第一章~低層突破は難しい~Ep13
「よし今日もぐっすり寝たし早速二層目指すか」
いつも通り午前四時に起きた俺。
しかし、二層に行くには一つ難関がある。
「またオーク倒していかないといけないんだよな…………」
何とも胃が痛い話だ。
しかし、そんなことを言っていても何も始まらない。
俺はガウスから矢を補充し、ダンジョンへ向かう。
なお今回はカネがない。
後で払うから許せ。
俺は最短距離でオークのいる部屋へ。
『グォオオオオオオオオオ!』
咆哮を無視して第一射を放つ。
途中で咆哮を止められたオークは不機嫌そうに、槍を払う。
繰り返される死闘。
一回勝っているからと言ってまた勝てるとは限らない。
素早く相手の背後に回り、うなじ部分を狙撃。
相手の突きも躱しさらに追撃する俺。
「これならいけそうだ…………ぬっ!」
順調にいくかのように見えた戦闘がオークの放った槍の一撃で局面がガラッと変わる。
ギリギリで避けた俺だが、俺のよけた先にまるで予測していたかのように伸びてくる切っ先。
「くっ!」
無理矢理体を回転させ、槍を巻き込むように回避。
不利な状況だが矢を放つ手は止めない。
どうやらオークはボスゴブリンのように俺の動きを読んでいるらしい。
「前回の戦闘のデータも残ってるのか!?」
俺は顔をしかめながらも、ギリギリ対処できる槍の動きを躱していく。
「これは出来るだけ力を抑えて、余力を残して勝たないと、次がなくなるな!」
俺は出来るだけギリギリまで槍をひきつけ、ギリギリで躱していく。
決して余裕を取り過ぎない。
必要最低限の動きだけで対処する。
そして俺の矢の狙いだけは外さない。
的確に相手の眼、首元、脳天を穿っていく。
不利だった形成も時間が経つにつれて均衡状態へと戻った。
体力がそろそろ限界の俺に、HPがほとんど削られたオーク。
俺がオークの背後に回り狙撃。
しかし、オークが最後の力を振り絞ったのか、今までにないスピードで急旋回し、槍を振り払う。
「うぉおおおおおおお!」
俺は急な動きに対処が遅れる。
これでは回避はもう無理だ。
俺は捨て身の勢いでもう一射を放つ。
僅かなタイムラグ。
しかしその勝負を取ったのは槍ではなく矢だった。
俺の放った矢が、槍が俺を捉えるよりも先にオークの脳天を貫き、その巨体を光の粒子へと変えた。
「危なかったな」
俺は荒れる息を落ち着かせる。
なにせこれは前段階に過ぎないのだ。
これから二層へ向かう。
そう、今日の目的はこの後から。
俺は力をふりしぼり、二層への扉を開く。
崖の上で少し休憩を取った俺は昼に差し掛かった二層の森へと体を入れる。
【索敵】で探ったところ、探索しているプレイヤーの数はこの広さに比べると少ない。
昼も夜も気にせずに探索できそうだ。
俺は索敵マップを確認しながら、木々の間を歩く。
そして一体のモンスターの反応をみつけた。
「群れじゃないな、試しに戦ってみるとしようか」
俺がその反応を追っていくとその先には巨大なカブトムシがいた。
『フォレストビートル』
体長2メートル程。
その特徴である大きな角は近くにある木をなぎ倒している。
青色の甲殻は他を受け付けない硬さを感じさせる。
俺はこのまえ散々な目にあった蜂よりも強い相手であることを肌で感じていた。
しかし、この層を突破する以上引くわけにはいかない。
俺は木陰から矢を放つ。
ガキッ!
衝撃音。
カブトムシが衝撃に体を揺らす。
しかしその甲殻を矢が貫くことはなかった。
「固いなっ!」
俺は顔をしかめるが、どうやら捕捉はされていないらしい。
場所を幾度か変えながらカブトムシに矢を放っていく。
しかし、低ダメージを積み重ねていく時間の間、彼が待ってくれるはずもなかった。
その甲殻が広げられ羽が姿をあらわす。
そしてその巨体を宙に浮かし、木々をなぎ倒しながら飛んでいく。
「とんだ暴れ者だな!」
俺はその開いた羽に向かって矢を放つ。
逃がすかよ!
