第一章~低層突破は難しい~ 攻略組side2
今回も攻略組の話のつづきです。
見張りの交代も一巡し、夜が更ける。
「もうそろそろ行くぞ」
とジルの掛け声がかかる。
テントからでて準備を終えたところでやってくる人影。
「あっ…………」
うげっと顔をしかめるフェルナ。
やってきたのは件の二パーティだ。
「これはこれは【兵の狂宴】のみなさん。こんにちは」
爽やかにあいさつをしてくるのは金髪の青年。
「おぅ、若いのに頑張るな」
ジルは笑みを浮かべてソウタと握手する。
フェルナにも差し出される手。
「ふんっ」
しかし握手を受け取らない。
肩をすくめ言ってしまう青年に、後ろからベーっと舌を出す。
「お前なにやってんだ?」
ギールに言われるが無視。
「ちっ、無視かよ」
同じくここで一休みするらしい【青の円卓】と【無形軍隊】の面々。
フェルナたちは彼らをおいて、八層へと向かう。
八層は洞窟の中のダンジョンだ。
茶色の岩肌に囲まれた暗い空間。
通路の大きさはその場所ごとに違うが、小さいところでは直径二メートル程しかない。
「はぁああああ!」
フェルナの剣が『ケイブ・デビル』の体を切り裂く。
八層に出てくる、赤の表皮を持ち、壁を這うように移動する四足のモンスターだ。
「邪魔だぁあああ!」
ギールの回し蹴りによって吹っ飛ぶケイブ・デビル。
既に踏破している階層。
【兵の狂宴】は八層のモンスターに手こずることなく、先へと進んでいく。
「次の通路を曲がったところに二体いるっす。今度はオレとレイモンドでいくっす」
コルクスが敵を捕捉し指示を出す。
「やっとミーの出番だね! レッツゴー!」
コルクスが短剣を右手に持ち、通路を右折。
その後を、スキップをしながらレイモンドが追う。
彼の手には何も握られていない。
コルクスが短剣でケイブ・デビルの爪を弾く。
弾く短剣をその勢いのまま回転させ敵の頭部を切り裂く。
「ギォオオオオオオ!」
呻くケイブ・デビル。
コルクスは笑みを浮かべ、その赤い皮膚に傷を増やしていく。
爪は弾かれ、決死の突進も躱され、まるで自分の動きを全て読まれている錯覚。
コルクスと相対したケイブ・デビルは、目の前にいる、目をつぶって短剣を奮う鎖頭巾に戦慄していた。
壁伝いに天井まで這い上がり、逃げるように通路の奥へ行くケイブ・デビル。
だが、その動きが投降された短剣によって停止させられる。
「手間かけさせないでくださいっすよ?」
二メートルしかない天井に固定された短剣を引き抜き、真上にいる赤の頭部を貫くコルクス。
モンスターの悲鳴が轟く。
一方のレイモンドはケイブ・デビルと相対して、虚空から二つの瓶を取り出す。
「【兵器液薬】、レッツゴー!」
レイモンドが二つの瓶を投げる。
その瓶がケイブ・デビルに直撃。
巻き起こる風。
身体を背け、風をやりすごしたフェルナたちの視界が捉えるのは、剣と槍で体を貫かれたケイブ・デビルの姿。
レイモンドが得たエクストラスキル【兵器液薬】。
MPを消費して液化した兵器を顕現させるスキル。
瓶が割れると同時にその液体が本来の兵器としての形に変形するのだ。
これが、彼が【奇術師】と言われる所以なのである。
「むぅうううううう!」
仲間の活躍に頬を膨らませるミィシャ。
「大斧なんてこの狭い空間じゃ振り回せないんだからしょうがないでしょ」
フェルナがミィシャの肩に手を置く。
「私も戦いたーい!」
嘆くミィシャだが、ジルの、俺もここじゃ戦えないんだぞ、という言葉に、うぅっと引き下がる。
順調に八層を進んでいく彼ら。
しかしコルクスの一言で6人に緊張が走る。
「モンスター発見っす。ダンジョンナイト・ナイトが一体いるっす…………」
「えっ? ジィ、アイツって二層に現れたからって二層攻略中のプレイヤーたちから討伐依頼でてたわよね?」
「あぁ。そうだな。奴は一度に一体しか現れないはずなんだが」
フェルナとジルが顔をしかめる。
『ダンジョンナイト・ナイト』はこのDTD内で一度に一体しかポップしないのだ。
そのポップ場所は低層全域――つまり一層から九層のどこかで、夜に姿を現す。
そして誰かに倒されるまではその階層に出現し続ける、というのが彼らの見解だった。
そのスキルトレースという能力から、彼らはその討伐依頼を受けることも少なくなかった。
【兵の狂宴】はこういったプレイヤーたちの依頼を献身的に受けている。
そのため彼らのパーティレベルは現在24Lv。
