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第一章~低層突破は難しい~Ep17

やっと出会いました。

成り行きで有馬ゼミVRダイブ室へと戻ってきてしまった俺。

DTDは大丈夫だろうか。

兵の狂宴(フィアフィスト)】は都市の管理も精力的に行っているというし、古参のプレイヤーたちがうまくまとめてくれるだろうというのが、有馬ゼミの至った結論だ。

俺たちは俺たちでクリアだけ考えてればいい、と。

自分勝手ではあると思うが、俺もそんな面倒事に巻き込まれるつもりはない。

ただ一人、いつもなら元気に解散の合図を出しているはずの稲城が無言のまま、ダイブ室にあるデスクに突っ伏している。

「颯太くん、大丈夫ですか?」

声をかけるアイリ。

「ごめん、ちょっと放っておいてくれないかい?」

しかし、片手ではねのけられてしまう。

「そ、そうですか。じゃあ先に帰ってますね」

稲城だけが部屋に残り、他の面々は各々の向かう先へと出ていった。



「前回はすまない。僕としたことが冷静さをかいていたね。じゃあ今回も頑張るとしようか」

七月十三日午前七時。

いつものようにDTDへときた俺たちだったが、ソウタはどうやら元通りになったようだ。

いや、ちがう、と俺だけが気付く。

ソウタはきっとあの黒マントに勝つことだけを考えている。

今のソウタの目が語っていた。

無茶して怪我だけはするなよ、と心の中でつぶやいてから、俺はガウスの工房へと向かう。


俺はこのまえの事件を楽観視しすぎていた。

俺には関係ないことだ、と。



「くそっ、どうしてこうなった!?」

町の中を駆けまわる俺。


――教会から大通りへと足を踏み出し、二歩三歩…………。

周囲のプレイヤーが声を上げる。

『PK野郎がきたぞぉおおおおおおおおお!』

「ん?」

俺はあの黒マントが近くにいるのかと頭を回転させる。

「え?」

しかし周囲のプレイヤーの視線が集まっていたのは、俺も思い描いていたプレイヤーではなかった。

「お、俺かよ!?」

よく考えてみれば…………。

と、自分の格好を見つめる。

全身真っ黒の服装に黒のフード付きマント。

これはそうなるか、と一息つく間があるはずがなく。

「俺じゃなぁあああああああああい!」

どうせならとフードを深くかぶり、町を疾走するのだった。



「PK犯が現れた!? それはどこっ!」

フェルナの元に一報が届く。

それを聞くや否や飛び出すフェルナ。

彼女は許せなかった。

「アタシたちが作った町で、そんなことさせないわよっ!」



とりあえずダンジョンを目指し、北へと走る俺。

しかし他プレイヤーにぶつかればHPがゼロになってしまう可能性のある俺は全力疾走できないでいた。

「見つけたっ! 待ちなさい!」

すると後ろから飛んでくる高い声。

走りながら振り向くと、一人のプレイヤーが俺を追いかけてきていた。

「やばい!」

こうなったら、と近くにある建物の屋根に跳躍し、人ごみを躱す。

そのまま屋根伝いに北の出口までたどり着き、ダンジョンへと体を投げ出す。

モーセのように人ごみを分断し駆けてくるプレイヤー。

余裕のない俺は【索敵】によってそのプレイヤーを捕捉。

後ろは振り返らずに走る。


ダンジョンに入った途端【隠密】を発動させたのだが、どういうわけかこちらの方へと追いかけてくる。

「っ!」

慌てて通り道にトラばさみをばらまく俺。

索敵マップ上でトラばさみの仕掛けてある場所を通る追走者。

かかったっと思ったのは杞憂に過ぎなかった。

「うそだろ!?」

そのプレイヤーは何もなかったかのようにこちらへと直走してきていた。

確実に罠の上を通ったよな!?

戦慄する俺は思わず振り返りそのプレイヤーを視認する。

「あっ……」

風に靡く綺麗な金髪。

軽装の防具に包まれた華奢な体。

そしてどこまでも真っ直ぐな瞳に、とまりなさいよっ、と叫ぶ口。

美少女だった。

逃げているはずなのに見とれてしまう。

俺でも知っている。

戦乙女(いくさおとめ)】、フェルナ。

DTD最高峰の魔法剣士。


「っ!」

ある光景が俺を現実へと引き戻す。

彼女の足。

そのスラっと伸びる足の下からでる爆炎。

それはフェルナが使う技の一つ――【炎舞(えんぶ)】だった。

【炎魔法】を足の底から射出させ、機動力を大幅にあげるフェルナが編み出した技。


だから俺でも振り切れないのかっ!

