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5話

最後の方が物騒です。

ご注意ください。

 翌日。

 長期の不在を詫びながら、ペロミアさんに代わり重い鉢植えや切り花が大量に入ったバケツ等を運んでいく。

 そんな時、それはやってきた。

「『竜殺し』のアメリア様はいらっしゃいますか?」

 ……王城からの使いである。




「私ですが」

『竜殺し』という大層な称号が付いた、というのは少々照れ臭いが。

 進み出ると、書簡のようなものを渡される。

「先の魔物討伐軍での多大なる功績を表し、アメリア様には下級貴族位が授与されます」

「謹んでお断りいたします」

 受け取った書簡をそのまま丁寧に返そうとするが、受け取ってもらえない。

「つきましては、アメリア様には明日、登城していただきたく」

 ……ああ、断るイベントは断るイベントでちゃんとしろ、って事か。融通の利かない……。

「……という事で。ではまた明日、お迎えに上がります」

 ……そして、そう言って使者は帰っていった。

「アメリアちゃん、凄いじゃない!」

「いえ……」

 ペロミアさんは我が事の様に喜んでくれているが、貴族になる気は無い。

 まだお世話になります。




 その日1日をまた働いて過ごし、翌日迎えに来た使者の馬車に乗り込んだ。

 恰好?……『魔剣・エクスダリオン』と『魔法銀の鎧』でキメてますが何か?




 そして、玉座の間に通される。

 扉が開かれると、絨毯が伸び、その両脇には槍を持って兵士が佇んでいる。

 ……一人でも何とかなるだろうか。無手だと厳しいが、『魔剣・エクスダリオン』がある。いい線いくかもしれない。

 そして、絨毯の先には玉座があり。

「そなたが『竜殺し』のアメリアか!」

 そこに座っている、丸っこいフォルムの人がこの国の国王であり……『アメリア』の実の父親である。

「ふむ、顔をよく見せてみよ。……ふむ、どこかで会ったことがあるかね?」

「いえ」

 勿論、イベントをこなしていけば「娘です!」とできるのだが、その必要も特にない。他人だ。他人の振りで通す。

「……ふむ、そうか。いや、すまんな。……して、そなたの功績は余の耳にも届いておる。『スケルトンドラゴン』を一人で屠ったと言うではないか。いやはや、この細い体の何処にそんな力があるのか、不思議なものじゃのう」

 にこにこと言葉を続けるこの人は、まあ、見ての通り、人がいい。

「……して、だな。そなたの功績をたたえ、そなたに下級貴族位を授与することと」

「お断りします」

 無礼かもしれないが、どこで申し出ればいいのか分からなかったので遮るように言った。

「……ほう、何か理由があるのかね?」

 かね?で首をかしげるかわいいおっさんを見て安心する。

 少なくとも、怒ってはいないよな。

「自分には貴族位は相応しくありません。気楽に生きていたい性分なのです。お許しを」

 頭を下げれば、王もちょっと残念そうながらも納得してくれた。

「そうか。なら仕方あるまい。では、報奨金の1000000ペタルを与えよう。これからもこの国の為に励んでくれ」

 百万ペタル。

 これが貴族の金勘定である。流石としか言いようがない。

 ……まあ、こうして恙なく『お断りします!』も済んだ。

 非・VRでは何回かやってたけれど、VRだとやっぱり迫力が違うな……。ゲームとはいえ、緊張した。




 帰宅すると既に夕方だったので、急いで市場に寄って肉と野菜数種類を買い込む。

 大きくぶつ切りにした肉とごろごろとした根菜を鍋で煮る。

 この世界にもプレイヤーを慮ってか、即席出汁の類があったので、即席の洋風出汁と塩胡椒で味を整える。

 そしてひたすら食す。

 満足した。




 そして次の休みにはまたギルドへ向かい、羨望と畏怖の視線を浴びながら来月の魔物討伐軍への参加登録を済ませ、それ以外では買い物を少々済ませた。

 軽い鍋と、調味料一式、それから包丁の代わりになりそうなナイフ、串、皮袋、と、そういったもの。

 それから、火を発する使い捨ての霊水晶である『火の霊水晶』を幾つか、水を出す『水の霊水晶』も幾つか。台所でお馴染みの霊水晶シリーズである。

 これらは買うときに霊水晶屋のおねえさんに「あなたは魔法を使いますか?」と何度も聞かれた。

 ……下手に魔法とぶつけると、暴発するらしい。安物だから安定性にやや欠けるのだそうだ。『魔力』は0だからそこは問題ないが、戦場で魔法とぶつからないとも限らない。それは注意しておこう。

