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第一章~低層突破は難しい~Ep22

クレハsideが続きます。

三層へと続く塔。

天を貫くその塔の扉がゆっくりと開いていく。

「ふぅ……」

息を吐く。

今俺はかなり衝動的になっている。

だが、ここからはボスモンスターとの戦闘だ。

一度でも攻撃を加えられれば俺の負け。

敵のHPを削りきるまで逃げ切ることが出来たら俺の勝ち。

「ゾクゾクするな」

抑えようとしても高まる鼓動。

やっぱり一人はいい、俺の見ている世界全て俺だけのもののように感じられる。

そして後には引けない臨場感。


「【逃走者(ランナー)】か。それもいいかもしれないな」

誰かが付けた名も案外悪くないと、今は思った。


全身を黒に包んだ揺らめきが部屋の中へと入っていく。



背後の扉が閉ざされ、暗かった部屋に明かりがともる。

半径20メートルほどの広い円形の部屋。

天井は遥か高くにある。


徐々に明るくなる部屋。

しかし、【夜眼】をもっている俺は既にそこに居座るモンスターの全身を捉えていた。


赤い甲殻に包まれた全長4メートルほどの巨体。

胴体部分から生える三対の足の先には鋭い爪が。

そしてなにより、その頭部にある1メートルの鋭利な顎。


『レッド・ギラファ』

二層の塔を守るクワガタ型のボスモンスターだ。


二層の森にいるカブトムシとは違って、ギラギラと光る両目。

その先にある鋭利な顎をガチィン、と噛み合わせ威嚇するギラファ。

同時に奇声を上げた。

その振動波が咆哮(ハウル)となり部屋中を振動させる。


しかし【無音】を持っている俺には効かない。

くぐもったように聞こえるだけの、奴の威嚇は俺の心を怯ませるには足りない。



「なあ、お前は俺を捕まえられるか?」

臨戦態勢。

素早く弓を装填し、その顎の奥にある頭部を狙う。

無音で放たれる矢。


ガチィイン!

ギラファが噛み合わせた顎の振動波によって矢の進路がずれる。

そのせいで奴の甲殻に跳ね返される。


すかさず突進してくるギラファ。

1メートルの鋭利な顎を広げ、俺を噛み砕こうとする。

しかし、矢を放つと同時に、奴の背後へと駆け始めていた俺はその攻撃を躱し、側面からその脚部を狙撃。

突進中で反応のできない奴の足関節に突き刺さる。


「中々に硬いな」

しかし、簡単にはバランスを崩さないギラファ。

突進が躱されたと悟ると、羽を僅かに開き、その場で高速ターンを極める。


「くらえ!」

僅かに開いた羽の隙間を穿つ。

羽は脚部とは違い甲殻に覆われていない。

クリティカルヒットとなった一矢が奴のHPを削る。


こちらを向き直したギラファがその顎を打ち鳴らす。

すると、打ち鳴らすことで発生した振動波が鋭利な刃となってこちらへ飛んでくる。

「遠距離攻撃もできるのか!?」

慌てて回避する。

後ろの壁に当たり、弾ける刃。


奴は俺が焦ったことを悟ったのか、連続で刃を放ち始めた。


「くっ!」

ギラファの周囲を駆けまわり、奴に高速ターンを使わせる。

止まることない刃の強襲を躱しつつ、一瞬開くその羽を穿っていく。

刃を躱し、代わりにクリティカルヒットを与える。


その状況に怒りを見せる敵。

怒りのまま上体を起こし、顎を震わせる。

だが俺の攻撃の手は止まらない。

奴のその状態に笑みを見せる。


上体を起こした奴の真下を高速通過――その頭部を真下から穿ち、倒れてきた奴を置き去りにする。

すかさず振り返り、奴に体を向けながらもう一射。


ギィイイイイイイイイ!