防御の薄い羽を狙撃されたカブトムシはそのバランスを崩し地上へと落下する。
木々を巻きこんで不時着する身体。
仰向けになったカブトムシは甲殻のない弱点を俺に晒す。
弱点に打ち込んだ矢はクリティカルヒットとなり、カブトムシのHPを削っていく。
彼がその巨体を起き上がらせるのには時間がかかった。
そして俺はカブトムシを倒すことに成功する。
その後、一層から拾ってきたトラばさみをばらまき、何かがかかればなという希望を託す。
そして再び俺は奴らと相対していた。
「だから数多過ぎだろうがぁあああああああ!」
【隠密】【逃走】【索敵】を駆使して追加の蜂がこない方へとスサマジイスピードで駆けていく。
俺はまた蜂の大群に追われていたのだ。
走りながら一体ずつ撃ち落としていく。
蜂は数が多い分一体のHPが低いらしい。
頭部を狙いクリティカルヒットで一体ずつ撃破する。
追われること数時間。
「はぁ、はぁ、はぁ。もう限界だ」
蜂の大群から逃げ切った俺は、一層への塔へと戻ってきていた。
帰りはオークと戦わなくていいらしい。
死にそうな身体で町に戻った俺は、大量のドロップアイテムを換金し、ガウスの工房へと戻った。
誰もいない工房のカウンターに今日の矢の分と追加で補充した矢のお代を置いておく。
余ったお金はついつい食べ忘れる食事代と、【罠作成】用の材料費に使われた。
流石に矢だけでは二層のモンスターたちを対処しきれない。
なにか蜂に対抗できる罠を作成しなければ…………。
俺は明日の使命を心に残し、眠りに落ちた。
「うぅん…………」
今、俺はどんな罠を作ろうか思案していた。
トラばさみのような床に設置するタイプだと、蜂には反応しない。
となると木と木の間に糸を張ってそれをトリガーに発動するタイプの罠がいいか。
俺はその罠の構想をたて、木材を加工していく。
「これはいいかもしれないな」
俺は地味ににやけながら罠を作り始めた。
作業すること数時間。
ガウスはいない。
ダンジョンにもいっているらしいからな。
意外と戦闘もしているというガウス。
その工房を我が家のように使う俺。
自覚はしているが悪いことだとは思わない。
ダメならあいつが俺を突っぱねればいいだけだ。
そして俺はついに試作品を完成させていた。
「よし、これを試してみるとしようか」
既に夕日があたりを照らす頃になっている。
俺は大量に作った、試作罠をもって、二層へと向かった。
一層を抜ける際に再び会うオーク。
『グォオオオオオオ…………グギャッ!?』
「もう聞き飽きた!」
扉を開けた瞬間から放っていく矢。
俺は早くこの試作罠を試したいんだ!
お前の出番はない!
大量のトラばさみをばらまき動きを牽制、矢で的確にダメージを与えていく。
今回は少し戦略を変えて、オークの足をつぶしていく。
突然変わった俺の戦法に戦慄するオーク。
「俺の動きを読んでくるならそのパターンにない攻め方で攻めるだけだ!」
足を穿ち、槍を躱す。
そして、その巨体が膝を地面につける。
下半身をまともに動かせなくなったオークは、必死に上半身をひねり、槍を俺にあてようとする。
しかし、その射程距離から離れた俺は安全圏から敵のHPを刈り取っていく。
「これで終わりだな」
と思ったがオークがそこで最後の反抗を見せる。
「ぐっ!」
投槍をしてきたのだ。
その全力を使われて投げられた槍が俺の頬に風を残して後ろの壁に衝突。
「あと少し反応が遅れてたらやられてたな」
俺はオークを称賛しつつも、最後の一射を放つ。
そしてたどり着いた二層。
既に夜になっている。
「あ、夜だからモンスター変わってる…………のか」
俺は対蜂用の試作罠が使える相手を望んで、森の中へと入っていった。