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第一章~低層突破は難しい~ 攻略組side1

今まで書けていなかった攻略組の話を少し。

******

七月十二日午前六時半。

クレハたちがログインする一時間前、DTDの教会に六人のプレイヤーが姿を現す。

ログインした六人の顔を見て、周囲にいた人々が目を見開く。

飛び交う囁き、羨望の眼差し。

兵の狂宴(フィアフィスト)】の【戦乙女(いくさおとめ)】と呼ばれているフェルナは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

周囲の人々の大半が彼女に見とれている中、当の本人はそんなことは気にしていないようだった。

「ったく! アイツらったらなんなのよ!」

彼女が愚痴をこぼす。

そのきれいな金髪がぶんっと揺らされる。

「【青の円卓(ブルー・ラウンジ)】と【無形軍隊(アモルファス)】のことか?」

彼女の愚痴を、たくましい筋肉を持った男が聞く。

短い髪に太いからだ。

太っているわけではなく、強靭な筋肉で構成されている男。

その風貌は例えるならば元気なおじいさんといったところか。

兵の狂宴(フィアフィスト)】の【団長】であるジルだ。

彼が背負う巨大な盾。

その重厚感から彼は【団長】とプレイヤーたちから呼ばれるようになった。

実際にパーティーリーダーなのだが。

「そうよ! アタシたちが『まちおこしイベント』で最初の一か月間つぶされたのを、傍からみてただけのアイツらがアタシたちと同じ階層まで到達してるなんて!」

ずるい、と彼女はこぼす。

「ま、確かに攻略に割いてる時間はこっちもあっちもそんな変わらないっすよね」

フェルナに同調するのは、鎖でできた頭巾を被る青年。

卑怯者(コワード)】と呼ばれている青年、コルクス。

DTD内最高峰の器用者だ。

「それよりもオレが気になるのは噂の罠野郎っすね」

「ん? この前アタシたちが行った祠のやつ?」

「そうっす」

「あいつか」

フェルナとジルがある人物を頭に浮かべる。


『ダンジョンに罠をしかけまくってる野郎がいる』 

それはとあるプレイヤーが掲示板で嘆いた一言から始まった。

そしてその犯人はおそらく、祠でプレイヤーを狩っていたあの弓使いと同人物であろう、というのがプレイヤーたちの共通認識だ。

「アンタ、同族嫌悪でもしてんの?」

フェルナがコルクスに尋ねる。

「まさか。オレはゾクゾクしてるんすよ」

はやく会いたいなー、と肩を震わせているコルクスに呆れるフェルナ。

「てめえら話なげえよ! 先越されんのが嫌ならとっとと行くぞ!」

「ほいほいさー」

「ラジャー、レッツゴー!」

今までの会話を傍聴していた長身の青年の一言に、フェルナたちとは別に話していた二人が同調する。

「ギール、アンタその上からな発言やめなさいよ!」

「ぁあ? 俺が何か間違ったこと言ったか? 大体他のプレイヤーの登場でいちいちビビってんじゃねえよ、あほらしい」

「っ! ムッカつくやつね!」

睨み合うフェルナとギール。

【番犬】とプレイヤーたちから恐れられているギールにもフェルナは引かない。

「まあまあふたりとも、その辺にしてはやくダンジョンいこーよ!」

その二人を止めるは黄色い髪の元気な少女。

その小さい体には不釣り合いな巨大な斧を肩に担いでいる。

鬼姫(バーサーカー)】とこちらもプレイヤーから恐れらている兵だ。

「そうそうミィシャの言う通り! レッツゴーだよ!」

調子のよい口調でパーティを盛り上げるのは【奇術師(トリックスター)】のレイモンド。

「まぁ、ミイシャが言うなら…………」

フェルナもパーティでもう一人の女プレイヤーの一言は無視できない。

「よし行くか」

ジルの一言で【兵の狂宴(フィアフィスト)】がダンジョンへと舞い降りる。


「軽いわっ!」

ジルがオークの一撃を盾で受け止める。

「ジィ、ナイス!」

ジルはその見た目からか団員から(ジィ)と呼ばれている。

ミイシャがジルによって攻撃をいなされたオークにその大斧を振りかぶる。

ズゴォオオオオオオオン!