俺の矢を食らい、強制的に上体を下ろされたギラファが、床に頭部を付けた。

と、同時に響く奇声。


「お前じゃ俺を捕まえられないか」

逆に、捕まったのはお前だな。


俺が奴の真下で矢を放つと同時に仕掛けたトラばさみに頭部と顎を挟まれるギラファ。

止まったギラファの右目を穿つ。


顎を抑えているトラばさみはすぐに破壊されるが、破壊されるまでにできた僅かの時間で、さらにもう一射打ち込む。


通常ならその鋭利な顎で守れるはずの頭部へのクリティカルヒット。

しかも連続でそれを受けたやつのHPは半分にまで減っていた。


「ん? 動きが変わったか」

目を細める俺。

敵の動きを見極める。


俺と相対し、羽を大きく広げるギラファ。

すかさず、回り込み羽に矢を打ち込むが、それも気にせず奴は飛びたった。


「まじかよ!?」


この部屋の天井はないに等しいほど高い。

その上へ上へと昇っていくギラファ。

「くそっ!」

上っていく間に壁伝いに走り、出来るだけ高くまで駆け上がり跳躍。

射程距離ギリギリの一射を奴の羽に放つ。


「よしっ!」

矢は奴の羽を貫いた。

しかし、奴の飛翔が止まらない。


「っ!」

高い壁に手をかけ、ゆっくりと降下しながら言葉を詰まらせる俺。


やがて天井までたどり着いたのか、射程圏外にいるギラファが上空でこちらを振り返る。

そして、幾度となくその鋭利な顎を打ち鳴らした。


ガチィイイイイイイイイイイン!

響く鋭利な衝撃音。

巨大な咆哮(ハウル)のうなりとなった衝撃波が部屋中に染みわたる。


大ダメージを負わされたギラファが行う技。

プレイヤーの射程圏外から放たれ、浴びた者を強制停止させる衝撃波。


ゴォオンと震える部屋。

パーティであろうがなかろうが、上空から部屋全体に響き渡る音には苦労するのが常だった。

しかし、何事もなかったかのように見上げてくるプレイヤー。

ギラファのその双眸に、さらに強く怒りが映る。



「だから俺には効かないんだが」

しかし、その最後の反抗も俺には届かない。


相手が強制停止に陥らないことを悟り、高さを生かした攻撃を繰り出してくる。

頂上から一直線に落下してくるギラファ。


弓を次々とその頭部に放っていく。

それを空中で器用に回転しながら、払うギラファ。


だが、全てを打ち払うことはできない。

頭部を穿つ矢の数は増えていく。

俺は避ける間も惜しい、と言うように矢を放ち続けていた。

そして奴が俺の上空7メートルのところまでやってくる。


ギィイ!?

突如体の落下速度が減少するギラファ。

設置されていた大顎(アギト)に広げていた羽を挟まれ、大幅にHPが削れる。

俺が高く跳躍したときに、設置しておいたものだ。

【罠設置】のレベルも上がって、設置時間がかなり短くなっている。



「俺が逃げ切ったってことでいいよな?」

もう奴のHPは虫の息ほどしかない。

いや、本当に虫ではあるが……。


減速によってできた時間で最後の一射を目の前に迫った顎の隙間に打ち込む。

近距離で放たれたその矢に奴は反応することができなかった。

その脳天を深く穿ち、奴のHPが底を尽きる。


俺のすぐ上空で無数の光の粒子が散っていった。



二層ボスの単独攻略達成。


「あぁ。ホントに楽しくなってきた」

もう高揚する気持ちを止めることもやめた。

止めようとしても、おさまらないからな。



「俺はどこまで逃げ切れるか」

高みへの挑戦。

その楽しさを体全身で感じる。

俺は、二層を越え、三層へとその足を踏み出した。



******

NAME:kureha / 残りステータスポイント:0

レベル:31


HP:1

MP:0

SP:0


STR:0

VIT:0

DEX:190

INT:0

AGI:130


スキル

【弓攻撃】Lv:20【索敵】Lv:19【隠密】Lv:20【罠設置】Lv:15【罠解除】Lv:8【罠作成】Lv:5【罠感知】Lv:11【逃走】Lv:23【夜眼】Lv:15

【無音】

******


クレハが逃げたあとの町の話はクレハsideの区切れで書ければと思っています。

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