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第一章~低層突破は難しい~EP20

色々と指摘をしてくださってありがとうございます。

少しずつ補足していければと思っています。


温かい目で読んでくださるとうれしいです。

朝を迎える。

右に横たわっている彼女が目を覚ました。

ゆっくりと体を起こし、左右に視線を振らす彼女。

目が合う。


一秒の硬直。


「はぁあああ!?」

状況を認識した彼女が飛び上がった。

「話を聞いてくれ…………」



******

昨日の夜。

俺は倒れた彼女をここ一層へとつながる塔の崖の上に運んでいた。

ここならモンスターが現れない。

「こいつを説得できれば俺の立場も確保できそうだしな」

地位も羨望もある彼女が味方になってくれれば、誤解も解きやすくなるだろう。

そう思っての行動だった。


だが…………、と俺は胸の奥にあるもう一つの感情に気付いていた。


今まで俺が会ってきた奴ら。

――自分を守るために平気な顔で嘘をつく奴。

――くだらない世間体なんて気にして、心にもないことを言う奴。

――それが事実でなくとも、自分を正当化するために誰かを責める奴。

本当に勘弁してくれ、と俺は思っていた。


でも彼女は違った。

むかついてないわけではない。

こんなにしつこく追いかけまわされたのだから。

彼女は口も悪いし、しつこいし、感情の移り変わりも激しい。


しかし、人の裏ばかり見てきた俺は、結局彼女から逃げ切れなかった。

悪いところばかりだが、裏のない(・・・・)彼女を遠ざけられなかった。

俺を突き刺してくる言葉は彼女の本心からでていた言葉だと理解してしまっていた。

そして、こうしてここにいる。


「あいつらも、そうだったかな」

俺は有馬ゼミの面々を思い浮かべる。


本当に意味の分からない奴らだ。

幼稚だし、すぐ調子に乗るし、喜怒哀楽が激しいし、頭のねじが外れてるし。

ゼミに入った当時、俺は彼らから思いっきり絡まれていた。

喋りかけられる度、無視しようと思ったが、彼らからもまた裏が感じられなかった。

素であんなバカをやっているのだからむしろ感心する。


だからあんなに仲の良い集団(パーティ)になっているのだろうが…………。

ゲームの中でも現実と変わらない調子で、盛り上がっているのであろう彼らに微笑と共に嘆息する。

まぁDTDは対人戦闘が許されているから、他パーティへの干渉もあまりないだろう。

変なことをしたら戦闘に発展しかねないしな。

他プレイヤーに干渉せず、身内で盛り上がっているだけなら許容範囲だと俺は思う。


そういえば有馬教授もところどころ抜けてる人だよな。

有馬ゼミ関連で思い出す。


今回の課題も、『クリアしてこい』と俺たちを送り出したわけだが、VRMMOゲームであるこのDTDの本社が『私たちはこれから一切ゲーム内のシステム・出来事に干渉しない』と発表したことを知らなかったらしい――『まちおこしイベント』が終わった時点で干渉をやめている――。


ソウタの指摘によってその事実が明らかになったわけだが、もしプレイ途中に最終階層が50層から変えられたとしたら、クリアできてなかっただろう。

教授は『し、知っていたさ』と言っていたが、勢い余って『クリアしてこい』と言ったのがバレバレだ。



そんなことを考えていると、夜も更け、彼女が目覚める。



「なんでアンタがここにいんのよ!?」

片足を伸ばし、腰を下ろしている俺を、上から指さしてくる。

「話を聞いてくれ。俺はお前の追っているPK犯じゃない」

彼女の目を見つめ、こちらの意思を伝える。


「それ証明できんの?」

やはりまだどこかで疑っていた彼女は、表情をキつくしながら声を出す。

「うぅん……。これじゃダメか?」

俺はアイテムボックスを開き、自分の所持アイテム全て――装備しているもの以外――を相手に譲渡するよう画面を操作し、その画面を彼女に見せる。

メニュー画面は、設定で他プレイヤーにも可視化させることができるのだ。

「はっ?」

なにしてんの、と驚きを見せる彼女。

それもそのはず、一度プレイヤー間を渡ったアイテムは譲渡することが出来なくなるのだ――解除系のスキルは例外で所有権を奪えるが――。


「これで俺が剣を持っていなかったら信じてくれるか? それとソウタたち…………えぇと【青の円卓(ブルー・ラウンジ)】と【無形軍隊(アモルファス)】の奴らに聞いてくれてもかまわない。あいつらはPK犯が俺ではないことを知ってる」

