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第一章~低層突破は難しい~Ep26

三層のボスである盗賊猫を倒した俺。

光の粒子となった盗賊猫。

その光が消えていくと同時にアナウンスがなる。


『上級スキルの取得条件を満たしました。上級スキル【罠術】を取得しますか?』

ん?

勝利の余韻に浸っていた俺はゆっくりとその内容を確認する。


【罠術】:【罠設置】【罠解除】【罠感知】【罠作成】を統合する。罠を宝石状に保存し、設置場所に埋めることで使用可能になる。どのような罠でも設置、解除、感知、作成が可能になる。


つ、つえぇえええ!

つまり、あの盗賊猫みたいに罠を使えるようになって、しかも4つのスキルを統合できるんだよな!

「迷う余地もないな!」

【罠術】の取得についてyesを選択する。


よし、これで今まで取得できなかったエクストラスキルが取得できるぞ!

興奮する。

頬は緩み、足は感動から崩れ落ち、床に腰を下ろす。


【起死回生】:残りHPが1の時に発動される。HP以外の自ステータスを倍にする。

【狙撃手】:クリティカルヒット時の与ダメージを二倍にする。


この二つのエクストラスキルも取得する。

「よしっ! これで俺の攻撃力がかなり上がった!」

俺の速さに関しては、AGIによる補正が二倍に、矢の精度は、DEXによる補正が二倍に。

そしてなにより、矢の威力に関して、クリティカルヒットを出すことができれば、DEXによる補正が二倍に、与ダメージが二倍になる。

「早く試したいな」


鼓動が速くなる。

しかし、【罠術】の取得によって空いたスロットは3つ。

今のエクストラスキルで2つ埋まったため、残り1つだ。

「さて、どうするか…………」


スロットが開いた場合は基本スキルから何か好きなスキルを取得することができる。

もう取得条件を満たしているエクストラスキルを持っていない俺。

スキルを得るのであれば基本スキルから選ぶことになる。

いつか手に入るかもしれないエクストラスキルのためにスロットを空けたままにしておくくらいなら何か基本スキルを取った方がいいと思う。

「どれがいいのか…………」


俺はメニュー画面から呼び出した基本スキル一覧をスクロールする。

しかし、大量にあるスキルの中から自分にあったものを探し出すのも至難の業。


「時間がかかるよな」

このボス部屋に長居することはできない。

戦闘後の震える足に力を込める。


少し体がぐらつくが、動けないことはない。

このDTDでは疲労度というものも隠れステータス的に存在しているように俺は感じている。

寝ずに動き続けると、体が重くなり意識が朦朧としてくるのだ。

三層まで一人で一気に突っ走ってきた俺はかなり疲労していた。

休憩ついでに、四層へでた塔付近――モンスターにエンカウントしない場所でスキルを漁るとしよう。



四層へと足を踏み出す。

月明かりのみが浮かぶ夜のダンジョン。

しかし、今までの階層とは違う。

「明るい…………よな?」

そう、真っ暗ではなく薄明るい。

黒い空から照らされる月明かりが、塔の下に広がる四層に映り、反射している。


俺の髪を揺らす涼しい風。

どこか懐かしい温もりを感じさせる夏の匂い。

耳を通り抜ける小波の音。


「海か」

四層は梅のダンジョンだった。

と言っても一面に広がる大海原ではない。

三層のような渓谷の谷間を覆う海路。

しかし、一直線になっていた三層とは広さもその道の複雑さも段違いだ。


「ここからじゃ先が見通せないな」

しかも、海の向こうは霧に覆われていて先が見えない。


「まぁ、とりあえずスキル決めだな」

俺が今いるのは三層と四層を繋ぐ塔を出たところ。

海路を見渡せる渓谷の上に立つ灯台。

三層から続く塔は、四層を照らす灯台のように思える。

確かに光は放たれている、が実際は海を照らすほど強くはない。

足元が見える、程度の薄明りである。


俺は休憩も兼ねているからと、心に余裕を持つ。

ゆっくりいこう、だが全部見ていくのも面倒だ。

ここは一発運に任せてみてからでもいいのではないか、そう思った俺はスキル一覧の中にある『ランダムで表示』ボタンを押す。

すると、無数にある基本スキルの中からランダムで出てくるスキル。


【風魔法】――いや、俺INTないんでムリです。

【鍛冶】――興味はあるが、【生産】がないといけないんだろ?

【効果音】――なにこれ!? えぇと……『攻撃時に効果音がでる』ってネタかよ!?

