第一章~低層突破は難しい~ 攻略組side4
一旦攻略組の話をはさみます。
少し長めです。
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「よし、皆準備は終わったかな?」
パーティメンバーに尋ねるソウタ。
【青の円卓】は今回のログインでは初日を各々のフリー時間とし、今日――二日目から本格的なパーティ行動をする予定になっていた。
教会前。
ログインしてきたプレイヤーにログアウトしていくプレイヤー。
大通りが交差するこの場所は町の喧騒に包まれていた。
「あれはおかしくないですか?」
少し縮こまりながらアイリが指さす先。
そこには『防衛義勇兵』の旗を掲げた赤い全身鎧の集団。
彼らは件のPK犯を捕まえんと行動を起こしたプレイヤーたちによって形成されている。
今も教会前、町の中を巡回している。
「あぁ。あれは間違っている! だが……」
鋭い顔をするセイギ。
アイリに心を惹かれている彼はまずアイリに賛成する。
しかし、苦渋の顔をする彼をソウタが継ぐ。
「だけど、彼らを否定することはできない」
ソウタは、PK犯を否定することもできないしね、とも加えた。
DTDではPKが戦術の一つだ。
言ってしまえば、モンスターと同時にパーティメンバー以外のプレイヤーも敵だ。
温厚に関係を築くプレイヤーが多いが、それでもPKを行うプレイヤーは少なくないし、むしろそれが当たり前という風潮もある。
ただ今回は町の中だったことが問題なのだ。
町はプレイヤーたちがゲーム内で夜を過ごす場所である。
その中には無防備、無警戒でいるプレイヤーもいる。
それは『まちおこし』をした時に、プレイヤーによって決められたルールがあるからだ――『まちでのPK行為は禁止する』と――。
モンスターが入ってこられない場所を作る目的のイベントで作られたまち。
その中でPKが起こってしまえば、それはモンスターがいることと同義だ。
そのため古参のプレイヤーたち――発売当時からプレイしていて『まちおこしイベント』に参加した多くのプレイヤーたち――は今回の事件に過剰に反応している。
中には悪ノリしているプレイヤーもいるのだろうが、『防衛義勇兵』のような一種のロールプレイをするのも禁じられていない。
「それが誰かを不快にさせてるかはその後ってことか?」
流石に過激すぎないか、と言うデンセツ。
「………………だよね」
デンセツと同意見だったのかハタチが頷く。
「それがDTDっていうゲームなんだ。他のVRMMOゲームはシステム上の禁止行為があったり、通報されたプレイヤーが強制退場されたりするけど、ここにはそんなシステムがない」
「だから、羽目を外したがった奴が集まるってわけか」
納得するデンセツ。
「逆に言えばなんでもありの自由の世界ってことですか?」
首を傾げるアイリ。
「いや、自由ってそれほど単純なものじゃないとオレは思う」
なんだか熱くなりだしたセイギ。
「ほらほらそこまでにしなさい。セイギが止まらなくなるから…………」
今まで傍観に徹していたシノが場を鎮める。
セイギは根っからの論争好きだ。
何か議論が起こればすぐさま飛び込んでいく。
「そうだね。ありがとうシノ。それじゃあ行こ「あぁああああああ!」うか? ん?」
ソウタたちが周りを眺めると、周囲にいたプレイヤーたちが皆一様に教会の方を指さして、絶句していた。
そして…………。
『帰って来たぁあああああああ!』
騒ぎだすプレイヤー。
ソウタたちは今ログインしてきたのであろうプレイヤーたちに目を向ける。
「おいおい! あれって【箱舟の引鉄】じゃねえかよ!」
現れた六人のプレイヤーを見て叫ぶデンセツ。
デンセツが言うには、彼らは『Wars of Rebellion』という対人ガンアクションゲームのプロゲーマー。
その容姿設定を固定して様々なゲームをプレイすることで広告塔にもなっている。
DTDは無駄に初期装備の服のレパートリーが豊富だからかなり繊細に復元されているようだ。
また【箱舟の引鉄】というのも『Wars of Rebellion』でのチーム名らしい。
「すげぇ! 実際に会えるなんて思ってなかったぜ!」
彼らと邂逅できたことにテンションを上げるデンセツ。
「おいおい、俺たちが向こう――Wars of Rebellion――の世界大会行ってる間に随分と賑やかになったもんだな」
スキンヘッドの大男の一言。
その一言に静まり返る町。
【箱舟の引鉄】のリーダー、『イシバシ』。
プレイヤー間で『イシバシを叩いて渡るな』という言葉が広まるほどに畏敬の念を持たれている世界的プレイヤー。
その圧力はここDTDでも健在のようだった。
静寂の後に沸き立つプレイヤー。
