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第一章~低層突破は難しい~Ep25

口を大きく開ける盗賊猫の背後を取る。

後頭部への狙撃。

無音で放たれた矢が奴を穿つがそれと同時に宝石がばら撒かれた。

青の宝石――サファイア。


盗賊猫の周囲にばら撒かれた宝石が地面に吸い込まれるように消えていく。

【罠感知】による反応はない。


「くそっ」

また罠だろうか。

やりづらい相手だ。


俺は簡易地雷(インスタント・ボム)を複数個取り出す。

戦闘が開始されてからその場を大きく離れていない盗賊猫。


瞬時に奴の周りを一周し、簡易地雷(インスタント・ボム)を奴の周囲に設置。

「これで同時に罠も破壊する!」

しかし未だにその口角を釣り上げている盗賊猫は自分の周囲――先程のサファイアを投げた位置よりも手前だろうか――に赤の罠(ルビー)をばらまく。


「くらえ!」

罠だろうがなんだろうがどうにでもなれ、と俺はそのトリガーを引きぬく。

連鎖的に爆発する簡易地雷(インスタント・ボム)


しかし、それと同時爆発音とはまた別の音がする。


『ゴゴゴゴゴゴ!』


簡易地雷(インスタント・ボム)の作動に連動し、敵の罠も作動してしまったようだ。

盗賊猫を覆うように隆起した地表。

衝撃によって爆砕するそれらだが、盗賊猫へ向かう衝撃のほとんどを吸収していった。


「ルビーの罠かっ!」

攻撃にも防御にもなる赤の罠(ルビー)

くそっ、なんともやりづらい!


そしてさらに、奴が仕掛けた罠はそれで壊れ切ったわけではなかった。

『ギィイイイイイイ!』

大きく口を開け、威嚇する盗賊猫。

だが、彼はそれと同時に笑っていた。


『ポムッ!』

コミカルな白い煙が漂っている。

その中から出てくる小さい黒猫。

『ぎぃいいいいい!』

三層ボスの盗賊猫のミニマム版。

その身体には宝石はついていなく、盗賊猫よりも可愛らしい。


だが、それは奴の放った罠だった。

奴がばら撒いたサファイアの数と同じだけの黒猫たち。

その数、八匹。

そして、彼らは俺目がけて突進してくる。


「分身を生み出す罠なのか!?」

これまた厄介な罠だと顔をしかめる。

本体が動かないと思っていたら、分身をだしてくるとは!


「くそっ!」

固まって襲ってくる黒猫を矢で撃ち落としていく。

しかし、小さい的であることと、その数から俺は彼らに追い回される。

「対処で精いっぱいだなっ!」

唇を引き締める。

俺は一つの通路へと入り、追っ手の位置を入り口一つにまとめる。

そしてそこに、大顎(アギト)を設置。

飛び跳ねながら通過した彼らをかみ砕く。

簡易地雷(インスタント・ボム)が使えれば楽なんだがな……」

だが、この狭い通路の中では俺も爆風の影響を受けかねない。


まとめて数匹を捉えた罠。

それを躱した二匹の黒猫を矢で仕留める。

「よしっ」

だが、俺が一息つこうとしたとき、盗賊猫が宝石を六つの通路へ投げつけた。

緑の宝石――エメラルド。

各通路の最奥に飛んでいく宝石。

「くっ!?」

顔面を貫かんとしたエメラルドを躱す。

それが背後の地面に吸収されていく。


「今度はなにがでてくるんだよ!?」

漂う危険な香り。

衝撃が加わることによって隆起する赤の罠(ルビー)

本体がダメージを食らうと黒猫が出てくる青の罠(サファイア)


今のところ、二つの罠の発動条件はこの通りだと思う。

サファイアが衝撃によって発動していたなら、出てきた黒猫たちは爆発に巻き込まれていたはずだ。



とにかく発動させてみるしかないか!

急に発動させられるよりは、どんな罠か把握しておいた方がいい。

今のところ即死系の罠はないみたいだしな。


エメラルドが落ちた背後の地点へ矢を放つ。


『ギィイイイイ!』

ニヤニヤとしだす盗賊猫。

矢が地面に当たる。


「……は? き、きえた!?」

瞠目する。


矢が消えたのだ。

地面に当たると、緑の光がほのかに灯り、矢が消えた。


「どういうことだよ!?」

盗賊猫の方を振り返った俺。


「のわっ!?」

すると目の前から飛んでくる漆黒の矢。

すかさず躱すとそれが通路の奥へ飛んでいき、地中にあるエメラルドの上空、そこで緑の光に包まれ――矢が消えた。


はっ、と気付いて盗賊猫の方を見ると、今俺がいる通路の反対側。

その通路の奥に緑の光が灯り、漆黒の矢が現れた。

そしてその矢が勢いを保ったまま俺のいる通路へと飛んでくる。


「て、転移罠か!?」

エメラルドはその上を通過したモノを他のエメラルドの埋まっている地点へと転移させる罠のようだ。


くそっ、どこまで厄介な罠なんだよ!


俺は通路を抜け、矢を放つ。

矢は盗賊猫に当たり、確実にHPを削っている。

だが、次々とばら撒かれていく奴の宝石。


「一気に投げ過ぎだわ!」

もうどこにどの宝石が落ちているのか分からない。


足を踏み出せば地面が隆起し、すかさずバックステップを取れば、その地点の地面も隆起し、ジャンプ台を踏んだかのように飛ばされた俺。

盗賊猫の前に飛ばされる。

「ぐわっ!?」

爪を薙いでくる盗賊猫。

身体を屈め、回避する。

そしてそこに簡易地雷(インスタント・ボム)を設置。

俺は奴の背後のほうへ転がり、距離を取る。


爆発音と同時に、体を起こす。

だが、作動するのは俺の罠だけではない。


『ゴゴゴゴゴゴゴ!』

転がった時の衝撃で、俺の周囲の地面が隆起する。


閉じ込められる!?