 しかし、それでも火と水をこうして持ち運べる、というのはとてもいい。

 そう。前回の反省はしっかり生かす。

 折角の肉食べ放題だ。逃すのは惜しい。そのための準備だった。

 ……貧乏性だろうか。


 それから、あの生意気後輩枠のレヴォルをどうやって殺すかのイメージトレーニングだ。

 ……エンカウントするのは恐らく1日目。

 その時、魔物と一緒にうまいこと始末できないものか。

 ……相手は魔法使いだ。体を鍛えている訳じゃ無い。不意を突かれたら咄嗟には反応できないだろう。

 不意を突く。これが1番だな。

 レヴォルが魔物と対峙している時に、魔物と一緒に巻き込んで殺せばいい。

 ……人に見られると厄介か。

 混戦状態になってからの方がやりやすいな。

 となると、1日目に起きるであろう【討伐軍での邂逅】では見送って、その後のイベントである【足手纏いは】で殺した方がいい。

【足手纏いは】は、イベント名から分かる通り、生意気にも「足手纏いは引っ込んでいてください」と言われるというイベントである。まあ、それもユキノ曰く、「ツンデレだよねー。守ってあげるのに一々言い訳しないと気が済まないんだよねー」という事らしいが、知るか、そんなもん。

「足手纏いは」とか言ってきたその時にバッサリやってやればさぞ気分が良いだろう。

 うん、その時は恐らく5日目あたりか。

 魔王城に一番近づくころだから、間違いなく混戦状態。他人の事を気遣う余裕なんてないはずだ。

 よし。……その時に殺る。




 そして、遂にその日がやってきた。

「アメリアちゃん、また魔物討伐軍へ行くんですってね?いくら強くても油断は禁物。気を付けるのよ!」

「はい!行ってきます!」

 ペロミアさんに見送られ、また討伐へ出かける。

 またお店を空ける事になるが、その分は今度、休日を返上して屋根の修繕をすることで返そうと思っている。

 ……さて。楽しんでいこうじゃないか。




 前回同様の集合場所に行くと、やはり既に人が沢山居た。

 そして、その中に水色の頭を発見する。

 ……レヴォル・クレヴェールだ。

 きょろきょろ、ともの珍しそうに辺りを見回していたそいつは、こちらを見てその視線を止める。

 ……失礼な奴だな。

「何か用?」

 しかし、ここで好感度をできるだけ上げておかないと、2回目のイベントが6日目より後ろにずれ込む恐れがある。

 内心歯を食いしばりつつ、笑顔なんぞを浮かべてフレンドリーに接してやる。

「……別に」

 そのお綺麗な顔ぶっとばしてやろうか。

 内心で抜刀して内心で10回ぐらいこいつをぶち殺した頃、そいつは意を決したようにしてやっとまた喋り出した。

「アンタですよね、『竜殺し』のアメリア、って。女なんて滅多にいないから、分かりますよ」

 その目は嫉妬か羨望か。まあ、どちらでも構わないが。

「うん。そうだよー。私、アメリア。君は?」

 ユキノの喋り方と笑顔を思い出しながら返してやると、少し驚いたような顔をした後、やっと名乗った。

「レヴォル。レヴォル・クレヴェール。魔術師です」

 ……うん。殺すから。殺すんだから……と言い聞かせて、笑顔を絶やさないようにしつつ。

「レヴォル君ね。これからよろしくね」

 フレンドリーに片手を差し出す。

 レヴォルは少し戸惑ったような表情を浮かべながら、手を恐る恐る、というように取り、握ってきた。

「……よろしく、お願いします」

 ……正直、『アメリア』の手よりも柔らかかった。