パーティメンバーと懐かしのDTDについて語っているイシバシに赤い全身鎧が近づく。
『ログインしたばかりで申し訳ないのですが、訪ねたいことがあります。あなた方は件のPK犯ではないと証明できますか?』
周囲のプレイヤーたちが息をのむ。
可能性はゼロとは言えないが、マナーもへったくりもない『防衛義勇兵』の態度。
これは狂信的な確信犯だな、と顔をしかめるソウタたち。
「あ? 何言ってんだ? まずそのPK犯ってなんだ? ここはPKありだったと思うが?」
言葉の端にイラつきを感じさせながらも、聞き返すイシバシ。
『私たちはこのまえ町で起こったPK事件について尋ねている』
と、『防衛義勇兵』が【箱舟の引鉄】のメンバーに概要を説明する。
「なるほどネ~。随分と骨のある奴じゃない~♪」
ルールを無視して事件を起こしたPK犯の心意気に調子を上げる…………オネエ。
イシバシと並ぶ大男で、髪は桃色で短い。
『ツラヌイ』は特に男性プレイヤーから恐れられている【箱舟の引鉄】の副リーダーだ。
「はっ、PKしてくるってなら上等じゃねえか。ツラヌイもなんだかんだで返り討ちにするつもりなんだろう?」
男勝りに鼻を鳴らすのはオレンジのショートヘアを掻き分ける『セーゴン』だ。
グラマラスな体型だが、色気を感じさせない気迫。
『セー姉かっこいいす!』
『やっちゃってください!』
と、ツラヌイとは違って男性女性関わらずプレイヤーから声が上がる。
彼女はその威勢の良い性格から、セ―姉と呼ばれていた。
「にしても、彼らのことを知ってるプレイヤーが多いもんだね」
「そうですねぇ。ちょっと驚いちゃいます」
「いやいや、詳しく知らないお前たちがオカシイんだって!」
【青の円卓】の中で一人盛り上がっているデンセツ。
「………………うんうん」
一人ではなくハタチも含めた二人だった……。
「俺たちとしてはこの世界久しぶりなんだ。いきなり厄介ごとが起きるのも面倒だ」
会ったらなんとかしてやろう、と言う彼ら。
広告塔としての責務を背負っている以上、活躍できる場を見捨てる彼らではなかった。
が、それを聞いて走り寄ってくる一人のプレイヤー。
「ダメです! 今追われてるプレイヤーはPK犯じゃないんです!」
アイリが身長差30センチはあるだろうイシバシに対して、懸命に言葉を紡ぐ。
見下ろすイシバシ。
ツラヌイ、セーゴン、そして残り三人のプロゲーマーたちが彼女を一瞥する。
「それは会ってみてからじゃないと分からないんじゃねえか、嬢ちゃん?」
うっ、と言葉の詰まる彼女の肩に手を当て、俺が行く、とイシバシに対峙するセイギ。
アイリと同じ低身長の彼だが、目にかかる赤いストレートの髪を手で払うと、その双眸を鋭くする。
「こいつのパーティのセイギだ。まず言っておこう! そもそもPK犯って言っているがそいつがしたことは頭ごなしに否定されるべきものではない!」
まちでのPK禁止も所詮プレイヤーが決めたルールでしかないし、最近プレイし始めたプレイヤーたち――少なくとも俺はそのルールを聞かされていない、と主張するセイギ。
「はぁ。彼を論争に飛び込ませちゃうなんて…………」
管理できなかった自分を責めるシノ。
暴走してしまう、と嘆いている。
「おぉ? なんだ坊主、言うじゃねえか。そういう男気のあるやつは嫌いじゃないぞ?」
「アンタもあそこのオネエと同類なのか?」
イシバシの言葉を挑発で返すセイギ。
その声にまず反応したのは、イシバシではなく周囲のプレイヤーだった。
『てめぇ、【伝説】さんになんてことを言ってるんだぁあああ!』
『ツラヌイさんはただのオネエじゃない! 【地母神】って呼ばれてるんだぞ!』
おいおい、騒ぐな、と恫喝するイシバシに静まるプレイヤー。
しかし、今のプレイヤーたちの言葉が別の者の心に火をつけてしまった。
「【伝説】って言ったか!? 今、お前は【伝説】と呼ばれたのか!?」
と目をたぎらせるデンセツ。
「あちゃぁ」
と両手で顔を覆い、もう私は知らないからね、とそっぽを向くシノ。
「どうしたツンケン頭?」
セイギよりも濃い赤の髪。
そしてセイギといい勝負である低身長。
しかし、左腰に長剣を下げているセイギとは違い、身長ほどの大剣を背負うデンセツ。
髪はその気迫同様に逆立っていて、セイギと双子のような見た目をしている。
もちろん実際は違うのだが。
ログイン時に、被ったぁああああああ、と嘆いていた彼らの姿はまだソウタたちの記憶に新しい。
「伝説は二人も要らねえ! 勝負だ! オレと勝負しろぉ!」
デンセツが己の大剣をイシバシに向かって構えた。
「はぁ、血が騒ぎやすいんだから…………」
「これはもう止められなさそうだね…………」
「あわわわわわ!?」
嘆息するシノ、ソウタに落ち着きがなくなるアイリ。
「………………がんばれ」
とハタチがボソッと呟く。