天井の高さも三メートル程しかない。

恐るべきスピードで隆起する地面はあっという間に俺を閉じ込めてしまう。


真っ暗な狭い世界。

足を動かす場所はない。

手が動くのがせめてもの救いだろうか。


『ぎぃいいいいい!』

外ではさっきの爆発で生まれた黒猫たちの声が聞こえる。

だが、盗賊猫に猶予を与えるつもりは毛頭ない!


隆起し、俺を覆う壁がその姿を粒子に変える。

宙を舞う赤色の光。

「俺を罠で拘束できるとでも思ったのか?」

『ギ!?』

その瞳孔を大きくする盗賊猫。

彼の周りには黒猫たちがはびこっている。


「俺も罠を使うからな。【罠解除】できるんだよ」

そう。

地中に埋まっているときは罠としての反応を持たない宝石だが、一度発動してしまえばそれはもう罠である。

即死系でない以上【罠解除】で解除可能だ。

だが触れなければいけない以上、黒猫たちを解除するのは至難の業だ。

矢で穿ったほうが早い。


「お前じゃ、俺を捕まえられないか?」

しかし、状況が好転したわけではない。

目の前には盗賊猫のみではなく、十匹の黒猫たちもいる。


動かない盗賊猫は放置して、黒猫を穿っていく。

しかし、数と小回りの利く俊敏さのある敵を相手にして、俺は罠にかかってしまう。


一つの通路に追いやられ、気付いたら最奥まで来ていた。

「なっ!?」

突然の浮遊感。

飛ばされたのは一つの通路の奥。

入り口から入って、右斜め前方にある通路だ。

着地すると同時に、俺の両側の地面が隆起する。

「逃げ場を塞がれた!?」

後方を部屋の壁に、両脇を赤の罠(ルビー)によって囲まれた俺。

すかさず、解除しようとするが盗賊猫の罠がその時間を与えてくれない。


「うそだろっ!?」

今まで俺が放った矢。

全て当たったわけではない。

躱されることで、エメラルドの上空を通った矢。

それが、一つに集まり、俺のいるこの通路へと飛んでくる。

慌てて前方を低く転がり躱す。

だが、俺のいた場所にたどり着いた矢が再びエメラルドの効果を受け、部屋の中を縦横無尽に駆け回る。


緑の罠(エメラルド)は持続性のある罠だ。

一度作動すれば壊されるまで、その効果を保つ。

盗賊猫は未だそれを各通路の最奥にしか設置していない。

おそらく同時に作動させられるのは6つが限界なのだろう。

現に、俺が緑の罠(エメラルド)が埋まっている地面を簡易地雷(インスタント・ボム)破壊してみると、その地点へ緑の罠(エメラルド)を投げてくる盗賊猫。


「キリがないな!?」

緑の罠(エメラルド)には上限があるようなのだが、他二つについては投げ放題といった様子だ。


その場から大きく離れない盗賊猫は矢を全て防いでいるわけではないため、HPはかなり減ってきている。


だが、俺に余裕がないのも事実だ。


「おぉおおおおおお!」

だからやるしかない。

追い詰められているからこそ逃げる必要がある。

今、俺も追い詰められているが、盗賊猫を追い詰めてもいる。

「そこで逃げないお前は、ここで終わりだ!」

俺は奴の罠を作動させてしまうことを気にしないことにする。


全力疾走。

超加速。

狭い空間の中を、壁を蹴り、跳躍し、天井を駆け、増殖している黒猫たちにも捕まらないように。

ただ逃げる。

だが、それは間違いではない。


それは後回しにしているわけではなく、最高の舞台が整うのを待っているだけ。


「くらえぇえええええええ!」

駆けまわりながら、大量に設置していた俺の罠。

既に大顎(アギト)には黒猫たちが噛み砕かれ、トラばさみには足を噛まれている。


そして俺の新しい罠――簡易地雷(インスタント・ボム)

大量に設置したそれを一気に爆発させる。


ドゴォオオオオオン!

巨大な爆発音。

部屋が、いや塔自体が大きく揺れる。


「やったか……」

煙が消えた部屋の中央。

そこに漂う光の粒子。


ボスモンスターのHPを削り切るほどの爆発だった。

だが、一人だけHPを減らしていない者がいた。


「これで三層攻略だな」


彼は部屋を走りながら、盗賊猫の罠を発動させ、大量に地面を隆起させた。

そして、自分の仕掛けた大顎(アギト)、トラばさみにかかった黒猫たちの身体による肉壁も用意。


爆発の中心は部屋の中央。

彼は一つの通路をその発動させた赤の罠(ルビー)と黒猫たちの肉壁によって塞ぎ、爆発の寸前――盗賊猫が故意的に操作しない限り、ランダムで転移するのであろうと予測していた緑の罠(エメラルド)へその身体を突っ込む。

大量の壁に覆われた通路の最奥へ転移するまで、その罠にかかり続けたのだ。


幾重にも重なった防壁は彼の元へたどり着く衝撃を強風程度にまで抑えていた。



塔を上る。

現在時刻午後六時。

ちょうど夜になったダンジョン。

彼は四層へ続く扉へ手をかざす。


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