 というか、レヴォルの手よりも『アメリア』の手の方が固かった。

 ……心の中でガッツポーズする。

 勝った。




 そして魔物討伐軍は出発する。

 レヴォルは少し離れた所を歩いているものの、ちらちらこっちを窺ってきて非常にうっとおしい。

 気づかないふりをして進軍を続ける。

 ……しかし、周りの人も妙にこちらを見る……あ、あれか。鍋か。

 調理器具一式を袋に入れて持ってきているからか。そりゃ、他の人より大荷物だし目立つな。

 しかし肉の為だ。しょうがない。

 多少の視線は諦めよう。




「前方に」

 前方に、の、ぜ、が聞こえた時点で地面を蹴る。右手の甲に意識を集中させ、『魔剣・エクスダリオン』を出現させる。

 そのまま前方に居た魔物を確実に殺していき、10秒ほどで片を付けた。

 そこから比較的美味い肉を拾って、軍の列に戻る。

 そしてまた前進を始めた軍に合わせて歩きつつ、肉の首を落として逆さ吊りにしながら持つ。

 それをぶらぶらさせながら歩けば、血抜きができるという訳だ。

 ……点々と血痕が残るが、まあ、いいだろう。血の匂いに魔物が寄ってきたら肉が増えて好都合だ。




 そして昼食時、軍は休憩をとることになった。

 1時間程度の休憩が貰えるのだからありがたい。

 その間に、すっかり血の抜けた肉を捌いて(これは前回の討伐で散々練習したからすいすいできる)、一口大に切る。

 その肉に塩と香辛料を擦りこみ、串に刺す。

『火の霊水晶』を起動させて火を起こし、その周りに串を立てていく。

 肉は次第に焼けて脂を滴らせ、それを舐めた火がパチリ、と爆ぜる。

 辺りには肉の焼ける美味そうな匂いが漂い始めるまでにそう時間は掛からなかった。

 ……その匂いに気付いたのか、レヴォルがこっちを見ている。

 ……。

 ……耐えろ。

 好感度、つまりはイベント、つまりはこいつを殺すためだ。

「レヴォル君、食べる?」

 良く焼けた肉の串を笑顔で差し出せば、半分反射なのか、受け取った。……受け取ったのに、食わない。食わないんだったら返せ。

 ……それとも、あれか。一人で食うのは気が引ける、とか、そういう事か。

 じゃあ、こっちも良く焼けたし、食べてやろう。そうすれば遠慮も少しは吹き飛ぶだろう。そして食え。そして好感度を上げろ。そして殺されろ。

 香ばしく焼けた肉を1つ咥えて、串から抜く。

 それをそのまま口内に運ぶと、熱さに舌が痺れた。

 それに耐えて咀嚼すれば、香ばしい風味と一緒に、旨味の詰まった肉汁と甘く溶けた脂が口いっぱいに広がる。

 ……美味い。

 はふはふやりながら肉の串を1本食べ終わってレヴォルを見ると、まだ食べていなかった。

 ……ずっと観察していたらしい。失礼な奴だ。本当に。

「食べないの?」

 あくまでユキノっぽく、と意識しながら聞いてみると、レヴォルは意を決したように肉を口に運んだ。

 そして、咀嚼して、驚きに軽く目を瞠る。

 ……美味いらしい。当然だな。

「美味しい?」

「……美味いです」

 よく見ると、口元が若干綻んでいる。すぐに引き締められたが。

 そしてレヴォルは肉串1本を平らげると、丁寧にごちそうさまでした、と挨拶して去っていった。

 よし。じゃあ、残りの串を……。

 ……レヴォル以外にも、こちらを注視している人は沢山居た。

 ……ああ、既視感。

 あれだ。こっちが物を食べてる時に無言でねだってくるユキノを微妙に思い出す。

 いや、でも彼らはどうせNPC、AI、非攻略対象の……。

 ……ええい!