「おい待てデンセツ! まだ俺の話は終わっていない!」
睨み合うセイギとデンセツ。
それを笑い転げてみていたイシバシが提案する。
「お前ら威勢がいいな。気に入った! 『決闘』をしようぜ?」
DTDにある決闘システム。
お互いの同意のもとに成り立ち、半径5メートルの円形の空間の中での1対1の戦いを行う。
戦闘は15分まで。
どちらかが降参するか、HPをゼロにするか、または時間切れになれば終了となり、戦闘中は他プレイヤーからの干渉を受けなくなる――半径5メートルの空間に結界が張られるため――。
また決闘においてHPがゼロになった場合、デスペナルティは受けずにその場でHP1の状態で復活する。
だが、モンスターはその結界を通りこし、攻撃をしてくる。
そして、決闘中プレイヤーは対戦相手以外にダメージを与えられない。
そのため、決闘は町の中で行われるのが基本だ。
「おう! オレと戦え!」
「決闘か。俺が勝ったらまず『防衛義勇兵』とかいう狂者たちを抑えてもらおう」
すぐさま反応するデンセツと、決闘システムの最大の面白みである『賭け』の部分に、『防衛義勇兵』の撤退を願うセイギ。
「デンセツは俺が相手する。賭けるのは【伝説】の呼び名でいいよな?」
俺は戦えればそれでいいからな、と対人戦プロゲーマーのイシバシが言う。
そして、リューネン、お前がもう一人の坊主の相手をしてやれ、とメンバーの一人に声をかけるイシバシ。
「わいでっか? しゃーないなぁ」
今まで後ろにいた男。
フレームの薄いメガネに、紫のストレートパーマ。
その長身の細い体の両脇に抱える女性プレイヤー。
キャッキャ、キャッキャと騒ぐ彼女たちをその腕から離し、遠ざける彼。
いわゆるモテ男。
ゲームの世界でモテてどうするんだという話だが。
そのせいで今も周囲の男性プレイヤーが彼をにらみつけている。
【恋敵】と呼ばれる彼は、決闘の条件にアイリとシノとのフレンド登録を要求した。
「っ!」
言葉を詰まらせるセイギ。
しかし、それが見たかっただけとでもいうように、笑みを浮かべるリューネン。
「ほな、始めよか?」
周囲のプレイヤーが四人から離れ、大通りの中心で決闘が始まった。
「やぁあああああああ!」
大剣を振り下ろすデンセツ。
それを受け止めるは黒の巨鎚。
先の尖った巨鎚が大剣を跳ね返す。
「どうした坊主? そんなもんか?」
超重量の巨鎚を軽々と振り回し、体勢の崩れたデンセツに巨鎚を突きこむ。
「ぐほっ!」
衝撃で吹っ飛ばされ、結界に体を衝突させるデンセツ。
「先行は俺がいただく!」
セイギが長剣を横に一閃する。
しかし、リューネンが振るう黒の大鎌がその一閃を巻き込み、上方へと剣先をそらす。
そのまま鎌を回転させ、その刃をセイギにたたきつけるリューネン。
「んぎゃ!?」
デンセツと同じく吹っ飛ばされるセイギ。
「圧倒的ね……」
「あぁ。圧倒的な対人戦闘の経験差。それが如実にでているね」
「ほわわわわ!?」
メンバーの不利を悟るシノ、ソウタ。
慌てふためくアイリ。
「………………やばいね」
そしてタイミングの遅いハタチ。
「くっそぉおおおおお! まだだ、まだだ!」
再度振り下ろされる大剣。
同じように左方へと巨鎚に弾き飛ばされるが、そのまま反時計回りに回転し、右上方からの振り下ろしをつなぐ。
「あ? やりゃあできるじゃねえか。どんどん打ってこい!」
笑みを浮かべるイシバシ。
「うるせぇ!」
次々と大剣を打ち込むデンセツ。
足元にたたきつけられる巨鎚を、大剣を地面に突き立てた跳躍で回避。
そのまま空中で下方から切り上げる。
しかし、操作された巨鎚の持ち手に受け止められてしまう大剣。
そのまま振られた巨鎚の一撃で再度ふっとんでいくデンセツ。
そしてデンセツが吹っ飛んだ先には、同じように倒れているセイギが。
「なんや? そこまでっちゅうことか?」
大鎌を一回転させ肩に担ぐリューネン。
「誰が終わりだと言った! 俺はまだ諦めていない!」
「そうだ! 言っただろ、伝説は二人も要らねえ!」
しかし、そんな二人の頭部にげんこつが落とされる。
「もう負けたのよ! なに叫んでんのよ」
シノの言葉に、瞠目する彼ら。
「ははは! 自分が負けたことにも気付いてなかったのか? 面白い奴らだ!」
「たしかに、なんのアナウンスもされへんしなぁ」
熱くなり過ぎていたセイギとデンセツの威勢が気に入った様子のイシバシとリューネン。
「じゃあ俺が【伝説】ってことだな。それを名乗りたいならいつでも俺に向かって来い」
「ほな、アイリちゃんとシノちゃん? 連絡先教えてな?」
常に熱い戦いを求めているイシバシと、恋多きリューネンが勝者の益を受け取る。
その時だった。
町の北が騒がしくなったのは…………。
次はクレハ視点に戻ります。