【友好】――フレンド登録上限数が増える? 断じていらん!

【我慢】――ダメージを受ける度、VIT補正追加? 一発でもう死んでるからね!?

【生産】――もう遅いわ!


「はぁ、はぁ」

何か疲れた……。

DTDにこんなたくさんの基本スキルがあったとは……。

いっそのことネタスキルだけ集めてもよかったのではと思えるほどに多種多様だな。


しかし…………。

顔をしかめる俺。

何か一つ決めたいものだ。

仕方なく画面をスクロールしていく俺。

「ん? これって…………」


スクロールしていた俺の指が止まる。


【映像効果】:攻撃に映像が付与される。

先程の【効果音】のグラフィック版だろう。

だが、このスキル…………。


攻撃時の映像は使用者が好きに決められる。

その武器の周囲だけに映像を付与可能。

そしてその映像規模の大きさ、繊細さはレベルによって大きくなっていくらしい。


完全にネタスキル。


剣で攻撃したとして、剣の大きさを誇張させる映像を付与したとする。

しかし、いくらその剣の大きさをごまかそうとしても、その剣に映像が付与されるのは振られ始めてから。

剣の形を戦闘中ずっと偽装できるわけでもない。



だが、遠距離から放つ矢であればどうだろうか。

自分の体に密着していない攻撃。


遠距離から放つため、【映像効果】によるグラフィック付与は放ってから相手にヒットするまで続く。

何かと使えるのではないだろうか…………。


ちなみに、魔法攻撃は基本攻撃が不定形。

【映像効果】は形ある武器での攻撃にしかその効果を働かせない。

まぁ、魔法は元からグラフィックが派手だし、あえて【映像効果】を重ねる必要はないからな。



ということで俺は【映像効果】を取得する。

ネタスキル大歓迎。

だが、そうならないように使いたい。


俺がそれを選択したところで、灯台の反対側の方から声が聞こえてくる。

方向的には四層ダンジョンからこの塔へ戻ってきたプレイヤーだろう。


「誰もいないようだ。ミズエット、奴はどうなっている?」

【隠密】を発動したままの俺はその姿を悟られていないようだ。

この灯台にやってきたのは二人のプレイヤー。

声を発したのは、愉快に笑みを浮かべている男。

鬣のような黒髪にモサモサと生える黒髭。

黒いTシャツには金文字で『善悪』とプリントされている。

Tシャツの前面に書かれたその二文字を見せつけるためか、鉄製の防具は肩と下半身にしか付けていない。

プレイヤーネームはゼンアク。


「そのままかよ!」

思わず叫ぶ俺。

やばっ、見つかったか、と焦る。

だがまだ発動し続けていた【無音】によってその声はかき消される。

あ、あぶねぇ。


「結構暴れてる。町の中で前線のプレイヤーと戦ったみたい」

水色のセミロング。

幼児体型の女プレイヤー。

白色のTシャツ。

その前面には緑文字で『I LOVE 水』のプリント。

ゼンアクと同じように、そこの上に防具はない。

白Tを覆うように羽織る緑色のマント。

そして、黒縁メガネに右手に持った一メートルほどの杖。

左手には直径30センチほどはある大ジョッキ。

プレイヤーネームは、ミズエット。


「そうかそうか。町で暴れるのは悪だ! しかしそれと同時に善だ!」

堂々と胸を張るゼンアク。

曰はく、町での規則を無視し他プレイヤーに不快感を与えるのは悪だが、勝手に決められたPK禁止というルールに縛られて窮屈になっているプレイヤーにとっては善だ、と。


「ゼンアクの善だとか悪だとかはどうでもいい。ただ窮屈なのは確か」


「っ!」

思わず声が漏れる。

こいつらっ、あのPK犯のことを話してるのか!?

それに、口調からしてそのPK犯と関わりがあるのか?


灯台の影で二人を観察している俺。

すると、ミズエットが右手の杖を天に掲げる。

「ゼンアク、少し話をとめてもいい?」

「ま、まさか! (わたくし)の善と悪の議論を聞きたくはないのか!?」

それはそうだけど、と呟きつつ、彼女はゼンアクを無視する。

そして…………。

「【水ノ弾(アクアボール)】!!!」


なっ!

俺は戦慄する。

もしかして、俺がいることがばれたのか!?

