第一章~低層突破は難しい~Ep3
ゲーム始まったと思いきや…………。
「おぉ、こりゃすごいな」
目を開けた俺がいたのは、町の中。
マップを開くと、ここが『冒険者の町』のようだ。
――冒険者の町
DTD内にある唯一の町だ。
その大きさは百万人のプレイヤーがおさまるほど広い。
ちなみに現在総プレイヤー数は五十万人。
同時に五十万人がログインするわけではないため、町にはかなり余裕がある。
俺は周りを見回す。
建物は基本石材で建築されている。
今いるのは教会のようだ。
全体的に白めの装飾。
ところどころにある金の彫刻が優美さを際立たせている。
周囲には俺と一緒にログインした有馬ゼミの面々がいる。
「おっ、クレハか。やっと来たんだね」
目の前には『sota』と頭の上に名前を表示させているプレイヤー。
金色の髪に青色の眼。
スラっとした体型はその美顔とマッチしている。
「稲城……、いやソウタ。……これはかなり待たせたみたいだな」
周囲を見渡して言う。
今教会内には俺以外に10人のプレイヤーがいる。
だが全員初期装備ではなく、防具や武器を装備していることから、俺が来る前に用意したのだろう。
初期装備の服は選べる幅が広いだけで、戦闘用の効果はゼロだからな…………。
有馬ゼミの面々は皆かなりのゲーマーだ。
ゲームを作る上でやはり実際にプレイしていないと見えてこない部分も多々ある。
そんな彼らは俺が来るのを待つ待機時間を有効に利用して、出来るだけ無駄を省いていたのだろう。
そもそもここに集合なんてしなければよかったんだが…………。
全員のプレイヤー名を確認してフレンドになるんだとか。
今ここには11人の男性プレイヤーがいる。
後は有馬ゼミの二大美女と言われている二人の女学生たちが来るのを待つだけだ。
すると教会床の一点に光の輪が生まれ、その上に一人のプレイヤーが現れる。
続くようにもう一人現れた。
「ごめんなさい、遅れちゃいました」
腰まで伸びるブロンドの髪、クリッとした瞳は赤い。
160センチほどの身長だが胸はとても大きい。
今着ている西洋風の騎士服――白地に黄色のラインが入ったデザイン性の高いコート――が胸の部分で押し上げられている。
そのせいか動くたびにおへそがチラチラとのぞいて見えてしまう。
頭の上には『Airi』の名前。
「アイリ、キミも本名なのかい? クレハといいキミと言いちょっとは気を付けたほうが…………」
「ふふっ、そういうソウタくんも本名じゃないですか」
アイリが口に手を当ててほほ笑む。
「金髪にしたんですね。似合ってますよ?」
アイリが素直にソウタを褒める。
その下から見上げている顔が可愛すぎて…………。
「「「「「「「「「キッ!」」」」」」」」」
うちの男子学生が9人がかりでソウタを――それぞれの武器で攻撃する。
「え? ちょ、ちょっと待ってぇえええ!」
そんな叫びなど聞こえないのか、ソウタは剣、槍、斧などさまざまな武器に同時攻撃され、光の粒子となって消えていった。
ったく…………。
俺も今すぐに攻撃できる武器を用意しておくべきだった!