「あの、食べますか?よかったらどうぞ」

 そう誰にともなく声を掛けると、たちまち人が群がり、恐る恐る、というように肉串を1本ずつ取っていく。

 そしてそれを口にし、魔物肉の未知なる美味さに目を瞠るのだ。

 ……くそ、次は、次は絶対にもっと狩って、もっと食えるようにしよう。




 休憩が終わり、また進軍する。

 そして、魔物が発見され次第、全力でそこに向かい、全速力で殺し、美味そうな肉は首を落として持っていく。

 ……そうして夕方になる頃には、十分な量の肉が確保できていた。


 夕方には開けた場所に魔除けの香草の焚火をしつつ、そこで各自雑魚寝である。

 中心から離れた位置で石を並べて簡易的な竈を作り、そこに『火の霊水晶』を置く。

 火が燃え盛ったら、そこに鍋を置き、肉の脂を落とす。

 溶け出した脂がふわり、と甘い香りを発した所で、ぶつ切りの肉を炒め始める。

 そして程よく火が通った所で醤油っぽい調味料と糖蜜っぽい調味料を加え、照りよく絡めて炒めあげる。

 皿は無い。出来たら鍋から直接つついて食べればいい。

 こんな野外での料理なのだから、作法も何もないだろう。

 おいしくてしあわせになった。


 そしてやはりというか、味をしめたのか寄ってきた他の人によって肉はどんどん減っていく。レヴォルも来てつまんでいった。どうせ殺すのだ。見逃してやる。

 しかし、それを見越して鍋1つ分たっぷりと作っていたので問題ない。

 ちなみに鍋のサイズは直径40cm。人に多少つままれても十分残るレベルだ。

 支給された食料の他に、たっぷりと肉の照り焼きを堪能し、満腹で眠ることができた。




 翌日、また進軍。そして肉。おいしくてしあわせになった。


 翌々日、また進軍。そして肉。おいしくてしあわせになった。


 翌々翌日、また進軍。そして肉は無かった。骨とゾンビはお呼びでない。帰れ。




 そして進軍5日目。国境に最も近づく日だ。

「魔物の群れが後方から!……た、大群です!」

 どうせ骨とゾンビなんだろうが、楽しいことには変わりない。

 走り回ってひたすらに魔物を狩っていく。至福の時だ。

 これからはVRなら乙女ゲームでも構わずにテストプレイに応募していくべきかもしれない。

 ……そして、いい加減雑魚を始末した頃、それはやってきた。

 半透明の、掠れる輪郭を持つ巨大な馬。

 こちらに向かって走ってくるのを、剣で迎え撃とうとして、横合いから放たれた爆炎に視界を遮られた。

 ……来たか。

 あー、くそ。来たよ。来やがった。

 煙が晴れた時、形を歪ませながらもそこに相変わらず居る魔物と、レヴォルの姿があった。

「何やってるんですか!アレに物理的な攻撃は効かないって、見て分からないんですか!?あれは俺がやりますから。……魔法、使えないんですよね。足手纏いは引っ込んでいてください」


 ほう。

 ……小僧、言ったな?


 走る。一瞬で間合いを詰める。

 レヴォルが反応するより先に、その胴を、薙ぐ。




 ……その時感じたものは、『ああ、やはりこれはゲームだ』という感覚と、現実味、というのか、もっと硬くて重い感覚がない交ぜになったような感覚。

『それ』の血を吹くはずだった胴はグラフィックのズレを生じ、足はありえない速さで動き、傾いた頭に付いたその口は延々と意味を成さない言葉の羅列を紡ぎ続けている。

「アだら『フレいことでからnいすかグバでdddddさいまボッますsあげそょうなななな」

 ……バグ。

 そうとしか言いようがない。

 そして、『それ』は表情すら保てなくなったらしい。お綺麗な顔がぶっ飛びやがった。表情だけでこんなに『バグってる』かんじがするのも凄いな。

 そうして色々とバグりまくった挙句、レヴォルはこちらに襲いかかってきた。

 ……ユキノあたりが見たら、トラウマものなんだろうな。これは。


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[良い点] バグwwwむっちゃ楽しくなってきた いいぞもっとやれ
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