まだ、ゼンアクには完璧に気付かれていないようだが。

彼はミズエットに無視されたことに対し、それは悪だ、いや善でもある、などと嘆いている。


天に向けた杖から水の弾が現れる。

そしてその水球は重力に従い、落下。

ミズエットの左手に持たれた大ジョッキの中へ、チャポンっと入る。

「ゴクゴクゴクっ。うんっ!」

ニコニコとしだすミズエット。

あぁ、喉が渇いてたのね。

【炎魔法】でたき火をするように、【水魔法】では水分補給をね。


「………………って、飲むんかぁああああああい!!!」

絶叫する俺。

【無音】が無かったら今頃、二人に気付かれているだろう。

なぜか息を切らす俺。


「ごほんっ。ミズエット、では次の作戦を考えよう」

ゼンアクがきりだす。

頷くミズエット。

しかし、そこに突如現れる一つの影。


スッと現れた男。

クルクルと後ろに靡くよう巻かれたソフトクリームのような灰色の髪。

赤色のTシャツ。

その前面には黒文字で『Dr』のプリント。

黒のパンツに、鉄製の膝当てを、腕と肩にも防具をつけている。

そして両手に持った二本の赤く装飾されたスティック。

棍棒の部類にはいるのだろうか、そのスティックは和太鼓をたたくモノに見える。

ただ、先端が丸く膨らんでいるが。

プレイヤーネームは、シュンスズ。

「ゼンアク、ミズエット、ここにお前たち以外の誰かがいるぞっ」

三人の纏う気配が変わる。

冷たい殺気。


「もう一度【反響定位(エコー・ロケーション)】を使うっ」

ここに来るときに一回使ったんだがっ、と叫ぶシュンスズ。

シュンスズがそのスティックを二本合わせ地面にたたきつける。

振動が空を伝わる。

そして、物体に当たった音が彼の元へ跳ね返り、集約されていく。

【隠密】でいくら姿を消そうが、そこに身体がある以上音を反射してしまう。

【無音】はあくまで俺自身が発した音について、それを無音にする。

反響音までは無音にできない。


「いたっ、その塔の影だっ」

シュンスズの言葉にミズエットがすかさず【水ノ弾(アクアボール)】を放つ。


「っ!」

塔の裏側に回り込み、回避する俺。

どうやら【反響定位(エコー・ロケーション)】による反響音の集約は一定時間の間続くらしい。

シュンスズに位置を把握され続ける俺。

一度、三層へ戻ってしまおうにも、塔の扉が開けばばれてしまう。

彼の指示に従って、飛来してくる水弾。

なかなかに正確。

回避を余儀なくさせられる。

シュンスズの的確な指示と、それに素早くしたがうミズエット。

明らかに最前線プレイヤー並の実力。

そして、件のPK犯と関わりがある可能性。


「できるだけ情報は得ておきたかったが」

疲労している俺は今あまり戦いたくない。

であるならば……。


「四層ダンジョンに突入するしかないな」

俺がそう決心した時、ゼンアクが問いかけてきた。

「そこの名も知れぬ誰かよ! 性善説と性悪説、どちらを信じる?」

知るかっ!

ってかなんでいまそんなこと聞いてるんだよ!

「お前はそう言うが、私の答えは違うっ! 私は性善悪説を唱えている!」

ゼンアクが高らかに宣言する。


ってか俺何も答えてないし!

選択肢に性善悪説なんてなかったんだから違うに決まってるし!

そもそも性善悪説ってなんだし!


「はっはっは! 性善悪説とは人は生まれながらにして、善であり悪であるという説だ!」

くだらんわ!

ってかそんなところだけ俺の思考をよむなよ!


ゼンアクを無視し、俺は位置を特定されてるとはいえ、倍化した補正による高い俊敏さで彼らの脇を通り抜ける。


「待てっ」

シュンスズだけが俺の逃走に気付く。

だが、頭のネジの外れているゼンアクとミズエットは深追いしてこない。

「ここで追うのは善であり悪だ!」

曰はく、追うことで自分たちの秘密を守らせることができるが、追うことで彼を不快にさせるのだと。

「のど渇いた」

一方ミズエットは再び【水ノ弾(アクアボール)】を発動。

大ジョッキに注がれる水を一気飲みする。


シュンスズの溜息を四層入り口の灯台が照らす。


『今日のゼンアク』

状況:迷子で泣いている幼女を迷子センターまで連れて行った。

善:その幼女を母親のもとに届けられた。

悪:私の不気味な笑顔(本人は至って真面目)のせいで、幼女が男性恐怖症になった。

そして私はロリコンとなった。(byゼンアクさん)


『今日のゼンアク』はストーリーに関係ないので、読む価値なしと判断された方は無視してくださいね。

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