と地面までオークの体を両断する戦斧。

一撃で半分以上HPが減ったオークを遊撃部隊が追撃する。

「ギール、アンタ邪魔しないでよね!」

「てめえこそ、くっちゃべってないでさっさと行けよ!」

フェルナとギールがジルの後方から一気に戦場を駆け抜ける。

「ジィ、盾借りるぞ!」

ギールがジルの盾を踏み台に跳躍。

【殴打】スキルによる回し蹴りをオークの頭にぶち込む。

側壁までぶっ飛ばされたオークにフェルナが剣を担ぐ。

「これで終わり! 【炎刃(えんじん)】!」

フェルナの持つ剣に炎が帯びる。

そしてオークに当たると同時に爆散。

大火炎にオークが爆ぜる。


「一層程度じゃオレたちいらないっすね」

「でもいいことだよ! 早く次にレッツゴー!」

鎖頭巾のコルクスと長髪のレイモンドがそれを観戦する。


彼らは四日かけて七層まで駆け抜けた。


夜のダンジョン。

しかし彼らにとってはただの夜でしかなかった。

「【炎輪(えんりん)】!」

フェルナの【炎魔法】が発動する。

6人の頭上に現れる円形の炎。

その明かりがダンジョンを照らし、視界を確保する。

「いつみてもフェルナの魔法はすごいねぇ」

ミィシャが感嘆の声を漏らす。

エクストラスキル【魔法操作】。

『まちおこしイベント』の報酬として参加プレイヤーにランダムで送られたエクストラスキル。

フェルナが獲得したのはこの【魔法操作】だった。

それで自分が使える魔法を思うように操作できるのだ。

さきほどの戦いで見せた【炎刃(えんじん)】もフェルナがこのスキルを使って編み出した技の一つだ。


今、彼らは七層のオアシス(・・・・)で休憩をとっていた。

七層のその地形は『モンスターたちの楽園』である。

澄んだ湖に、常夏に生える木々。

雲一つない空には月明かりだけでなく、星が存在する唯一の階層。

彼らはこの地を休憩地として利用していた。


フェルナの明かりを頼りに交代しながら見張りを務める。

階層が高くなるにつれてその探索は遠征になっていくのだ。

しばらくはコルクスが見張りをすることになった。

彼はこのパーティで唯一、プレイヤーの中で使えないと言われている【索敵】を持っている。

それは『まちおこしイベント』のとき。

様々なプレイヤーたちが各々取ったスキルを手にこのDTDへとやってきた。

彼らの目の前に広がっていたのは町ではない。

ダンジョンだった。

このゲーム最初の試練が『まちおこしイベント』。

今ある『冒険者の町』を作ったのはほかならぬプレイヤーたちなのだ。

その報酬として、町にはアイテムを販売するNPCが、そしてプレイヤーにはランダムでエクストラスキルが授与された。

そしてそのスキルを取得する代わりに、プレイヤーたちは一か月で判明した使えないスキルを捨て、そのエクストラスキルを取得したのだ。


ちなみに使えないとされているスキルの一部が【索敵】だ。

夜や森の中のように視界が悪いときには使えるが、基本己の視界で足りるし、上級者は己の感覚だけでモンスターを察知できるようになってくる。

それに夜のダンジョンを照らす方法はいくらでもあるのだ。

そして一番の理由――【索敵】の情報が脳に直接送られてくることによる弊害。

視界とごっちゃになって脳が処理できなくなってしまうのだ。

そんなこんなで使えないスキルとされた【索敵】だが、コルクスはそのスキルを彼なりに使いこなしていた。

目を閉じ、索敵マップだけで全てを知覚する。

純粋にフェルナは彼の技術を評価していた。

しかしフェルナはこの男が苦手なのだが。



「じゃあオレが見とくっすから」

そう言って胡坐をかいて目を閉じる彼。

残った五人は二つのテントの中でそれぞれが休息をとる。

フェルナとミィシャ、ジルとギールとレイモンドで別れている。


「フェルナまだ不機嫌なの?」

ミィシャが心配したように聞いてくる。

「え? いや、そんなことないわ」

顔にでてしまっていたのだろうか。

フェルナは、いけないっと顔をはたく。

アイツらとは違って、エクストラスキルを手に入れられてるということで納得させる。

「でもあの人たちもすごいよね! こんな早くここまでくるなんてさ」

「そうね。アタシたちも頑張らないと」

努力家の彼女は、絶対まけないっと心の中で誓った。

二人の少女はテントの中で横になり、目を閉じる。


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