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37話

 湖に浮かんでそれぞれ水鉄砲で勝利を祝福してくれていたスライム達を回収して帰宅する。今回の功労者でもあるからな。帰ったら何か食べ物……こいつら、何を食べるんだろうか。

 蜂蜜でも与えてみるか……いや、案外肉とか食べるんだろうか。


 結論から言うと、割と何でも与えれば食べた。

 今まで殆ど何も食べずに生きていた以上、食べても食べなくても別にいいんだろうが。

 特に蜂蜜や果物が人気だった。かわいい。


 さて、蜂蜜と果汁を混ぜたものを入れた皿に体の一部を伸ばして順番にちびちびと舐めているスライム達を見て癒されながら、これからの問題について考える。

 この右腕をどうするか、だ。

 ……次に殺すのは魔王と魔王軍の参謀、という事になる。

 参謀の方はともかく、魔王の方はイベントに従って……いや、それだけだとバグるのか。そうだな。恐らく、ここで多くのプレイヤーが魔王キルシスをバグらせて死んだんだろうな。

 ……そうだな、その日の夕飯の事でも考えながら戦えばまずバグらないだろう。

 参謀の方もそうだ。スライムの事でも考えながら戦えばこちらもバグらないだろう自信がある。

 なので、魔法だけでも何とかなるのだろうが……それは、『イベントを逸脱した場合』の話だ。

 ……この、どこまでもリアルなゲームは、恐ろしいことに……『負傷』すると、『戦闘力』が、下がるらしい。

 現在の『筋力』は、500のままだが、『筋力』が『戦闘力』に変換される率が下がっていた。

 ……具体的には、100%から50%にまで落ちていた。


『魔力』カンストの500で『戦闘力』に250プラスされても、合計でやっと500。

 そこに『宵闇のドレス』の補正で+50、『フレイヤの指輪』(サージスに貰ったアレだ)で『魔力』が+50、つまり『戦闘力』換算で25。

 合計して600だ。

 ……ここに『魔剣・エクスダリオン』の『戦闘力』+120があれば720になる。


 普通、魔王はそのルートの攻略対象と主人公の2人がかりで倒すものだ。

 その場合、主人公に求められる『戦闘力』は『350』。

 そして、普通に攻略対象を攻略していれば、間違いなくその攻略対象がらみの装備を取っている。

 大体それらを装備すれば最低でも『戦闘力』が200程度は増強される。余裕である。

 一方、攻略対象一切なし、或いはキルシスルートで進む時には、主人公1人で魔王に挑むことができる。

 その時に必要な『戦闘力』は、『750』。

 普通にやっていれば、『筋力』300、『魔力』300、装備で300、といったかんじで達成できる……むしろ、主人公1人で魔王を倒すルートならば、主人公1人で魔王を倒す事が目標になるのだから、この準備位は余裕なのだ。普通は。

