってわけか」
まるで生きているかのような空間。
機械の中ではなかった、これは生物の中。
ダンジョンという一つの怪物の中に俺はいま立っているのだ。
「ふぅ…………」
息を吐く。
今の一撃は結局ノーダメージに終わってしまった。
だが、無意味ではない。
このダンジョンのギミックが一つ明かされたのだ。
「打ち抜いてやるぜ、サーティン!」
俺が一射放った後に、奴も反撃とばかりに銃弾を撃ち込んでくる。
素早く放った矢で相殺し、顔をだしていた奴目がけて狙撃。
「くそっ」
とはいっても距離が離れているため、躱されてしまう。
流石はボスモンスターってとこだな。
俺は距離のせいだけではなく、奴の実力も感じていた。
俺と狙撃戦ができるだけの俊敏さに反応速度。
俺の放った矢は先程修復された障害壁の根元部分に刺さる。
それが刺さったと同時に壁の反対側から身を出し狙撃してくるサーティン。
俺は奴の弾丸を、身をそらして躱すと同時に一射。
またしても躱された弾丸が障害壁の根元へとささる。
「くそっ、キリがねえな!」
俺は再び、障害壁目がけて矢を連射する。
一射目が巨大な衝撃音を鳴らし、その残響に乗せて二射目、三射目の追撃が続く。
同位置に重なった攻撃により、一瞬できた隙間。
しかし、それだけではダンジョンのギミックによりまたすぐ修復されてしまう。
次の矢が迫る頃には既に埋まっているだろう。
サーティンはそう思っていた。
だが…………。
迫りくる四射目がサーティンの目前まで迫ったというのに、壁が修復しきらない。
顔を引きつらせるサーティン。
徐々に、しかしかなりゆっくりと修復される壁の隙間をギリギリで抜けた矢が、奴の額を貫く。
『ギェォオオオオオ!?』
悲鳴を上げ、ブンブン体を震わせるサーティン。
俺はしたり顔でサイコロを手にする。
青色光のラインが修復するための光を流す血管なら、それを止めてしまえばいい。
だから、俺は障害物として存在する壁につながる二本の管を最初に断ち切った。
それでも少しずつ修復されてはしまったが、ギリギリ間に合ったようだ。
「次へ行こうか」
俺はサイコロを振る。
『1』『3』
いや、だから小さいって!?
悠々と左右の肩を交互に上下させながら先へと進んでいくサーティンの遥か後方。
俺はたった数歩しか進めない。
「くそっ、ゴール前に倒してやる!」
俺はそう決意した。
さらに数ターンが過ぎ、オレと奴のポジションもまた変わってきていた。
奴は順路通り螺旋状に進んでいるのに対し、俺はショートカットできる分かれ道を使い、円形のルートを、対角線を通っていくように進んでいた。
空中に架けられた橋には障害物が何一つない。
そして安定していない。
不定期的に揺れる足元。
少しでも衝撃を受ければ崩れてしまうだろう。
サーティンの狙撃、上方から狙われたソレは俺の胸を抜けると、橋の端に衝突してしまう角度だ。
道中でさらに威力を増してきた奴の銃がこの橋に直撃したら、崩れ落ちてしまうだろう。
「この橋だけ、青色光のラインが入ってないからな…………」
人体で言ったら血流の流れていない骨格部分に例えられるだろうか。
奴の弾丸が迫る。
「くそっ、躱せないか!」
俺は橋には直撃させられないため、躱す選択肢を消さざるをえない。
迫りくる弾丸に全神経を集中。
構えた矢の照準を合わせ、衝突地点を予測。
「…………っ!」
俺の放った矢が奴の弾丸と重なる。
が、直撃は防いだとはいえ、発生した振動が橋に伝わる。
ぐらりと揺れる橋に足を取られた俺は体勢を崩す。
その瞬間をサーティンが逃すはずはなかった。
こちらに照準を合わせる奴。
「ぐっ!」
体勢的に矢を狙いすませる状態ではない。
俺は宝石状の簡易地雷を取り出し、奴の射線上に投げつける。
あわよくば奴のいる場所へと届いてほしかったが、空しくも、飛距離は出ない。
だが、奴の放った弾丸を空中で巻き込み、爆発が生じる。
更なる、振動が橋を襲い、亀裂が入る。
「っ!」
だが、ギリギリのところで崩壊を免れる。
これ、魔法なんて放ったら、威力調整しないと橋全開だなおい……。
いまさっき爆発起こした俺が言うかって話だが……。
ま、俺はソロだからな、うん。
爆発の衝撃はサーティンにも届いているようで、奴の動きも止まっている。
俺は衝撃によって、橋の上で、膝立ちになっていた状態から、奴に一射を放つ。
狙撃したまま体を障害壁から乗り出したままになっていたサーティンの胸に当たる矢。
『ギェォオオオオオ!?』
悲鳴を上げるサーティン。
奴にもダメージがたまり、俺もどうにか橋を渡り切る。
それを繰り返すこと数回。
ようやくこの空間の天井に近づいてきた。
そして…………。
「俺は追いかけるより、逃げる方が性にあってる。――さあ、逃走劇を始めようとしようか…………」
サーティンの耳元でささやきその横を通り過ぎる。
そう、ついに俺は奴を越していた。
「って言ってみたが、サーティンのたった3つ前でしかないな!?」
すぐ後ろで、体を震わせながら奇声を上げているサーティンに目をやる。
この逃走劇は一方的なものになるのか、それとも最後まで追い詰められてしまうのか。
ハンターとなったサーティンが逃走者狩りに体を震わす。
なかなか執筆時間が取れないのが現状です。
更新遅くなってしまうと思いますが、よろしくお願いします。