圧倒的な信頼をNPC、そしてプレイヤーたちから受けていた。
依頼を献身的に受けるのは、彼らがそれを強者としての矜持だと考えているからだが、同時に、未到達階層の踏破速度を落としている原因でもあった。
だがフェルナはやめようとは思わない。
プレイヤーがプレイヤーのために動く。
強者が弱者を見捨てるのではなく、支えるという考え方が好きだからだ。
「そんなん簡単な話じゃねえか。誰かが倒した、それだけだろ?」
ギールが、そんなことより倒すことだけ考えろ、とフェルナに怒鳴る。
「なにそれ! 別にアンタに言われなくたってちゃんと戦うわよ!」
「はいはいそこまでー。私は大斧だから戦えないんだよねー。みんなで頑張ってよー?」
機嫌の悪いミィシャが、わたしはしーらないっと口笛を吹く。
「では俺もミィシャと観戦していよう。こんな狭い空間で盾を構えたら通路を塞いじまうからな」
ジルも観戦に徹するようだ。
「ちょっとミィシャ! ってジィまで! ったくもう…………」
みんなの視線がコルクスに集まる。
どうするの、と問いかけてくる視線を受け止めコルクスが戦術を考える。
「敵のステータス補正は半径十メートルに近づいたプレイヤーの中で、それぞれ最高の値ものを参照するっす。だから戦わないジィとミィシャはここで待ってるっすよ?」
二人が頷く。
彼らはパーティ最高峰のVIT値とSTR値を持つ二人なのだ。
「ナイトは、武器は黒剣しか使わないっすけど、ギールの【殴打】スキルで打撃攻撃も混ぜてくるようになるっす」
だから前衛は集中するようにと。
そして魔法は使わせる暇を与えるなと。
「まぁ勝てる相手っすから」
最後にそう言うと、コルクスはナイトのいる地点へと三人を引き連れていく。
「いたわね」
ナイトがいたのは半径4メートルほどの円形の空間。
フェルナの【炎輪】が松明のように小さくまとめられ、彼らの視線を照らす。
向こうもこちらに気付いたようだ。
「いくっす!」
「レッツゴー!」
コルクスが一気に間合いを詰め、ナイトと切り結ぶ。
リーチ差のある中、ナイトの重い一撃を、剣閃をずらすことでいなし、空いた胴体へ短剣を突きこむ。
しかし【殴打】を得たナイトの左手の裏拳によって相殺されてしまう。
コルクスの短剣を払ったナイトが今度はその黒剣をコルクス目がけて突き刺す。
「させるかよ!」
そのタイミングで真横からナイトの頭部を蹴りつけるギール。
鉄と甲冑がぶつかる鈍い衝撃音。
そしてナイトが壁面まで飛ばされる。
岩肌に体をぶつけたナイト、しかし休む間もなく追撃が襲う。
「【炎波】!!!」
「【兵器液薬】、レッツゴー!」
フェルナが【炎刃】で炎を纏った剣を大きく縦に振る。
放たれる炎の衝撃波。
【炎波】、フェルナが編み出した遠距離砲撃だ。
それと同時に投げられる五本の瓶。
爆散した煙の中からでてきたナイトは無数の剣に刺されていた。
「さすがにしぶといっすね」
「なら倒れるまで蹴り続けるだけだろうが!」
魔法を使わないため、臨時で前衛を担うコルクスとギールが甲冑をボロボロにさせナイトに迫る。
しかし、爆散した煙が晴れるのを待ったのがいけなかった。
「いけないっす! ギール気を付けるっす!」
ナイトが迫ってきていたコルクス、ギールとの間に無数の瓶を顕現させ、炎球を放つ。
大爆発。
飛び散った液体が兵器となり、コルクスとギールを襲う。
「くっ!」
「ちっ!」
襲い掛かる無数の兵器。
防御を余儀なくされたギールが体を丸め、その爆発を耐えしのぐ。
お互いに身に着けている鎧――ギールは腕と足だけだが――をボロボロにするギールとナイト。
しかしそこにコルクスの姿はなかった。
「ナイトならこうするって読んでたっすよ?」
突如ナイトの背後に姿を現した無傷のコルクスが短剣を突き刺す。
心臓部を深く抉られたナイトの身体が光の粒子となる。
コルクスのエクストラスキル【転移】。
一層のゴーストが持つ能力と同様で、短い距離を転移することが可能になる。
ただし、転移をすると一定時間AGIが半分になるという制限付きなのだが。
転移にはMPも必要なため、多発できるスキルではないが。
しかしその強力なスキルと彼の陰湿な性格からついた二つ名が【卑怯者】だ。
フェルナは彼にこの二つ名はちょうどいいと思っている。
まず喋り方が気に入らないのだ。
しかし実力があるのだから、何も言えない。
ナイトを倒したフェルナたちはジルとミィシャの元へ戻る。
しかしそこにいたのは二人だけではなかった。