 ……しかし、今回はそうもいかない。

 まず、装備が整っていない。

 各攻略対象のイベントを切り詰めた結果、装備を入手できるイベントが殆ど起こらなかった。

 防具が『宵闇のドレス』という時点で相当終わってる。

 そして何より、負傷によって『戦闘力』が落ちるという予期せぬアクシデント。

 これが相当に痛い。

『筋力』が落ちてさえいなければステータスカンスト状態な訳だから、500+250で素っ裸でも魔王に勝てるという愉快な状況になっていたんだが。




 ……微妙に動きが鈍くなっている、満足のいかない動かし方しかできない右腕を、どうするか。

 また、足りない『戦闘力』をどうするか。

 リハビリすれば何とかなるんだろうか。それとも、もうこれ以上『戦闘力』は戻らないのか。

 ……イベント日数も後が無い。

 無駄に日数をリハビリに費やすわけにもいかない。

 出来れば、明後日のイベント日……トメント(12月)27日には魔王を討伐しにいきたい。

 となると、筋トレするにしても費やせるのは明日1日。

 そこで『戦闘力』が30上がればこちらの勝ち確、上がらなければ……というところか。




 翌日。起きてすぐ、トレーニングを始める。

 寝る前にも腕を動かしていたが、それでもまだ完璧からほど遠い感覚しかない。

 なんとかしなければ、という思いで、必死に右腕を鍛える。

 ……しかし、なんだ。

 これは筋肉の問題というより、神経の問題なのかもしれない。

 動けと命令してもその命令の数割程度しか達成できない腕。

 もどかしいことこの上ない。このゲームのこういうリアルさは要らなかった。


 昼食を摂ったらまたトレーニング。

 どうせこのゲームも残り数日だ。残っている食材すべてを使い尽くす勢いで調理していく。

 スライム達にも果物や蜜を与えてやると、昨日同様ちびちび食べ始めた。すかさずそれをつついて癒される。かわいい。




 そして夕食を摂ってまたトレーニング。寝る前まで休憩をはさみながら、ひたすら鍛え直した。

 その結果、『戦闘力』が20戻った。

 ……つまり、魔王一人討伐の目安である『戦闘力』750まで、あと10足りない、という事になる。

 だが、学習した。もうこれをどうしたものか、なんて考えない。

 このゲーム、どうせ何をやってもどこまでもリアルなんだろう。

 だったら戦闘力の10や20の差で勝敗がぱっきりと別れるとは思いにくい。

 実際に戦闘するなら、イベントから外れるような……イレギュラーな戦い方をすれば、十分勝機はあるだろう。

 例えば、霊水晶の類でごり押しするとか、いっそ城ごと壊す、とか。




 翌朝、スライム達を思う存分ぷにぷにしてから出発する。

 そして、魔王城の前まで来たところで、魔王城の周りに霊水晶を一定間隔で設置していく作業に入る。

 気分は、あれだ。

 某スニーキングアクションでひたすらクレイモアとかc4とかエロ本とかを設置してる時みたいな。

 楽しみながら、しかし素早く作業を行う。

 ……ちなみに、この作戦の為には手持ちの霊水晶だけでは足りず、霊水晶屋をハシゴして霊水晶買占めを行った。

 全財産が吹っ飛んだが問題ない。どうせ今日を含めてもあと3日……いや、2日だ。飲まず食わずでも問題ない。

 なので、並べる霊水晶は炎だったり氷だったり風だったり、とバラバラだ。一応、隣り合った霊水晶が相殺しあわないようにある程度考えながら『魔力』の感覚に従って置いているのでそこまで酷いことにはならないだろう。


 最後に、一番できのいい霊水晶……『力の霊水晶』を正面に設置する。

 これは単純に魔法の形を取っていないただの魔力を放出する霊水晶だ。

 あとは、分かるな?


 十分距離を取る。

 そして、点火代わりに魔力の弾丸を撃ち込む。

 連鎖して暴発していく霊水晶を見て『きたねえ花火だ』と呟けば完了。

 予想以上に威力の大きかった霊水晶連鎖大爆発に対してもう少し距離を取ったりシールドを張ったりする羽目になったが、それ以外は概ね予想通り。事がうまく運んだ。

 つまり、魔王城は全壊。

 ……こんな事で全壊する城なら、前の戦で人間は圧倒的に有利だったのではないか、とも思うんだが。

 ……恐らく、ここに辿り着くことがそもそも難しいのだろう。

 そして、魔王城に数多く眠る国宝級の品々をまとめて破壊する、という行為に躊躇した、という面も考えられるな。戦争とはそういう面も往々にしてあるのだろうから。

 今回の大爆発にしても、魔王城内部に保管されていた呪物を巻き込んだからこそ全壊まで持って行けたのだろう。


 しばらく瓦礫を見ていると、中から満身創痍状態の参謀と、珍しく怪我をしたらしいキルシスが魔法を使って出てきた。

 今まで魔法を使わなかったのは、あまりにも凄まじい魔力の暴発の直後だったため、魔法を使う事自体に危険があったからだろう。

 やっと魔力の波が収まった、という所で出てきたに違いない。

「生きていたのか」

 声を掛けると、キルシスは明らかに不快そうな表情を浮かべ、参謀リザルートは殺気を隠そうともしない。

 荒野に散らばる瓦礫をバックに、という非常に絵にならない状態ではあるが、とりあえず抜刀して宣誓する。

「とりあえず、魔王キルシス・カルディオン。勇者として討伐に来たぞ」

 そう言ってやれば、参謀の方は殺気を強め、キルシスの方は珍しく、驚いたような表情を浮かべた。

 これは仕様だ。つまり、勇者覚醒の能力を持つ『ダフネ』が目覚めさせた勇者が自身を討伐しにやってくるのだとばかり思っていたのに、『ダフネ』本人が勇者となってやってきたのだから。

 キルシスは肩を震わせて笑い、やがてそれは高笑いになる。おお、悪役っぽいな。

「いいだろう!勇者、ダフネ・クロナレイナ・エルヴァラント」

「いや、只の『ダフネ』だ」

 国王と王冠を縁と一緒に切って捨てているので、そこはしっかり訂正しておく。

「……そうか。では、勇者ダフネ。掛かってくるがいい!」

 ……という訳で、剣を持って走る。

 キルシスに、では無い。

 参謀のリザルートさんの方へ、である。

 ……さて。今日の夕飯は何にしようか。


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