しかもその爆炎は彼女の足を止めようとするトラばさみを破壊していく。


昼だからか【隠密】も俺の姿を隠しきれていないのか!?

蜃気楼のように揺れる俺の身体。

未だ五十メートル程離れている俺を彼女は捕捉し続けている。

森の中へと入る。

ここなら視認できないはずっ………………って化け物かよ!

森の木々を縫うように疾走する俺を未だなお追走し続ける彼女。



フェルナは感じていた。

――風が教えてくれる。

PK犯が疾走する際に巻き起こる風。

その気流は彼女の元へ届いていた。

僅かな気流の変化。

そこから目的の位置を探る。

彼女の勘の鋭さも相まっているが、それは紛れもなく最前線プレイヤーの高い技術だった。



「どうせいく予定だったし、しょうがない!」

森を突っ切りそのままオークの待つ塔の扉に手をかざす。

焦る俺を前に、扉はゆっくりと開き、俺は空いた隙間に体を入れ込む。

俺が入ったことを確認し、閉じられる扉。


しかし…………。

「あっ……」

オークの背後へと回り、扉の方に相対した俺の眼が捉えたのは、閉まる直前に体を入れ込んだフェルナの姿だった。


DTDでは他パーティのプレイヤーとも合同で塔の中へと入ることができる。

一度扉が閉ざされてしまえば、その戦いは終わるまで入ることはできなくなるが、同時に入ってしまうことは可能なのだ。

フレンドリーファイアには気を付けなければいけないが。

そう、つまり一緒にオークのいるこの部屋に入ったからといって、お互いに攻撃できないということはなかった。

初の乱戦。


一層の塔内部で()(フェルナ)(オーク)の三つ巴の戦いが始まろうとしていた。



「アンタ、もう逃げられないわよ!」

叫ぶフェルナ。

その顔は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべている。

「だから俺じゃ『グォオオオオオオオオオ!』な……ってうるさぁあああああい!」

咆哮(ハウル)に説得を邪魔された俺はボウガンを構え、こちらを向いて咆哮(ハウル)を発したオークの喉の奥を狙撃する。

『グィォオ!?』

奇声を上げるオーク。

邪魔をするからいけないんだ!


一方、オークが黒マントの方を向いたことで、咆哮(ハウル)が効かなかったフェルナは二つの疑問を感じていた。

「どうして咆哮(ハウル)が効いてないのよ!」

戦慄する。

本来咆哮(ハウル)壁役(タンク)が盾でしのぎ、他にも自衛方法を持っているプレイヤーがそれで耐え、そのプレイヤーたちが咆哮(ハウル)によって強制停止させられたプレイヤーが動けるようになるまで、モンスターを抑えるという類ものだ。

オークの咆哮(ハウル)は九層のゴーレムと比べたら格段に威力が弱いとはいえ、棒立ちのプレイヤーが無傷でいるなんてありえない。


そしてもう一つ、なぜ黒マントはボウガンを使っているのか。

このDTDで二刀流を実行するには【長剣攻撃】と【二刀流】の二つは最低限必要となってくる。

それに加え、あの高いSTR値とAGI値。

オークを挟んで向かい側にいる黒マントもそのAGI値は【炎舞(えんぶ)】を全開してもギリギリだったが、二刀流の剣士がボウガンを使うなんておかしい。

しかも、と。

「なんでこんな高威力なのよ」


フェルナが戦慄している間に、オークに猛攻を始めた俺。

説得しようにもこいつがいたのでは上手くいくものも失敗する。

見飽きた槍撃を躱し、的確に急所を穿つ。


「ったくしょうがないわね!」

どうやら、オークがいるままでは何も始まらないと考えたのは俺だけではなかった。

「【炎刃(えんじん)】!!!」

フェルナの剣が炎に包まれる。

「はぁああああああ!」

オークに刻まれる、無数の斬痕。

身体中から火花を散らすオークのHPがものすごい勢いで減っていく。


「呆気に取られてる場合じゃないか」

俺も矢を放ちフェルナを援護する。

炎舞(えんぶ)】を発動したままのフェルナは目にも止まらない速さで駆け抜け、槍を剣で薙ぎ、突撃。

オークの体に剣を叩き込むのと同時に、その身体を蹴って宙返りしながら距離を取り、オークが振るう腕を躱す。

炎舞(えんぶ)】によって足から放たれる爆炎を受けよろめくオーク。

そして縦横無尽に動くフェルナの隙間を縫うように放たれる無数の矢。

全てクリティカルヒットとなる恐ろしい命中率。

超高速で放たれる剣閃に一瞬の反撃をも許さない超的確な矢。

圧倒的な二人の猛攻にオークはその身体を光の粒子と変えた。


黒マントと美少女の二人が閑散とした空間で向かい合う。

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