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第一章~低層突破は難しい~Ep15

俺は森の中を猿に追われ、かなり奥まで進んできてしまったらしい。

木々の隙間から三層への塔が見えてきた。

「せっかくだから向かってみるか」

俺はその方向へと駆けだす。


一層よりも濃い密林。

かなり狭い間隔で植えられている木々だが、もう追いかけっこの中でその中を走るのには慣れている。

【夜眼】が捉える視界の中、その先に見えているのは一つの塔。

灰色の岩壁。

天を貫くその塔は次の階層へとプレイヤーを運ぶ。

俺はその塔でプレイヤーを待ち受けるボスの雄叫びを聞いたような気がした。


索敵マップに蜘蛛ではない何か――単独のモンスターが映る。

俺はスピードを落とし、そいつに近づく。

「んなっ…………」

思わず声を漏らしてしまう。


全身を覆う黒の甲冑。

手にした黒剣をぶら下げて天を仰ぐ。

身長170センチほどの鎧騎士がそこにいた。

闇に溶ける黒の甲冑に包まれたその身体はその奥を見透かせない恐怖を漂わせている。

ギシリ、と彼の身体がこちらを向く。

「見つかったか!?」

心の中で叫ぶ俺。

こちらを向いて固まる甲冑。

プレイヤーか?

と一瞬思ったが【索敵】がそれはモンスターだと告げている。

「っ!」

咄嗟に体を横に投げだす。

無音。

俺の動きだけではない。

無音で、高速で俺の隠れていた木々をその黒剣が薙ぎ払った。

素早く体制を立て直した俺。

その目の前にいるのは、甲冑の奥から目を紅く光らせる孤高の騎士。

その眼の光はそれが起動したことを意味する。

『ダンジョンナイト・ナイト』

モンスターの上に表示される名前。

俺はとてつもない悪寒を感じていた。

背後を見せた瞬間に斬られるであろう無音の騎士。

木陰に隠れたところで居場所は看破されるだろう。

そして闇に溶ける甲冑が俺の視界の中でその輪郭を揺らめかせている。

俺は【索敵】をフルに稼働させ、敵の動きを細かく感知する。

騎士の重心がぶれる。

「くるっ!」

ほとんど予感に頼った回避だが、そうでもしなければ対処できない。

俺と同等の速度。

そしてその無音さが敵の動きをより早く感じさせる。

繰り返される連撃。

防御する手段を持たない俺は体を屈め、横薙ぎの一閃を回避、すかさず足元に設置するトラばさみ。

すると追撃の踏み込みをやめ、一旦距離を置く騎士。

「罠を感知された!?」

俺は戸惑いながらも出来た距離を活かして矢を放つ。

しかし不意打ちでない矢は敵のあまりにも高い反応速度によって打ち払われてしまう。

「まじかよ!?」

嘆きつつも追撃の一射。

走る剣閃。

高速移動でそれを躱しながら放っていく矢。

騎士は俺を追いかけ、俺はバックステップで躱しながら、近距離からの狙撃を試みる。

しかしそれも急停止した騎士の剣戟によって払われてしまう。

そのスキにばらまくトラばさみ。

大顎(アギト)を設置してる時間はないかっ」

俺は顔をしかめ、どうせかからないのだろうが、それでも罠を設置していく。

罠だらけの空間で、剣が空を切り、矢が不発に終わる。

終わらない防戦。

確実に押されていた。

「くそっ、キリがないな」


掲示板などを見ていないクレハは知らなかったのだ。

『ダンジョンナイト・ナイト』

一層から九層のダンジョンにランダムで現れるモンスター。

その姿は夜にだけ確認されている黒の騎士。

そして夜のモンスターの特性に加え、甲冑騎士は圧倒的な能力を持っている。

――相対プレイヤーのスキルをトレースする。

元々剣しか持っていないため、【殴打】以外の攻撃系のスキル、そして生産系のスキルはコピーされてもあまり関係ないが、クレハの場合、【索敵】【隠密】【無音】【罠感知】といったスキルをトレースされ、ステータスもクレハに追いつくほど上がった騎士はその能力をさらに高めていたのだ。


