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エピローグ:「雪野」

次の『エピローグ:「雪乃」』とは別の内容です。

 全てのピースが噛み合ったような感覚と共に、目を開く。

 目の前には『CLEAR』の文字が書かれた壁がある。

 ゲームは終わった。もう体を支配していた痛みは無い。もう自分は『ダフネ』では無いのだから。

 そこに一抹の寂しさを感じてしまうが、それを振り払い、『生還者リスト』と書かれた壁を見る。

 そして、その中にユキノの名前を見つけて安堵した。

 たった3文字。『雪野明』というを見つけただけで、今までの事が遠く、物語の中の出来事として頭の片隅に収納された。

 これで、本当に、このゲームは終わりだ。




 スタッフロールが流れる壁の間を進んでいくと、『EXIT』と書かれた壁がある。

 それをぶち破って進めば、やがて光が溢れて何も見えなくなる。


 ホワイトアウトした視界が暗く沈んでいき、そしてそこにノイズが混じり始める。

 ……音が聞こえる。

 機械が動く時に発する、仄かな熱を感じる。

 感覚が徐々に戻ってきて、自分の体の中を埋めていく。

 そして目を開けば、そこはテストプレイ会場だった。

 部屋の中央のソファでは、何人かの女性がなにか話している。他にも休憩している人もいる。まだプレイ中の人もいるらしかった。

 ……ユキノはというと。

「あ、イサナも終わったんだ」

 ユキノは何やらメモしながら、テーブルで飲み物を飲んでいた。

「どうだった?」

「ああ、楽しかった」

 ユキノの向かいに座ると、2つあったカップの内の1つを差し出してくれたので遠慮なくそれを頂く。

「へえ、意外。イサナ、来るときは嫌々ってかんじだったじゃん」

「……なあ、ユキノ。一応聞くが、あれ、デスゲームだったか?というか、これ、夢じゃないよな?お前、生きてるか?記憶改竄されたりしてないだろうな」

「……え、ちょっと、イサナ、どしたの、ねえ、大丈夫!?」




「うわー……そんな風になってたんだ、イサナの方」

 ひとまずユキノに落ち着かされ(一生の不覚だ)、ユキノにゲーム中の出来事を話して聞かせると、ユキノはそれも熱心にメモしながら呆れたような、感嘆した様な顔をした。

 ……ユキノの話を聞いたりなんだりする限り、本当にあれは『究極のシミュレーションゲーム』だったらしい。

 つまり、プレイヤーが楽しみたい方向にどこまでも寛容な。

 恋愛シミュレーションをやりたい人には恋愛シミュレーションを提供し、そして、デスゲームをお望みならそれを、という。

 力が抜ける。

 ……一体、なんだったんだ、アレは。本当に。

 いや、楽しくはあったが。楽しくはあったが……もうちょっと、ライトな楽しさを希望していたんだが。

「ねー、凄いよね。このゲーム。……で、凄いね、イサナの執念。乙女ゲームを殺戮ゲーム、しかもデスゲームに変えるだけの執念かあ……」

 このゲームが凄いことには賛同するが、執念、の部分には賛同しかねる。

 執念じゃない。嗜好の違いだ。執念じゃない。

「でも、さ」

 見れば、ユキノがこっちを見て口元を緩めていた。

「自分を助けるためにデスゲームに挑んでくれる人、っていうのはポイント高いですよ、イサナさん」

「言うな」

 冗談めかしてそんなことを言いながら、にやにや、とどんどん口元を緩めていくユキノ相手に、こちらは渋面を作るしかない。

「うん。……ね、イサナ、ほんとにありがとね。……なんちゃって」

 一頻りにやにやして満足したのか、ちょっと照れ気味な笑顔を浮かべながら言われたら……いや、やはり、何も言わずに渋面を作るしかない。昔から、こいつの笑顔にはどうも弱いのだ。

 ……一口飲んだカップの中身は自分の好みのフレーバーティーだった。


「ちなみに、ユキノの方はどんなゲームになってたんだ」

「国政やりながらいかにお金を自分の懐に入れるか、っていうゲームになってたよ。うん、楽しかったなあ」

 それはどこのカリブ海に浮かぶ小さな島のゲームだ、プレシデンテ。

 ……恋愛シミュレーションを国家運営シミュレーションにしてしまうお前の執念の方が余程……。




 それからテストプレイも終了し、主催者側から今回のVRゲーム……つまり、『究極のシミュレーションゲーム』についての宣伝を受け、記念品等々を受け取ったりなんだりしながら帰宅することになった。

「ね、イサナ、次もよろしくね」

 次。

 ……次は、そうだ。VR謎解きアクションアドベンチャー。

 楽しみにしていた、というか、今回の参加の決定打になったイベントだが。

 今度は……こんな、奇妙な事にはならない……よな?

 寿命が縮むからやめていただきたい。自分がゲームに求めているのはリアリティでも重さでもないっつの。

 もっと単純に、楽しませてもらいたいものだ。

「……えっと、次の謎解きアクションも一人用ゲームだよね?」

「調べもせずに応募したのか!?」

 聞いてくるユキノに愕然とすると、ユキノは「そうじゃなくて」と不満げに続けた。

「次の次は、さ。MMOがいいな。イサナと一緒にできる奴。イサナがどういう風にゲームやるのか見たいなー、って」

 そしてまた、にっこり、と。

 ……はあ。

「応募は任せるからな」

「あ、ほんと?うん、わかった。そうだよねー、イサナ、運悪いもんね」

「ただ、条件があるぞ」

 笑みを深めるユキノには、言わなくても伝わっているような気がするが。

「……次は、シミュレーション以外で、頼む」


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