ボウガンはあっても矢を持っていない。
「こら! アンタたちったら。そんなことしてないで早く行動始めないとでしょ!」
教会で復活したソウタを連れて叱るのは、アイリに続いてやってきたもう一人の美女。
肩上までの黒髪ショートカット。
160センチ後半の身長に長い手足。
胸はアイリほどではないが、モデル顔負けのスタイルだ。
大和撫子といった感じだろうか。
服装は案内役のリタが着ていたものそっくりの制服姿。
黒のブレザーがかっこよさを引き出している。
頭の上には『Sino』の文字。
本名の志衣乃で読めばいいのか、シノなのか…………。
「あ、私はシノって呼んでね」
あ、シノでした。
こういう細かいところまで徹底してるところがシノさんらしい。
女子二人を比べると、アイリは勘が鋭いが少し天然。
どちらかというと常に中心にいる感じだな。
一方、シノは何事もテキパキとこなす優秀なやつだ。
アイリの世話焼き係みたいなところがある。
シノがいないと全体がまとまらないことも多々あるんだよな。
ソウタは男子から恨まれてるから…………。
「ちょっと、いきなりデスペナルティ食らっちゃたんだけど…………」
ソウタが不満顔で言う。
町の中でもダメージ判定があるのだ。
デスペナルティ――HPがゼロになると教会に転移させられるのだが――はHPがゼロになった時のペナルティで、そのレベルでためていたプレイヤーレベルの経験値がゼロに、所持金がゼロに、一時間ダンジョンにいけない、というペナルティが課されてしまう。
まぁ、ソウタが今こうなってるのは自業自得なんだからしょうがない。
とはいってもソウタは頭のキれるやつだし、鈍感じゃないから原因も分かっているだろうが。
しかし、あいつはアイリやシノとよく一緒にいる割に、二人に気がないんだよな……。
「じゃあ気を取り直して。これから僕たちの攻略を始めよう。その前にフレンド登録とパーティ結成をできるならしたい。みんなはどうだい?」
俺以外全員が頷く。
DTDは攻略難易度がとても高い。
それはここにいる他の面々が攻略してきた他のゲームとは比べ物にならないくらい。
モンスターのAI設計は全て対パーティ用に考えられていて、初心者は一層のモンスターでさえソロでは討伐できないと言われているほどだ。
しかもモンスターは同じ種でもその行動パターンは個々体によって差がある。
そのためモンスターの対策が練りづらく、臨機応変に対応できる力が必要になっているのだ。
「俺はパスさせてくれ。フレンド登録だけはするから。パーティも6人が上限だろ?」
皆の視線が俺を捉える。
くそっ、でもここでやらなきゃずっと誰かと一緒にいることになる。
「相変わらずだね。じゃあフレンド登録だけしようか」
ソウタは俺の意思が固いことを知っているからかすんなり受け入れてくれる。
他の面々はそもそも俺に興味がないようだ…………。
「だ、だめですよっ! クレハくん、わ、わたしと一緒に冒険しましょう!」
アイリが俺の手を握ってくる。
「………………は?」
俺の思考がフリーズする。
目の前の少女から香ってくる甘い香り。
この世界でも再現されるんだな…………ってそんなことはどうでもよくて、なんで俺にこんなこと言ってんのこいつ?
「え、い、いや俺は誰かと一緒とか無理だから」
男子学生の視線も怖い。
「で、でもぉ」
アイリが俯いてしまう。
く、くそっ。
可愛い…………。
すると今まで静観していたシノがやってきてアイリの肩に手を乗せる。
「アイリ、これはゲームよ。その人がやりたいようにやらせるのがマナーよ」
「うぅ…………。シノが言うなら……。」
アイリは最後に俺の方を見つめて……、離れていった。
「よし、じゃあパーティも決まったし、冒険の始まりと行こうか!」
ソウタの掛け声で面々が散っていく。
ちなみにパーティは、ソウタ、アイリ、シノ、セイギ、デンセツ、ハタチの【青の円卓】とパヤオ、オルヤン、マツカス、トミショー、ケンジャ、ガクの【無形軍隊】の二つが出来たようだ。
パーティを組むとパーティ戦闘時の経験値が分配され、フレンドリーファイア――仲間への攻撃――もダメージ判定されなくなる。
また、パーティランクというのもあり、それが上がるとクエスト――何かのアクションが原因で頼まれる依頼――を受ける際の信頼度が上がり、契約金――クエストを受ける際に依頼者に前もって払っておくお金――が少なくて済む。
クエストは成功すると報酬と契約金が帰ってくる。
失敗してしまうと、契約金を失ってしまうというシステムだ。
それぞれに散った俺たち。
俺は教会をでて、誰もいない路地裏へ。
行こうとしたのだが、教会の外の通りは混んでいる。
フードを被り、いざ意を決して飛び込む。
ここを通らないことには始まらない。
道には余裕があるが、冒険者はその装備のせいか幅がでかい。
また、ここが唯一の町ということもあって、装備もごついものから初心者装備のものまで様々だ。
少し見渡してみる。
町には人しかいない。
モンスターの侵入は不可となっているし、獣人などはいないからな。
町には露店やNPC――ノンプレイヤーキャラの店が立ち並んでいる。
だが、生産職プレイヤーが見当たらない。
露店で売っているのも、ダンジョンでの戦利品をさばいているといった感じで、自分で作ったものを売っているようではない。
余所見をしていたのがいけなかった。
ゴンッ!
俺の正面から全身鎧を着たプレイヤーが歩いてきていた。
俺は対処することもできずそのプレイヤーにぶつかり、視界が暗転した。