俺の名前はもう知ってるから聞けるよな、と確認する。


沈黙が流れる。

ようやく結論を出せたのか、彼女が返答を返してきた。

「分かったわ。入りきらなかったら、先に入ってたアイテム消去してくから」

アイテムは消去できる。

売ればカネになるので基本はしないが…………。

ちなみにプレイヤー間のカネの譲渡は基本不可。

店を構えたプレイヤーのみが自分で作成した商品と引き換えに代金を受け取ることができる。


アイテムの確認が終わり、俺のアイテムボックスから剣は出てこなかった。

「まだ十層までたどり着いたプレイヤーはいないからギルドもできてないし……」

武器を預ける場所もないわよね、と確認する彼女。

最前線プレイヤーと打ち合える武器をそう簡単に手放す奴もいないだろうしな。

「そのソウタってやつにも確認してみるわね」

「お前フレンド登録してるのか?」

「えぇ。ちょっと一緒に探索したことがあるのよ」

画面を操作しながら答える彼女。

俺には不可視になっているから彼女の指の動きしか見えない。


彼女が指の動きを止める。

「アンタの言ってることはホントみたいね……」

だとしたらどうするのよ、と吐き出す彼女。

そして、顔をはたく。


「分かったわ! アンタを信じてあげる! だから、その…………悪かった、わね」

彼女が顔をぷいっと背けながら言った。

俺を散々追い回したことを謝る彼女。

だが、もう言及するつもりはない。

味方ができただけで俺にとっては収穫だ。


「でも! アタシの攻撃なんであんなによけられんのよ!」

急に怒り出す彼女。

いや、あれ結構ギリギリだったぞ?

剣だけじゃなくて炎まで躱さなければいけなかったのだから。

発されていた熱がダメージ判定になっていたら死んでいたが、どうやら熱はカウントされないらしい。


「俺はプレイヤーを避けること、プレイヤーから逃げることだけを考えてプレイしてるからな」

だから、【逃走者(ランナー)】なんて呼ばれるのよ、と呟く彼女。

おいおいおい、なんだその二つ名は!?

尋ねる俺に彼女は答える。

「さっきソウタが言ってたわ。町でその名が飛び交ってるって。アタシとの逃走劇を見られてたみたいね」


ノォオオオオオオン!

頭を抱える俺。

そんな恥ずかしい二つ名で呼ばれたくないものだが…………。

ますます他プレイヤーに干渉しなくなりそうだ。


「まぁ、俺のことは置いておいて……。俺はお前のあの炎の方が不思議でならないんだが?」

MP変換までできるとか強すぎないか、と問う。

「はぁ。ホントは教えたくないけど。これでチャラよ…………?」

あぁ、と答える俺に彼女が説明する。


彼女が【炎魔法】を自由に変形させられるのは【魔法操作】というエクストラスキルの恩恵らしい。

出す炎の量だけMPを消費し、あとは好きなように発動形態を変えられるようだ。

しかし、あの【炎環(えんかん)】とやらはまた別のスキルらしい。


【魔力遡行】

戦闘中のみ発動でき、自分が直前に発した魔法によって与えたダメージの合計だけ相対している敵のHPを回復させ、ダメージ合計の一割のMPを回復する。


彼女が手にしているもう一つのエクストラスキルだ。


単独のモンスター相手では時間稼ぎにしかならないようなスキルだが【魔法操作】との相性はよさそうだ。

俺みたいにこんな大量のMPKを行おうとするやつには脅威だな。

モンスターの数が多ければ多いほど、危険が増すわけだが、広範囲の超火力砲撃を放てる彼女はその攻撃から生き延びた(おれ)のHPを回復し、その他のモンスターに与えた分のダメージをMPに還元できる。


とはいってもDTDは基本モンスター1に対してパーティ1なのだが………………。

ちなみに夜のモンスターが群れで俺を襲ってくるのは俺の高いDEX値が原因のようだ。

モンスターの索敵能力はDEX値に関係しているらしい。



彼女は、その他いろいろ、MP消費を抑えるスキルをとっているのだとか。

実を言うと、二層に着いたときには、既にMP残量に焦りを感じていたらしい。


そして最後の【炎閃(えんせん)】は【魔法操作】のもう一つの効果――INT以外の全ステータスを半減させ、魔法の威力を倍にする――によって少ないMPで発動したとのこと。

その反動で、その後俺を追いかけようとした彼女は俺に追いつけず、そのまま気を失った。

そして今に至る。


パーティで行動するのが基本のDTDでは上手く使いこなせなさそうだが、なかなかに反則級。

それを耐え抜いた俺を褒めてやりたい。

運営がバランス調整をしないのは、プレイヤー間でもめ事を起こし、攻略を遅らせるためか、それとも強大な敵が待ち構えているのか。



しかし、事態は急転する。

悠長に話している場合ではなかったのだ。

「っ! このタイミングで!?」

叫ぶフェルナ。

「どうかしたのか?」


「アイツらが帰ってきた…………」

彼女の目はどこか怯えているように見えた。


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