『夜のダンジョンには気を付けろ』

プレイヤーたちがこの台詞を言うもう一つの理由。

それがこのダンジョンナイト・ナイトなのだ。

最前線パーティーでさえ苦戦を強いられ、時と場合によっては全滅させられることもあるという化け物だ。



「お前がどれだけ強いとしても、俺にできることはある!」

徐々に騎士の速度にもついていけるようになった俺は、自分のいた場所にトラばさみをばらまき、逃走する。

【逃走】を爆発させた、最速の逃走劇。

森を二つの風が駆け抜ける。

あまりの速度に蜘蛛たちは自分の巣を捨てその射線から外れ、フォレストナイト・ラビットが食事を放り投げ、群れごと駆け出す。

威勢よく二つの疾風に飛び込んでいったモンスターは矢に穿たれ、剣で撃破され、光の粒子へと散っていく。


二層の夜の森で大多数のモンスターを巻き込んだ逃走劇が始まった。

ばらまくトラばさみも在庫が尽きた。

騎士はそれをどうやってか看破し、その部分を飛び越えて追ってくる。

代わりに戦線に飛び込んできたフォレストナイト・ラビットがかかるという始末。

【索敵】だけを頼りに前を向き疾走しながら腕だけ後ろに向け、騎士を狙撃する。

背後でなる剣戟音。

「くそっ!」

矢が振り払われたのだ。

時間稼ぎにしかならない、矢を放ち続ける。

一向にダメージを与えられない以上、矢の在庫が切れる俺の方が不利になっていく。

アイテムボックスはガウスに改良してもらい、鉄の矢を複数のスロットに分けて入れることができているが、無限にあるわけではない。

俺は森の中を、罠を設置したところを何回も通過しながら駆けまわっていく。

蜘蛛の巣をくぐり、途中で襲ってくる蜘蛛やウサギを矢で牽制する。

しかし、背後の騎士は蜘蛛の巣を両断し、矢の刺さった蜘蛛とウサギを障害物だというように薙ぎ払っている。

俺は決して後ろは向かず、視界は前方のみ、最速で駆ける。

索敵マップを同時処理し騎士の動きを掴んでいるのだ。


「やるしかないか!」

俺は前方への速力を一気に上方へと傾け、木の枝に跳躍。

しかし、それでも騎士の捕捉を抜け出せない。

まるで【索敵】されているようだ。

俺は背筋を這う悪寒を殺し、それでも一瞬できた時間で大顎(アギト)を設置する。

その邪魔をするように跳躍しそのまま切りかかってくる騎士。

俺は大顎(アギト)の片端を設置した状態でもう片端を持ったまま反対側の木へと移る。

騎士がその剣を不発に終わらせ、木に食い込んだ剣を抜いている間にもう片側も設置する。


設置が終わったら、また逃走の再開。

俺は逃走の中で捨て身の罠設置を敢行。

二層が罠ダンジョンへと変容していく。


騎士との逃走劇が5時間を記録する。

未だに騎士に与えたダメージは少ない。

生い茂る木々の隙間から突如現れる矢に騎士は素早い反応を見せるが全てを払えるわけでもなかった。

わずかだが、そのHPを減らしている。

しかし全身が甲冑におおわれている騎士に急所はなく、一矢のダメージが少ない。

俺は仕掛けた巨大な罠の中を駆けまわる。

既にこの森全体が俺の罠と化していた。


「手持ちの罠は全てつぎ込んだ。矢ももうないな」

俺はもう一か八かの起死回生に賭けるしかなかった。

矢で周りにいる蜘蛛、ウサギを挑発する。

俺を敵と認識した彼らが、わざと姿を見せた俺を追いかけてくる。

言葉通りの大逃走劇が始まった。

「逃げて逃げて逃げろ!」

全速力のダッシュで森を駆け巡り、さらにエンカウントした蜘蛛、ウサギを挑発していく。


二層に生息しているモンスター全てを引き連れた(・・・・・・・・)大逃走劇。

俺を追う騎士の周りを、同じように俺と同等の俊敏さを得た蜘蛛とウサギが囲んでいく。

そして俺が仕掛けた大量の大顎(アギト)とトラばさみのある地帯へと突入する。

そう、これは二層全部のモンスターを引き連れた騎士への逃走撃(・・・)だ。

『ギュォオオオオ!?』

『キャゥウウウン!?』

重なっていく悲鳴。

ウサギがトラばさみにかかり、蜘蛛が大顎(アギト)に挟まれる。

その中でも罠は回避していた騎士だが、その周りを呻くモンスターたちに囲まれ動けなくなる。

「かかったか!」

俺は数十メートル離れたところからモンスターの間を縫って騎士を狙撃する。

無音の狙撃。

それでも恐るべき反応速度で回避するが、彼は矢を払うことにその神経全て費やしてしまった。

俺が放った矢の衝撃で騎士にぶつかる蜘蛛。

飛ばされた騎士が(トリガー)を弾く。

ギシッ!

動きを止める騎士。

大顎(アギト)がその甲冑を貫くことはなかったが、その剣を手から落とす。

大量のモンスターによって騎士から離れ、蹴飛ばされていく黒剣。

矢を払うものが無くなった騎士に対して俺は残矢全てをぶつける。


罠によって動きを制限された大量のモンスター。

そして黒の甲冑騎士が光の粒子となる。

残り矢を全て消費した俺は、太陽が上った容赦ない森から放たれたナイフによって、光の粒子に変えられる。

「やった……ぞ」

達成感に包まれながら俺は教会へと転移させられた。


******

NAME:kureha / 残りステータスポイント:0

レベル:25


HP:1

MP:0

SP:0


STR:0

VIT:0

DEX:170

INT:0

AGI:120


スキル

【弓攻撃】Lv:14【索敵】Lv:15【隠密】Lv:13【罠設置】Lv:10【罠解除】Lv:8【罠作成】Lv:5【罠感知】Lv:9【逃走】Lv:16【夜眼】Lv:10

【無音】

******

度重なるオーク――ボスモンスターの単独討伐、そして大多数のモンスターを引き連れた逃走劇によってレベル、そしてスキルレベルがかなり上がっていた。

毎回最後はキルされて経験値がゼロになるが戦闘中にレベルアップしているためレベルはかなりあがっている。

ソロプレイの利点はここにあるだろう。

一体のモンスターを倒した際の経験値が6人パーティーの6倍(・・)なのだ。


ダイブしてから五日目に突入してしまった。

一睡もせずに大逃走劇を繰り広げていたクレハはガウスの工房に入ると、今日もいないガウスのことなど気にせずにそのまま眠りに落ちた。


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